変わりゆく気候 気象のしくみと温暖化

著者鬼頭昭雄
シリーズNHK カルチャーラジオ 2017 年 7~9 月
発行所NHK 出版
刊行2017/07/01(発売:2017/06/25)
入手福岡姪浜の福岡金文堂姪浜店で購入
読了2017/09/29

地球温暖化を軸にした気象・気候学の一般向け講義。といっても、けっこう込み入ったことを基本的には文章で説明しているので、 ついていくのが大変なこともある。私はそれなりに慣れているから良いけど、本当の素人にはけっこう難しいのではないだろうか。 私としては、ある程度知っている内容をまとめて聞いたとともに、新しいこともいくつか学んだ。

内容としてはバランスが良いと思った。ただ、IPCC 報告もそうなっているが、 地球温暖化の良い点(もともと寒い地域には朗報でありうる)とか地球温暖化の利用(耕地を高緯度地方に増やすとか)に 触れられていないのが私としては不満である。もっとも、そういう研究がそもそも少ないので、仕方がないという意味はある。

放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 四季のある国日本

気温の季節変化
日本の気温は比較的年較差が大きい。中緯度から高緯度であることに加えて、冬にはシベリアの寒気が入ってきて、夏には南から熱帯の空気が入ってくるため。
日本は周囲を海に囲まれているため、8月が最も暖かくなる。
東南アジアだと雨期の前の5月が1年で最も暑くなる。
降水
日本は欧米より雨が多く、亜熱帯的。
雨の季節変化は日本の中でも地域によって違う。西日本は雨が多く、梅雨期にピークが来る。
北陸日本海側は冬の雪が多い。これは日本海があるから。対馬暖流が季節風に水蒸気を供給する。
偏西風と貿易風
熱帯は上昇流、亜熱帯は下降流。コリオリ力の影響も考えると、その間では北東から南西に風が吹く(貿易風)。
中緯度では西風になる(偏西風)。

第2回 異常気象をもたらすジェット気流とエルニーニョ

ジェット気流
中緯度の偏西風は高度とともに強くなり、対流圏界面で最大になり、ジェット気流と呼ばれる。
ジェット気流を発見したのは、日本の高層気象台。1924 年のことだった。
北極振動
正の北極振動:偏西風が強く、極に寒気が蓄積し、中緯度は暖冬。
負の北極振動:偏西風が弱く、極から寒気が流出し、中緯度は厳冬。
ブロッキング
高低気圧が停滞するようになる。すると、同じ天候が長く持続する。
エルニーニョ南方振動現象
エルニーニョ:太平洋赤道域の赤道域で東風が弱まる。東部で海水温が上がる。
ラニーニャ:太平洋赤道域の赤道域で東風が強まる。東部で海水温が下がる。
エルニーニョの時、インドネシアは旱魃になる。日本の夏は低温で雨が多くなる。日本の冬は高温で降水が少なくなる。
エルニーニョの時、台風の発生場所が東側に偏る。そのため台風が海上にいる時間が長くなり、寿命が延びる。
気象庁では、エルニーニョ監視速報を発表している。
モンスーン
日本では夏は南西風、冬には北西風。
日本ではモンスーンの変わり目の春秋には、偏西風に乗った移動性高低気圧の影響が大きくなる。

第3回 天気予報から温暖化予測まで

気象と気候
気象は、大気の状態と大気中の諸現象すべて。
天気はある場所ある時刻の気象状態。
気候は、ある時間にわたって平均した状態。
天気図
1819 年にドイツのブランデスが作ったのが始まり。
日本では 1884 年 6 月 1 日に初めて天気予報が発表された。そこで、6 月 1 日が気象記念日になっている。
気象衛星
1978 年に静止気象衛星「ひまわり」が登場。2015 年から「ひまわり8号」。
数値予報
気象庁では 1959 年に数値予報が始まった。現在は9代目の計算機になっている。
現在では 100 km スケールの集中豪雨の予測はできる。しかし、数 km スケールの局所的集中豪雨(ゲリラ豪雨)は予測できない。
季節予報
平均な天候を予測する。
大規模なエルニーニョは1年以上前から予測可能。
地球温暖化予測
将来の社会のシナリオをいろいろ仮定した上での見通し。

第4回 地球の気候はどう決まるのか

温室効果
温室効果が無い(ただしアルベドが30%とする)場合の地表の放射平衡温度は-18℃くらい。温室効果のため、実際の平均地表温度は+15℃になっている。
温室効果で最も重要な気体は、二酸化炭素と水蒸気。
地球と金星を比べると、地球には海があるので、昔あった大量の二酸化炭素が炭酸塩になって大気中から取り除かれている。
海陸分布
パナマ地峡が開いていたときは、太平洋と大西洋で塩分の差がなかった。現在では、太平洋が低塩分になっており、北太平洋で海氷ができやすくなっている。
氷期と間氷期のサイクルに伴って、海水準が大きく変わった。
山岳
チベット高原には、障壁効果と熱的効果がある。
偏西風は冬にはチベット高原の南を流れており、夏には北を流れる。 日本付近ではその北に移り変わった偏西風が大陸の乾燥した空気を北から運ぶ。 これと南から吹く湿った空気がぶつかって梅雨前線を生む。
ミランコビッチ・サイクル
地球公転軌道の離心率、歳差運動、自転軸の傾斜角の周期的変化によって気候変動が生まれる。北半球の夏の日射量が重要。
地球のエネルギー収支
地球のアルベドは約30%。その分を引くと、地表に到達するエネルギーは、約240W/m2
大気や海洋は低緯度から高緯度にエネルギーを運んでいる。

