福島原発事故のときに最も信頼できる情報を発信していた著者によるひとつのまとめである。 福島原発事故で私が学んだ一つの教訓は、政府も専門家もマスコミも大企業も原発のことととなると (したがって、他の重大な問題に関してもおそらく)全く信用できないということであった。 一方で、著者のような原子力専門家ではないがきわめて優秀な科学者は、少ない情報からおおむね正しい結論を導いた。 私はといえば、事故が起こってから初めてシーベルトという単位を知ったようなていたらくだったので、 いろいろ飛び交う怪しげな情報に振り回されていた。
本書では、著者がどういう筋道で考察したのかがきちんと書いてあるし、原発の問題点も端的に指摘してあるので、 とても勉強になる。原発の問題点を端的に指摘してある部分をいくつか引用しておく:
- (日本原子力産業会議の 1959 年の報告書を解説したあとで;)ということは、民間側では事故の対応は不可能であり、 政府が何とかしてくれないと原子力発電の民間利用は不可能である、と民間側が宣言している (p.59)
- (原発の)根本的な問題は、通常の施設と異なり、単に止まった、というだけで大事故になり、メルトダウンして 放射性物質を環境にまきちらす、という原子力発電所の特性にあります。(p.65)
- 増殖炉が実現する見込みがない以上、核燃料サイクルを前提にした原子力政策はまったく無意味なものになっている (p.73)
ところで、安富歩氏によれば:
なぜエリートは、原子力発電所のような、最初から安全に運営することなど不可能なシステムを安全に運営できると信じられるのか。 彼らは偉い人に叱られるのが怖いので、そう信じられるんです。なのだそうな。