モンゴメリ 赤毛のアン

著者茂木 健一郎
シリーズNHK 100分de名著 2018 年 10 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2018/10/01(発売:2018/09/25)
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読了2018/10/24

『赤毛のアン』は、少なくとも子供向けバージョンは子供の時に読んだことがあるはずだし、 10 年前には NHK の英語学習番組で取り上げられていたのを視聴した。無論、とても引き付けられる本である。

この「100分でde名著」の番組で、あらすじを見ながら茂木氏の元気の良い解説を聞いていると、それだけで感動できた。 解説に書いてあるとおり(第2回)、アンと自分を一部重ね合わせてその成長に喜びを感じられるということだろう。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 想像力の翼を広げて

ルーシー・モード・モンゴメリ

物語の進行と解説

『赤毛のアン』は、Bildungsroman 教養小説である。主人公は、アン・シャーリー。彼女の成長の過程を追う。

物語の進行解説
  • 最初に登場するのは、リンド夫人。
  • マシュウとマリラの兄妹が、孤児院から子供を引き取る。男の子のつもりだったが、来たのはおしゃべりな女の子とのアンだった。 アンは、駅まで引き取りに来たマシュウに喋り続ける。
  • アンは、グリン・ゲイブルスヘの道すがら、周囲の景色の美しさに感動して名前をつけ始める。
  • 隣人のリンド夫人は、「世間」を代表している。詮索好きで口うるさい。
  • マリラは現実的で事務的。マシュウは内向的で気弱。
  • 「安全基地」がないアンは、不安を隠すために喋っているのかもしれない。
  • アンは、子供の豊かな想像力の塊。つらい生活の中で、想像力が彼女を支えてきた。
  • マリラは、アンに向かってはっきりと男の子が欲しかったのだという。アンは、それを聞いて泣く。
  • マシュウはアンを引き取りたいという気持ちを述べる。「わしらの方であの子になにか役立つかもしれんよ」
  • マシュウの気持ちが変化したことがわかる。人間は歳を取っても変わることができる。
  • 翌日、マリラはアンを連れて、仲介したスペンサー夫人の所に行く。
  • 道すがら、マリラはアンの身の上を知って、心が揺れる。
  • スペンサー夫人の家に行くと、ブリュエット夫人が来てアンを引き取っても良いという。ブリュエット夫人は、 口やかましく、アンをこき使おうとしていた。マリラは、アンがかわいそうになって、結局、自分のところで引き取ることに決める。

第2回 異なる価値を認め合う

物語の進行解説
  • マリラはアンを日曜学校に行かせる。そのために服を作ってやるが、それはアンが望んでいたパフスリーブではなく、質素なものだった。
  • 身体性は大事。他の子と同じようにしてやるのも大事。
  • アンは、ダイアナ・バーリーと親友になる。「腹心の友」の誓いを立てる。
  • ダイアナは、アンが場所に名前をつけるセンスが良いと言ってくれる。
  • ダイアナは、アンにとって初めての生身の友達。それまでのアンの友達は、ガラスに映った自分の姿であるケティ・モーリスと、こだまのヴィオレッタだった。
  • アンは、ずっと「安全基地」を探している。
  • アンは、他人に認めてもらって初めて自分の長所に気付く。
  • ギルバート・ブライスが学校にやってくる。
  • ギルバートは、アンの気を引こうとして、アンの赤毛を「にんじん!にんじん!」とからかう。 アンは激怒して、石盤をギルバートの頭に叩きつける。石盤は真っ二つに割れる。
  • アンは、黒板の前に立たされ、屈辱を味わう。以来、不登校になる。
  • ギルバートは男前。
  • 後から考えてみると、ギルバートとアンは一目惚れだったのではないか。
  • アンはダイアナをお茶に招くも、いちご水と間違えて葡萄酒をダイアナに飲ませてしまう。
  • ダイアナのお母さんが怒って、アンとダイアなの友達づきあいを禁じる。アンは、不登校を止めて学校に戻ることにする。
  • ダイアナの妹のミニー・メイが病気になる。アンは、子守の経験を生かしてミニー・メイを救う。 それで、アンはダイアナのお母さんに感謝されて、アンとダイアナは再び友達づきあいができるようになる。
  • アンは、自分の経験が役に立ったことを悟る。このへんから自分自身を受け入れられるようになる。生い立ちを受け入れられるなってから、赤毛も気にならなくなる。

