NHK で「ダイアモンド博士の“ヒトの秘密”」というシリーズが始まり、その元となる本がこれらしいということで、
放送の進行とともに読んでみることにした。
番組は12回シリーズで、以下にまとめるように本書の第11章を除く章をカバーし、
最後に格差問題を付け加えたものとなっていた。
本書は、ヒトのさまざまな特性を主に進化生物学的な観点から見ていくものであって、
広範な側面について議論がなされているのが素晴らしい。
知っていたような話もあるのだが、知らなかったこともあり、ともかくこれだけまとまった形で提示されると、
改めてヒトとはいかなる生物かについて考えさせられ、頭が整理された。
昔、Desmond Morris『裸のサル』という本があった(今でも売っているみたいだけど)。
これも生物学の目でヒトの特徴を冷静に観察する話だった。
『裸のサル』は、動物としての人間の特徴を明らかにするような本だったが、本書は進化生物学的な視点を軸に置いている。つまり、動物との連続性に重点が置かれる。
本のサマリー
第1章 三種のチンパンジーの物語
- 分子系統学
- ヒトとコモンチンパンジーおよびボノボとの DNA の差は、およそ 1.6% にすぎない。その意味では、ヒトは第3のチンパンジーである。
- ヒトとチンパンジー(コモンチンパンジーおよびボノボ)の系統が分岐したのはおよそ 700 万年前である。
第2章 大躍進
私たちが「人間」になったのは、およそ 6 万年前で、芸術や交易や多様な石器の発明などで特徴付けられる。
これを「大躍進」と呼ぼう。それまでの人類の進化の足取りを見てみよう。
- 人類へ向かう進化
- 約 400 万年前から二足歩行が始まる。
- 約 300 万年前に、Australopithecus africanus と Australopithecus robustus の系統が分かれる。
前者が現生人類につながる系統である。
[吉田注: 最近の系統樹を見ると、むしろ Australopithecus afarensis が現生人類につながるという感じのようだ。
africanus も robustus も別系統と見られる。]
- 約 250 万年前から石器が使われ始める。
- 約 170 万年前頃から、脳がだいぶん大きくなった Homo erectus が出てくる。その一方で、120 万年以降のどこかで
Australopithecus robustus の系統がいなくなる。Home erectus はアフリカを出て世界中に広がる。
- 約 50 万年前までに Homo sapiens が登場する。
- 10 万年前から 5 万年前くらいには、少なくとも 3 種の人類集団がいた。
ひとつはネアンデルタール人で、ヨーロッパから中央アジアにかけて住んでいた。
2つめは東アジアにいたようだがよくわかっていない。
3つめはアフリカに住んでいた「中期旧石器時代アフリカ人」である。
- ネアンデルタール人は、脳は現生人類より大きいものの、石器や住居は粗雑なもので、長い間変化が見られない。
火は使っていたようで、社会性もあったようだ。
「中期旧石器時代アフリカ人」も発明の才は無いようで、石器もネアンデルタール人と大差ない。
- 大躍進
- 6 万年前頃、突如ヨーロッパに現生人類が出現した。クロマニヨン人と呼ばれる。道具の種類が多く、交易の証拠もあり、
芸術(絵や音楽)もあった(「大躍進」)。それとともにネアンデルタール人が急速に姿を消す。
- 「大躍進」はアフリカで起こったものと考えられる。
- 「大躍進」が起こったのは言語の発達によるのだと考える。
どこかの時点で喉頭や舌に変化が起こって、声が上手に出せるようになったのだと想像される。
第3章 ヒトの性行動
- ヒトの家族と社会
- ヒトの子供には長い期間の養育が必要で、そのため母親だけでなく父親による世話も必要である。
- 一方で、ヒトはグループで生活をする。
- グループ生活をして、かつ父親と子供との関係がはっきりするように、ヒトはおおむね一夫一妻制を取ってきた。
- これは他の類人猿とはだいぶん違う。オランウータンは、父親は養育に参加せず、大人はおおむね一頭で暮らす。
テナガザルは雌雄でペアを作るが、ほかのペアとは離れて暮らす。ゴリラは一頭のオスに複数のメスというハーレムを作る。
チンパンジーやボノボは、群れで暮らし、複数の異性と交尾する。
- ヒトでは男のほうが女より少し体が大きい。これは一夫一妻にやや一夫多妻が混じっていることを示唆する。
というのも、完全な一夫一妻のテナガザルはオスとメスが同じ大きさなのに対して、ハーレムを作るゴリラはオスがメスよりはっきり大きい。
- ヒトにおける排卵と性行為の隠蔽
- ヒトの性行動の特徴は、メスがいつでも交尾できることにある。排卵が隠蔽されている。
- ヒトには、性行為を他の個体から隠すという性質もある。
- これらの隠蔽の理由として、以下の3つが考えられている。①男性間の攻撃性を抑えて協力を引き出す。
②特定のカップルの絆が強まることで、家族ができる。③カップルの絆を強めることで、父親が子供をわかるようにできる。
- つまり、ヒトは、夫婦で子供を育ててゆくとともに、社会生活を営むということを両立させるためにこのような性行動になったのではないか。
- 浮気の理由
- ヒトが浮気をするのはなぜか。
- オスにとっては、浮気をした方が子孫の数が増える。メスは、オスほど子孫を増やすことはできない。
- だからといって浮気が肯定されるわけでもない。ヒトは倫理を選択することができる。
- ヒトのパートナー選び
- ヒトは、パートナーとして自分と似た人物を選ぶ傾向があることがわかっている。
それは遺伝子を共有している家族のイメージを持ちながらパートナーを選ぶせいだろう。
第4章 人種の起源
- 自然淘汰と性淘汰
- 著者は、人種の多様性が形作られたのには、性淘汰の役割が大きいと考えている。
- ヒトにも明らかな自然淘汰が見られる。たとえば、鎌型赤血球がアフリカに多いのは、マラリアのせいだと説明できる。
- 肌の色は太陽光の強さによる自然淘汰だと考える向きも多いが、肌の色と日射しの強さの対応が完全ではないので疑問も多い。
- 髪の色は自然淘汰では説明できない。このようなものは性淘汰ではないか。