第5回 雲とエーロゾルの役割

水雲と氷雲がある。
上層雲(巻雲、巻積雲、巻層雲)、中層雲(高積雲、高層雲、乱層雲)、下層雲(層積雲、層雲、積雲、積乱雲)に分けられる。
雲粒の大きさは 0.01mm くらい。
雲の形成
空気塊が上昇すると、膨張して温度が下がり、雲ができる。
雲の放射に対する効果
雲には冷却効果と温室効果がある。
雲はアルベドを上げるので冷却効果がある。日傘効果とも言われる。下層雲は厚い(雲粒が多い)ので冷却効果が大きい。
雲は赤外線を吸収するので温室効果がある。上層雲は、温度が低いので、赤外線放射が小さく、温室効果が大きい。
エーロゾル
エーロゾルには、放射に対する直接の効果と雲の光学的特性を変化させる効果とがある。
エーロゾルには、鉱物ダスト(黄砂など)、海塩、硫酸塩、有機炭素、黒色炭素がある。
エーロゾル全体としては冷却効果があると考えられている。

第6回 地球温暖化とは何か

世界の二酸化炭素排出
世界全体では年間で 330 億トン、日本は年間 12 億トン (3.6%)。
国別では、多いほうから、中国、アメリカ、インド、ロシア、日本の順。
二酸化炭素などの温室効果ガスの人為的な排出により、地球温暖化が起こっている。
放射強制力
大気中の二酸化炭素濃度が2倍になると、放射強制力は 4 W/m2
IPCC 5次評価報告書によると、2011 年時点での人為起源の放射強制力の合計は 2.29 W/m2
うち、エーロゾルの効果は -0.82 W/m2(負)と見積もられているが、不確定性が大きい。
観測される放射の不均衡は 1 W/m2 程度。
二酸化炭素の増加
大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命以前は 280 ppm だったのが、現在では 400 ppm になっている。
ハワイでの観測には顕著な季節変化がある。北半球で光合成が盛んになる春から夏にかけて減少し、夏から翌春にかけて増加する。
南極での観測にはあまり季節変化が見られない。
炭素循環
大気中にある炭素量を 1 とすると、陸上の植生・土壌に 7~9、海洋に 60 の炭素が貯蔵されている。
大気、生物圏、海洋の間で大量の炭素が交換されている。

第7回 二酸化炭素と温暖化

炭素循環の変化
二酸化炭素増加の原因は、化石燃料の燃焼、セメント生産、森林伐採など。
2000 年代では年 88 億トン排出され、そのうち海で 24 億トン、陸で 24 億トン吸収され、大気に 40 億トン残った。
海による二酸化炭素の吸収
二酸化炭素は水に溶けると重炭酸イオンになる。
二酸化炭素は大気から海に取り込まれる。ただし、湧昇がある地域では、二酸化炭素が海から大気に放出される。
陸域での二酸化炭素の吸収
正味では陸域生物圏は二酸化炭素を吸収していると推定される。とくに北半球の中緯度で顕著である。
エルニーニョ現象などによる年々変動も大きい。エルニーニョ時には、陸域生物圏から大気に二酸化炭素が放出される量が増える。
温暖化すると海と陸での吸収はどうなるか?
海は二酸化炭素を吸収し続けるだろう。しかし、表層海水温が上昇すると、海洋深層循環が弱まるので、二酸化炭素の吸収は弱まるであろう。
陸域では、植物の成長が促進されるとともに、土壌微生物の分解作用が増える。両者のバランスがどうなるかが難しい。

第8回 地球史にみる寒冷化と温暖化

昔の気候を知る
代替指標データを用いる。e.g. 年輪の幅から気候を推定、年輪の酸素同位体比から夏季の降水量を推定。
氷床コアの分析から、過去数十万年間の気候変動が分かる。
地球大気の歴史
原始大気は水蒸気と二酸化炭素。海の誕生によって、水蒸気と二酸化炭素は海に取り込まれる。
27 億年前ごろに光合成をする生物が現れると、大気に酸素が増え始める。
大気中に酸素が増えると、オゾン層ができる。
地球の気候の歴史
1500 万年前頃からチベット高原ができて、アジアモンスーンが確立した。
1500 万年前頃に日本海ができて、日本海の豪雪が確立した。
現在は氷河時代。最近 100 万年間は氷期・間氷期サイクルが繰り返されている。

