折口信夫は読んだことが無い。解説によると、折口は実感を大事にしたそうで、それがどのくらい学問的だと言えるのか
疑問が残った。とはいえ、信仰の起源、文学の起源、芸能の起源などを考えようと思ったら、もともと証拠が少ないわけだから、
直感に頼らざるを得ないところも多いであろう。
芸能の話が出てくるので、放送では、MC の伊集院光がかなり共感して話している様子が面白かった。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 「他界」と「まれびと」
「古代」は、ものが生まれてくる瞬間。したがって、「古代研究」は、ものが生まれてくる仕組みやしかけ。
- 折口信夫
- 1887(明治20)年、大坂に生まれる。
- 大学で『遠野物語』に魅了された。
- 中学校の教員となり、あるとき生徒を連れて伊勢、志摩、熊野を巡る旅に出る。
三重県の大王崎で、海のかなたに魂のふるさとを感じた。ここで「常世(とこよ)」の発想を得る。
「常世(とこよ)」は、古代人が考えていた「あの世」。これが『古代研究』の出発点。
- 折口は、沖縄への旅で古代人の信仰の姿を見た。「アンガマア」という伝統行事で、他界からやってくる翁と媼をもてなす。
それから「まれびと」の存在を見出す。「まれびと」は来訪する神。
- まれびと
- 古代人にとっての神は、常世からやってくる「まれびと」である。その訪れを心待ちにすることが日本人の信仰の原点だ。
まれびとをもてなすことが、日本の文化の原点である。
- 人と神との境界は明確ではない。「まれびと」は、たとえば「なまはげ」とか節分の鬼とかご先祖様とか。
- 神と人間との関係を考えることは、人間に対する見方を考えること。
- 「他界へのあこがれ→他界からやってくるまれびと→まれびとへのもてなし→もてなしから生まれる文化」
というつながりを念頭において『古代研究』を読んでいくと、日本人の精神性が見えてくる。
- 「いはふ」は、客人を迎えたり、主人の無事帰還を祈ったりすること。
- 神は遠くからやってくる。「まれびと」を迎える目印が「依代(よりしろ)」。たとえば、門松は依代の一つ。
依代は神の象徴にもなってきた。
第2回 国文学の発生
今回は、日本文学の発生を考える。折口信夫は、文学の信仰起源説を提唱した。
- 音と歌が基本
- 言霊とは、言葉には現実を引き寄せる力があるという考え方だ。
- 宮中儀式に歌会始がある。歌には節を付けて、皆でそれを聞く。
- 『万葉集』の全口語訳は折口が初めて。折口は、釈迢空という歌人でもあった。
- 信仰と律文が始まり
- 神から与えられた呪言(じゅごん)が文学の始まり。リズム(律)が重要。ここから律文が発生し、口承文学となった。
律文は言葉を間違いなく伝えるために必要。
- 散文よりも律文の方が先。
- 神と精霊とのやり取りから人と人とが掛け合う和歌の形式が生まれた。
- 語り部と貴種流離譚
- 物語は、語り部によって語り継がれる。やがてそれらは『古事記』『日本書紀』に記録される。
- 古代の歴史は、神の叙事詩から生まれてきた。
- 神の辛苦物語が貴種流離譚を生んだ。『竹取物語』も『伊勢物語』も貴種流離譚。
- 語り部が村々を祝福する(ほかふ)。そのようなことをする人々を「ほかひびと」という。
第3回 ほかひびとの芸能史
今回は、芸能の起源を考える。
- 芸能の起源
- まれびとは祝福の言葉を言いにやってくる。
- 芸能は神々をもてなすことから始まった。
- 折口は、長野県の雪祭に注目した。そこには、神の役に対して、「もどき」役というものがいる。
「もどき」役は、神をまねつつそれを少しずつ崩しして笑いを取る。
- 身振りから物まねへ。神様に仕えると言いながら人への目線もあって、人々をまとめる役割をする。
- 芸能と宗教は元から結びついている。
- ほかひびと
- (1) まれびとが常世(とこよ、永遠の国)からやってくる。
- (2) まれびとが祝福の言葉を述べる。
- (3) 神事を行う宗教者が土地の歴史を語り継ぎ、語ることでその土地を祝福する(ほかふ)。
- (4) 語ることを職業とする人々が生まれる。この人々が「ほかひびと」である。
- 「ほかひびと」は芸能者の始まり
- ほかひびとは、もともと宗教者だったが、戦乱等で故郷を追われ、流浪の民となった。
- 彼らは家々を回って「ほかひ」を行ない、芸能者となる。
- 彼らは、多くの人に「ほかひ」を聞いてもらうために笑いも加えた。
- 「もどき」芸も「ほかひびと」が伝えたもの。
- 彼らは差別を受けた。それで、差別されていることを押し返す体制反発的な芸もある。
- 旅の悲しさを漂わせることもある。
- 動物と祝福
- 万葉集に祝福芸の長歌がある。鹿が自分の体を食べてくださいなどと言う。鹿は田畑を荒らす害獣。
その害獣が謝りを入れるというのは、土地にとって最高の祝福。
- 伊集院「自分を卑下するというのは、敵意が無いことを示す効果がある。自虐的な笑いというのはそれ。」
- 動物が祝福するという形は、日本の芸能の成り立ちを反映している。
- 折口の眼差し
- 歌舞伎はもともと「ごろつき」の芸能。
- 折口の育った時代、芝居小屋は「悪所」だった。
- 折口は、叔母に連れられて、幼いころから芝居小屋に通っていた。
第4回 「生活の古典」としての民俗学
- 『古代研究』の「追い書き」
- 折口は、自分の学問は多くの人には理解されないと感じていた。
- 上野「名著は常に問い続ける。」
- 折口は、旅を通じて肌で実感する学問を追求した。
- 折口は、年中行事を「生活の古典」と位置付けた。祖先とのつながりを感じることで、より豊かになれる。
- 上野「年中行事によって、日本人は日本人に戻る。」
- 柳田國男と折口
- 折口は、柳田國男を師と仰ぐ。
- 柳田は、祖霊信仰を基本と考えた。これに対し、折口は「まれびと」を基本にした。
- 柳田の研究は組織的だったのに対して、折口は実感を大事にした。
- 他界は多様なものかもしれない。日本人も多様であるということの反映。
- 太平洋戦争と折口
- 太平洋戦争で教え子が戦地に送られるようになってくる。「汝(いまし)らの千人(ちたり)の一人 ひとりだに生きてしあらば、国学はやがて興らむ。」
- 戦後、折口は、神道教学の再構築をしようとした。
- 日本的なものとそうでないものも織り交ぜて、より大きな日本を作る。