small world network の話が流行っていたときに出た本のようだ。私は古本屋でたまたま見つけた。 ネットワーク好きの学生がいるので読んでみた。洋書和訳本では時々あるタイプの、最先端科学を多様な応用を 取り混ぜながら紹介するという本である。数式を使わずに、充実した内容が書かれている。 日本人の科学ジャーナリストにはこういうのが書ける人がそんなにいないと思う。
small world というのは「世間は狭い」ことのネットワークによる説明である。一言で言えば、世の中は強い絆と 弱いが遠い集団を結びつける絆があって、それが混ざることで、世間が狭くなっているということである。 そのことがよくわかるように、いろいろな例を出して、分かりやすく説明されている。 それに関連して、邦題はわかりづらい。原題を直訳して「絆~世間は狭いということとネットワーク科学の革新」とでも したほうがよほどわかりやすいのにと思う。
いま、強い絆と弱い絆と書いたが、典型的なネットワーク的な見方というのは、リンクの強さは捨象して、 つながっているかつながっていないかだけを問題にするのが特徴である。でも、実態としては、強い絆と弱い絆があるので、 本文でもそのように書かれている。このつながりの強さの捨象が物事を分かりやすくすることもあれば、 捨象しすぎになることもあるだろう。地震の連鎖をネットワークとみなすという物理学者による研究を目にしたが(本書ではない)、 地球科学者から見ると、2つの地震のつながりの強さを捨象することに意味があるのかどうかは疑問である。