アーサー・C・クラーク スペシャル

著者瀬名 秀明
シリーズNHK 100分de名著 2020 年 3 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2020/03/01(発売:2020/02/25)
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読了2020/03/24

アーサー・C・クラークは、名前はもちろん知っていたが読んだことはない。 この「100分de名著」で初めてどんな作家を知った。 全体的には、比較的楽観的な科学信奉者で宇宙冒険讃美者だったようだが、 同時に、ダイビングと海を愛する人だったとのこと。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 知的好奇心が未来をつくる―『太陽系最後の日』

作家の紹介

『太陽系最後の日』

第2回 人類にとって「進化」とは何か―『幼年期の終わり』

『幼年期の終わり』は、人類の未来は?ということを考える小説

物語の進行解説
  • 世界各地の大都市上空に巨大宇宙艦隊が出現する。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれた。
  • 船団を率いる地球総督カレランが世界を支配し、平和で理想的な世界が実現される。
  • オーヴァーロードの圧倒的な力を前にして、人間は無力感にとらわれ、文化や科学は停滞する。
  • 五十年後にカレランは世界に姿を見せる。それは典型的な悪魔の姿をしていた。
  • こういう小説は「人類家畜小説」と呼ばれる。
  • この小説のすごいところは、これで終わらずにその先が描かれること。
  • 悪魔を予感していたというところに人類の凄さがあるとも言える。
  • 人類はあまり働く必要がなくなり、日々を遊んですごすことになる。
  • オーヴァーロードのラシャヴェラクは、超常現象を研究している。
  • ジャン・ロドリクスは、オーヴァーロードの母星に密航する。
  • ニューアテネという芸術の街ができている。
  • カレランは、自分たちは人類の危機を救ったのだと言う。さらに、オーヴァーマインドというさらに上の存在がいることを示唆する。
  • オカルトこそが人類の可能性であるという方に話が進んで行く。むしろ、好奇心だけで突き進むと破滅するとしている。
  • 単純な科学礼賛ではない。
  • ニューアテネに移住した家族にジョージ・グレグソン一家がいた。その息子のジェフリーに激変が起きる。超能力が覚醒した。
  • ジェフリーから始まって、10歳未満の子供にメタモルフォーゼが起きた。彼らは群体知性になり、オーヴァーマインドと一体化する。
  • 一方で、オーヴァーロードは、オーヴァーマインドと一体化できない種族で、ほかの種族がオーヴァーマインドと一体化するのを助ける役割をしていたのだった。
  • 子供達は目は虚ろで全員裸で踊っている。最後には、彼らの力で地球は消滅する。
  • ジャンは地球に戻って人類の終焉を見届ける。
  • 最後は神秘的。
  • オーヴァーロードの姿が切ない。
  • 最近はシンギュラリティということがよく言われる。そのあとの人類はメタモルフォーゼするのかもしれない。
  • メタモルフォーゼしたあとの人類が幸せかどうかよくわからない。
  • 本当のユートピアとは何かという問題提起がなされている。

