日本をダメにしたB層の研究

著者適菜 収
シリーズ講談社+α文庫
発行所講談社
電子書籍
電子書籍刊行2015/11/01
電子書籍底本刊行2015/09
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読了2017/02/01

書いてあることはなかなか過激だが、真実を突いていると思う。最も重要な主張は、民主主義はキリスト教的カルトであるから廃棄すべきであり、専門家、プロ、職人の技術を尊重することが重要である、ということだ。とくに、政治は政治のプロ、すなわち議員と議会が行うべきであり、素人が口出ししてはいけないということである。

一般に、世の中で合意形成の問題を議論するといつも問題になるのがここだ。一方で、民主主義だから、みんなで決めないといけないということがあり、他方で、専門家の意見も重視しなければならない。民主主義を大事にしすぎると、衆愚が漂流するということになり、専門家を大事にしすぎるとパターナリズムと言われる。いったいどのへんが適当な塩梅なのかということになる。この点、著者ははっきりプロ重視ということである。世の中複雑だから、素人が口出しするとおかしくなることはしばしばある。本書の冒頭には「B層用語辞典」というものがあって、それによれば、「コメンテーター=専門外のよく知らないことを、知っているふりをして答える人のこと」とある。テレビを見ていると、まさにその通りである。

ところで、B層とは何かというと、自民党が郵政選挙の時に広告会社につくらせた企画書に書かれている概念だそうで、 「構造改革に肯定的でかつIQが低い層」=「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」ということである。 すなわち、小泉純一郎がワンフレーズをぶつけた相手であり、小泉はこのマーケティングによって首尾よく支持を取り付けたわけである。 B層狙いの政治が最近続いているということで、本書で批判されているのは、小泉純一郎から始まって、民主党、安倍晋三、橋下徹などである。 「改革」とか「維新」とか言っている人が保守のはずが無い。明らかな oxymoron(撞着語法)である。

そのほか重要な指摘として、ハンナ・アレントなどを引用しながら、社会正義がテロリズムの温床であることも述べている。 「徳の源泉と考えられた哀れみは、残酷さそのものよりも残酷になる能力を持っていることを証明している」(ハンナ・アレント『革命について』)。フランス革命のロベスピエールに代表されるように、テロリズムは社会正義の名の下に起こる。