アルプスの少女ハイジ

原作Johanna Spyri
編訳松永 美穂
柚希 きひろ
シリーズ10 歳までに読みたい世界名作 9
発行所学研教育出版
電子書籍
電子書籍刊行2015/08(v1.0)
電子書籍底本刊行2015/02/06
原題"Heidi's Lehr- und Wanderjahre." "Heidi kann brauchen, was es gelernt hat."
原著刊行1880, 1881
入手Kindle Unlimited で借りた
読了2019/06/21

シュピリ アルプスの少女ハイジ

著者松永 美穂
シリーズNHK 100分de名著 2019 年 6 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2019/06/01(発売:2019/05/25)
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2019/06/26

『アルプスの少女ハイジ』は、日本ではもちろんアニメが有名だけれども、原作もすばらしい。 現代の目から見ると、宗教色が強すぎとか、話がうまく進みすぎという感も無きししもあらずだが、 素直に受け取ればよいのだと思う。 「100 分 de 名著」では、原作とアニメとの違いも確認しつつ、解説が進められた。

解説で指摘されている点で、この物語の特徴として面白いと思ったことが2つある。 一つはアルプスの自然を讃美していることである。自然を美しいと思うかどうかはそれほど当たり前ではない。 都会が形成され、都会人が鉄道で保養地に行けるようになったという時代背景があってでてきた価値観ではないだろうか。 もう一つは、おじいさんおばあさんが重要な登場人物になっていることである。 優しく諭す人物にハイジが育てられるというようにすることで、物語にギスギスした部分があまり出ないようにしたのであろう。 あるいは、何か文化的・社会的な背景もあるのかもしれないが、私にはわからない。

学研出版版は、子供用に簡単に短く書き直したもの。Kindle Unlimited にあったので読んでみた。すぐに読める。 単に筋書き確認用。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 山の上に住む幸せ

『アルプスの少女ハイジ』基本情報

物語の進行と解説

物語の進行解説
マイエンフェルトから山路をデーテという体格の良い女性と少女ハイジが登って行く。 ハイジはデーテの姪。デーテは、ハイジを父方の祖父に預けに行く。 デーテは、フランクフルトに働きに行きたかったが、子供を連れてゆくことができなかったのだ。 途中のデルフリ村はデーテの故郷で、村ではおじいさんは狷介な老人として避けられていた。 舞台はスイス。 ハイジの時代は、出稼ぎにスイスからドイツに行く人が多かった。 19 世紀は、都市の人口が急速に増えた時代だった。
おじいさんは、昔傭兵だった。村では誰からも信用されていなかった。息子のトビアスは、デーテの姉のアーデルハイトと結婚。 ハイジが生まれた。ところがトビアスは事故死し、アーデルハイトも病死。ハイジは孤児になって、叔母のデーテに育てられることになった。 スイスでは、貧しい男たちが外国の傭兵になることがよくあった。
ハイジは、山羊飼いのペーターと会う。ハイジは上着を脱いで、ペーターと一緒に飛び跳ねて遊び始めた。 ペーターは貧しくて無知な子供として描かれている。そこはアニメと違う。ペーターは、夏は働いて、冬だけ学校に行くけれども、 11 歳になるのに字の読み書きができない。
おじいさんは、デーテに対してはぶっきらぼうに接する。デーテは、ハイジを置いてさっさと山を降りる。 おじいさんは、ハイジに対しては優しさを見せる。ハイジは翌日ペーターの牧場に行く。ハイジは美しい夕焼けに感動する。 シュピリの自然描写は読みどころの一つ。
冬になって、ハイジはペーターのおばあさんに会いに行く。おばあさんは目が見えないが、ハイジと仲良くなる。 ハイジのおじいさんは、ペーターの家の修繕をしてやる。 ハイジのおじいさんは、人との付き合いを避けているものの、実は親切。

