認知症と生きる

著者井出 訓(いで さとし)・角 徳文(つの のりふみ)・加藤 伸司(かとう しんじ)・六角 僚子(ろっかく りょうこ)
シリーズ放送大学教材 1518968-1-1511(テレビ)
発行所放送大学教育振興会
刊行2016/03/20(第1刷)
入手九大生協で購入
読了2021/02/05

2016 年に前半 (9 章まで) を視聴するとともに本を読んだが、途中で中断。 2020 年にあらためて全部視聴するとともに本の続きを読んだ。 認知症のいろいろな側面がわかるようになっている。 こういうことを知っておくと、認知症の人に落ち着いて対応するのに役立つ。

放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1章 認知症とは何か:現代社会における認知症

担当:井出訓

認知症概要
認知症の高齢者は、平成 22 年で 280 万人。若年性認知症 (65 歳以下で発症) は、10 万人当たり約 50 人。
平成 25 年度で 65 歳以上人口は 3186 万人(全人口の4人に1人)。そのうちの認知症の人の数は平成 27 年度で 345 万人(10人に1人)と推計されている。軽度の認知症の予備軍 (mild cognitive impairment, MCI) まで入れると4人に1人。
「認知症」は病名ではなくて、特有の状態を表す総称。精神機能が減退して、ふつうの日常生活が営なめなくなる状態のこと。その原因となる疾患として、たとえばアルツハイマー病がある。
認知症の原因としては、アルツハイマー型と脳血管性が多い。調査によってその割合が一致しないことが多く、正確な割合はわかっていない。
認知症の歴史
1970 年代までは、社会的なケアは実質的に無かった。家族で面倒を見るしかなかった。認識が広まるきっかけが、有吉佐和子『恍惚の人』(1972 年出版)。
1980 年には「呆け老人をかかえる家族の会」が発足、1986 年には厚生労働省内に「痴呆性老人対策推進本部」設置。
1990 年代には、デイサービスやグループホームが制度化、2000 年には「介護保険法」施行。
2004 年、「痴呆」という呼び名が「認知症」に変更される。
認知症の人々を守る
詐欺防止、虐待防止

第2章 認知症の医学的な特徴①:認知症をきたす様々な疾患

担当:角徳文

認知症
認知機能障害の例:記憶障害、見当識障害、思考の連続性がなくなる、実行機能障害
中核症状:記憶障害(すぐ忘れる、新しいことを覚えられない)、見当識障害(いつ、どこ、だれがわからなくなる)、 実行機能障害(料理ができなくなるなど段取りが立てられない)、失認(物が何かわからない)、失語(あれ、それ)、失行(物の使い方がわからないなど)
中核症状は、認知症の人にほぼ必ず出るが、周辺症状は出るとは限らない。周辺症状は、治療のターゲットになる。
周辺症状:徘徊、猜疑心、幻覚、抑鬱、妄想、不安・焦燥、暴言・暴力、性的逸脱行為、食行動異常、昼夜逆転
周辺症状は、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD) とほぼ同じ概念である。
周辺症状の典型は、物盗られ妄想。
例が多いわけではないが、実の兄を前にして「あなたは兄の偽者でしょう?」と言うというようなカプグラ症候群もある(「誤認」の一種)。
認知症の原因疾患
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症など様々なものがある。
治療可能な認知症もある(第4章参照)。
認知症と間違われやすい状態
うつ病が認知症と間違えられることがある。高齢者の鬱病では、抑鬱気分や意欲の低下が目立たず、不安焦燥や自律神経症状の方が目立つことがある。
譫妄(せんもう)は軽度の意識障害である。高齢者では覚醒睡眠のリズムが崩れることが、譫妄を起こす原因の一つ。薬剤性の譫妄もある。

