予測の科学はどう変わる? 人工知能と地震・噴火・気象現象

著者井田 喜明
シリーズ岩波科学ライブラリー 282
発行所岩波書店
刊行2019/02/21(第1刷)
入手著者から頂戴した
読了2019/04/09

最近の AI ブームで科学の世界でも AI の利用が試み始められている。私にとっては、アルファ碁の登場が衝撃的だったので、 本格的 AI の登場は 3 年くらい前からで、deep learning がその基幹技術という印象があったわけだが、 本書で人工知能と呼んでいるものは、もうちょっと前の技術も含んでいるようである。地球科学への応用ということで 引用されている論文の最も古いものは 2000 年で、artificial neural network を使ってモンスーンの予測をするというものである。 新しいものが好きな地球科学者は 21 世紀が始まったころから応用を始めていたようである。

本書は、そのような流れに乗って、AI の地球科学への応用がある程度出てきたところで、これまでの研究をまとめつつ 将来展望をするという本である。しかし、読みやすいかといわれると、著者らしくやや詰め込みすぎなところがあって、 あまり読みやすいとはいえない。もちろん、大半の記述は地球科学に関することで、そこは私にとっては難なく読めるのだが、 あまり地球科学を知らない人にとっては少し読みにくいだろうと思う。第2章が人工知能の説明で、そこは私の基礎知識が 乏しいところなのだが、その部分は私にとってはわかりにくかった。図や数式がもう少しないと私には理解できない 部分があった(といっても、このシリーズでは数式はあまり使えないのだろうが)。たとえば、決定木の話は、 私が関心のある囲碁や将棋のソフトの話の中での意味ならわかるが、ここでの地震での応用の話にどう使われたのか まったくピンと来なかった。自己組織化写像の話も図の読み方がわからなかった。

全体的にいえば、AI の応用は、災害時の避難などにはある程度考えられるにしても、科学的予測ということでは、 目覚しい成果を上げているとも上げそうだとも言えないところだというところに思えた。最大のネックは AI が ブラックボックスだというところである。うまく行っているようにみえる応用(たとえば津波予測)は、機械学習でなくても できそうなものが多いようにみえる。AI の有り難味がわかるのは、囲碁や将棋のように、 人間を凌駕する大局観(囲碁の場合)や読み(将棋の場合)が機械学習でなければ得られないということが明確に示されている場合である。 地球科学への応用ではまだそんな感じはしない。