- クジャクのオスの飾り羽の立派さは性淘汰による。
- 目や髪の色のようなものには「創始者効果」も関わっているだろう。
集団が最初少人数から出発すると、その少人数の創始者が持っていた遺伝的素因が優勢になる。
第5章 人はなぜ歳をとって死んでいくのか
- ヒトのゆるやかな加齢
- ヒトは他の類人猿に比べて長寿である。
- 長寿である方が、知識や文化の伝承にとって有利である。
- 私たちの体内では、傷の修理や部品の定期交換が行われている。ただし、これは無限には続けられない。
- 進化生物学的には、長寿の有利さと修理のコストのバランスを考慮した上で、繁殖成功度を最大化するように寿命が決まっているはずである。
- ライフサイクル
- ライフサイクルを考えるには、繁殖に必要なエネルギーと体の修理に必要なエネルギーのバランスを考える必要がある。
- ヒトは繁殖を終えても生き続ける珍しい動物である。子育てにかかる時間が長いことが原因と考えられる。
- ヒトの女性にはなぜ閉経があるのか。おそらく2つの原因がある。ひとつは、出産が危険なこと。もうひとつは、
母親がいなくなると子供が危険にさらされることである。それらのために、出産をある程度の年齢で止めて子育てに専念するように進化が起こった。
- 加齢を引き起こす生理学的な要因
- 体の各部分はだいたい一斉にダメになってゆく。だから老化が単一の原因で起こるとは思われない。
第6章 言葉の不思議
言語の発達が「大躍進」をもたらしたと考える。
- ベルベットモンキーの声
- ベルベットモンキーは捕食者情報などを声で交換している。
- 類人猿の言語能力
- 類人猿に記号を覚えさせると、数百語の記号を理解するようになる。
- ヒトの言語
- ヒトの言語には①文法がある②目に見えなかったり行動と結びついていなかったりすることを表現できる③階層構造がある、という特徴がある。
原始的な生活をしている民族の言語でも同様の複雑さがある。
- 植民地とか移民などの間には、最初の世代では「ピジン」、次の世代では「クレオール」と呼ばれる言葉ができる。
「ピジン」の段階では単語の羅列だったのが、「クレオール」になると文法構造ができる。
すなわち、ヒトの集団では何も無いところから 30 年くらいで言語が生まれる。
第7章 芸術の起源
- ヒトの芸術の特徴は以下の3点であるとされてきた
- ①有用な目的がない。
- ②美しさを鑑賞するものである。
- ③遺伝子によって受け継がれるのではなく、教えられたり学んだりするもの。
- 鳥のさえずりの場合は、①求愛や縄張りを守るという目的があり、②審美的な喜びとは無関係で、③多くの場合種に特有である。
- ヒトの芸術の最古の証拠は、6万年前のクロマニヨン人によるもの。
- 飼育下の類人猿の芸術
- 飼育下のチンパンジーは絵を描く。目的はなく、自己満足のために描いているが、野生状態では起こらない。
- アズマヤドリの「あずまや」
- アズマヤドリの雄は、立派で美しい「あずまや」を作る。これは①求愛行動であるが、③遺伝的ではない。②の審美的な意味があるかどうかはわからない。
- 改めてヒトの芸術について
- ヒトの芸術にもともと目的がなかったかどうかは怪しい。求愛目的もあったかもしれないし、財産になるという意味もある。
- チンパンジーも、飼育下では絵を描きたがるが、野生状態ではそんな余裕はない。
- そこで、ヒトの芸術の起源を見直す。
もともとは求愛やら生活の糧やらといった有用性から始まったのだろう。しかし、だんだんとその目的が変わってきた。
チンパンジーを見てわかるとおり、おそらく芸術を喜びだと感じる素因は遺伝的にプログラムされている。
だから、楽しみとか退屈しのぎとかエネルギーの発散とか情報の表現といった目的が発展してきたのだろう。
第8章 農業がもたらした光と影
- 農業の良い点
- 農業によって、少ない労働で多くの食べ物を得ることができるようになった。
- 農業がもたらした余暇のおかげで、芸術が生まれた。
- 農業は本当に良いのか?
- 農業が広まった速度はそれほど速くはなかった。
- 現在の狩猟採集民は、農民より余暇の時間が多いし、睡眠も十分に取っている。
- 農業の悪い点
-
- 農業社会では栄養が炭水化物に偏りがちであり、狩猟採集社会のほうが栄養のバランスが良い。
- 農業社会では、少数種類の作物に依存すると、凶作の時に餓死の危険性が高い。
- 古病理学によれば、狩猟採集民は健康だったが、農民は背が低くて虫歯や病気も多い。
- 農業社会では、人口が密集するので、伝染病や寄生虫が増える。
- 農業社会では、階級が分化する。特権階級には余暇もあるが、それは貧しい人々の犠牲に支えられている。
- 農業を行うと、人口が増える。人口が増えたので、狩猟採集民に勝ったのだ。
第9章 なぜタバコを吸い、酒を飲み、危険な薬物にふけるのか
- 薬物乱用
- タバコ、アルコール、薬物には毒性がある。いったん手を出すとやめられなくなるのは、中毒症状として理解できるが、
そもそもなぜ手を出してしまうのか?
- ザハヴィの理論
- 1975 年にアモツ・ザハヴィは、動物で見られる自滅的な信号の役割に関する理論を提案した。
- ガゼルは、ライオンの目の前で、脚を伸ばしたまま空中に高々と飛び上がる「ストッティング」という行動をする。
この行動は一見自分に危険にさらしているが、「自分はすぐれたガゼルなので、こんな真似をしても逃げ切れる。
だから捕まえようとしても無駄だ」という信号をライオンに対して送っているのだと解釈できる。
- ゴクラクチョウの雄の尾羽が無駄に長いのもこの理論で説明できる。長い尾羽というハンディキャップがあっても
無事に生き残っているのは、それ以外の点がすぐれているのだというメッセージになる。
それで雌のゴクラクチョウは、尾羽の長いオスを選ぶことになる。
- 薬物乱用等について
- 若い人が危険な行動を取るのも、ザハヴィの理論と同じ意味の本能なのだろう。ヒトにも
「危険な行動をしても乗り越えられるのは、自分が優れているからだ」ということを誇示する本能があるのだと考えられる。
- しかし、薬物乱用等については、ストッティングやゴクラクチョウの尾羽と違って、利益よりもコストの方がはるかに大きい。
第10章 一人ぼっちの宇宙
- 宇宙には人間のほかに知的生物はいないのか?
