プリニウスは「プリニー式噴火」に名前を残しているので、興味を持って読んでいる。漫画は、2017 年に読み始めたが、 個人的にいろいろなことがあったために読むのが中断して、2019 年にまた読み始めた。 2017 年には、福岡市博物館で「世界遺産 ポンペイの壁画展」があり、 『プリニウス 完全ガイド』はそのときの記念に買ったものである。 もちろん、79 年にポンペイを壊滅させたのが、ヴェスヴィオ(ウェスウィウス)山の噴火による火砕流で、 そのときプリニウスはスタビアエ(スタビア)で調査をしていて亡くなったというつながりである。 『プリニウス 完全ガイド』は、漫画第 4 巻と同時に出版されており、漫画を第 5 巻まで読み終わったところで、読んでみた。 そんなタイミングで読んで、ちょうど良い感じだった。
『プリニウス』の主要登場人物は、プリニウス、エウクレス、フェリクスの3人である。後の二人はフィクションであろう。 プリニウスは博覧強記でものごとに動じない大人物、エウクレスは純粋で真面目で世間知らずの若者、 フェリクスは庶民的だが武術に優れたおじさん、と対照的な3人がいろいろな事件に巻き込まれる様子が描かれる。 漫画の主題はその中で起こる事件もさることながら、古代ローマと『博物誌』の世界を視覚的に出現させることにもあるそうだ。 そこで、背景はかなり丁寧に描きこまれ、著者は、それをじっくり見てほしいそうである(『ガイド』pp.66-68)。さらに、 『博物誌』の世界を反映して、珍しい動物や本当はいなかっただろうと思われる怪物が出てきたり、地震や火山噴火などの自然現象も 豊富に描かれている。
『プリニウス』は、ヤマザキマリととり・みきの合作である。漫画の合作は、名前を出さずに手伝う程度なら全く珍しいことではないらしいのだが (『ガイド』pp.142-143)、この漫画は名前を出しての合作。名前を出しているがゆえに、他のアシスタントにさらに手伝いを頼むこともやりづらくなって、 かえって大変になってしまったそうである(『ガイド』pp.149-143)。合作のやり方は、基本的には、ヤマザキが人物を、とりが背景を描き、 それをとりがフォトショップで合成して特殊効果を加えるとのことだ(『ガイド』pp.143,153-157)。
漫画は、紀元60年頃から始まって、第 5 巻は 62 年までである。プリニウス自身がどういう人だったかは、姿形を含めて ほとんどわかっていないらしく(『ガイド』p.70)、物語は基本的にはフィクションである。 姿形は『博物誌』のイメージなどから著者が考えたもののようだ。 何にでも興味を持つ博物学者ということで、大きな人をイメージして、堂々たる体躯のプリニウスにしたということだ。 とはいえ、背景となる風景や宮廷の歴史などは、きちんと調べて、できるだけ本物らしく描くようにしてあって、 『ガイド』で登場するローマ時代専門家の青柳正規や本村凌二も出来栄えを高く評価している。 ただ、考証あるあるとして、青柳は、古代ローマには糸杉はなかったのだと指摘している(『ガイド』pp.124-126)。 とりは、それを知らず、糸杉を漫画の中に描いてしまったと告白している。ローマ松と糸杉が古代ローマっぽいと思ったのだそうだ。 しかし、糸杉がイタリアに入ってきたのは、早くても8世紀だとのこと。