第3章 認知症の医学的な特徴②:アルツハイマー型認知症

担当:角徳文

アルツハイマー型認知症
日本では、65歳以上の認知症の50-60%がアルツハイマー型認知症。次に多いのが血管性認知症。
脳がだんだん萎縮してくる。とくに海馬も萎縮する。
病理学的変化としては、脳に老人斑(丸っこい黒っぽいシミ)や神経原繊維変化(細長い三角~菱形の黒っぽいシミ)が増えてくる。
様々の認知機能障害がゆっくり進む。局所神経症候(麻痺、歩行障害、感覚障害など)は見られない(体は元気)。
初期のアルツハイマー型の物忘れの特徴
数分から数日前に覚えた記憶の喪失。
個人的な体験の記憶の喪失。
遠い過去の記憶、知識、体で覚えた記憶は保たれている。
記憶の分類
即時記憶(1分まで)、近時記憶(数分後まで)、遠時記憶
陳述記憶(ことばで表現できる)と非陳述記憶(からだで覚える)
陳述記憶には、エピソード記憶(経験、起こったこと)と意味記憶(知識)がある。
初期のアルツハイマー型認知症では、近時記憶で陳述記憶のうちのエピソード記憶が失われる。この種の記憶は、海馬に関係があるとされる。アルツハイマー型認知症では、初期から海馬が萎縮する。
アルツハイマー型認知症の進行に伴って現れる症状
地誌的見当識障害(近所で道に迷うなど)
実行機能障害(料理が作れないなど)
好みが変わる
認知症の進行
アルツハイマー型認知症はゆるやかに進行する。全体で10年くらいで進行する。
初期には、同じことを何度も言う、置き忘れなどの記憶障害が目立つ。 中程度になると、薬が管理できなくなるとか、服を選べないとか、服を正しく着られないといったことが出てくる。 高度になると、同居の家族がわからなくなったり、自宅のトイレの場所がわからなくなったりする。
脳血流シンチグラフィで見ると、初期でも帯状回後部の血流が低下している。
健康な老化による物忘れと認知症の物忘れの違い
認知症だと体験全体を忘れるのに対し、健忘では体験の一部を忘れる。
認知症だと見当識障害(時間や場所がわからなくなる)が目立つのに対し、健忘では時間や場所の見当がつく。
認知症だと物忘れの自覚が無いのに対し、健忘では自覚がある。
認知症と健忘の区別が難しいこともある。
歴史的背景
アロイス・アルツハイマー博士が発見。1906年に西ドイツの精神医学会で Auguste D の症例を報告。 怒りっぽいとか、ものを隠すとかいった周辺症状が報告された。
アルツハイマー型認知症の危険因子
危険因子といわれているものには以下のようにいくつかある。ただし、後ろの方ほどはっきりしない。
加齢、アポリポ蛋白Eの遺伝子型ε4、低い教育歴、女性、鬱病、高血圧、肥満、糖尿病

第4章 認知症の医学的な特徴③:認知症の診断とその他の認知症;血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症