- 知的生命体が宇宙にどのくらいいるかを推定する式として「ドレイクの方程式(グリーンバンクの方程式)」がある。
これによると、地球外文明がたくさんあってもおかしくはなさそうだが、今まで一つも見つかっていないのはなぜか。
- 生命がいる惑星で機械文明が進化する確率は、それほど高くないかもしれない。地球外文明があるということは、
収斂進化の一種ということになるが、収斂進化はそもそもそれほど良く起こることではない。たとえば、キツツキのような
生活様式を持った生物はキツツキしかいない。そのヒトにしても、700 万年の歴史のうち、無線技術を持っていたのはたった 100 年余りにすぎない。
- 機械文明の存続期間はきわめて短いのかもしれない。
- 地球外生命と出会ったら何が起こるのか?
- 過去に地球上で起こったこと(たとえば、人間がチンパンジーにしてきたこと)を考えると、
高度な文明を持つ知的生命体は人間を殺したり実験材料にしたりするかもしれない。
- 地球外知的生命体と出会わないのは幸いなことであろう。
第11章 最後のファーストコンタクト
- ファーストコンタクト
- 20 世紀までは、外の世界と隔離された人間集団がいた。
- たとえば、1938 年に、ニューギニアのバリエム渓谷の西部地区でダニ族が発見された。
- この「ファーストコンタクト」は、ダニ族の文化を大きく変えることになった。
- 多様性の喪失
- このような人々の接触によって、文化や言語の多様性は失われる。
- このような文化の消失は残念ではあるが、核兵器がある現在、異なる民族間の争いを無くして人類破滅の危機を回避するためには、
自分を地球規模の文化の一員だと感じるようになることも重要である。
第12章 思いがけずに征服者になった人たち
- 本章の問い
- アメリカやオーストラリアの先住民はなぜヨーロッパ人に征服されたのか?
- 言い換えると、技術や政治体制はなぜユーラシア大陸で発達したのか?
- 農業の発達が重要である。農業によって、人口が増え、病気も増える。ヨーロッパ人がアメリカとオーストラリアを征服したのは、病原菌と武器などの技術、文字、政治体制のおかげだった。
- 家畜の違い
- 家畜化できる動物は限られる。西ユーラシアでは、ヒツジ、ヤギ、豚、牛、馬が主である。これらは、食べ物、動力、衣服になる。とくに馬は軍事的な価値が抜きんでていた。
- 家畜化できる動物には3つの特徴がある。社会性があること、神経質ではないこと、飼育下で繁殖することである。
- とくに、馬は軍事的に重要だったが、アメリカにもオーストラリアにもいなかった。
- 人類がアメリカ大陸やオーストラリア大陸に到達した頃、そこで家畜化できたかもしれない大型哺乳類はいずれの大陸でも絶滅してしまった。
- 作物の違い
- 栽培できる植物も限られる。たとえば、自家受粉できる植物は系統のコントロールがしやすいので、作物に向いている。
- オーストラリアにはあまり栽培に適した植物がなかった。
- アメリカ大陸で作られる穀物はトウモロコシだけだった。しかも祖先種から今のトウモロコシにするのには長い時間がかかった。収穫や種まきにも手がかかる。
- これに対して、ユーラシア大陸には栽培しやすい麦や米があった。
- 地理的な要因
- ユーラシア大陸は東西に長いから、作物や家畜が広がりやすい。これに対してアメリカ大陸は南北に長いから、作物や家畜が広がりにくい。
- このように、地理的な要因が文明の発展速度を支配している。
第13章 シロかクロか
- ジェノサイド(大量虐殺)の例~タスマニア人
- 18 世紀頃には、タスマニアには 5000 人ほどのタスマニア人がいた。
- 1800 年ころ、イギリス人が入植し、タスマニア人を一掃しようとした。大量虐殺が行われた。
- 最後に残った 200 名はフリンダーズ島に移された。しかし、島での生活は苦しく、栄養失調と病気で、1869 年には島民は 3 名となった。
- 1876 年、最後のタスマニア人が亡くなった。
- オーストラリアでもアボリジニの大量虐殺が行われ、30 万人いたアボリジニは 1921 年までに 6 万人にまで減った。
- ジェノサイドの標的と動機
- ジェノサイドの標的になるのは、人種、国籍、民族、宗教、政治的立場などが異なる集団である。
- ジェノサイドの動機には以下の4つのタイプがある。
- ①武力に勝る側が、それに劣りながら抵抗を続ける人々の土地を奪おうとする。例:タスマニア人、アボリジニ。
- ②権力闘争において、社会の内部にいる異なる集団を排除しようとする。例:レーニン・スターリン・フルシチョフ時代の粛清。
- ③スケープゴート。例:ナチスによるホロコースト。
- ④人種的迫害と宗教的迫害。例:第一次十字軍によるイスラム教徒とユダヤ教徒の虐殺。
- 動物界の仲間殺し
- 動物界にも同じ種の動物集団を殺す例がある。
- 単独行動をする動物の場合は、単に別の個体を殺すというだけなので、ここで問題になるのは社会性のある動物である。
- ゴリラの場合は、ハーレムの雌を巡って雄どうしが争い、勝った側は相手のみならずその子供まで殺す。
- コモンチンパンジーでは、ある集団が別の集団を虐殺する例が記録されている。
- ボノボでは、集団殺戮は確認されていない。
- ジェノサイドの歴史
- ジェノサイドの記録はかなり昔からある。旧約聖書でも、ヨシュアはジェリコの住民を皆殺しにした。
- 現代が昔と違うとすれば、大量殺人が技術的に可能になっていることである。
- ジェノサイドを無くするために
