第1章と第2章は、コンパクトにまとまっていてわかりやすい大学史である。とくに、理系と文系の別の成立に重点を置いて書かれている。 理系と文系の区別には結構曖昧な部分があり、著者も最後の第5章でいろいろな論点を紹介している。 著者は、歴史を踏まえて、「理系」を人間を世界の中心とする見方から距離をとる方向性、 「文系」を神様や王様中心の秩序から離れて人間中心の世界秩序を追い求める方向性 ととらえている(第1章の終わり近く)。
著者は、4章でジェンダー問題を取り上げる。性差の問題はいろいろ微妙である上、ポリティカル・コレクトネスの問題もあるので、 バランスよく論じるのが難しい。著者は、できるだけバランスよく論じようとしていることは良く分かるのだが、私の感覚では、 本書は、章タイトルに性差ではなく「ジェンダー」という言葉を使っていること自体、「社会や環境から押し付けられた性」という視点に偏っている。 私が思うに、生まれつきの性差がどれほどかきちんと論じる土台(科学的な証拠)が不足している以上、どうやっても議論が偏るので、 あんまり議論しても意味がなくて、実際問題としては、個々人の個性に誠実に向き合うということしかないと思う。 その結果として、集団全体として性差が出てしまったとすればしょうがないということになる。 日本が欧米に比べて遅れているような議論もあるが、これまた欧米の女性の態度は日本の女性とだいぶん違うし、 それが生まれつきの民族差なのか社会から押し付けられたものなのか、押し付けられたにせよどちらが幸福なのか、考え出すとよくわからない。 結局のところ、違いがあるのがいけないわけではないので、差をなくすことよりも幸福になれるやり方を考えたいものである。