日経サイエンスから新型コロナウイルス関連の記事を集めてきた特集。日経サイエンスなので、そんなに詳しくはないけれど、 最近の動向がある程度わかる。
とくに今まで知らなかった話は、真菌感染症の話だった。そもそも致死的な真菌感染症があることを知らなかった。 COVID-19 の合併症となっている例があるそうだ。
編集 | 中西 真人 |
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シリーズ | 別冊日経サイエンス 246 |
発行所 | 日経サイエンス |
販売 | 日経BPマーケティング |
刊行 | 2021/08/16 (1版1刷) |
入手 | 九大生協で購入 |
読了 | 2021/09/27 |
日経サイエンスから新型コロナウイルス関連の記事を集めてきた特集。日経サイエンスなので、そんなに詳しくはないけれど、 最近の動向がある程度わかる。
とくに今まで知らなかった話は、真菌感染症の話だった。そもそも致死的な真菌感染症があることを知らなかった。 COVID-19 の合併症となっている例があるそうだ。
William A. Haseltine, "What We Learned from AIDS", Scientific American, October 2020
梶浦真美(翻訳協力), pp.6-11
初出:日経サイエンス 2020 年 12 月号
AIDS から学ぶこと:
Scott Hershberger, "The Pandemic We Forgot", Scientific American, November 2020
古川奈々子(翻訳協力), pp.12-16
初出:日経サイエンス 2021 年 7 月号
1818-19 年のインフルエンザパンデミック(いわゆるスペイン風邪)の記憶は長らく忘れられていた。 物語性のない歴史は記憶に残りにくい。病院にカメラが入りにくいので、写真が少ないことも一因だろう。 COVID-19 のパンデミックによって、100 年前のパンデミックが再発見されている。
James P. Close "Ancient Plagues Shaped the World", Scientific American, November 2020
古川奈々子(翻訳協力), pp.18-23
初出:日経サイエンス 2021 年 6 月号
古代人の歯から病原微生物の DNA の断片を取り出して、元の DNA を再構成できるようになった。 そのことによって、昔の疫病の正体がわかってきた。
Maryn Mckenna "Return of the Germs", Scientific American, September 2020
千葉啓恵(翻訳協力), pp.24-31
初出:日経サイエンス 2021 年 1 月号
1970 年代初頭、人類はやがて感染症を制圧すると信じられていた。ところが、1976 年のエボラ出血熱、1981 年の HIV/AIDS、 1988 年のバンコマイシン耐性のある腸内細菌エンテロコッカス、1997 年の鳥インフルエンザ、1999 年の COVID-19 と 新たな脅威が次々に生まれてきた。
COVID-19 をはじめとする感染症が広がる大きな要因が貧困である。感染症は、まず貧困層で広まり、それが富裕層に広がる。 COVID-19 でニューヨークが悲惨なことになったのも、大きな経済格差が大きな要因だ。
高額な先端医療が発達する一方で、抗生物質を手がける会社が少なくなって危機的な状況にある。
M. フィシェッティ(文), V.F. ヘイズ(アート), J. クリスチャンセン(グラフィックス), B. グローンシンガー(協力), "Inside the Coronavirus", Scientific American, July 2020
編集部(訳), pp.32-37
初出:日経サイエンス 2020 年 8 月号
新型コロナウイルスの仕組みの図解。動画付き英語版もある。
Michael Waldholz, "Fast-Track Drugs", Scientific American, June 2020
編集部(訳), pp.38-41
初出:日経サイエンス 2020 年 7 月号
COVID-19 治療薬には3つの方針がある。
岩崎明子, Patrick Wong, "The Immune Havoc of COVID-19", Scientific American, January 2021
古川奈々子(翻訳協力), pp.42-49
初出:日経サイエンス 2021 年 3 月号
COVID-19 では、免疫系の暴走が起きることがある。サイトカインストームだと言われていたが、 ふつうのサイトカインストームとは異なる。
この論文は、わりととりとめなくいろいろなことが書かれているので、書かれていることをとりあえず箇条書きしてみる:
COVID-19 特有の難題としては、発症前から感染を引き起こすこと、症状が幅広い臓器にわたることなどがある。
