パーク・ライフ/flowers

著者吉田 修一
発行所文藝春秋
刊行2002/08/30、刷:2002/09/13(第3刷)
初出『文學界』2002/06(パーク・ライフ)、『文學界』1999/08(flowers)
入手福岡市北原の未来屋書店福岡伊都店の古本コーナーで購入
読了2017/10/13

『パーク・ライフ』は、最近の売れっ子作家の芥川賞受賞作と言うことで読んでみた。しかし、これは何を伝えたいのかがよくわからない小説だ。 主人公の日常が日比谷公園と駒沢公園の周囲で描かれていて、とくに何か大きな出来事が起きるわけではない。 あっさりしすぎていて、読んで数日経つと(実際、今これを書いているのが読み終わって数日が経過した後なのだが)、 どういう筋だったのかもあんまり思い出せない。 どうしてこれが芥川賞なのかと思って、芥川賞選評のダイジェストを見ると、 高樹のぶ子、黒井千次、河野多恵子、三浦哲郎、村上龍は高く評価し、池澤夏樹、石原慎太郎、宮本輝の評価は低いことが分かる。 高く評価する人は、エピソードが内部で緊密に連携していることを評価しているらしい。朝日新聞データベースの芥川賞受賞記事 (2002/07/18 朝刊)によると、 選考委員を代表して高樹のぶ子は、著者のことを「非常に器用でうまい作家」だとし、この小説は「人と人との距離感が、熱くも冷たくもなく、ウイットを持って描かれている」としているとのことだ。 朝日新聞データベースの芥川賞受賞時の「ひと」欄 (2002/07/18 朝刊)によると、著者が描きたかったことは、「この時代をうまく生きぬくモデルとして主人公を考えた。 どう転ぶかわからないけど、何かが始まる。その直前の光景を書きたいというのがモチーフです」とのことだ。 おそらく、プロ的に見ると、こういう何も起こらない物語をそれなりにまとめ上げる力量が評価されたのだと思う。 しかし、読者からみれば、あっさりしすぎていて印象に残りにくい小説である。

もうひとつ収録されている『flowers』のほうでは、『パーク・ライフ』よりは事件があって、 職場での不倫があって、主人公と職場仲間の望月元旦との間でいざこざが起こる。しかし、それでもなお、不倫の帰結は描かれず、 望月元旦は職場を突然辞めることになるので、問題は突き詰められることなく消滅する。 それが現代日本の深くまで踏み込まない希薄な人間関係なのだと言われればそうかもしれない。 しかし、そのような希薄な人間関係の帰結がどうなるのかが突き詰められていない。

いずれの小説も、「何かが始まる」のかもしれないが、そこで小説は終わってしまう。小説というものは、もう少し物語を進めるものではないのかと思う。