マーガレット・ミッチェル 風と共に去りぬ

著者鴻巣 友季子
シリーズNHK 100 分de名著 2019 年 1 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2019/01/01(発売:2018/12/25)
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読了2019/01/28

映画で有名な「風と共に去りぬ」ではあるが、私は映画も見たことがないし小説も読んだことがないので、 この解説で初めてこんな話かと知った。一種の大河小説だということがわかった。 大河小説というほど長い期間の物語ではない(1861 年から 1873 年までの 12 年間で、 スカーレット・オハラは 16 歳から 28 歳まで)のだが、南北戦争で没落してゆく南部社会を背景にしているという意味では 大河小説と言える。

主人公のスカーレットの行動は未熟でアンバランスである。彼女は一方で逞しく性悪で、一方で夢見る乙女だ。 スカーレットの年齢を考えると、そもそもかなり若いので当然ともいえる。この主人公の心の成長がひとつの読みどころのようである。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 一筋縄ではいかない物語

マーガレット・ミッチェル

小説の基本情報

小説の設定

小説の進行

物語の進行解説
  • スカーレットは、アシュリ・ウィルクスに片思いをしている。そのアシュリはメラニー・ハミルトンと婚約する。
  • アシュリの婚約発表の日に、スカーレットはアシュリに告白するが、断られる。 スカーレットは、怒って陶器を暖炉に向かって投げつける。
  • レット・バトラーが登場。レット・バトラーはその部屋で昼寝しており、スカーレットとアシュリのやりとりを聞いていたのだった。
  • スカーレットは、アシュリとメラニーが結婚する前日に、メラニーの兄のチャールズと電撃結婚。チャールズは出征して戦死。 スカーレットはチャールズとの子供を出産。
  • キャラクター設定はアニメっぽい(ややステレオタイプ)のに対し、文体は斬新。
  • スカーレットは、アトランタでメラニーとその叔母のピティパットと暮らすことになる。
  • その後も、スカーレットはアシュリをあきらめてはいない。
  • 一方で、レット・バトラーはスカーレットに思いを寄せている。
  • スカーレットは慈善事業のパーティーに出席。 スカーレットは喪中だったが、周囲の顰蹙を買いながらも、レットとスカーレットはダンスをする。
  • レットとメラニーの間にも友情が育まれてゆく。
  • レットとスカーレットは似た者同士。二人とも社会の異端者。
  • スカーレットは同調圧力に屈しないアウトサイダー。

第2回 アメリカの光と影

物語の進行解説
  • 南部連合軍の敗色が濃厚。戦火が間近に迫ってくる。
  • スカーレットは、アシュリからメラニーの面倒を見てくれと頼まれる。
  • 母のエレンが病気だという知らせを受けるが、スカーレットはメラニーの出産を助けることを選ぶ。 そして、メラニーは息子のボーを産んだ。
  • スカーレットの葛藤に関するミッチェルの書き方はポリフォニックで多面的。
  • アトランタが陥落しそうになり、レットはスカーレットたちを助けて「タラ」へ向かう。
  • レットは、途中で南部連合軍に志願するために去る。
  • レットが突然去るのは、筋書き上、作者がレットに去ってほしかったためだろう。
  • レットは、スカーレットにとってもう一人の母のような存在。
  • ミッチェルは、このあたりを一番最後に書いたらしい。
  • ようやく故郷に帰ると、「タラ」は荒れ果てていた。母エレンは前日に亡くなっており、父のジェラルドは抜け殻のようになっていた。
  • 故郷は、北部軍の略奪を受ける。
  • スカーレットは、「タラ」に侵入した北部の兵士を一人撃ち殺す。メラニーもサーベルを持って駆けつける。
  • 迷い込んできた帰還兵のウィル・ベンティーンが、「タラ」を再建する上でスカーレットを助けてくれるようになる。
  • レットとエレンという「二人の母」を次々に失って、スカーレットは自立の決意をする。
  • メラニーにもスカーレットと同じような激情があることがわかる。
  • 南北戦争が終わり、アシュリが帰ってきた。アシュリは、しばらく「タラ」に身を寄せる。 貴族のように育てられたアシュリは、このような混乱の時代には無能だった。
  • 「タラ」に不当な税金がかけられる。スカーレットは泣き出す。アシュリは、スカーレットを抱き締めキスをする。
  • メラニーは体が弱かったので、アシュリとメラニーはセックスレス夫婦だった。
  • アメリカ人の土地への愛着が語られる。
  • 南北戦争後、南部ではルールがくるくる変わったりして、社会は混乱していた。 戦争後の再建時代の南部は、北部によって管理された一種のディストピアとも言える。

