去年の本なので、新型コロナ本としてはもはや古いと言えば古いが、店頭で見て、検査について詳しく書かれていそうなので
買って読んでみた。
第3章までと第9章は報道されているようなことに関してで、話題になっているトピックに対する著者の意見なども書かれている。
たとえば、いわゆるファクターX(日本など東アジアで感染が少ない理由)に関しては、著者はBCG接種はあるかもしれない
と考えているが、近縁ウイルスへの既感染に関しては否定的である。
第4章以降にこの本の特徴が現れている(以下にサマリーも書いた)。第4章はペットへの感染の問題で、
これは著者がもともと獣医学部卒であることと関連しているのだろう。第5章は遺伝子の読み取り方が書いてあって、
遺伝子解析サイトが紹介されているのが面白い。塩基配列を入力すると、似たゲノムを探し出してくれる web サイトがある。
第6章と第7章は、ウイルスが感染し複製するまでに、細胞では何が起こっているかの解説。
第8章はウイルスの検査法。これがきちんと書かれているのがありがたい。検査の話は報道で良く出てくる割に、
具体的な方法の解説を見ることは意外に少ない。
サマリー
第3章までは略。
第4章 ペットへの感染を食い止めろ―獣医から見た新型コロナウイルス―
新型コロナウイルスはペットにも感染する。とくに猫に感染することが確かめられている。
ただし、症状が出ない場合が多いようだし、ヒトよりも早く陰性になるようである。
しかし、感染した猫がほかの野生生物に感染させて、野生生物に感染が蔓延したりすると、
人間がコントロールできなくなるので要注意である。
第5章 未知のウイルスを発見する方法を体験する
ウイルスの遺伝子を読む方法の概要説明。
- ウイルスを含んだ液体から RNA を抽出する。
- 混ざっている DNA を酵素で壊す。
- 逆転写酵素を使って RNA を DNA にする。
- 次世代シーケンサーを用いて塩基配列を読み取る。
- 読み取った配列を遺伝子解析サイト
Nucleotide Blast に入れて、
データベースにある配列と比較する。
第6章 新型コロナウイルスが細胞に感染するまで
- 新型コロナウイルスは飛沫に乗って飛んでくる。
- 新型コロナウイルスのスパイク蛋白質が細胞の ACE-2 にくっついて、さらに細胞膜にある TMPRSS2 という酵素が
スパイク蛋白質の一部を分解すると、ウイルスの膜と細胞膜が融合する。その融合によって、ウイルスの中身が細胞質に放出される。
- TMPRSS2 が近くにいないときは、ウイルスはエンドサイトーシスという機構に乗っかって細胞に侵入する。
ウイルスは、ACE-2 を介してエンドソームの中に入り、さらにウイルスの膜とエンドソームの膜が融合する。
その融合によって、ウイルスの中身が細胞質に放出される。
SARS-Cov-2 の細胞への侵入の模式図 by 竹田誠(国立感染症研究所)
第7章 新型コロナウイルスはどうやって増えるのか
ウイルスの中身が細胞に入ると:
- まず、mRNA が複製される。プラス鎖の RNA からマイナス鎖の RNA が作られ、それを鋳型として、
プラス鎖の RNA が大量に作られる。新たに作られる mRNA には、転写のスタート地点が異なる 11 種類があると考えられている。
- mRNA はリボゾームに行って、そこで蛋白質を作ってもらう。蛋白質には、ウイルス粒子を形作る構造蛋白質以外に
酵素などの非構造蛋白質がある。
- 構造蛋白質は、小胞体からゴルジ装置に運ばれ、mRNA ゲノムと組み合わされてウイルス粒子になる。
- できたウイルス粒子は細胞外に放出される。
第8章 新型コロナウイルスの検査法をしっかり頭にたたきこむ
- PCR 検査
- PCR は polymerase chain reaction の略。
- PCR では、72℃で DNA を合成し、95℃で DNA をバラバラにするというサイクルを繰り返して、DNA を増やしてゆく。
- 伝統的には、増やした DNA を電気泳動させることで、目的の正しい DNA が増えていることを確認する。
- 電気泳動は時間がかかるので、リアルタイム PCR という方法が出てきた。この方法では、
DNA を合成するところで、目的の DNA が合成されると光るしかけをつくっておく。DNA が増えると光が増す。
- PCR では検出限界がどのくらいかを知っておくことが重要。
- LAMP 法
- PCR と違って1つの温度で DNA を増幅させる方法。
- LAMP は loop-mediated isothermal amplification の略。
- 中和試験(抗体検査)
- 血清と新型コロナウイルスを混ぜ合わせて培養細胞に加える。細胞が死ななければ抗体がある、細胞が死んだら抗体がない、
ということが分かる。
- 簡単で信頼できる検査だが、生きた新型コロナウイルスを使うので、特別な実験施設でないとできない。
- ELISA 法(抗体検査)
- プレートにウイルス抗原を貼り付けておき、それに抗体が付くと光るしかけ。
- イムノクロマト法(抗原検査、抗体検査)
- 抗原検査の場合は、抗体を線状に並べておいてこれに抗原をくっつける。抗原には色素付きの抗体がくっつくようにしておくと、
色のついたラインが見える。
- 抗体検査の場合は、抗体にくっつく抗体(二次抗体)を線状に並べておいてこれに抗体をくっつける。抗体には色素付きの抗原が
くっつくようにしておくと、色のついたラインが見える。
第9章も略。