なぞとき 宇宙と元素の歴史

著者和南城 伸也
シリーズなぞとき
発行所講談社
刊行2019/12/16(第1刷)
入手九大生協で購入
読了2021/11/12

一般向けの宇宙における元素合成の解説書。授業の題材の参考に読んでみたら、全体像が大変分かりやすく書かれている本だった。 元素合成の話は、専門文献を読むと、部分的には詳しいけど全体像がなかなかつかめないことが多い。 本書は、元素合成が全体的にわかるように書かれている上、現在分かっていないことがどういう点かも明確に書かれている点が良い。

元素合成の話は、最近とくに r プロセス元素の起源が大きく変わった。昔は超新星爆発で出来たと考えられていたのが、 今では否定されて、中性子星の合体が最有力候補となっている。著者が超新星爆発説から中性子星合体説に変わっていった 事情が「あとがき」に記されている。私が学生の頃、r プロセスとか s プロセスとか授業で聞いて、 何だか抽象的だなあと思って何のことかよくわからなかったことを思い出すのだが、今から見れば、当時は 専門家も具体的イメージが良く分かっていなかったわけだから、学生がわからないのは当たり前であった。 今やだいぶん明確な描像で語られているのだということがよくわかった。

ただ、ちょっと残念なのは地球科学に関する記述で不正確な部分があることだ (p.22)。地殻に貴金属が少ないのは、 貴金属が重いためだと書いてあるが、これは違う。貴金属は金属鉄に親和性が高く、金属鉄が重くて地球中心に集まったので、 それに溶け込んで沈んだからだ。もうひとつ、ウランやトリウムが地殻に多いのは、水との親和性が高いからと書いてあるが、 これも違う。ウランやトリウムは、岩石が融けた時にマグマに入りやすいためである。