- 「我ら」と「彼ら」を分けて考える倫理規定がジェノサイドを生む。
- 今日では、グローバル化が進み、「我ら」と「彼ら」の境界線が曖昧になって、ジェノサイドを正当化できなくなってきている。
[吉田注:本文に書かれている通り、コンラート・ローレンツは、動物においては仲間殺しが本能によって抑制されているが、
人間は武器を持つことで歯止めがかからなくなったと考えていた。私はかつてその説に感銘を受けていたので、
動物でも種によっては仲間殺しが普通に行われているという記述にショックを受けた。]
第14章 黄金時代の幻想
昔の人は自然と調和して生活しており、その意味で過去は「黄金時代」だったと考えがちである。
しかし、近年の研究によれば、人間は昔から生物を絶滅させたり環境を破壊してきたりした。その例を見てゆく。
人間が生物種を絶滅させた例
- ニュージーランドには、飛べない大きな鳥のモアがいた。モアは、数百万年間ニュージーランドに生息していたが、
マオリ人が入ってきた西暦 1000 年頃からイギリス人が入植する 19 世紀までの間に絶滅した。マオリ人が、肉を食べ、
皮を衣類に使い、骨を釣り針や装飾品に使ったことがわかっている。
- マダガスカルには、体高が 3m もあるエレファントバードという飛べない鳥がいた。
マラガシーと呼ばれる人々が定住するようになった 1000~2000 年前からポルトガル人が入ってきた西暦 1500 年頃まの間に
エレファントバードは絶滅した。
人間が自分たち自身の環境を破壊して住めなくなってしまった例
- イースター島には環境破壊の歴史がある。ポリネシア人は西暦 400 年頃に入植した。そのころ、島は森林で覆われていた。
西暦 1500 年頃までには人口は 7000 人にまで増えていた。石像が作られ、丸太をコロとして運搬されていた。
しかし、森林が破壊されたので、飢餓がもたらされ、石像も作れなくなった。島の社会は崩壊した。
- アメリカのニューメキシコ州のチャコ文化国立歴史公園の中にプエブロという5階建ての建物の遺跡がある。周囲は砂漠である。
西暦 900 年頃の建設当時は、周囲が森林であった。人間の定住に伴って、森や林の伐採が進み、表土の浸食により耕地も荒れ果て、
やがてこの土地は見放された。
- 中東からヨーロッパで、古代権力の中心は、中東からギリシャ、ローマ、北西ヨーロッパへと移っていった。
これが人間による環境破壊によるものだとする説がある。たとえば、中東の古代都市ペトラは、今は砂漠にあるが、
古植物学者の研究によれば、かつては森林の中にあった。西暦 900 年までに森林の 2/3 が消えていた。
われわれは、科学を用いてこうした過去の負の歴史から学ばねばならない。
第15章 新世界の電撃戦と感謝祭
アメリカ大陸にヒトが進出したとき、多くの大型哺乳類が絶滅した。これを見てゆく。
ヒトは、最終氷期に陸化したベーリング海峡を通って、アジアからアメリカに進出した。
2 万年前にはシベリアに狩猟民が住むようになり、1 万 2 千年前にはアラスカに住んでいた痕跡がある。
1 万 2 千年前にはロッキー山脈の東側に氷の無い通廊がでいて、そこを通ってヒトが南下した。
こうして南下した人々をクローヴィス人と呼ぶ。クローヴィス人は数百年のうちに現在のアメリカ合衆国地域に広がり、
千年以内に南米に達した。それとともに、マンモスを始めとして多くの大型哺乳類が南北アメリカで絶滅した。
これは乱獲によるものだろうと推測される。
第16章 第二の雲
- 人間が原因となる種の絶滅
- 人間を原因とする種の絶滅は明らかに起きている。しかし、それをたいしたことがないと考える人々と、
それがきわめて重要だと考える人々がいる。
- そのような絶滅の規模は正確にはわかっていない。とくに種数が多い熱帯地域は調査が不十分だし、
過去に人間がどれだけ種を絶滅させてきたかもよくわからない。
- しかし、人間が自然状態に比べてはるかに速く種の絶滅を引き起こしていることは確かである。
- 絶滅のメカニズム
- 人間が原因となる種の絶滅のメカニズムは主に次の4つである。
- ①乱獲。繁殖を上回るペースで捕獲すると絶滅が起こる。大型動物はもっぱらこれで絶滅した。
- ②種の移入。新しい土地に種が移入されると、もともといた種を食べ尽くすとか、病気をうつすとかして絶滅を招く。
- ③生息地の破壊。最近熱帯雨林の破壊が推し進められて、多くの種が絶滅している。
- ④波及効果。生態系は複雑なので、ある種を絶滅させると、食物連鎖などを通じて、別の種が過度に増えたり絶滅したりする。
おわりに なにも学ばれることなく、すべては忘れさられるのか
過去から学び、将来に生かそう。とくに、環境問題や資源問題。
放送のサマリー
第1回 チンパンジーからヒトへ 1.6%のドラマ
本の第1、2章に相当
会場:ロサンゼルス動物園のチンパンジー舎
- 講師ジャレド・ダイアモンド
- UCLA教授。
- 『銃・病原菌・鉄』がピューリッツァー賞を受賞。
- 動物としてのヒト
- 霊長類の特徴:①拇指対向性、②目が顔の正面にあって両眼視できる
- 類人猿の特徴:①尻尾がない
- ヒトは、チンパンジーやボノボと近縁。1984年、ヒトとチンパンジー遺伝子の違いは、わずか1.6%であることがわかった。ヒトは、第3のチンパンジーである。
- ヒトがチンパンジーと枝分かれしたのは約500万年前。チンパンジーとボノボが枝分かれしたのは約150万年前。
- チンパンジーの人権
- チンパンジーを使って医療実験をして良いのか?