担当:角徳文

認知症の診断
問診→血液検査、画像検査、脳波検査、簡易知能検査など
神経学的診断の例
歩行障害;歩行の様子を観察。脳血管性認知症だとバランスが悪いので足と足の幅が広がる。
軽度のパーキンソン病だと、ベッドに横になる動作が困難になることがある。そして、手首の固化の兆候が見られる。一方の手首を曲げ伸ばしして固さを見ながらもう一方の手を上げさせると、手首が固くなる。
バレー兆候(軽い麻痺を見る)。手のひらを上に上げて、腕をまっすぐ前に伸ばしてもらう。そして、目を閉じてもらう。脳血管性で軽い麻痺があるときは、そちら側の腕が下がってくる。パーキンソン病では、手の震えが目立つ。アルツハイマー型認知症だと2つの指示がいっぺんに出来なくて、眼を閉じてくださいというと腕も一緒に下げたりすることがある。
構成行為の動作;アルツハイマー型認知症では、手の動きの模倣をしてもらうと、できないことがある。
治療可能な認知症
表4-1 のような治療可能な認知症を鑑別する。
画像検査で、硬膜下血腫、脳腫瘍、正常圧水頭症(脳の髄液がたまる)などが鑑別できる。
薬剤性の認知機能障害にも注意。
認知機能テスト
HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、MMSE (Mini-Mental State Examination)、WAIS-III、Kohs立方体組み合わせテスト、BGT(ベンダー・ゲシュタルト・テスト)など
HDS-R は、30点満点で、20-21点が判定の境目。重症度は評価されない。どの項目が障害されているかを見る。
アルツハイマー型認知症では、視空間認知機能が障害されているため、立方体の図の模写がうまくいかない。
脳血管性認知症
脳卒中のあと、3ヶ月から3年以内に発症。
危険因子は、高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患など
固縮、反射の亢進、バレー兆候など局所神経学的兆候がある。
必ずしも記憶障害が最初に出現するのではなく、実行機能や遂行機能障害が最初に出ることも多い。
階段状に悪化する(脳卒中が起こるたびに悪化)。Cf. アルツハイマー型では徐々に悪化する。
脳画像では、梗塞巣、大脳白質病変(脳の深いところで血液循環が悪くなっている)が見られる。
いろいろなタイプがある。以下に例を挙げる。
①多発小梗塞型;小さな梗塞が多発
②心原性脳塞栓症;心臓の病気が原因で脳の血管が詰まる
③限局梗塞型血管性認知症;視床で小さな梗塞ができて記憶障害が出る
レビー小体型認知症
緩徐な記憶障害から始まる。パーキンソンニスム(固縮や動作の緩慢など)。注意や覚醒水準と関連した認知機能の著明な変動がある(良い時と悪い時の差が大きい)。
具体的な内容の幻視(知らない人が家に入ってくるなど)が見られる。
向精神薬に過敏で、かえって悪くなる。
レビー小体の主成分は、α-シヌクレイン
前頭側頭葉変性症
比較的若年(65歳以前)から発症するケースが多い。
早期には記憶障害が目立たない。脱抑制や反社会的行動、自発性の低下や無関心、常同行動(毎日同じ道を歩くなど)、食行動異常など。
前頭葉や側頭葉に萎縮が見られる。

第5章 認知症の医学的な特徴④:認知症の治療〜薬物療法について〜

担当:角徳文

薬物療法
中核症状に対する薬(コリンエステラーゼ阻害剤、メマンチン)と周辺症状に対する薬(向精神薬)がある。
アルツハイマー型認知症の中核症状に対する薬(抗認知症薬)
コリンエステラーゼ阻害剤;ドネぺジル、リバスチグミン、ガランタミン
「コリンエステラーゼ阻害剤とは?」脳内の神経伝達物質として、アセチルコリンがある。コリンエステラーゼは、余分なアセチルコリンを分解する。認知症では、アセチルコリンが減って神経伝達の機能が低下している。そこで、コリンエステラーゼをブロックして、アセチルコリンを少しでも多く働かせるようにするのが、コリンエステラーゼ阻害剤である。
「メマンチンとは?」グルタミン酸も神経伝達物質の一つ。グルタミン酸が結合するのは、NMDA受容体。アルツハイマー型認知症では、NMDA受容体が興奮しすぎていると推測されている。メマンチンは、NMDA受容体の機能を抑える。
いずれの薬も、神経細胞の減少を抑えるわけではないので、根本的な治療薬ではなく、認知症の進行速度を抑えるだけ。
現在開発されつつある薬
アルツハイマー型認知症では、アミロイドが蓄積して神経細胞が死ぬと考えられている。
そこで、アミロイドの産生を阻害したり、アミロイドを除去したりする薬が試されている。しかし、副作用があったり、有効性が認められなかったりして、今のところうまくいっていない。
アミロイドは、症状が出るだいぶん前から蓄積していると考えられる。そこで、症状が出る前から薬を投与することも考えられている。
血管性認知症に対する薬
脳梗塞を予防する薬が用いられる。
周辺症状に対する治療
薬は必要なときのみ投与する。たとえば、幻視があっても、生活に支障がなければ治療の必要はない。
まず、原因が何かをよく検討する。身体疾患、薬、環境などが原因となっていないかどうか調べる。
その上で非薬物療法を検討する。環境整備するとか、リハビリテーションを行うとか、共感して気持ちを安定させるなど。
薬は、非薬物療法が効果不十分なときとか、緊急を要する場合にのみ検討する。薬物療法を行う場合も、非薬物的介入と組み合わせる。
向精神病薬、抗鬱薬などが用いられる。
向精神病薬(リスパダール、ジプレキサ、セロクエル、エビリファイ)は、中程度から重度の焦燥、興奮、攻撃性、精神病症状(幻視、妄想など)を治療の対象とする。周囲が困らない軽度の場合は用いてはならないし、用いる場合も少量から始める。 副作用としては、とくにパーキンソン症状に注意する。
抗鬱薬(レスリン、ジェイゾロフト、レクサプロ)は、有効性が一定していないが、現実にはしばしば用いられる。転倒リスクが高くなるという報告もある。
昼夜逆転に対して睡眠薬を用いる場合もあるが、非薬物的介入が優先する。日光を浴びるとか、デイサービスに出すとか。
認知リハビリテーション
現実見当識訓練、芸術療法、回想法など

