スピノザは、汎神論と言われるせいか全く興味を持ったことがなかったが、この番組で解説を聞いてみると、 科学的な考えを持った人だと分かって興味深く聴くことができた。 汎神論というのは、結局自然をありのままに受け取るということのようだ。 「神」を「自然の摂理」という言葉で置き換えれば、立派に現代の無神論に近い。 スピノザが 1632 年生まれということは、1643 年生まれのニュートンと同時代人ということで、 近代的数理自然科学が生まれようとしている時代だったということなのだろう。
自由意志を否定しているというのもなかなかに現代的で親近感が持てる。 著者も書いているとおり、自由意志を硬く信奉すると、過度な自己責任論に陥りやすい。 所詮、そんなに自分の心は自分の思い通りになるものではないし、自然法則の支配下にあるのだし、 大きく周囲の影響も受ける。自分が意識するより前に脳はすでに決定を下しているという実験結果もあるそうだし (もちろんその実験の解釈は微妙ではあるが)、自分で思っている程には意志が行動を決定するわけではない。 肩の力を抜いて生きたいものである。
ただし、第4回の真理論は、私は著者の見解とは異なって、スピノザの考えにあまり現代的な意味はないと思う。 真理は自ずとわかる、みたいな考えは、量子力学や相対論などを学んでしまうと、そんなものではないということははっきりわかる。 もちろん量子力学や相対論が永遠の真理かどうかはわからないが、より正しい理論が見つかるとしても、後戻りすることはないので、 いずれにせよ直感的にわかりやすいものではないだろう。さらに、哲学的に言っても、科学的実在論論争などを学んでしまうと、 スピノザにしてもデカルトにしても今から見れば議論として全く未熟であることは明らかである。 ここで紹介されているフーコーのように「真理に到達するには主体が変容を遂げなければならない」というのは、 現代科学を学ぶことによってものの見方が変わると言い換えればその通りではあるが、スピノザを持ち上げるまでもないことだと思う。