金子みすゞ詩集

著者松本 侑子
シリーズNHK 100分de名著 2022 年 1 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2022/01/01(発売:2021/12/25)
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読了2022/02/01

金子みすゞは、私が子供の頃はそう読まれていなかった気がするが、最近では広く知られるようになり、 平成 8 年度からは教科書にも採用されているとのこと。

大正デモクラシーの時代、「赤い鳥」をはじめとする児童文芸誌が広く流通した時代があって、 そこで童謡詩が生まれたということを初めて知った。北原白秋、野口雨情、西條八十が三大童謡詩人である。 みすゞは、そこに詩を発表した。 昔は、教科書に載っている童謡詩といえば、白秋が筆頭だったように思うが、今や時代の好みが金子みすゞの方に シフトしているのかもしれない。白秋に比べると、みすゞの詩には幼さを感じるのだけれど、そういうやさしさが 今の時代の好みということだろう。

今の時代、子供のための詩が生まれる場所はあまりない。子供のための歌が生まれる場としては、NHK と アニメが代表的なように思う。たとえば、NHK が生んだものとしては、2018--2020 年の「パプリカ」、 アニメが生んだものとしては、1988 年の「さんぽ」(『となりのトトロ』のエンディング)がある。 しかし、どちらも詩よりもメロディーに重点が置かれた曲であるように思う。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 詩心の原風景~童謡詩の誕生

金子みすゞの幼年時代

童謡詩の時代

「鯨法会(くじらほうえ)」

鯨法会は春のくれ、
海に飛魚採れるころ。

浜のお寺で鳴る鐘が、
ゆれて水面(みのも)をわたるとき、

村の漁夫(りょうし)が羽織着て、
浜のお寺へいそぐとき、

沖で鯨の子がひとり、
そのなる鐘をききながら、

死んだ父さま、母さまを、
こいし、こいしと泣いてます。

海のおもてを、鐘の音は、
海のどこまで、ひびくやら。

第2回 視点の逆転、想像の飛躍~投稿詩人の誕生

みすゞが詩を書き始めたころ

「もういいの」

 ―もういいの。
 ―まあだだよ。

枇杷の木の下と、
牡丹のかげで、
かくれん坊の子供。

 ―もういいの。
 ―まあだだよ。

枇杷の木の枝と、
青い実のなかで、
小鳥と、枇杷と。

 ―もういいの。
 ―まあだだよ。

お空のそとと、
黒い土のなかで、
夏と、春と。

第3回 「孤独」と「死」を見つめて~童謡詩の衰退

みすゞの結婚から死まで

「夜散る花」

朝のひかりに
散る花は、
雀もとびくら
してくれよ。

日ぐれの風に
散る花は、
鐘がうたって
くれるだろ。

夜散る花は
誰とあそぶ、
夜散る花は
誰とあそぶ。

第4回 ことばで響き合う未来へ~童謡とみすゞの復活

みすゞの再評価

「こだまでしょうか」

「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。

「馬鹿」っていうと
「馬鹿」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。

そうして、あとで
さみしくなって、

「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。