第6章 認知症の人の行動と心理的特徴の理解①:中核症状と周辺症状

担当:加藤伸司

認知症の物忘れの特徴
体験全体を忘れる(健忘は、体験の一部分を忘れる)。
もの忘れの自覚があまり無い(健忘は、物忘れの自覚がある)。
進行性で悪化する(健忘は、それほど進行しない)。
認知症のその他の症状
見当識障害(時間、場所、知人がわからなくなる)
行動・心理症状(BPSD);徘徊や妄想など
日常生活に支障
中核症状
記憶障害;短期記憶が無くなる→介護する人は、同じことをにっこり何度も言ってあげることが重要
時間の見当識障害;時間や日がわからなくなる→規則正しい生活をすることが重要
場所の見当識障害;道がわからない、部屋がわからない、ものがある場所がわからない→十分な見守り、環境の整備が必要
人物の見当識障害;知人、家族がわからなくなる→落ち着いて事実を伝え、試すような言動は避ける
判断力の障害;記憶ができなくなるので、記憶を頼りに判断ができなくなる→二者択一にするなど少ない選択肢から選ばせる
実行機能障害;手順がわからなくなる→一つ一つの具体的な動作を分割して説明する
失認;感覚障害がないのに対象が認知できなくなる。血管性認知症でよくある。物体失認、相貌失認、聴覚失認、地誌的障害(道順障害・街並失認)、半側空間無視。
失行;運動障害がないのに以前できていたことができなくなる。血管性認知症でよくある。観念失行(動作の組み合わせができなくなる)、着衣失行(服を着られなくなる)、構成失行(模写などができなくなる)、観念運動失行(意図的な運動ができない)。
周辺症状(行動・心理症状 Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD))
これまでは、介護者の負担という点から考えられてきたが、今では認知症の人の立場に立って考えられるようになってきている。
行動症状;身体的攻撃性、徘徊、不穏など
心理症状;妄想、幻覚、抑鬱、不眠、不安など

