最近は、私が名前も知らなかった名著がいろいろ取り上げられるようになった。これもその一つ。とはいえ、
『貞観政要』は徳川家康も明治天皇も愛読したらしく、知らない私の方が単に無知ということのようだ。
こういう処世術的な本は、名著であっても教科書に載ることが少ないので、なかなか触れる機会がない。
放送を聴くと、出口氏のわかりやすい解説とあいまって、その通りだと思えることが多かった。
とくに重視されていることは、リーダーが部下に諫言をさせてそれを受け入れることである。
私も恩師もそのようなことをよく言っていたことを思い出した。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 優れたリーダーの条件
- 『貞観政要』
- 中国で最も安定した時代の一つが貞観時代。7世紀に唐ができる。その建国期にあたる。
- 唐の名君太宗・李世民の言行をまとめたもの。
- 太宗とその側近の間の問答が書かれている。
- 李世民
- 598 年誕生。
- 父の李淵とともに唐を建国。
- 兄の李建成に殺されそうになったので、逆に兄を殺し、父親を軟禁してて皇帝に即位(在位 626--649)。
- 兄殺しの汚名挽回のため良い政治を心がけた。
- 太宗の政治
- 部下たちがずけずけ諫言している。そうする仕組みを作った。
- 諫議大夫という諫言役を作った。
- 有名な家臣に、房玄齢、杜如晦、魏徴、褚遂良がいる。
- 魏徴は、政敵だった兄の李建成に仕えており、かつて李世民の殺害を兄に勧めていた。
それを諫議大夫として抜擢した。多くの諫言を行った。
- 君主は寄生階級
- 君主は寄生階級だから、自分を支えてくれる生産者から搾取してはいけない。
このことを比喩的に「自分の足を食べない」と表現した。
- 自分を過信せず人の言うことを良く聞くのが名君
- 太宗は、自分は若いから政治にはまだ詳しくないことを自覚する。そこで、臣下の合議制を取り入れた。
- 名君は多くの人の言うことを聞く。
- 太宗は部下の言うことをよく聞いている。
- 自分の職責の範囲を超えない
- 上司は部下に権限を与えたら、その権限を冒すことができない。トップはオールマイティーではない。
- 人に仕事は任せないと、組織を大きくできない。部下に仕事を任せた以上は、目を瞑る。権限の感覚を持つ。
第2回 判断の座標軸を持て
- 歴史が書き残される国
- 中国では、君主の言動が書き残されるので、太宗は立派な政治をしようと考えた。
- 太宗は、歴史の失敗に学び、優秀な人を登用し、取るに足らない噂や讒言を聞かないようにした。
- リーダーの心得
- 国を運営して守成を目指すにはどうすればよいか。
- 3つの鏡:銅の鏡(自分を見つめて一呼吸置く)、歴史の鏡(教材は過去の歴史)、人の鏡(人に批判してもらう)
- すなわち、謙虚であって自制心を保つこと
- 公平を論ず
- 皇帝といえどもルールを守ること。かつての功労者であっても、法に基づいて罰する。
- ルールや仕組みを作ったら、トップの人自らがそれに従う。
- 法令は簡素でわかりやすくすべきだ。複雑にすると、不正が生じやすい。
- 目先の利益にとらわれず、長期のビジョンを持つ
- 目先の利益にとらわれると大きな損失に見舞われる。
- 626年、突厥が唐に侵略。太宗は外交交渉で凌ぐ。太宗は自国の準備が整っていないことを自覚して、我慢した。
- 焦らず、ビジョンを皆でシェアしておくことが大切。
- 人材登用に依怙贔屓をしない
- 629年、突厥討伐を決意する。李靖が将軍となり、突厥を破った。
- 李靖は、かつて、高祖李淵が事変を起こそうとしていることを煬帝に知らせようとした。しかし、捕らえられて斬られそうになる。
そこで、李靖が「正義の軍隊を起こしたあなたが、私怨によって私を斬るのか」と堂々と言い放ったのを李世民が買った。
- 太宗は能力主義を徹底して、民のために有能な人材を登用した。魏徴がその代表例。彼も、かつての敵だった。
第3回 チームの力を鍛える
630年以降、太宗は北方の諸部族を次々に支配する。その要諦は何か?
組織はリーダーとフォロワーで構成される。それぞれの役割は何か?
- 適材適所、少数精鋭 [リーダーの役割]
- 官僚は少なくて良い。無理やりポストを埋める必要はない。
- 人員は必要最小限にすることが大切。制限があったほうがうまくいく。出口氏は、「少数だから精鋭になる」という意味だと考えている。
- 人材をどう配置するか、臨機応変に最適のポートフォリオを組むのがリーダーの役割。
- 現地のことは現地の人に任せる。
- 諫言 [フォロワーの役割]
- 太宗は、臣下が自分を諌めることを求めている。
- 国家のためには互いに忖度はしない。
- 諫言のテクニック。(1)事実で諌める(2)故事を引用する(3)共通点を示し同意を求める。
最初に一般論を言って、それに同意を求めてから、相手の行為を諌める。
- 部下に任せる
- あるとき太宗は突厥に使者を遣わした。
太宗はさらに西域に馬を買わせる使いを出そうとする。
魏徴は最初の死者が帰ってくるのを待てと諌める。
- 最初の適材適所が大事で、あとは部下を信じて待つべし。
- 上に立ったらマイクロマネジメントしてはいけない。
- 出口氏は、部下に何か言いたくなったら3回深呼吸するようにしていた。
第4回 組織をどう持続させるか
- 創業と守成
- 太宗が臣下に「天下を取るのと持続させるのとどちらが難しいか」を問うた。
房玄齢は天下を取る方が、魏徴は持続させる方が難しいのだと言った。
- 国を生かすも滅ぼすも人民だと魏徴は説いた。「君主は舟、人民は水。」
- 出口氏の感覚だと、創業は短距離走、守成はマラソン。その切り替えが重要。上場の準備をするあたりが一つのタイミング。
あらゆるビジネスはお客様あってのもの。
- 後継者選び
- 太宗が臣下にこの国の急務は何かと尋ねたところ、褚遂良は跡継ぎのルールを決めることを進言した。
- 正妻との間の長男と次男は後継者争いを始めた。太宗は二人を島流しにして、病弱な三男の治を後継者にした。
- 結果的には、治の妻の武則天が優秀な統治者となった。
- 出口氏が欧米の経営者から聞いたところだと、みんながついていくのは正直な人。日本では正直さをそれほど重要視せず、有能さの方を重視するので、不祥事が起こりやすい。
- 魏徴の諫言
- 太宗が奢り始めたので、魏徴は死を覚悟して諫言を書いて提出した。太宗が有終の美を飾れなくなる理由を縷々綴った。受け取った太宗は行いを改めることにした。
- 魏徴の死後、太宗は高句麗遠征に失敗し、遠征に反対していた魏徴を思い出して深く反省した。