囲碁AI新時代

著者王 銘琬
シリーズ囲碁人ブックス
発行所マイナビ
電子書籍
刊行2017/03/31(電子版Ver1.00)
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読了2018/01/12

2016 年のアルファ碁の登場は衝撃的であった。こんなに早く囲碁でコンピュータが人間を追い抜くとは誰も予想していなかっただろう。 本書はアルファ碁の出現を前にしたプロ棋士の正直な感想という感じで面白い。 著者の囲碁解説は、いつも正直な感じが好感が持てる。 しかも、著者はコンピュータ囲碁に元から関心が深く、その上中国などの海外事情にも結構通じているということで、 プロ棋士でこのような話題を書くには最適の人ということになるだろう。 とくに第4章と第5章は、コンピュータ囲碁との付き合い方に関する考えが書かれていて、非常に興味深い。

第1章では、AlphaGo vs 李世ドル、DeepZenGo vs 趙治勲の碁を振り返って、そのポイントが要領よく解説されている。 コンピュータ碁の強いところとまだそれほどでもないところがどういうところなのかがよくわかる。

第2章は、AlphaGo と DeepZenGo の打ち方の特徴を見てゆく章。

第3章は、コンピュータ囲碁が使っている方法の概説である。著者が、プロ棋士ながら結構詳しいということがわかる。

第4章には、著者のコンピュータ囲碁との関わりが書かれている。 最初の方で、著者にはモンテカルロ法が自然に受け入れられたという感想が書かれているのが面白い。 「勝つ確率」を出して手を選ぶという考え方は、コンピュータに碁のようなゲームをやらせる上で革新的で奇妙な考え方であった。 しかし、著者はもともと手の善し悪しの判断は自分には難しいと思っていたということで、 事実上無限の変化から手を選択する上で確率という概念が出てくることが自然に思えたそうだ。

第5章は、囲碁においてコンピュータがはっきり人間より強くなってしまった今、人間のプロ棋士の存在意義は何か ということを考察している最も面白い章である。アルファ碁のようなディープラーニングだと、 コンピュータがなぜその手を選んだのか説明するのは非常に困難になっている。そこで、人間の碁の着手は、 着手そのものとそれを選んだ理由がセットだという考えが述べられる。着手の「理由」や「意味」に価値を見出すという考え方である。 これは、将来他の分野でもAIが人間を凌駕するということが起こったときに参考になる考え方である。 しかし、その考え方で心配なのは、説明不能というのはディープラーニングという手法に特有のことであり、将来的には AIが意味を理解するようにならないとも限らないことだ。ディープラーニングが得意な画像認識は、人間も自分自身で説明することができない。 人間は、それに加えて論理を操れるので、意味づけ「も」できるというだけなのだ。 いずれにせよ、プロ棋士の価値は強さだけではないことがはっきりした。 人間的な意味づけやら共感やらが大事になるということはその通りであろう。