第7章 認知症の人の行動と心理的特徴の理解②:心理的問題の理解

担当:加藤伸司

認知症と性格
認知症の人に特別な性格があるわけではない。
元々の性格がどのようであったかを理解することが大切。
認知症の人は多くの喪失体験をする。とくに、記憶、知人、居場所を喪失する。 喪失感を減らすことが認知症ケアの重要なポイント。
認知症という病気の理解
身体の不調を理解することが大切。認知症の人では、自分の体の不調を自分の言葉でちゃんと訴えることができない。
日常生活動作 (ADL) のうち、手段的 ADL (IADL) とは、道具が使えることである。 認知症では、運動機能に問題がないのに IADL の障害が出ることがある。
認知症では、自分の思いを表現できなくなるので、思いが行動で表されることがある。行動の意味を理解することが大切。
認知症では、日常生活全般に支障が出てくる(生活障害)。生活全般への援助が必要。
認知症では、社会生活や人間関係にも支障が出てくる。
認知症の人の心理的特徴
慢性的な不快感;ど忘れが頻発するし、周囲の人に「あれ」「それ」が理解されなかったりするので、不快になる。
焦燥感;探し物がなかなか見つからないので、焦ったり腹が立ったりする。
持続する不安感;周囲の人や場所や状況がわからなくなるので、不安になる。
被害感;物が見つからないので、誰かに盗られたと思う。目の前から物が消えるという感覚がある。
混乱;判断力障害や見当識障害などで混乱する。
感情の変わりやすさ;認知症の人は問題をいろいろ抱えていて、ストレス耐性が低くなっているので、感情的になりがち。
自発性の低下と鬱状態;認知症の人は、物忘れにはあまり気付かないが、自分がいろいろできなくなっていることに気付いたり、叱られたりして、気が滅入ってきたり自発性が低下したりする。
認知症の人の行動の特徴
取り繕い;遠い関係の人とはそつなく挨拶できる。
作話;欠落した記憶を補うように、話を作る。たいていは、自分にとって都合の良い話になる。本人は真実だと思っているので、作り話だと指摘しても意味がない。
認知症の人の行動の意味を考えることが大切。
進行の段階に応じた対応
健忘期;物忘れが目立つ時期。ただし、物忘れの自覚は無い。物忘れに対して、根気よく対応する必要がある。
混乱期;行動・心理症状が多発。認知症の人の不安を理解して、安心させるような対応をする。
終末期;コミュニケーションが難しくなるが、優しく触ったり、静かに語りかけたりする。

第8章 認知症の人の行動と心理的特徴の理解③:様々な行動の特徴

担当:加藤伸司

行動・心理症状(周辺症状)
かつては、問題行動とか行動障害とか言われたが、現在では適切ではないとされる。現在では、行動・心理症状(BPSD, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれる。
行動症状は、徘徊・攻撃性など。心理症状は、妄想・幻覚・抑鬱など。
BPSD の表れ方は、人によっていろいろである。適切な環境やケアが大切。介護者に対する教育やケアが大切。
認知症の中核症状は改善できないが、BPSD は、適切な環境やケアによって、改善することも多い。
徘徊
徘徊には本人なりの目的がある。一緒について歩くのは消極的対応。本人の目的の方に対して対応する。
攻撃的行動
言語的なものと身体的なものがある。認知症の人が安心できるような対応が必要。声かけやまなざしが重要。
妄想
代表的な心理症状に妄想がある。妄想とは、事実ではないことを事実と思い込み、訂正が効かなくなること。
妄想の中では、物取られ妄想が最もよく見られる。本人の不安を解消することが大切。部屋の整理なども重要。
見捨てられ妄想では、孤独感や疎外感が背景にある。認知症の人を一人にしないとか、一人にするときは介護者が出かける理由を紙に書いておくとかする。
幻覚
幻覚の中では、幻視が多い。人物の幻視が多い。レビー小体認知症に特徴的。
知らない人がいるというような訴えには、単なる見間違いも多い。部屋を明るくすると解消することもある。
対応としては、否定も肯定もせず、場所を移動したり注意をそらせるなどして落ち着かせる。
BPSD に対する対応
症状に対処する対処ではなく、原因に対する対処をすべき。安心できる居場所を作るのが基本。認知症の人が安心できるようにする。
まず、身体的不調がないかを見ることが重要。次に、ストレスや不安感を減らすことを考える。
不適切な対応としては、騙してなだめること、徘徊を無理に止めること、鍵をかけること、身体拘束などがある。
中核症状は改善できないが、BPSDは適切なケアで改善する。生活の質を向上させることが最も大切。

