漫画貧乏

著者佐藤 秀峰
発行所佐藤漫画製作所
取次電書バト
電子書籍
刊行2012/03
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2022/06/23
参考 web pages著者による note

『ブラックジャックによろしく』で売れっ子になった漫画家の佐藤秀峰氏が、 それほど売れていない漫画家でも何とかできるだけ漫画で食っていけるようにしようと 頑張っている悪戦苦闘の記録である。電子書籍書店でなぜか安売りしていたので読んでみた。 私が安売りに気付いたのは今年 (2022 年) だが、2016 年に同様のことをやって、かなりの収益があったらしい。 確かに私のようにそこまで漫画を読まない人間は、こういうセールでもないと買おうとも思わないから、 そういう層の掘り起こしにはなったのだろう。

文筆業というのは、よほど売れない限り生活していけない。 たとえば、1年に1冊 1000 円の本を書いて、それが 1 万部売れたとすると、印税は 10% だから 100 万円の収入である。とても生きて行けるわけがない。著者によると、漫画の場合は 1年に4冊書けるそうで、1冊 500 円だから 10 万部売れたとして、印税 10% で計算すると、 2000 万円の収入になる。所得税 40% を引くと 1200 万円。これだけあれば一家庭なら生活していけるが、 5人スタッフを雇っているので、6で割るとすると、一人当たり 200 万円にしかならず、これでもかなり苦しい。 10 万部も売れる漫画家は1割くらいかもしれないので、漫画では食っていけないということのようだ。

漫画家の場合は雑誌原稿料もある。が、それも著者の場合でも現在は年間 1500 万円くらいだそうで、 やっぱり5人スタッフを雇うと苦しい。著者の考えでは、スタッフの給与は雑誌原稿料から出されるべきで、 単行本の売り上げは漫画家の収入であるべきだ、ということなので、益々もって維持不可能である。

雑誌の売り上げが一般に落ちている中、一番困るのは、漫画家とかノンフィクションライターとか、 従来、雑誌の原稿料に依存していて、かつ、スタッフ雇用や取材など執筆費用がかさむ執筆者たちである。 困らないのは、大学教員など他で給料を得ている執筆者である。こういうアンバランスがある中で、 文筆業をどうやって成り立たせるかは困難の極みである。そんな中、 インターネットを利用して収入を上げていく手を見つけるということがいろいろ試みられている。 漫画家ではこの著者の佐藤秀峰氏である。

で、本書が書かれた 2012 年時点では、著者の努力の成果は直販サイト「漫画 on Web」になったということだ。 しかし、どういう事情だったかは分からないが、今すでにそのサイトは無く、電子コミック取次の 「電書バト」活動が主体となっているようである。 その間のいきさつの一端は、著者のnote で知ることができる。 いまだ試行錯誤中ということのようである。

ともかくも、あまり漫画を読まない私がこういう本に出会えたのは、電子書籍書店での旧作安売りセールと 私の貧乏症のなせる業と言える。