- 2016年にチンパンジーにも人と同様の権利を認めるべきだという訴えに対する裁判があった。ニューヨーク州最高裁判所では敗訴になったものの、訴えを起こした側は再審を求めている。
- 同性愛
- ボノボには同性愛が見られる。
- 人間でも5000年前から同性愛の記録がある。
- ホモ・サピエンスの登場
- 人類は200〜300万年前に二足歩行を始めた。このことは骨盤の形からわかる。
- アウストラロピテクスの脳は、ホモ・サピエンスの3分の1。ネアンデルタール人の脳は、ホモ・サピエンスより少し大きい。
- 7万年前くらい以降、アフリカのホモ・サピエンスにアートや音楽が現れる。宗教や航海技術なども進歩した。これを「大躍進 Great Leap Forward」と呼ぼう。
- ホモ・サピエンスはおよそ5万年前にアフリカを出た。そこで、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人に出会った。ネアンデルタール人は3万2千年前に絶滅した。
- ホモ・サピエンスはおそらく発達した言語を持ったために「大躍進」を遂げた。言語を持つためには、複雑な構造の喉が必要。
- 最新の研究によれば、アフリカ以外のヒトの遺伝子の中にネアンデルタール人の遺伝子が3%程度含まれている。ということは、アフリカから出たホモ・サピエンスはネアンデルタール人と交配したということだ。
- ヒトの今後
- 今から50年後にヒトが存続しているかどうか定かではない。これは後半で議論する。もしそれを乗り切ることができれば、ヒトは存続して進化をするだろう。
[吉田注:本と放送でヒトがチンパンジーから分かれた年代など年代が少しずつずれている。]
第2回 動物のコトバ、ヒトの言語
本の第6章に相当
- ヒトの言語
- ヒトの言語には文法があって、同じ単語群でも並べ方次第で異なることを表現できる。
- 動物の複雑なコトバとヒトの単純な言語から言語の発達過程を推測したい。
- 動物のコミュニケーション
- ベルベットモンキーは小型のサル。脅威があると、仲間に対して警告する。天敵の種類によって異なる鳴き声を用いる。鳴き声を録音して再生すると、鳴き声の種類によってそれぞれ適切に反応した。すなわち、ベルベットモンキーは「名詞」で意思伝達をする。
- プレーリードッグも敵の種類によって異なる鳴き声を上げる。その上、人の服の色によっても異なる鳴き声を発する。すなわち、プレーリードッグは「名詞」と「形容詞」を用いているらしい。
- ヒトの言語の起源
- パプア・ニューギニアに初めて行ったとき、彼らの生活は単純だったが、そこで出会ったフォーレ語は複雑だった。
- 商人同士は「ピジン語」を使う。単語を並べただけのようなもの。
- 多くの移民が集まるところでは、ピジン語が自然発生する。次の世代になると、ピジン語では満足できなくなり、「クレオール語」が自然発生するようになる。
- パプア・ニューギニアでは、クレオール語として「トク・ピシン」が使われている。英語、ドイツ語にニューギニアの単語が混ざっている。
- 世界各地のクレオール語は、文法が互いに似ている。クレオール語の文法は、ヒトの遺伝的プログラムに由来する可能性がある(チョムスキーの普遍文法)。
- 言語の進化の過程を推測する
- 最初は名詞だけ。そのうち、形容詞や副詞も含まれるようになる。さらに、クレオール語のように代名詞などが加わり、最後にわれわれの言語になる。
- いま、世界中でいろいろな言語が消滅しつつある。生き残るのは公用語などで、200言語程度のみかもしれない。
第3回 芸術(アート)のジョーシキを疑え
本の第7章に相当
会場:大学キャンパス内のファウラー美術館。パプアニューギニアの宗教儀式などで使われるアートが展示されている。
- 芸術
- 芸術はヒトならではのものに見える。芸術に関して、今回もヒトと動物の間を埋める作業をしてゆく。
- 芸術の定義は何か?
- 生徒の答え:情緒に訴えるもの、意図的なもの、道具を使うもの
- 講師は、一般的にアートを特徴付けると思われている以下の3点を議論する。
- ①生きていくために必要な機能がない。しかし、それではたとえば美しくデザインされたシャツのようなものはアートではなくなってしまう。
- ②美的欲求を満たす。
- ③習得するもの。これに対して、ゴクラクバトのさえずりなどは、遺伝的に伝えられるもの。
- 動物が作る「アート」
- 日本のアマミホシゾラフグの雄が作る砂の模様。雌は中央に卵を産む。潮の流れから卵を守るものだと考えられている。立派な模様を作る雄は能力が高いということになるのだろうと解釈されている。
- オーストラリアのアオアズマヤドリの雄が作る「あずまや」。これは雌を引き付けるために作られる。立派な「あずまや」は、他の雄から「あずまや」を守りきれるほど強いことを意味する。あるいは、高度な技術や優れた物品回収能力があることを意味する。つまり、「あずまや」は、雄の能力テスト。
- このように、動物による「アート」は異性を引き付けるシグナルという明確な役割がある。
- ヒトのアートと動物の「アート」の共通点
- 1万4千年前の「ラスコー洞窟壁画」は有名。4万年前の「ホーレ・フェレスのビーナス」は女性の体型を表現した芸術。
- きれいに左右対称に作られた30万年前の石斧がある。これは道具としては使いづらい。大きすぎるし、両側に刃があるから手を切ってしまいそうである。これは「アート」と言えそう。これは異性へのアピールかもしれない。高い技術を誇ったのであろう。
- ヒトのアートはシグナルでもある。お金を持っていることの象徴として使う人もいる。講師は、デートの時にその後妻となるマリー(ポーランド系)を引き付けるためにショパンを演奏した。芸術には、生きていくために必要な機能もある。
第4回 性と出会いのメカニズム
本の第3、4、9章に相当
- パートナー選び
- 魅力的な人をどうやって見つける?チェックリストを作るのか、それとも直感を大事にするのか?
- 生徒の答え:一瞬でわかる。
- 動物のパートナー選びと性淘汰
- 性淘汰で有利な形質が自然淘汰で有利とは限らない。たとえば、クジャクの飾り羽。大きな羽は性淘汰には有利だが、敵に襲われやすいかもしれない。
- 性淘汰で有利な形質はどのようなものか?3つの考え方がある。①自然淘汰で有利な特徴②自然淘汰とは関係ない特徴③自然淘汰に不利な特徴
- ③の「ハンディキャップ理論」の考え方は以下の通り。クジャクの場合で言えば、あんな襲われやすい飾り羽を持っていても生き残っているのだから、強いのだろう、とメスは考える。
- コクホウジャク(アフリカに棲息する鳥)のオスはひどく長い尾を持っている。尾が長いほどメスを引き付けている。
- ヒトの恋人選び
- 外見の似た人同士が結婚することが多い。ある研究によると、中指の長さなど意外な特徴も似ていた。
- 講師の経験だと、妻にある違和感を感じていた原因をあるときに気付いた。それは、講師は目と目の間が比較的離れているのに対し、妻は近かった。講師は、目と目が離れたタイプが好きだった。妻とは他に共通点が多かったので結婚したのだが。
- ニッポンウズラの実験。あるオスのウズラのヒナを血の繋がらないヒナと一緒に育てた。そのウズラが成長した時、血の繋がった親戚(兄弟、いとこ、はとこ、みいとこなど)に会わせたら、いとこを選んだ。ウズラは母の面影を求めたが、近すぎず遠すぎない相手を選んでいる。
- 人種
- 肌の色は、自然淘汰で説明できる。太陽光は、皮膚ガンを起こす一方、ビタミンDの生成を助ける。しかし、例外もある。タスマニア人は緯度が高いのに色黒、アマゾン先住民は緯度が低いのに色白。
- 青い目と金髪の利点は?これは自然淘汰とは関係なさそうなので、性淘汰で定着したのかもしれない。
- もうひとつは創始者効果も考えられる。少人数集団の最初の人の遺伝子がその集団に広がる。
第5回 夫婦の起源 性の不思議
本の第3章に相当
会場:カリフォルニア大学ロサンゼルス校植物園
- 動物の夫婦関係のいろいろ
- 類人猿でも夫婦間家は異なる。ゴリラはハーレムを作り、チンパンジーはグループ内で自由に交配。
- ほとんどの哺乳類では、子育てはメスに任せる。
- ヒトは、一夫一妻制 (monogamy) が基本。
- 民族によっては、一夫多妻、一妻多夫 (polyandry) の社会もまれに存在する。
- 一夫一妻の動物は、オスとメスが同じ大きさ。一夫多妻の動物は、オスがメスよりも大きい。
ゴリラは、オスがメスの2倍くらい。ヒトは、オスの方がやや大きい程度。
- なぜヒトは一夫一妻になったのか?ヒトの子供は養育期間が長いから。ヒトでは、父親と母親が一緒に子育てする。
- ヒトはなぜ浮気をするのか?