第9章 認知症の人との関わり①:認知症ケアの歴史をたどる

担当:六角僚子

現在のデイサービスの例
デイサービスセンターお多福(茨城県):保育園が併設されている。
子供との世代間交流。認知症の方なりに子供の名前を覚えようとしている。
認知症ケアの歴史
1963年には老人福祉法が制定され、「養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「特別養護老人ホーム」ができたが、ちゃんとしたケアがなかった。
1970年代に認知症介護の問題点が徐々に明らかになってくる。魔の3ロック(フィジカルロック、ドラッグロック、スピークロック)が当然という時代だった。
1986年に厚生省は「痴呆老人対策推進本部」を設置。1989年、「老人性痴呆疾患センター」創設。
1990年代からデイサービスやグループホームが拡充され、家庭的な佇まいと雰囲気に配慮し始めた。同時に、 それまで行われていた身体拘束が問題とされるようになり、1999年には厚生省が介護保険施設運営基準の中に 「身体的拘束における禁止規定省令」を入れた。2001年には「身体拘束ゼロの手引き」が出される。
1999年には「ゴールドプラン21」、2000年には公的介護保険が開始された。
認知症ケアの教育の変遷
看護教育としては、1990年から「老年看護学」が独立科目となった。認知症看護認定看護師という資格もできた。
介護教育としては、1988年に介護福祉士が誕生した。
お多福ものわすれクリニック(茨城県)の院長の本間昭氏インタビュー
早い時期での受診が大切。
かかりつけ医に対する研修が行われている。

第10章 認知症の人との関わり②:認知症の人の生活支援

担当:六角僚子

劇団いくり
劇団「礁(いくり)」は認知症への理解を広めるための寸劇をしている。
デイサービスに行かないという年寄りの様子を描く寸劇を放送で見せる。ゆっくり構えて職員さんにお任せしよう。
認知症ケアの原則
認知症の人の世界を理解してケアを行うこと。
ケア提供者が、まず自分自身をよく見つめて理解すること。
生活環境づくり
自宅に近い生活空間の設定;プライベートな空間、井戸端会議の場、フォーマルな空間
生活史を取り入れた道具の活用;なじんだものが落ち着く
身近な動物との共生;ペットと暮らす
常に今を伝える道具;カレンダー、季節の花など
バリアフリー;安全で機能的な空間
食事
リアリティーオリエンテーション;心の準備を整える
雰囲気づくり;各人の生活習慣や好みに合わせる
姿勢;腰90度、膝90度、足首90度に近づける
排泄
尿意を訴えられない人たち;シグナルを察知してトイレに誘導
排泄の混乱;トイレがわからなくなる、やりかたがわからなくなる→明確にわかりやすく指示する
5分おきのトイレ;丁寧なケア、関心を引いて誘導
入浴
なぜ風呂に入らないのか?失行や実行機能障害があると、風呂に入ることが非常に不安になる。
環境整備;なじみの道具を用意するなど。
姿勢と動作
高齢者は姿勢のバランスが悪くなる;観察と支援が必要
活動と休息
生活リズムを整える;適度に休息(仮眠とかマッサージとか)を取り入れることも重要
着慣れた服を用意する、その人らしいいでたち、衣服の選択の補助、着脱の援助

第11章 認知症の人との関わり③:認知症の人と権利

担当:六角僚子

「劇団いくり」の寸劇
テーマは、息子による母親への虐待。息子は虐待のつもりはないが、風呂に連れて行かせ方が下手で、虐待みたいになってしまう。 息子や夫はついつい急かしたり怒ったりしてしまう。
認知症の人々は以下のような人だと考えなければならない
変化すること(加齢現象や時代の変化)を自覚している
意欲的に自立しようとし、リハビリテーションにも努力をしている
看護や介護を受け入れ、生活を変えていくことができる
自分らしく生き続けたいと願っている
自分に誇りを持ち、意味を見つけることができる
認知症の人の人権を考える
自分らしくありたい、成長したいという願いは認知症の人も同じ。
人権は認知症を含めてすべての人に対して保障される。たとえば、身体拘束をしてはならない。
認知症の人の自己決定権をできるだけ認めたい。
高齢者は男と女の役割について、昔の考え方をしているので、介護に支障があることがある。
身体拘束の問題
現在の介護施設では、身体拘束が禁止されている。拘束しない工夫が必要である。
認知症の人に関する歪んだイメージの払拭
高齢者の立場に立つこと、ポジティブな高齢者観を想像すること、認知症を病気として理解することが重要。
田中とも江氏へのインタビュー:身体拘束の問題は今でも残っている。意識改革が必要。
虐待
2006 年、高齢者虐待防止法が施行。高齢者と養護者の双方を支援する法律。
虐待の種類:①身体的虐待②心理的虐待③性的虐待④経済的虐待⑤介護・世話の放棄・放任
息子や夫による虐待が多い。
対策としては、家族や親族間のコミュニケーション、近隣の人や友人とのコミュニケーション、経済的・身体的に余裕を持つこと、 介護サービスの利用、認知症への理解を深めることなどがある。