第3回 運命に立ち向かう女

物語の進行解説
  • 北軍の軍政下で「タラ」は軍政に苦しむ。
  • スカーレットはレット・バトラーを誘惑してお金をせしめようとしたが、本心を見抜かれて失敗。
  • 妹スエレンの婚約者フランク・ケネディと会って、フランクが経済的にうまくいっていることを知る。そこで、フランクを略奪。
  • 性悪のヒロインが読者に嫌われないのは、ミッチェルの文体にある。ボケとツッコミがある。スカーレットの心の声と作者によるツッコミが交互に入る。スカーレットの表の声と裏の声が交互に出てくる部分もある。
  • ただし、地の文にスカーレットの声が混ざっているため、読者によってはミッチェルの考えと登場人物の考えを混同する人がいる。
  • スカーレットはビジネスの才覚を発揮する。
  • フランクは、スカーレットが経済的な才覚があるのを知って、嫌になる。
  • スカーレットがスラム街で襲われそうになる。その報復に、アシュリを隊長とするクー・クラックス・クラン(KKK)の一隊がスラム街に乗り込むが、 待ち構えていた憲兵隊に捕まりそうになる。そこをレットに救われる。
  • フランクは討ち入りの時に撃たれて死亡。
  • レット、アシュリたちは色宿で飲んだくれていたふりをして、憲兵隊の追及を逃れる。メラニーもその猿芝居に加わり、気絶してみせる。
  • 討ち入りの場面は、シリアスにしてコミカル。
  • メラニーは意外に強い。演技力を発揮。スカーレットを擁護する場面も多い。
  • スカーレットの名前は緋色、メラニーの名前は黒を連想させる。メラニーは、淑女に見えて意外としたたか。

第4回 すれ違う愛

物語の進行解説
  • レット・バトラーがスカーレットにプロポーズ。レットが本気であることに気づいて、スカーレットは一度断る。スカーレットは、まだアシュリを愛していた。
  • しかし、レットの勢いに押されて、スカーレットはYesと答えた。
  • スカーレットは、社会では逞しいのに、恋愛に関してはまだ未熟。
  • スカーレットとレットの間には娘ボニーが生まれる。レットは娘を溺愛。
  • スカーレットはアシュリと抱擁。これが目撃されて、大騒動になる。
  • スカーレットはレットと喧嘩して流産。レットは酔い潰れる。レットはメラニーの前で弱さを見せる。
  • ボニーは落馬して死ぬ。レットは悲しみのあまり錯乱状態になる。メラニーが慰める。
  • メラニーはまた妊娠する。流産して危篤状態になる。
  • レットとメラニーは信頼し合っている。これは南部の同質社会へのアンチテーゼではないか。
  • メラニーの新しいお腹の子の父親は誰かということで、読者の間で騒ぎになる。小説の中に明確には書かれていないが、 講師によれば、素直に考えてアシュリだと思って良さそう。
  • メラニーは死にゆく。メラニーは、スカーレットにアシュリとボーのことを託す。
  • メラニーとスカーレットの友情が前面に出てくる。
  • メラニーはここでは聖女だ。前の方ではメラニーは洞察力があり意地悪なところもある女性とされていたが、ここでは違うのだろうか? 実は、ミッチェルは、このあたりから小説を書き始めた。前の方に遡って書き進めていくうちに、メラニーの人物造形が複雑になってきたのではないか。
  • アシュリはメラニーの死を前にして嘆き悲しむ。
  • スカーレットは、ようやく自分がアシュリを愛しておらず、レットを愛していることに気づく。
  • スカーレットが家に帰ると、レットがやさしく迎えてくれるのだと思いきや、レットの愛は擦り切れていた。 疲れきったレットは家を出て行く。
  • スカーレットは「タラ」に帰ることにする。Tomorrow is another day。
  • Tomorrow is another day はスカーレットの口癖。