- 男にとって浮気の利点は、自分の遺伝子をたくさん残せるし、他の男性に子供を育てさせられる。
- 男にとって浮気の欠点は、妻と別れないといけないかもしれないし、浮気相手のパートナーが怒って攻撃するかもしれないし、
妻を他の男に寝取られるかもしれない。
- 女にとって浮気の利点は、子供の遺伝子の多様性が増すこと。
- 一夫一妻の動物での浮気の割合は、ヒトだと 5% くらい、鳥だと3割くらい(ミドリツバメやキイロアメリカムシクイでは、雛鳥の4割近くがつがいとは別のオスの子供)。
- 隠された排卵 (concealed ovulation)
- ヒトでは、いつ妊娠可能か外から見てもわからない。逆に言えば、いつでもセックスができる。これは、ヒトが隠れてセックスすることとも関連。
- 通常、哺乳類は、受精可能なときのみ交尾する。
- 排卵が隠される理由には4つの説が考えられている。①男性の育児参加を促す。性行為と引き換えに子育てを手伝ってもらう。
②男性が女性と一緒に暮らすようにするため。いつ妊娠するかわからないので、いつもそばにいてセックスをする必要がある。
③子供の命を守るため。生れた子供が誰の子供かわからないようにする。
④女性が妊娠を恐れないようにするため。ヒトの出産は危険なので、排卵が分かっていると女性はセックスをしないようになる。
- ヒトの社会では、複数の男女がグループとなる。排卵がわからず隠れてセックスすることは、カップルのきずなを深め、
ほかのカップルともめごとを起こしにくくすることに貢献している。
- モラルの誕生
- 進化には善悪という概念はない。子孫をたくさん残すことが目的になる。
- しかし、ヒトは、倫理に基づいた行動を選ぶことができる。
第6回 不思議いっぱい ヒトの寿命
本の第5章に相当
- なぜ年老いて死ぬのか(寿命を決めるもの)
- なぜヒトの寿命は 80 歳くらいで、120 歳を超えることはないのか?
- 寿命を決めるものは、生理学者はテロメアだという。が、進化生物学者としては、この答えでは満足しない。
では、なぜテロメアがなぜ進化の過程でもっと伸びなかったのかという疑問が出るからだ。
- ヒトには体の修復機能がある。さらに、体の部品を定期的に交換している。
- ヒトデは腕を再生できるのに、ヒトは腕や脚を再生できない。なぜヒトにはできないのか?
一つの答えとしては、ヒトデはよく腕を失うから。
別の答えとしては、足や腕を失うと出血多量で死ぬ可能性が高いから、再生する意味がない。
- 体の修復には、コストの最適化 (Optimizing Costs) が関係する。進化において、コストはカロリー。
進化の目的は、子孫を残すこと。自分の体の修復にコストを使うと、子孫に与えるカロリーが少なくなる。
繁殖と修復の間でバランス良くカロリーを消費しなければならない。
- 有袋類マウス(オス)の寿命は1年。オスは、1歳になると体の修復をやめて、何も食べず、すべての時間を交尾に費やす。
そして、3週間も経たずに死ぬ。これは繁殖に多くのカロリーを配分する極端な例である。
- ネズミは天敵につかまって捕食されやすいので、修復してもあまり意味がない。
一方、カメは硬い甲羅に守られていて捕食されにくいので、修復して長生きする価値がある。
- なぜヒトは子供を産むのをやめるのか(女性の閉経 menopause)
- 通常の動物は、子供を作る能力が少しずつ衰える。ヒトはなぜ子作りをやめるのか。
- なぜ女性は閉経を迎えるのか。①高齢出産すると、子供が大人になるまでに母親が死んでしまうことになる。
②出産が母体にとって危険で、高齢になるほど危険度が増す。
- そこで、ヒトでは、子供の面倒をきちんと見た方が良いということになった。
- おばあさんは大事な存在。女性が長く生きる家には孫がたくさんできる傾向にあるという調査がある。
- ヒトは、子や孫の面倒を見るように進化した。年寄りの知恵は役に立つ。
- 進化の宿命としての「老い」と「死」
- 老年学者 (gerontologist) が老化の研究をしている。彼らは、老化の単一の原因を見つけようとするが、それはうまくいかないはず。
- 体の各パーツは同時に老化するように進化してきた。一つのところだけが悪くなるということはない。
- 年を取るということは、修復が行われなくなるということ。
第7回 農業は人類に何をもたらしたのか
本の第8章に相当
会場:オーシャン・ビュー・ファーム(ロサンゼルス市内のコミュニティー・ガーデン)
- 農業の功罪
- 農業は、文明発展の基礎となった一方、いろいろな問題も引き起こした。
- 農業をする昆虫
- ハキリアリ (Leafcutter Ant) も農業を行う。切った葉で菌類を育てる。
- 農業の始まり
- 農業は歴史が浅い。1万1千年前に始まったばかり。だから、ヒトの体はまだ農作業に向いていない。
- 農業は、狩猟採集の副産物。たとえば、次のようなストーリーだろう。マメの鞘の中には、はぜないで枝に残るものがある。それは収穫しやすい。たまたま、それを植えてみると、そういう便利なマメが育った。
- 農業の帰結
- 農業では、多くの食糧を確保できる。作物を保存して貯蔵する。その結果、人口が爆発的に増える。さらに、分業が始まる。農業以外の仕事の人が出てくる。
- 農業によって、権力が誕生する。その結果、軍事力が増し、狩猟採集民を征圧する。格差と征服の歴史が始まった。
- 生産革命が生んだ問題
- 伝染病の広がり。人が密集して住むので、病気がうつりやすい。さらに、もともと動物起源の病気も多い。たとえば、天然痘はラクダ痘から来ており、はしかは牛疫から来ている。
- 余暇の減少。農業では、丸一日働く。
- 栄養が偏る。食べ物の種類が狩猟採集に比べて少ない。農業が始まるとともに、人々の身長が低くなった。穀物中心の食事になったせいだと考えられる。
- 単一作物栽培のリスク。アイルランドのじゃがいも飢饉のように、主食の作物が凶作になるとたちまち飢饉が広がる。
- 現代農業のリスク。農薬とか遺伝子組み換えとかの問題。
- 格差と不平等の拡大。狩猟採集社会では、皆がひとしなみに働くので地位の上下がない。農業社会では、権力が集中する。女性の地位が低くなるのも、農業の特徴。遊牧社会では、大きな動物を扱うので、女性の地位が下がる。
- 人口過剰と栄養不足。マルサスの『人口論』によると、農業の生産性向上は人口増加に追いつかず、食糧不足や貧困は避けられない。今、先進国では栄養が過剰だが、他の多くの国では栄養不足が起きている。
第8回 ”進化”から見た文明格差
本の第12章に相当
- 文明の格差
- なぜ世界には豊かな国と貧しい国があるのか?