第3回 科学はユートピアを作れるか―『都市と星』

ユートピアとは何か?を考える小説

物語の進行解説
  • 未来の地球は荒廃し、都市「ダイアスパー」に住んでいる。そこは、高度な管理社会で、人は不老不死になっている。 住民には約 1000 年の寿命があり、その後情報は格納されて 10 万年後にふたたび肉体をまとう。 社会は安定しており、人々は「ダイアスパー」に閉じこもって仮想ゲーム「サーガ」に興じている。
  • 「ダイアスパー」で、アルヴィンという新たな子供が10億年ぶりに誕生する。 アルヴィンは、外の世界を見たいという衝動に駆られて、ダイアスパーを脱出した。
  • アルヴィンは、外の世界でリスという国を見つける。
  • 当時は、サイバネティクスという考え方が出てきた。
  • アルヴィンは、『幼年期の終わり』のジャンと違って、旅立ちの前後の叙述が厚くなっている。
  • リスでは、人々が自然の摂理で死んで、暖かなコミュニティが築かれていた。
  • アルヴィンは、リスでヒルヴァーという友達を作る。
  • アルヴィンは、ヒルヴァ―と冒険に出かける。群体生物を見つける。彼らは謎のロボットを操っていた。
  • ダイアスパーに戻ると、アルヴィンは聴聞会にかけられる。 アルヴィンはダイアスパーとリスの2つの世界の交流を訴えるが、人々は地下の通路を閉鎖した。 が、アルヴィンはふたたびリスに向かう。リスでも2つの世界の交流を訴え、やがて交流が始まる。
  • アルヴィンは一人で勝手に冒険に行くのではなく、周囲の人を説得してから旅立つ。
  • クラークは、このころダイビングにはまりつつあった。彼は、マイク・ウィルスンというダイビング仲間と潜った。 だから、物語でもヒルヴァーという友を作ったのだろう。
  • アルヴィンとヒルヴァーは宇宙に探検に行く。ヴァナモンドと出会う。彼は精神だけで生きている。
  • ダイアスパーの過去がだんだんあきらかになる。ダイアスパーとリスの融和が始まる。
  • アルヴィンは、地球が自分の故郷であることを自覚し、地球を住みよくすることに決める。
  • アルヴィンはヒルヴァーと師のジェセラックと最後の宇宙旅行に出かける。
  • これまでのクラークと違って、ホームカミングの物語になっている。クラークはこのころ『指輪物語』を読んでいた。 『都市と星』も外へ出て帰ってくる物語。
  • クラークの考えるユートピアは不変のものではない。同じことを10億年続けるのではなく、少しずつ変わってゆくのが良いと考えているのだろう。

第4回 技術者への讃歌―『楽園の泉』

円熟期の作品で、天才技術者を描いている。

物語の進行解説
  • 舞台は、インド洋の赤道直下の島タプロバニー。22世紀、技術者ヴァニーヴァー・モーガンは、この島に宇宙エレベーターを作ろうとする。 宇宙エレベーターは、静止衛星から地表までをつなぐ。
  • 宇宙エレベーターの建設には霊峰スリカンダが最適だったが、僧侶に反対されて、計画は頓挫する。 スリカンダには、金色の蝶が頂まで上がってくれば、僧侶は山を明け渡さなければいけないという伝承が残る。
  • 火星に宇宙エレベーターを作るという計画が持ち上がり、その実験としてということで、 何とかスリカンダ上空で、実験ができるようにになるが、作っている時に暴風が起きて失敗する。
  • 1954年、クラークはスリランカに移住する。それでインド洋が舞台になっている。
  • 宇宙エレベーターは、もともとコンスタン・ツィオルコフスキーやユーリ・アルツターノフのアイディア。
  • 暴風のために蝶が山まで上がったので、伝承に従って僧が山を降りた。そこで宇宙エレベーターを作れるようになった。
  • 建設中のエレベーターでオーロラ観測中の物理学者と学生たちが遭難。モーガンが救助に向かう。
  • [伊集院感想] 蝶のくだりは、流れがコント的。
  • モーガンは途中何度もアクシデントに遭遇。あと2kmで電池が切れそうになるが、何とか電池をだましだまし使って進む。 しかし、残り20mで結局止まってしまう。
  • 宇宙エレベーターは建設中で下がってきたので、ドッキングに成功、救援に成功した。
  • 地上に戻る途中で、モーガンは心臓病のため命を落とす。
  • [瀬名感想] はやぶさの活躍を思い出した。
  • 最後は、クラークとモーガンが一体になって宇宙に行く多幸感が伝わる。
  • エピローグ:1500年後、異星人が来て宇宙エレベーターに感銘を受ける。
  • 宇宙エレベーターが土地と一つになって新たな光景が生まれている。