第12章 認知症の人との関わり④:認知症の人とのコミュニケーション

担当:六角僚子

「劇団いくり」の寸劇
「魚がない」という演目で、物取られ妄想を描いている。
おばあちゃんが「魚がない」と言い出して、お嫁さんと喧嘩になる。主人(おばあちゃんの息子)が帰ってくると、 こんどは「大根がない」と言う。今度はお嫁さんがうまく対応する。「軒下に干しておきました。」「明日、沢庵の 作り方を教えてもらいましょう。」と話をする。相手が安心するように声をかけるのが良い。
物取られ妄想の時、実際存在するものの場合は、一緒に探して、本人が見つけるように誘導する。
共感すること
一方で、相手の内的世界を理解するとともに、もう一方で、冷静に客観的な目を持って対応する。
たとえば、娘が来るかもしれないと言ってエレベーターの前で待っているおばあさんに対して、 「楽しみですね。」と言って一緒に待ちながら、娘さんのことを尋ねて娘さんを褒める。
関わるケア(コミュニケーションの場)
自己紹介をするとともに、相手の名前を呼ぶ。相手の名前を呼ぶことは、相手を社会の一員と認めること。
一言二言では答えられないような質問(開かれた質問)をする。
共感する言葉かけ。
肩をさする、手をつなぐなどの非言語的コミュニケーション。
Reality Orientation (RO)
見当識障害の人に「今」を伝える。1日の時間の流れを随時伝える。
まず挨拶と自己紹介をし、相手の名前を確認する。その後、日付、天気、季節などの話をして、その素材をもとに話を広げる。
たとえば、「今日は〇〇の日」という話題、季節の野菜の話題なども良い。
常に時を付けて話す。たとえば「歯磨きです」という代わりに「昼ごはん後の歯磨きをしましょう」と言う。
「今日は何月何日ですか?」という質問はしてはいけない。

第13章 認知症と生きる①:当事者から見る認知症―本人

担当:井出訓

認知症の人々の歴史
かつて老人病院では、認知症の人々はツナギ服を着せられていたり、ベッドに縛り付けられていたりしたこともあった。
認知症の人々の語りと自己表現
Christine Bryden (旧姓 Boden) 『Who will be when I die? 私は誰になっていくの?』が認知症の本人の言葉として多くの人に読まれた。
日本では、2006 年に「本人会議」が開催され、当事者どうしが話し合い、社会にアピールした。
放送では、アートワークの実践例が紹介される。
就労支援
若年性認知症の方々は、仕事をしたいと思っている人が多い。
町田市の「NPO つながりの開 認知症デイサービス DAYS BLG!」(旧おりづる工務店)の例。草取りや掃除などをやる。 もともと介護サービスなので仕事の報酬が得られなかったが、いろいろな努力で仕事の対価(謝礼)が得られるようになった。
本人の思い
中村成信『ぼくが前を向いて歩く理由(わけ)』 中村氏は万引きでつかまって、認知症の診断を受けた。 写真撮影が趣味なので、それを続けている。
佐藤雅彦氏は「日本認知症ワーキンググループ」を立ち上げた。これは認知症の人々が作ったグループで facebook などで発信している。 認知症の人が声を上げて、認知症の人のサービスを作る。佐藤氏は、認知症の人を社会の一員だと認めてほしいと言っている。
認知症の人は、不安やもどかしさを感じている。

