ラッセルの名著といえば『数学原理(プリンキピア・マテマティカ)』が取り上げられるのかと思うと、さすがにそんなことはなくて『幸福論』である。なかなか本格的な哲学書が取り上げられることはない。それはともかくとして、この『幸福論』は、比較的平易でわかりやすいもののようである。放送の中で、司会の伊集院光が「チェックシート」のようなものと言っていたが、まさに不幸の原因と幸福の源をチェックしていく感じである。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 自分を不幸にする原因
- 『幸福論』
- 原題 The Conquest of Happiness
- 著者 バートランド・ラッセル
- 著者の経験に基づく実践的幸福論
- バートランド・ラッセル
- 1872年生まれ。
- 4歳までに両親が死去し、祖母の下で厳しい教育を受ける。
- 数理哲学の研究者となる。
- 平和活動にも参加する。
- 1930年『幸福論』を発表(58歳)。
- 1950年、ノーベル文学賞を受賞。
- 『幸福論』目次
- 第一部 不幸の原因
- 第二部 幸福をもたらすもの
- 第1章 何が人びとを不幸にするのか
- ラッセルが幸福になれた理由
- ①自分が望んでいるものが何かを発見して、これらのものを獲得した。ラッセルの場合は、数学への情熱など。
- ②自分の能力ではかなわない望みを諦めた。
- ③自分の欠点に無関心になり、注意を外に向けた。
- 不幸の原因=自己没頭
- ①罪びと。小さい頃に植え付けられた道徳から解放されず、罪の意識に取りつかれる。
- ②ナルシシズム。自分を賛美し、人からも賛美されたい。
- ③誇大妄想狂。権力を望み、怖れられることを望む。
- 幸福になるには、自分ではなくて外に目を向けよ。
第2回 思考をコントロールせよ
- 8つの不幸の原因
- 悲観主義(バイロン風の不幸)、競争、退屈と興奮、疲れ、ねたみ、罪の意識、被害妄想、世評に対するおびえ
- 不幸に対応するには、よく原因を考えて思考をコントロールしよう
- 8つの原因に対する対処法
- 「悲観主義」には、考えるよりも必要な行動をすること。
- 「競争」するより、本当の楽しみを。
- 「退屈」を否定的にとらえないこと。退屈も楽しみ。興奮が過ぎると依存症になる。
- 「疲れ」は精神的な心配から来る。宇宙的に考えよう。
- 「ねたみ」には、比較をやめること、相手をほめること、不必要な謙遜をやめること。
- 「罪の意識」には、後悔の感情が不合理であることを確認すること。
- 「被害妄想」に対応するには、自分や他の人に期待しすぎてはいけない。①あなたは自分自身で思っているほど利他的ではない。
②自分自身の美点を過大評価してはいけない。③他の人が自分のことに大いに興味を持っていると思ってはいけない。④他の人はあなたのことをそれほど考えてはいない。
- 「世評に対するおびえ」に対応するには、それほど世評を気にしないこと、自分に合った環境に移ること、一般大衆が寛容になるようにすること。
第3回 バランスこそ幸福の条件
「第二部 幸福をもたらすもの」、すなわち獲得するための具体的方法に入る。
- 第10章 幸福はそれでも可能か
- 人は熱中すると幸福になれる。たとえば、科学者。
- 困難だが実現できないわけではない目標を持っている者は幸福。たとえば、社会の改革に身を投じる若者。
- 趣味に熱中すると幸福。たとえば、切手収集。
- まとめると、幸福の秘訣は、興味を幅広くすること。対象に敵意を持つのではなくて、良いところを見る。
- 幸福の源(第11章〜第16章)
- 以下の6項目:熱意、愛情、家族、仕事、私心のない興味、努力とあきらめ
- 熱意は、自分の内側ではなく外に向けるべし。熱意にはバランスが大切。熱意が行き過ぎないために、健康、能力、収入、家族への義務を損なわないように気をつける。
- 愛情→自信→安心感。相互的な愛情が重要。
- 家族では、親子の愛情が基本。親子相互に尊敬の念を持つ。
- 仕事を面白くする。技術を向上させることで仕事を楽しめる。何かを作り上げることで仕事を楽しめる。
- 私心のない興味とは趣味のこと。趣味は、気晴らしになるし、釣り合いの感覚を保つのに役に立つ(見える世界が狭くならない)し、悲しみを癒すのに役立つ。
- 幸福には努力が必要。その一方で、避けられない不幸は諦める。絶望に根ざす諦めは良くないが、不屈の希望に根ざす諦めは良い。
第4回 他者と関わり、世界とつながれ!
- 第17章 幸福な人
- 幸福な人とは、客観的な生き方をして、興味と愛情を外に向けて広げる人。
- 客観的=自己没頭せず、外に興味と愛情を広げる。他者との双方向の関係が重要。
- 自分の中に自然に湧き上がる興味を持つこと。
- 不幸は、統合の欠如によって生じる。
- 統合とは、自分の中でねじれがないことと、社会とうまくつながること。
- ラッセルの平和活動
- 反戦運動を行う。そのために投獄されたこともある。
- 1954年のビキニ環礁水爆実験に危機感を抱く。
- 1955年、ラッセル・アインシュタイン宣言。
- 一番大事なのは人間。人間性を考えると、平和が大切。
- 『幸福論』の意義
- 外へ向かって行動する。
- 幸福になれる社会を作る。