滝順一, pp.50-53
初出:日経サイエンス 2021 年 4 月号 Front Runner 挑む
岩崎明子は、日本の風土に閉塞感を感じて、日本の高校を中退してカナダの高校に進学、さらにトロント大学に進学した。 トロント大学では、免疫学の Brian Barber に師事した。1998 年、ポスドクとして NIH に移り、粘膜免疫の研究を始めた。 小腸のパイエル板では Th2 と呼ばれるタイプの T 細胞が活性化されることを見出した。2000 年には、エール大学で ポストを得て、研究分野をウイルス感染症に変えた。ヘルペスウイルスなどの研究をした。2020 年からは、 新型コロナウイルスの研究に移った。男性は女性にくらべて T 細胞の活性化の度合いが弱く重症化しやすいことを明らかにした。 ほかにも免疫系の撹乱についていろいろ調べている。
Stephani Sutherland, "How COVID Scrambles the Senses", Scientific American, February 2021
編集部(訳), pp.54-57
初出:日経サイエンス 2021 年 3 月号
COVID-19 患者の多くが嗅覚障害や味覚障害を起こす。
嗅覚障害の原因は、おそらく鼻にあり、鼻腔上皮の支持細胞や幹細胞がやられる。 ハムスターに SARS-CoV-2 を感染させた実験だと嗅上皮が完全に剥がれた。 COVID-19 の場合は、ほかのウイルス感染症と違って鼻づまりによる嗅覚障害ではない。
嗅覚が戻っても、異嗅症(違うにおいがする病気)になっている場合がある。 十分に時間が経つと回復するとは考えられている。
出村政彬, pp.58-65
初出:日経サイエンス 2021 年 4 月号
新型コロナウイルスの変異株がいろいろ出ている。
変異の特徴:
変異株に対して、ワクチンは効くという報告と効かないという報告があり、まだ結論は出ていない。 モデルナは、β株用のワクチンの開発を始めた。従来の感染対策は、変異株に対しても有効である。
L. デンワース, "What Comes Next", Scientific American, June 2020
編集部(訳), pp.66-68
初出:日経サイエンス 2020 年 7 月号
過去のパンデミックが収まってきた経緯を3つの事例で見ていく。
COVID-19 が今後どうなるか、半分は社会と政治の問題、半分は科学の問題である。
Kary B. Mullis, "The Unusual Origin of the Polymerase Chain Reaction", Scientific American, April 1990
中西真人(訳), pp.69-79
初出:日経サイエンス 1990 年 6 月号
PCR 法発見者が、PCR 法の原理をどうやって思いついたかを書き記している。もともと Mullis は、 DNA の塩基配列の決定法をいろいろ考えていた。その途中で DNA の決まった区間を倍々に増やすことができることに気付き、 かつその重要性にも思い至った。1993 年、PCR 法発見の功績でノーベル化学賞受賞。
PCR 法の説明を会社のいろいろな人にしてみて、最初に認めてくれたのは会社の特許代理人の Albert Halluin だった。 会社の学術研究集会で発表した時、最初に興味を持ってくれたのは、ノーベル賞受賞者の Joshua Lederberg だった。 彼は、自分がどうしてこれを思いつかなかったのだろうという顔をしていた。
PCR 法の原理:
Maryn MacKenna, "Deadly Kingdom", Scientific American, June 2021
古川奈々子(翻訳協力), pp.80-89
初出:日経サイエンス 2021 年 9 月号
致死的な真菌感染症があることはあまり知られていない。従来の常識では、人間は体温が高いことで 真菌から守られていることになっていたが、地球温暖化で真菌もそれに適応して高温で生きられるようになるかもしれない。 さらに、最近は免疫が弱い人が長生きできるし、自己免疫疾患のために免疫を抑制している人もいる。 COVID-19 の治療のために、免疫を抑制する薬を使っていることもある。
世界的に見て、毎年 160 万人くらいが真菌性の疾患で亡くなっている。これはマラリアよりも多く、 結核と同程度だ。
薬は大きく言って3種類(ポリエン系、アゾール系、キャンディン系)しかないので、 それらに耐性がある菌が現れると薬がすぐに無くなってしまう。 真菌の細胞は、人間の細胞とけっこう似ているので、薬の開発が難しく、副作用が激しいことも多い。 しかも、真菌が薬に対する耐性を獲得する場合が多い。
真菌に対するワクチンはまだできていない。イヌが真菌感染症にかかりやすいので、イヌ用のワクチンの開発を 手がかりにすることに期待が持たれている。
出村政彬, 長谷川秀樹(協力), pp.90-99
初出:日経サイエンス 2021 年 5 月号
