ガンディー 獄中からの手紙

著者中島 岳志
シリーズNHK 100 分 de 名著 2017 年 2 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2017/02/01(発売:2017/01/25)
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読了2017/03/01

保守を標榜する著者がなぜガンディーなのか。最初ちょっと不思議に思ったが、「よいものはカタツムリのように進む」ということばがガンディーの保守性をよく表しているような気がして納得した。最近、いわゆる保守政党の政治家がしばしば改革や維新を標榜するけれども、彼らが似非保守であることは言うまでもない。

植民地支配からの抵抗の話を聞くと涙が出そうになる。いかにして人はかくも残酷になりうるのか。そしてそれに抵抗するのにいかに苦労をするのか。ガンディーのやり方は、高邁な魂を貫くということだ。それにいかに勇気が必要だったことだろうか。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 政治と宗教をつなぐもの

ガンディー
1869年生まれ、1948年暗殺。
『獄中からの手紙』は、1930年に植民地支配に抵抗して逮捕されてから、獄中で弟子に宛てて書かれたもの。
ガンディーは、近代国家を超えた国家の設立を目指した。
歴史的背景
インドはイギリスによる植民地支配の下にあった。
南アフリカで弁護士として働いていたガンディーは 1915 年に帰国し、1916 年から社会運動に関わる。
1916 年には、インド人を勝手に逮捕できるという「ローラット法」と呼ばれる悪法ができた。
塩の行進
1930 年の 3/12--4/5、ガンディーは 380km を歩いた。人々に向かって語りかけながら半裸で歩き、最後には数千人に膨れ上がった。
当時のインドでは、イギリスが塩を専売していた。
5/4 ガンディー逮捕。その獄中で『獄中からの手紙』が書かれた。
ガンディーの抵抗のスタイル
断食もしばしば行った。「飢えながら祈る」姿が人々を動かした。
歩くとか、断食するとか、そのような簡単なことで人々を動かす。それによって特定の宗教の枠組みを超える。
真理に従う
「神は真理なり」と言うよりも、「真理は神なり」と言ったほうが、より的確です。(『獄中からの手紙』)
ガンディーは、すべての宗教に共通する真理があると考えた。個々の宗教は不完全だが、真理は一つ。
ガンディーは他宗教に対して寛容=本来の「リベラル」。

第2回 人間は欲望に打ち勝てるのか

若きガンディー
1869 年、ガンディーは裕福な商人の子として生まれる。
若いころは、肉食、喫煙、性欲など、欲望にまみれていた。
18 歳でイギリスに留学。ガンディーは、イギリスでイギリス紳士になろうとしていた。
南アフリカ
ガンディーは南アフリカで弁護士をしようとするが、人種差別を受ける。そこで、インド人の人権擁護運動に関わるようになる。
ガンディーは自分も変わらねばならないと考えた。植民地支配も元はといえば欲望が元凶。そこで、欲望を抑えねばならないと考えた。
欲望を抑える
性欲を抑えて万人を愛する。食欲を抑えて必要最低限の食事をする。所有欲を抑えて必要最低限のもので済ませる。
すべては神のもの。人間は魂を入れる器に過ぎない。
欲望に立ち向かうために「誓う」。「誓いをたてるというのは、弱さの証拠ではなく、強さの証拠です。」(『獄中からの手紙』)
カントの考えと似ている。カントの考えでは、理念には「統整的理念」と「構成的理念」とがある。「統整的理念」は、見果てぬ夢、「構成的理念」は実現可能な理念。統整的理念がないと、改善もされない。
文明とは「欲望を削減すること」。

第3回 非暴力と赦し

非暴力(アヒンサー)
アヒンサー=ア(否定)+ヒンサー(傷害・殺生)
アヒンサーには、強い意志と勇気が必要。
「勇者とは、剣や銃の類ではなく、無畏をもって武装した人のことです。恐怖にとりつかれた者たちだけが、剣や銃で身がまえるのです」(『獄中からの手紙』)
アヒンサーとは愛である
愛には、「違う」部分と「同じ」部分が必要。差異と同一性という絶対矛盾の中から生まれる連帯意識が愛である。
アヒンサーは、寛容であり博愛である。
カースト
カーストは、ヴァルナとジャーティを西洋社会が混同して付けた名称である。
ヴァルナは、バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラの4つの種姓である。もともと差別的なものではない。
ジャーティは職能集団である。
イギリス人は、ジャーティにヴァルナを結び付けて、身分制度とすることによって植民地支配の道具とした。これがいわゆるカースト制度である。
ガンディーは、不可触民制の撤廃を主張した。
非暴力は手段である
非暴力が臆病の盾になってはならない。
アヒンサーは手段であって、目的は真理である。
赦し
内なる敵(=怒り)を乗り越える。
イギリスとともに祈れ。
憎悪の連鎖では何も進まない。

第4回 よいものはカタツムリのように進む

スワデーシー
スワデーシー=スワ(自らの)+デーシー(国、大地)
スワデーシーは、しばしば「自国産品愛用運動」と訳されるが、もう少し広い意味がある。
ガンディーによれば、スワデーシーは、隣人たちへの奉仕の心である。まずは隣人への奉仕を。
スワデーシーは、外国製品の排斥運動ではない。
手仕事、農業、村落社会
ガンディーは手仕事の象徴として、手紡ぎ車で糸をつむいだ。これは宗教的な「行(ぎょう)」であるとも見られる。
ガンディーは農業を大事にした。大地とのつながりを取り戻す。
ガンディーは村落社会を評価し、都市社会に懐疑的であった。都市は農村を支えなければならない。
便利になることが欲望を後押ししているのではないか。
「よいものはカタツムリのように進む」(『真の独立への道』)
人が生きる場所
「大海の一滴の水は、自ら意識することはありませんが、母体の広大さに参与しているのです。ところが一滴の水が、大海を離れて存在を主張し始めると、たちまちにして蒸発してしまいます。」(『獄中からの手紙』)
神が計らってくれた自分の役割を精一杯果たす。
ガンディーの最期
1947 年 インドとパキスタンが分離独立。
1948 年 ガンディーがヒンドゥー教原理主義者によって暗殺される。
「My life is my message.」