第2回 試練が人にもたらすもの

物語の進行と解説

物語の進行解説
ハイジは8歳になるけれど、おじいさんは学校に行かせない。 デーテは、ハイジをフランクフルトに連れて行く。 デーテは、ハイジにお土産の白パンをペーターのおばあさんに持って帰られるからと言ってハイジを言い聞かせる。 このころのフランクフルトは、ドイツ帝国の大都市。
ハイジは、フランクフルトの裕福なゼーゼマン家の屋敷で、クララの相手をすることになる。 家を取り仕切っている家政婦のロッテンマイヤーは、ハイジをアーデルハイトと呼ぶ。 クララは、ハイジのことをハイジと呼んでくれる。 ハイジは、使用人のゼバスチャンには Sie oder Er と呼びかけなさいと言われる。そこで、文字通り Sie oder Er と 呼びかけて笑われる。
  • ハイジは、いろいろな名前で呼ばれるので、アイデンティティの喪失感を感じる。
  • Er は、むかし男性の使用人を呼ぶのに使われた。
ハイジは、高いところに行ってアルムの山を見たくて、教会の塔に行く。 でも見えるのは建物ばかり。がっかりしたハイジに、教会の番人は子猫を分けてやる。 ハイジは帰ると、ロッテンマイヤーに怒られる。ロッテンマイヤーは猫が嫌いだったので、大騒ぎになる。
アルムに帰りたいハイジ。あるとき、白パンを持って一人で帰ろうとする。 しかし、ロッテンマイヤーに見つかって、白パンも捨てられる。
クララのおばあさまが訪ねてくる。ハイジは、このおばあさまが大好きになる。 おばあさまは、絵本を持ってきてくれたので、字が読めるようになった。おばあさまは、お祈りを教える。
  • おばあさまはハイジに教えた。①神様には何でも話して良い。②すぐに願いが叶わなくても、祈り続けていれば、最善のことをしてくれる。
  • ハイジは、フランクフルトで大事なことを学んだ。
  • プロテスタントでは、個人は直接神様に話を聞いてもらうことができるとされる。
ハイジは、クララに本を読んでやる。でも、途中で、アルムのおばあさんのことを思い出して泣き出す。 ロッテンマイヤーに泣くなと怒られて、ハイジは感情を抑えつけるようになり、痩せ細る。 ハイジは、夢遊病にかかった。医者のクラッセン先生は、ハイジをアルムに帰すように言う。

第3回 小さな伝道者

物語の進行と解説

物語の進行解説
ハイジはアルムに帰ることになる。 ペーターのおばあさんとの再会。ハイジはお土産の白パンをおばあさんにあげる。 おじいさんとの再会。 感動的な再会の場面には美しい夏の季節が選ばれている。
ハイジは、持ち帰ったお金をペーターのおばあさんの白パンのために使う。 ハイジは、ペーターのおばあさんに賛美歌を読んであげる。 ハイジは、おじいさんに「放蕩息子のたとえ」を読んでやる。 おじいさんも回心し、翌日ハイジと教会に行く。 おじいさんは、村人たちに受け入れられる。 ここからハイジは都会で得たことを還元する。 キリスト教の色合いが強くなるが、子供でもわかりやすい題材が選ばれている。 「放蕩息子のたとえ」とおじいさんの人生が重ね合わされている。 ここまでが第一部『ハイジの修行時代と遍歴時代』。
ハイジは、16歳のペーターに文字を教える。 クラッセン先生が山にやってくる。 クラッセン先生は娘を失ったばかりで悲しみに沈んでいた。ハイジは賛美歌を先生に聞かせた。それで先生は子供の頃を思い出した。 クラッセン先生はおじいさんとも仲良くなる。 ここから第二部『ハイジは習ったことを役立てることができる』。 ハイジは、クラッセン先生の心も癒す。

第4回 再生していく人びと

物語の進行と解説

物語の進行解説
クララからハイジに手紙が来て、クララがおばあさんと一緒にアルムを訪れる。 クララは、ハイジとおじいさんとともにアルムで4週間過ごすことになった。 クララの病気が何だったかははっきりとは書かれていない。 おじいさんは傭兵だった頃、隊長の看護をしていた経験があったので、上手にクララを看護する。
ペーターは、クララがやってきてからハイジに相手にされないことに腹を立てて、車椅子を急坂で落として壊す。 シュピリは、嫉妬も描いている。
クララとハイジは山の上の牧場に行く。クララは、子ヤギのユキピョンと座っているとき、自立心と生きる希望を自覚した。 ハイジは、ペーターを呼んで両脇からクララを支えて歩かせる。 アニメでは、クララが歩くことがクライマックスになっていて、そこに何話か費やしているるが、 原作では、車椅子を壊された日にあっさり歩き始める。
クララのおばあさんとゼーゼマンさんがやってくる。二人はクララが歩いているのを見て驚く。 車椅子をペーターが落としたことにおじいさんは気付いていた。おばあさんは寛大にもペーターを赦して、優しく諭す。 おじいさんは、自分が死んだ後のハイジの生活の保証をゼーゼマンさんにお願いする。 やがてクラッセン先生もデルフリ村にやってきて、おじいさんとの友情を深める。 振り返ってみると、家族を失っている登場人物が多い。血縁を超えて人びとが支えあってゆく。