- アフリカはヒトが生まれた土地なのに、なぜ今は貧しいのか?アステカ帝国は豊かだったのに、今メキシコがそうでないのはなぜか?
- この謎を解く鍵は、農業の始まりの不均衡にある。
- 農業の始まり
- Domestication(動物の家畜化と植物の栽培化)はなぜ世界中で一気に起こらなかったのか?
- 野生の動植物で家畜化や栽培化できるものはわずかで、そのような動植物がいたのは世界中で9〜10箇所。農業はそのような地域から始まった。具体的には、中近東(11,000年前)、中国(9,500年前)、サヘル(7,000年前)、エチオピア(6,000年前)、西アフリカ(5,000年前)、メキシコ(8,000年前)、アンデス・アマゾン地方(6,000年前)、アメリカ合衆国東部(5,000年前)、ニューギニア(9,000年前)である。
- 哺乳動物のうち家畜化されたのは、わずか14種。家畜になるには、ある程度の大きさが必要。
- 家畜の五大哺乳動物として、牛、ヒツジ、ヤギ、豚、馬がいる。他には、ユーラシア大陸にトナカイ、ロバ、アラビアラクダ、アジアラクダ、ヤク、水牛、ガウル、バンテン。アメリカ大陸にはラマ。これで14種である。
- 家畜にできる条件は、飼育するのが簡単なこと、成長が速いこと、性格が温和なこと、リーダーに従う性質があること(序列のある群れを作ること)などである。
- 五大哺乳動物は、肥沃な三日月地帯(後にメソポタミア文明が栄えた地域)にいた。ここは乾燥地帯であるにもかかわらず、五大哺乳動物がいたので、農業が始まった。
- 野生の植物でも食用にできるのものは、限られている。主には穀類だけである。小麦3種類と大麦は肥沃な三日月地帯に自生していた。稲は中国と東南アジアにいた。トウモロコシ(メイズ)はアメリカ原産である。このうち、小麦と大麦はタンパク質が豊富。トウモロコシは品種改良に長い時間を必要とした。野生種はテオシンテという植物で、穂軸も短く堅いカバーで覆われていた。品種改良に8,000年かかっている。小麦や大麦は野生種と栽培種にそれほど大きな違いがない。
- 家畜の脳はたいてい野生種よりも小さい。家畜は、身を守る必要性が少ないので賢くなくて良いし、変に賢くない方が良い。
- 農業の広がりと地理的な条件
- 農業は肥沃な三日月地帯で始まった。農業は発祥地から東西に広がっていった。東西の交流は、緯度が近いので広がりやすい。
- ユーラシア大陸は東西に長いので文化が広がりやすい。アメリカ大陸は南北に長いので文化がなかなか広がらない。アフリカ大陸も南北方向に長い。
- 農業の利点には、馬がある。アメリカ大陸には馬がなかったので、スペイン兵は馬を使ってインカ帝国を征服することができた。
- 家畜によって病気も増えた。牛疫は「はしか」になった。ヨーロッパ人は、アメリカ大陸に「はしか」と天然痘を持ち込んだ。これによって先住民は大打撃を受けた。
- ヨーロッパがその後栄えた理由には、肥沃な土壌と湿潤な気候があった。
第9回 地球外生命体(エイリアン)も進化する?
本の第10章に相当
会場:ウィルソン山天文台
- 地球外生命体は存在するか?