mRNA ワクチンは、ウイルスを使うことなく、細胞へのウイルス感染を模擬する。 ワクチンが樹状細胞に取り込まれると、樹状細胞はスパイク蛋白質を合成して、細胞表現に掲げる。 樹状細胞はリンパ節に移動し、スパイク断片をうまく認識できるリンパ球を選び出す。 選ばれたリンパ球は増殖する。これによって獲得免疫の働きが高まる。
従来のワクチンに比べると (1) 大量のスパイクたんぱく質ができることと (2) 細胞表面にタンパク質の一部が提示されることが異なる。 (2) の性質のために、キラーT細胞が強く活性化されるので、VDE(ワクチン関連疾患増悪)が起こりにくく、 スパイクたんぱく質を作り続ける細胞をキラーT細胞が殺してくれるという利点がある。
mRNA ワクチンの技術開発は 1990 年ころに始まる。越えなければならない2つの壁があった。 (a) 血液中や細胞と細胞の隙間にある RNA 分解酵素で分解されないようにすることと (b) 細胞内に含まれる RNA センサーがはたらいて分解されるのを防ぐことである。 (b) の点に関しては、ウラシルを似て非なる塩基で置き換えることと、二重鎖 RNA を 取り除くことで回避できるようになった。これらのブレークスルーは Katalin Karikó らによる成果である。 (a) の点に関しては、高分子や脂質のカプセルで包むことにより回避された。 当初、多くの研究者は半信半疑だったが、高い有効率を見せつけられて、多くの専門家が利益が大きいと考えるようになった。
アストラゼネカなどはウイルスベクターワクチンを作っている。ウイルスベクターワクチンでは、他のウイルスの 遺伝子の中に、スパイクたんぱく質の遺伝子を組み込む。アストラゼネカでは、ウイルスとしてチンパンジーの アデノウイルスを用いる。チンパンジーのウイルスを使うのは、ヒトに病気を起こさないためと、すでに免疫がある人が いないためである。
接種の進んだイスラエルでは、有効性が実証されてきている。
変異ウイルスに対しては、変異に対応したワクチンを作ればよい。この場合の問題は、変異に対応したワクチンを どのくらい速やかに承認できるかである。仕組み作りのための議論が始まっている。
S. ブッシュウィック, "Why COVID Vaccines Are Taking So Long to Reach You", scientificamerican.com, February 11, 2021
古川奈々子(翻訳協力), pp.100-102
初出:日経サイエンス 2021 年 5 月号
米国においてワクチン接種のペースを上げられない大きな理由は2つある。
Zoe Cormier, "The Second-Generatioin COVID Vaccines Are Coming", scientificamerican.com, January 20, 2021
古川奈々子(翻訳協力), pp.103-105
初出:日経サイエンス 2021 年 5 月号
現在使われている新型コロナウイルスワクチンにはまだ不明な点が多い。とくに持続性がどのくらいあるかがわからない。 そんな中、新たなワクチン候補も多くあり、そのうちの3つを紹介する。
Charles Schmidt, "The Vaccine Quest", Scientific American, June 2020
古川奈々子(翻訳協力), pp.106-109
初出:日経サイエンス 2020 年 7 月号
SARS-Cov-2 に対して、最近では、遺伝子ベースのワクチン開発が試みられている。 ウイルスの DNA か RNA の断片を ヒトの細胞に注入してウイルス蛋白質を作らせ、それに対する抗体を作らせる。 SARS-CoV-2 では、 ウイルスから突き出しているスパイク蛋白質を作らせようとしている。
遺伝子を送り込む方法として3つ考えられている。
難点を克服する方法はいろいろ工夫されている。一般的には、ほかにも「抗体依存性感染増強」が心配されている。
Kathleen Hall Jamieson, "How to Counter COVID Misinformation", Scientific American, April 2021
編集部(訳), pp.111-117
初出:日経サイエンス 2021 年 5 月号
怪しげな情報から身を守る方法:
M.W. モイヤー, "Coping with Pandemic Stress", Scientific American, March 2021
編集部(訳), pp.118-123
初出:日経サイエンス 2021 年 4 月号
パンデミックにより、多くの人に精神的ストレスがかかっている。対処方法の例として以下のようなものがある:
Jillian Mock, "Frontline Trauma", Scientific American, June 2020
梶浦真美(翻訳協力), pp.124-126
初出:日経サイエンス 2020 年 7 月号
医療従事者には多大な精神的負担がかかっている。