第14章 認知症と生きる②:当事者から見る認知症―家族

担当:井出訓

家族の経験
Ann Davidson 『Alzheimer's, a Love Story: One Year in My Husband's Journey アルツハイマー ある愛の記録』 スタンフォード大学教授だった夫が認知症になった記録。
中村成信氏(認知症)の妻の経験。夫が万引きで逮捕されて帰ってきてから、何か様子が変であることに気付いた。 夫は、同じものを何度も買ってくるようになったり、怒りっぽくなったりしていた。夫が懲戒免職になったのが辛かった(懲戒免職は後で解けた)。 しばらく外に出ないようにしていた。が、ずっと外出しないわけにもいかず、周囲の人に説明して理解してもらうようにした。
詩人の藤川幸之助氏の話。認知症の母親の介護をした。介護は、いつまで続くかわからないのが辛い。 亡くなる前の父親から母親の介護を頼まれて介護をすることにした。母親の姿が恥ずかしかったが、父親から「これが母さんが必死で 生きる姿だ」と言われた。辛さが頂点に達したとき、母親のまなざしを見たら子供の時に自分の話をよく聞いてくれた時の 母親のまなざしだったので、ちゃんと介護することを受け入れようと思った。母親を施設に預けた時は辛かった。
家族会
1980 年、「呆け老人をかかえる家族の会」結成。現在は「公益社団法人認知症の人と家族の会」となっている。
北海道の事務局長の西村敏子氏の話。北海道では家族会が 1987 年に設立。認知症の家族を支援したり、認知症の知識を広めたりしている。
介護の負担
見守りにかかる負担が大きい。

第15章 認知症と生きる③:~地域で支える認知症

担当:井出訓

3つの予防
1次予防=疾患発生の予防、2次予防=早期発見・早期対処、3次予防=リハビリテーションなどによって再発や重症化を予防。
認知症は治療ができないので、3次予防としては、安心して暮らせる生活環境づくりが重要。
認知症啓発
2004 年から認知症という言葉が用いられるようになった。2005 年から普及啓発キャンペーンが始まった。
「認知症サポーター100万人キャラバン」というキャンペーンが行われた。認知症サポーターには、オレンジリングが手渡された。 2014 年末には 580 万人がすでにオレンジリングを手にした。
2013 から 2017 年度に「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」が行われた。とくに地域で支えることが重要視された。 地域における医療、介護、日常生活の支援を推進した。
福井県の認知症カフェ「トマリギ」の例。福井キャラバンメイト代表の里裕一氏の話。イベントとして行っている。 たとえば、寺カフェとコラボしてみた。
認知症の人が安心して暮らせるまちづくり。
医療・福祉サービスが十分に受けられること、社会とのつながりを保てること、生きがいのある暮らしができること
2007 年、「NPO 認知症フレンドシップクラブ」が発足。 活動の一つに「ラン伴」というランニングイベントがある。
SPS ラボ若年認知症サポートセンター「きずなや」の若野達也氏の話。認知症の人々と働くことをテーマにする。 SPS は Social Problem Solution の略。社会問題の解決を目指す。人材不足の地域と働きたい人のマッチングを行う。 たとえば、大和橘園、追分梅林で地域活性化に取り組んでいる。
認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ」の徳田雄人氏の話。 2011 年から「認知症フューチャーセンター」を始めた。そこでは、認知症に直接関係の無い方も集めて認知症の課題を解決することを目指す。 2013 年から「認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ」を始める。暮らしやすい地域を作ることを目指す。関心がある人が 入りやすいプラットフォームづくり。「認知症フレンドリージャパン・サミット」を行った。
「認知症フレンドリージャパン・サミット」に参加した企業のコクヨS&Tの田中克明氏の話。シニアの方のための文房具が狙い。 文房具を使った認知症の予防、文房具と親子関係といったことを考えている。
「認知症フレンドリージャパン・サミット」に参加した企業の富士通の岡田誠氏の話。一緒に何ができるかを考えることに価値がある。 企業の各個人が何ができるかを考えることが企業にとっても役立つ。