第3回 「ひたむきさ」が運命を変える

マリラとマシュウに育てられて、アンはだんだん自己肯定感を増してゆく。一方、アンは周囲の人々に良い影響を与えてゆく。今風に言えば、アンはインフルエンサー。 マリラもマシュウも成長する。ギルバートもアンのおかげで良い人間になろうとする。

物語の進行解説
  • アンは再登校して、級友から歓迎される。
  • アンは、相変わらずギルバート・ブライスと口をきかない。ギルバートとアンは勉強においても競い合う。
  • アンとギルバートは争いながらお互いを高めあっている。ライバルの存在が成長を生む。
  • アンは、アヴォンリー討論クラブのコンサートに出演。
  • コンサートのあと、ダイアナの家に泊めてもらうが、老嬢ミス・バーリーが寝ていたベッドに飛び乗ってしまう。 ミス・バーリーは怒ったが、アンのひたむきな態度にミス・バーリーもアンを許す。
  • アンのひたむきさが相手の心を開く。
  • アンのひたむきさは、作者モンゴメリのひたむきな文章修行に重なる。寸暇を惜しんで物語を書いている。
  • 独学こそが学びのあり方。
  • ミス・ステイシーが学校に赴任し、今で言うアクティブ・ラーニングを行う。詩の朗読、芝居、自然観察などをする。
  • ミス・ステイシーの教育は、個性を生かす教育。
  • マシュウは、アンの様子が周りと違うことに気づく。よく考えると、アンの服だけが地味なのだった。
  • マシュウは、リンド夫人の助力でパフスリーブの服をしつらえて、クリスマスにアンに贈る。
  • 日頃は服になど関心のなかったマシュウが、アンが周りの女の子と何か違うと気付く。気づくときは、感情がまず気づく。その後に、大脳が情報処理して何が違うかがわかる。
  • アンの影響を受けて、マシュウも変化している。
  • アンと仲間たちは、川でアーサー王物語を演じる練習をしている。船が沈んで、アンは川で溺れそうになったが、偶然ボートでやってきたギルバート・ブライスに助けられる。 ギルバートは仲直りしようというが、アンは受け入れない。
  • アンのコンプレックスは根強い。ギルバートを許すことは、アンが自分自身を受け入れること。

第4回 宝物は足もとにある!

物語の進行解説
  • アンは、先生になりたいとマリラに言う。アンはクイーン学院への受験クラスに入る。
  • アンはギルバートともに同点首位で入試に合格し、クイーン学院で猛勉強する。
  • アンは、大学に行くためのエイブリー奨学金を獲得する。
  • アンは、想像力がたくましい一方で、現実からスタートすることができる。
  • 当時は、女性が仕事をするのは特別。モンゴメリの姿を反映している。
  • アンは、無事クイーン学院を卒業する。家族は喜びに満ち、未来は輝いて見えた。
  • マシュウはアンへに「わしには十二人の男の子よりもお前一人の方がいいよ」と言う。
  • マシュウの体調が悪化。アベイ銀行の破産のニュースでマシュウは倒れ、そのまま亡くなる。
  • マリラは、失明のおそれもあり、グリン・ゲイブルスを売ることを決意する。
  • アンは、地元で先生になってグリン・ゲイブルスで暮らす決意をする。
  • ギルバートは、アンにアヴォンリーの教師の職を譲る。
  • モンゴメリは、日々の中に幸福があると言っている。アンは、「夢のあり方が変わったのよ」と言う。
  • アンは、ギルバートが通りがかったとき、職を譲ってくれた礼を述べる。
  • アンはギルバートと仲直りする。
  • あまり何も喋っていないけど、ギルバートが一番存在感がある。
  • マシュウもギルバートも最初からアンをそのまま受け入れている。
  • アンは自分の個性を受け入れる。

結末の一節:

Anne's horizons had closed in since the night she had sat there after coming home from Queen's; but if the path set before her feet was to be narrow she knew that flowers of quiet happiness would bloom along it. The joys of sincere work and worthy aspiration and congenial friendship were to be hers; nothing could rob her of her birthright of fancy or her ideal world of dreams. And there was always the bend in the road!
[私訳] アンがクィーン学院から帰ってきてそこに座った夜に、広がっていたはずの彼女の地平線はすっかり狭まってしまった。 でも、彼女が進もうとしている道が狭かろうと、道に沿って穏やかな幸せの花が咲いているだろうことが彼女にはわかっていた。 ひたむきに仕事をして、立派な志を持ち、肝胆相照らす友情を育む喜びが彼女にはあった。 生まれ持った想像力やら夢見る理想の世界が彼女から無くなるはずもなかった。そして道にはいつも曲がり角があるものなのだ!