第9回 温暖化の現実

地球温暖化
長期的に世界の平均気温は上がってきている。
エルニーニョの年は世界の平均気温が上がる。
2016 年は、日本でも世界でも年平均気温が過去最高になった。
日本の高温化
年平均気温が最も高かったのは、2016 年、その次が 1990 年。長期的には 100 年で 1.19℃ の上昇。
最近、猛暑日や熱帯夜が増加、冬日が減少。
2013 年には西日本を中心に夏が高温になった。太平洋高気圧が強まっていた。
ヒートアイランド
ヒートアイランドの要因:①土地利用形態②建築物③人工排熱
とくに夏の都市部では、夜の放射冷却が建築物により阻害される影響が大きく、とくに最低気温が上昇。
大雨の増加
年降水量はあまり変わっていない。しかし、大雨の日が増え、無降水日が減っている。
アメダスの観測によれば(したがって、1970年代以降)、短時間に降る強い雨が増えている。

第10回 世界の気候の将来予測

気候モデルによる予測
計算機の中で地球の模型を作るのが気候モデル。既知のさまざまな影響が考慮されている。
将来予測に当たっては、人間活動の予測が必要になる。このようなことに関しては、いくつかのシナリオを作る。
IPCC 第5次評価報告書では、4つのシナリオが作られた。二酸化炭素排出量が多いほうから、 RCP8.5(高位参照シナリオ)、RCP6.0(高位安定化シナリオ)、RCP4.5(中位安定化シナリオ)、RCP2.6(低位安定化シナリオ)。
高位参照シナリオでは、21 世紀末までの昇温量は 2.6~4.8℃、低位安定化シナリオで 0.3~1.7℃。
将来予測の空間分布
海域では陸域よりも昇温が小さい。海域で昇温が大きくならないのは、水の蒸発のため。とくに、北大西洋や南極の周りでは海が沈み込むので、昇温が抑えられる。
北極域では温度上昇が大きい。雪氷が減って太陽光の吸収が増えるから。
降水量の多い地域では降水量が増加する。乾燥地域では降水量が減る。
北極海の海氷は減り続けている。
21 世紀末までの海水面の上昇は、約 2 m。

第11回 日本の気候はどう変わるのか

気温の予測
21 世紀の 100 年で年平均気温が 1~5 ℃上がる。冬の気温上昇のほうが夏よりもやや大きい。
降水量の予測
予測の不確実性が大きく、日本では降水量が増えるのか減るのかよくわからない。
強い雨の頻度が増える傾向はありそうだ。原因としては、大気中の水蒸気量が増えるため。
台風の数は減るが、強い台風は増えると予測されている。温暖化によって、熱帯の上空が地面付近よりも暖まるため、熱帯低気圧の発生数は減るだろう。 しかし、大気中の水蒸気量は増えるので、強い台風が増えるだろう。
積雪は多くの地域で減るだろう。それは、雨になる地域が多くなるためである。
温暖化しても気温が零下になるような地域では、豪雪が増えるであろう。

第12回 IPCC とパリ協定

IPCC
IPCC = Intergovernmental Panel on Climate Change 気候変動に関する政府間パネル
第1作業部会=自然科学、第2作業部会=生態系や社会への影響、第3作業部会=緩和策
IPCC は既存の文献を評価して取りまとめ、報告書を書くのが役割。
2013--2014 年:第5次評価報告書「温暖化の原因が人為起源の温室効果ガスの増加による可能性が極めて高い」
1回の評価報告書作成には、4年の年月が必要。
現在、2021--2022 年の完成を目指して第6次評価報告書の執筆作業が始まっている。
パリ協定
1994 年に気候変動枠組条約が発効。締約国による会議を COP (Convention Of the Parties) という。
2015 年の COP21 でパリ協定が採択された。産業革命時からの気温上昇を 2 ℃未満に抑制することを目標とした。
パリ協定に先立って、国連は「持続可能な開発目標」を採択した。気候変動もその一つ。
二酸化炭素排出量と気温変化
IPCC 第5次報告書の重要な結論の一つは「二酸化炭素の累積総排出量と世界平均値上気温の上昇はほぼ比例する」ということ。
パリ協定に先立って各国が約束した排出量削減に従うと、気温上昇は 3 ℃くらいと予想される。つまり、パリ協定の目標には不十分。

第13回 地球温暖化の緩和と気候変動への適応

リスク
リスク=ハザード×曝露×脆弱性。ハザードは災害外力、曝露=影響を受ける人などが存在していること、脆弱性=悪影響の受けやすさ。
緩和策と適応策
緩和策=温室効果ガス排出削減。
適応策=気候変動に適応することによって悪影響を減らす。
リスクとしては、暑熱によるもの、洪水によるもの、旱魃によるものが考えられる。
緩和策としては、バイオマスエネルギーなど。
ジオエンジニアリング
二酸化炭素除去=植林、海洋鉄散布、二酸化炭素回収・貯留
太陽放射管理=成層圏エーロゾル注入、反射率を上げる