- 存在すると考えている人が多いが、証拠はない。
- 地球外生命体が存在できる環境
- 30年くらい前から、天文学者は、生命体が存在できる環境を太陽系外で探すようになった。
- ケプラー宇宙望遠鏡は多くの系外惑星(>4000個)を見つけた。そのうち20くらいには生命が存在するかもしれない。
- ハビタブルプラネットの条件:①表面が岩石であること②液体の水が存在すること③有害な放射線を浴びないためあまり中心星に近すぎないこと
- ケプラー452bは、地球に似ている。生命が存在しうる最も有力な候補。
- ユーリー・ミラーの実験では、太古の地球の環境を参考にして、アンモニア、水素、メタンに水蒸気を送った。雷にあたる電気ショックを与えると、1週間でアミノ酸ができることを確かめた。太古の環境がどうであったかいろいろな議論があるが、ともかく、条件が整えば、有機物ができることがわかった。
- 未知との遭遇はあるか
- なぜ地球外生命体にまだ会ったことはないのか?考えられる理由をいくつか挙げてみよう。
- ①地球まで遠すぎる②地球以外にも探査の対象がある③高度な文明が長続きしない
- 文明の寿命は短いかもしれない。無線通信の始まりが1901年、人間の文明は核戦争や環境破壊などによって2050年までに崩壊するかもしれない。
- エイリアンが地球に来たら何が起こるか
- ダイアモンド博士は悲観的。人間は、かつて地上の知的生命体にずいぶんひどいことをしてきたから。
第10回 集団虐殺(ジェノサイド)はなくせるのか
本の第13章に相当
- ジェノサイド
- 戦争では多くの人が殺される。殺すことが使命となる。一方、平時には殺すことが違法。
- 第二次世界大戦後も、ルワンダの虐殺、ボスニア紛争、カンボジアの虐殺など多くの例がある。
- 動物の集団虐殺
- チンパンジーなどの動物でも相手の群れを集団虐殺する現象がある。ある群れが別の群れのチンパンジーを1匹ずつおびき出して虐殺した例が観察されている。
- チンパンジーには罪悪感は無いのではないか。
- 集団虐殺のターゲット
- 集団虐殺では、特定の宗教や民族や思想がターゲットになることも多い。
- たとえば、アルビジョア十字軍の事件がある。キリスト教の異端であるアルビ派が虐殺された。
- タスマニア島では、19世紀前半、原住民が組織的に虐殺され、タスマニア人が絶滅した。
- 1973年のチリの政変では、左派の人々が虐殺された。
- 問題の解決のために
- ニューギニア島西部のダニ族では、2つのグループが争って虐殺が起こった。伝統社会では、犠牲者の割合が多い。
- 伝統社会では、戦争で多くの人が亡くなる。
- 現代社会の方が、戦争で死ぬ人が少ないのはなぜか?①中央政府の存在は虐殺を抑制する傾向にある。②モラルがある。
- グローバル化は虐殺を抑制する。外国の人がより身近に感じられるようになっている。
- 集団虐殺の裏では、財産の奪い合いがある。しかし、虐殺の目的としてそれが語られることはない。
- 「我々対彼ら Us vs Them」という発想が社会を分断する。動物でも群れと群れの間にそのような意識が働く。
- 我々の希望は、現代では集団虐殺が減っているという事実にある。
第11回 文明崩壊 人類史から学ぶもの
本の第14、15、16章、おわりに、に相当
会場:ラルフ・B・クラーク自然史博物館
今回は環境破壊と文明崩壊の関係を考える。
- 意図せぬ自然破壊
- ニュージーランドのスティーブンス島には飛べない鳥スチーフンイワサザイがいた。
しかし、灯台守が連れてきた一匹の猫がスチーフンイワサザイを絶滅させた。
- アメリカ大陸間大交差(The Great American Interchange)という現象があった。
南アメリカは7000万年間孤立していたので、独自の大型の動物がいた。
たとえば、トクソドン、スパラソドント、恐鳥類など。しかし、400万年前に北米と南米が陸続きとなった。
そのことで両大陸の動物が行き来した結果、多くの南米の巨大動物が絶滅した。
ただし、ナマケモノやオポッサムは生き残った。
- ニュージーランドの飛べない鳥モアは、800年前にポリネシア人が入ってきたことにより、数百年で絶滅した。
- このように、人間は昔から環境破壊を繰り返していた。
- 北米の大型哺乳動物は、アメリカ先住民の祖先により千年くらいで以内で絶滅した。
- 文明の自滅
- イースター島では森林伐採により文明が崩壊した。
イースター島は、現在は不毛の地だが、かつてはヤシなどの樹木で覆われていた。
人々は島の木のほとんどを伐採して、土地がやせた。島の鳥も食べつくされた。
島民同士の争いが起こり、島全体の社会が崩壊した。
- アメリカのアナサジの例もある。アメリカ南西部で、農業が行なわれて、都市が作られていた。
人々が次々に森林が伐採したため、農業が続けられなくなり、都市文明は放棄された。
- 現代の環境危機
- 二酸化炭素による地球温暖化が起こっている。異常気象ももたらされる。海洋酸性化、海面上昇も問題になっている。
- 魚の乱獲が起きている。水産資源は崩壊寸前。
- 森林伐採がとくに熱帯で顕著。森林伐採によって地表が浸食される。
- 水資源問題もある。水をめぐる紛争も絶えない。
- 環境破壊の原因
- 「共有地の悲劇」と呼ばれるメカニズムがある。資源がなくなってしまう前に自分だけ資源を使ってしまおう、という発想である。
- 悪意のない環境破壊もある。たとえば、猫を増やすと、鳥をたくさん殺すことになる。
- 持続可能な社会を実現するには
- 現代は、文明崩壊に突き進む馬と環境対策に前向きな馬が競争をしているようなもの。
- 正しい政治を選択すべきだ。
[吉田注:放送の中で、博士は、地球温暖化は乾燥化を招くと言っている。これは、誤りである。
乾燥する場所もあるし、降水量が増える場所もあるというのが正しい。地球全体としては、気温が上がれば、
飽和水蒸気量が大きくなるので、湿潤になるはずである。]
第12回 ”格差”をのりこえて
本に相当する章は無い。
会場:ロサンゼルス郊外のウィルソン山
今回は拡大する格差と富の集中を考える。
- 格差
- 伝統的社会では、皆が働かないといけないので、平等主義(egalitarian)だった。
- 現在は格差社会になっている。国内の格差もあるし、国家間の格差もある。
- 国内の格差
- アメリカは、先進国の中でも国内の貧富の差が大きい。しかも、格差が拡大している。
- 格差は、健康問題と関係する。アメリカは、乳児死亡率が高いし、肥満も多い。
- 格差は、社会の不安定も生む。1992年には、ロサンゼルスでロドニー・キング暴動が起こった。
- 国家間の不均衡
- 国民一人当たりの所得は、国によって数百倍も違う。
- 内陸国は貧しくなりがち。海上輸送は低コスト。
- 天然資源がある国は貧しくなる傾向がある。国の内部で紛争を引き起こす源になったりする。ひどい場合は内戦が起こる。政治の腐敗も起こりやすい。
- 熱帯諸国は貧しくなる傾向がある。土壌が貧弱で、害虫による被害が大きく、農業生産性が低い。
- 植民地化された国は貧しくなる傾向がある。植民地を支配する組織が独立後も残って腐敗しやすい。
- グローバル時代の課題
- グローバル化によって国家間の格差が浮き彫りになってきた。
- テロリズム問題、移民の増加と難民問題、新興感染症の問題が起こっている。
- 不均衡を抑える取り組み
- どうやって格差に対応するか?
- 資金援助、医療援助。
- 選挙で投票する、生活スタイルを見直す。
- チンパンジーも持っている公平さの感覚を取り戻そう。
- まとめ
- 私たちはモラルによる選択ができる。世界には希望がある。