ひこばえ

著者重松 清
連載朝日新聞 2018/06/01--2019/09/30
読了2019/09/30
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父と息子の関係は、著者が追い続けてきたテーマの一つらしい。この小説は、それを高齢者問題も絡めながら描いている。 私も父が耄碌してきて、父と子の関係やら高齢者の問題やらが他人事ではなくなってきたので、共感しつつ読むことができた。 読後感もさわやかだし、尻切れトンボ感もない。新聞連載小説は月末で切れるので、往々にして急に終わる感覚があるのだが、 この小説に関してはむしろ逆で、もう少し短く終わることもできたかなというくらいの感じで、満足感があって良かった。 川上和生の挿絵もほのぼのしていて、この小説に合っていた。

主人公の長谷川洋一郎は、高齢者施設「ハーヴェスト多摩」の施設長である。両親が早くに離婚していて、父親の記憶がほとんどない。 ところが、ある日、その父親の訃報が入り、遺骨をどうしようという話になる。最初は何の感情も湧かなかったのが、 さまざまの出来事を通じて、少しずついろいろなことを思い出し、親子のつながりを確かめたという気になって、最後に散骨をする、 というのがメインの筋。父親はダメオヤジだったことが、途中からわかってくるのだが、それでも父と子なのだという感覚が生まれてくる。 その父と子と対比的に出てくる父と子が、後藤父子である。父親の後藤義之は「ハーヴェスト多摩」に入居してくるのだが、 これがまたどこかちょっとずれたダメオヤジなのである。息子の後藤将也は、IT 企業社長として成功しているのだが、 父親を施設に入れてほったらかし状態である。その父と子は、息子の女優との不倫スキャンダルを機に気持ちのつながりを修復する。

改めて我が身を振り返っても、父と子の関係は難しいものである。自分と父親を見ても、自分と娘を見てもである。 もともとそういうものだと思ってみると、著者がいろいろな父子像を描き続けるのもわかる気がする。 たぶんどこを見ても完璧な父親というのはいないものなので、父子関係は小説として面白い題材なのだろう。

登場人物のまとめ

名前説明
長谷川洋一郎主人公。高齢者施設「ハーヴェスト多摩」の所長。苗字が、石井→吉田(母親の姓)→長谷川(義父の姓)と変わっている。
石井信也主人公の実父。離婚後は子供とも会っていない。彼の訃報から物語が動き出す。
吉田智子主人公の実母。長谷川隆と再婚。長兄は賢司。
長谷川隆主人公の義父。前妻の良江との間に一雄と雄二の二人の息子がいる。
藤原宏子主人公の実姉。息子は大輔、娘は華恵。大輔は妻の翠との間に子供が二人いる。華恵には子供が一人いる。
長谷川一雄主人公の義兄。主人公より一つ年上。妻の由香里との間に息子の貴大がいる。/td>
長谷川雄二主人公の義弟。主人公より一つ年下。
長谷川夏子主人公の妻。
長谷川美菜主人公の長女。夫の千隼と間に息子の遼星が生まれた。
長谷川航太主人公の長男。高校の国語教師で感激屋。
佐山主人公の友人の税理士。妻は仁美。息子の芳雄を亡くして、AED の普及活動をしている。
紺野主人公のゼミの仲間で独身。父親が最近亡くなる。
後藤義之「ハーヴェスト多摩」901 号室に 70 歳で入居してくる。
後藤将也後藤義之の息子。IT 企業社長。
川端石井信也が住んでいた「和泉台ハイツ」の大家。
西条真知子文翔出版で、自分史担当。石井信也は自分史を書こうとしていた。
神田弘之流しのトラックドライバーで、石井信也の釣り友達。
小雪かつてスナック「こなゆき」を経営していて、石井信也と同居していたこともあった。現在は「シェアハウスこなゆき」に若者たちと住んでいる。
道明和尚主人公が父親の遺骨を預けている寺の和尚。父親の道正和尚は息子には厳しかった。