アーサー・C・クラークは、名前はもちろん知っていたが読んだことはない。
この「100分de名著」で初めてどんな作家を知った。
全体的には、比較的楽観的な科学信奉者で宇宙冒険讃美者だったようだが、
同時に、ダイビングと海を愛する人だったとのこと。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 知的好奇心が未来をつくる―『太陽系最後の日』
作家の紹介
- 1917年、イギリス南部の港町マインヘッドに生まれる。理科少年だった。
- 1929-30 年、SF雑誌と出会って、SFに魅せられる。
- 1930 年、オラフ・ステープルドンの小説『最後にして最初の人類』に出会う。神秘的で宗教的なところがある。
- 1931 年、デイヴィッド・ラッサーの啓蒙書『宇宙の征服』に衝撃を受ける。
- 1930 年代、同好会「英国惑星間協会」で宇宙開発の伝道者として活躍。
- 1945年、通信衛星のアイディアを「地球外の中継」という論文にした。
- 1946年、「太陽系最後の日」を発表。これは、一番最初に売れた小説。
- 1950年代、ジョン・デスモンド・バナールの『宇宙・肉体・悪魔』の影響を受ける。未来の人間の進化を考察した書。群体知性などの様々なアイディアが語られている。
『太陽系最後の日』
- 原題は「救助隊 Rescue Party」
- 太陽が爆発しそうになって地球が危機に瀕しているので、異星人が地球人を救出しようとするという物語。
- 銀河調査船S9000号には、さまざまの出自の異星人が乗っている。船長はアルヴェロン。
- トーカリーが率いる第一小艇のクルーはトンネルを発見した。それは大陸間の地下鉄だった。
すると、列車が勝手に動き出した。異星人はそこからやっとこ脱出した。このあたりは、クラークのユーモアである。
- 地球は滅亡したが、地球人の宇宙船団が生き残っていた。
- 講師(瀬名氏)は『太陽系最後の日』は、「人類スゲー小説」であると見る。これには功罪両面がある。人々が励まされると同時に、自己陶酔的でもある。
- 小説には、パラドー人という種族の異星人が登場する。この種族においては、個体は群体を構成し、すべての個体は意識を通い合わせる。
第2回 人類にとって「進化」とは何か―『幼年期の終わり』
『幼年期の終わり』は、人類の未来は?ということを考える小説
物語の進行 | 解説 |
- 世界各地の大都市上空に巨大宇宙艦隊が出現する。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれた。
- 船団を率いる地球総督カレランが世界を支配し、平和で理想的な世界が実現される。
- オーヴァーロードの圧倒的な力を前にして、人間は無力感にとらわれ、文化や科学は停滞する。
- 五十年後にカレランは世界に姿を見せる。それは典型的な悪魔の姿をしていた。
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- こういう小説は「人類家畜小説」と呼ばれる。
- この小説のすごいところは、これで終わらずにその先が描かれること。
- 悪魔を予感していたというところに人類の凄さがあるとも言える。
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- 人類はあまり働く必要がなくなり、日々を遊んですごすことになる。
- オーヴァーロードのラシャヴェラクは、超常現象を研究している。
- ジャン・ロドリクスは、オーヴァーロードの母星に密航する。
- ニューアテネという芸術の街ができている。
- カレランは、自分たちは人類の危機を救ったのだと言う。さらに、オーヴァーマインドというさらに上の存在がいることを示唆する。
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- オカルトこそが人類の可能性であるという方に話が進んで行く。むしろ、好奇心だけで突き進むと破滅するとしている。
- 単純な科学礼賛ではない。
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- ニューアテネに移住した家族にジョージ・グレグソン一家がいた。その息子のジェフリーに激変が起きる。超能力が覚醒した。
- ジェフリーから始まって、10歳未満の子供にメタモルフォーゼが起きた。彼らは群体知性になり、オーヴァーマインドと一体化する。
- 一方で、オーヴァーロードは、オーヴァーマインドと一体化できない種族で、ほかの種族がオーヴァーマインドと一体化するのを助ける役割をしていたのだった。
- 子供達は目は虚ろで全員裸で踊っている。最後には、彼らの力で地球は消滅する。
- ジャンは地球に戻って人類の終焉を見届ける。
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- 最後は神秘的。
- オーヴァーロードの姿が切ない。
- 最近はシンギュラリティということがよく言われる。そのあとの人類はメタモルフォーゼするのかもしれない。
- メタモルフォーゼしたあとの人類が幸せかどうかよくわからない。
- 本当のユートピアとは何かという問題提起がなされている。
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第3回 科学はユートピアを作れるか―『都市と星』
ユートピアとは何か?を考える小説
物語の進行 | 解説 |
- 未来の地球は荒廃し、都市「ダイアスパー」に住んでいる。そこは、高度な管理社会で、人は不老不死になっている。
