猫がいればそれだけで

監修今泉 忠明
編著猫のこと研究倶楽部
トラネコボンボン 中西なちお
シリーズ知的生きかた文庫
発行所三笠書房
電子書籍
電子書籍刊行2018/06/20
電子書籍底本刊行2018/06/20(初版第1刷)
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2021/08/30
参考 web pagesトラネコボンボン web page

猫に関する軽い読み物。「第1部 猫と暮らす」は猫を飼う人のための tips 集のようなもの。 「第2部 猫を知る」は雑学集。いろいろ猫に関する話をかき集めてあって、楽しく読めるが、表面的ではある。

猫が複数の雄の子を同時に妊娠できるということは初めて知った (p.52)。猫は子供をたくさん産み、 放っておくと、2~3年でもともと2匹のつがいだったのが、50~60匹に増えてしまうとのこと。 飼い猫の去勢はやむを得ない。

猫は昔「ねこまんま」を食べていたと思うが、最近は「グレインフリー」などということが言われるのも謎である (pp.102-105)。本書では、猫には炭水化物がほとんど要らないようなことが書かれているけど、こういうのは たいていバランスの問題である。ネズミを食べていればそれ以上の炭水化物はいらないというような意味だろうとは思うが、 そういう詳しいことは書かれていない。もともとの食性からすると、穀物を食べる必要がないのは確かではあろうが、 キャットフードが丸ごとネズミでできているわけでもないので、餌がどうあるべきかはまた別の話のように思う。

この本の問題は、情報の源が良くわからないことである。たとえば、「第9章 猫が登場する童話」で 猫に関する短いお話が集められているが、どこかの昔話なのか、誰かが創作したのかさっぱりわからない。 「第7章 猫が持つ不思議な力」は猫の超能力のような話で、興味深いのではあるが、 これまた情報源不明なので、信憑性がさっぱりわからない。猫が地震を予知したというような話も書いてあるが (pp.215-217)、情報源も数字も書いていないので、それ以上の考察のしようもない。

平安時代の話で、『源氏物語』(若菜)の中で猫の鳴き声を描写する「らうたげに」に「﨟たげに」と漢字を当てて「品よく」という意味だと 書いてあるが (p.203)、これはおそらくおかしい。「らうたし」はふつう「労甚し」と書いて、「いとおしい」とか「かわいらしい」などと 説明され、「らうたげ」はそれに接尾語「げ」がついた形である。したがって、ふつうに「愛らしく」などと訳すのが正しそうである。 女性に対しても「らうたげ」は 『源氏物語』ではあどけなさや可憐さを表すときに使われているようである。 「﨟たげ」で「上品な」という使い方もないではないようだが、例に出ているのが浄瑠璃であることからみて、 比較的新しい使い方ではないかと思われる。というのも、「﨟」はもともとは祭りの名前で、 それから転じて「年功を積む」という意味が出てきたものである。しかも、「﨟」は旧仮名遣いでは「らふ」であって「らう」ではない。 「﨟長く(らふたく)」(動詞で「円熟する」)と混同して生まれたものではないだろうか。