Holmes もの新訳版を、NHK BSP で放映される Granada TV 版 (Jeremy Brett 主演) を見ながら読んでいる。 本作は Granada TV 版だと第 21 話 (脚本 John Hawkesworth) である。原作は、ホームズものの第2作目である。 合わせて、英語学習者用にやさしい単語しか使わず短縮してあるバージョン (Ladder Edition) も読んでみた。 簡単なので速く読める。
巻末解説に書いてある通り、タイトルの邦訳『四つの署名』はちょっとおかしいといえばおかしい。 「四つの署名」を英語にすると Four Signatures になりそうなところだからである。sign は単数形だし、 意味も「符号」とか「しるし」だから、巻末解説の通り「四人のしるし」とか「四人組の符号」が正しい。 十字を四つ横に並べた符号で、本文中では「四人のしるし」と訳されている。邦訳タイトルは、慣例に従ったということだ。
推理小説としてみると、推理より結局犯人の Janathan Small の告白が圧倒的に心に残り、推理は一体何だったのか という感じがする。それと、人種差別的な記述が気になるのと (Tonga はもっと人間らしく描けたはず)、 Watson と Miss Morstan の恋に波乱がないのが面白さを削いでいるように思う。
Granada TV 版では、Small の告白のウエイトが原作ほど重くはなく、ホームズらによる犯人追跡劇も楽しめる。 TV 版では、Watson と Miss Morstan の恋物語は省かれている。やはり、このような恋物語では浮いてしまうということだろう。 そして、Miss Morstan も一緒に Jonathan Small の告白を聞くことに変えてある。Jonathan Small は、Morstan 大尉は優しい紳士 だったと言っていて、そこで Miss Morstan も安堵するという演出になっている。 宝箱もその告白が終わった時に皆の前で開けられることになる。こうした変更により、原作よりもまとまりが良くなっていると思う。
ホームズの名セリフが Chapter 6 にある。『名探偵コナン』の「そして人魚はいなくなった」の第28巻File9でも引用されている。 Ladder Edition では省かれている。
[原作] You will not apply my precept. How often have I said to you that when you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth?
[日暮訳] きみときたら、ぼくの助言をちっとも活用しようとしないんだな。 今まで何度も言ってきたじゃないか。ありえないものをひとつひとつ消していけば、残ったものが、 どんなにありそうなことでなくても、真実であるはずだって。
[GranadaTV 版] You will not follow my precept. How often have I said to you when once you've eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth?
[GranadaTV 日本語版(額田やえ子訳)] ぼくの法則を忘れたかい。いつも言ってるだろ。不可能を消去したのち、 残ったものが、いかにとっぴであろうとも、真相なのだと。
[名探偵コナン訳] 不可能な物を除外していって残った物が…たとえそれがどんなに信じられなくても…それが真相なんだ!!!