住民には約 1000 年の寿命があり、その後情報は格納されて 10 万年後にふたたび肉体をまとう。
社会は安定しており、人々は「ダイアスパー」に閉じこもって仮想ゲーム「サーガ」に興じている。
- 「ダイアスパー」で、アルヴィンという新たな子供が10億年ぶりに誕生する。
アルヴィンは、外の世界を見たいという衝動に駆られて、ダイアスパーを脱出した。
- アルヴィンは、外の世界でリスという国を見つける。
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- 当時は、サイバネティクスという考え方が出てきた。
- アルヴィンは、『幼年期の終わり』のジャンと違って、旅立ちの前後の叙述が厚くなっている。
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- リスでは、人々が自然の摂理で死んで、暖かなコミュニティが築かれていた。
- アルヴィンは、リスでヒルヴァーという友達を作る。
- アルヴィンは、ヒルヴァ―と冒険に出かける。群体生物を見つける。彼らは謎のロボットを操っていた。
- ダイアスパーに戻ると、アルヴィンは聴聞会にかけられる。
アルヴィンはダイアスパーとリスの2つの世界の交流を訴えるが、人々は地下の通路を閉鎖した。
が、アルヴィンはふたたびリスに向かう。リスでも2つの世界の交流を訴え、やがて交流が始まる。
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- アルヴィンは一人で勝手に冒険に行くのではなく、周囲の人を説得してから旅立つ。
- クラークは、このころダイビングにはまりつつあった。彼は、マイク・ウィルスンというダイビング仲間と潜った。
だから、物語でもヒルヴァーという友を作ったのだろう。
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- アルヴィンとヒルヴァーは宇宙に探検に行く。ヴァナモンドと出会う。彼は精神だけで生きている。
- ダイアスパーの過去がだんだんあきらかになる。ダイアスパーとリスの融和が始まる。
- アルヴィンは、地球が自分の故郷であることを自覚し、地球を住みよくすることに決める。
- アルヴィンはヒルヴァーと師のジェセラックと最後の宇宙旅行に出かける。
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- これまでのクラークと違って、ホームカミングの物語になっている。クラークはこのころ『指輪物語』を読んでいた。
『都市と星』も外へ出て帰ってくる物語。
- クラークの考えるユートピアは不変のものではない。同じことを10億年続けるのではなく、少しずつ変わってゆくのが良いと考えているのだろう。
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第4回 技術者への讃歌―『楽園の泉』
円熟期の作品で、天才技術者を描いている。
物語の進行 | 解説 |
- 舞台は、インド洋の赤道直下の島タプロバニー。22世紀、技術者ヴァニーヴァー・モーガンは、この島に宇宙エレベーターを作ろうとする。
宇宙エレベーターは、静止衛星から地表までをつなぐ。
- 宇宙エレベーターの建設には霊峰スリカンダが最適だったが、僧侶に反対されて、計画は頓挫する。
スリカンダには、金色の蝶が頂まで上がってくれば、僧侶は山を明け渡さなければいけないという伝承が残る。
- 火星に宇宙エレベーターを作るという計画が持ち上がり、その実験としてということで、
何とかスリカンダ上空で、実験ができるようにになるが、作っている時に暴風が起きて失敗する。
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- 1954年、クラークはスリランカに移住する。それでインド洋が舞台になっている。
- 宇宙エレベーターは、もともとコンスタン・ツィオルコフスキーやユーリ・アルツターノフのアイディア。
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- 暴風のために蝶が山まで上がったので、伝承に従って僧が山を降りた。そこで宇宙エレベーターを作れるようになった。
- 建設中のエレベーターでオーロラ観測中の物理学者と学生たちが遭難。モーガンが救助に向かう。
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- モーガンは途中何度もアクシデントに遭遇。あと2kmで電池が切れそうになるが、何とか電池をだましだまし使って進む。
しかし、残り20mで結局止まってしまう。
- 宇宙エレベーターは建設中で下がってきたので、ドッキングに成功、救援に成功した。
- 地上に戻る途中で、モーガンは心臓病のため命を落とす。
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- [瀬名感想] はやぶさの活躍を思い出した。
- 最後は、クラークとモーガンが一体になって宇宙に行く多幸感が伝わる。
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- エピローグ:1500年後、異星人が来て宇宙エレベーターに感銘を受ける。
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- 宇宙エレベーターが土地と一つになって新たな光景が生まれている。
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