ベクトル解析の初歩的な教科書。担当している授業(電磁気学基礎演習)のテキストにしたので、通読してみた。 教科書に選んだ理由は薄いことと、例題や問題がある程度載っていることである。薄いのは学生の懐にやさしいし、 わりとさっさと読み終われるのが良い。あまり詳しすぎないので、重要なことがコンパクトに書いてあり、 授業で必要に応じて補足できるのもよい。演習の授業なので、授業で使える問題が書いてあるのも重要である。 説明もそれほど数学的に厳密に書いていないのが良い。ガウスの定理やストークスの定理の説明も、本文では 立方体や直方体の場合を説明しておいて、任意の形状の場合の証明は付録に回してある。
著者はすでに鬼籍に入っておられるが、まだ版を重ねているのは、平易に簡潔に書かれているので、 授業で使いやすいためだろう。あまりとんがったところは無い。
気付いたことをいくつか:
- 線積分の定義が ∫A・t ds (t は接単位ベクトル、s は弧長)としてあって、 ∫A・dr をそこから導いているのが、数学っぽい。物理数学としては、逆に ∫A・dr を定義にするのが自然である。授業で使うときは、そのこととそうなる理由を補足しておいた。
- 第4章3節の「積分公式の応用」の項に、物理学で時々出てくる積分公式がまとめてある。「例題」として 書いてあったりするので、学生がこれを積分公式であると気づかない可能性がある。なので、 授業で使うときは、物理学でそういう式に出会うことがあることを学生には注意しておきたい。