アリストテレスを読んだことは無いけれど、解説を読む限り、ギリシャ哲学は、素直でわかりやすい。
『ニコマコス倫理学』でも、倫理学が幸福を目標とするというのはわかりやすいし、
倫理をあんまり厳密な基準で考えないとか中庸を重視するとか常識的で、
これだけ見ていると倫理学はこれでだいたい十分じゃないのと思ってしまう。
しかし、現代になってくると、世の中が複雑になっているので、考えるべきことが多くなり、
これだけでは実践的な行動の指針としても不十分になっていることも多い。
なので、今でも倫理学が研究の対象になっているということなのだろう。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 倫理学とは何か
アリストテレスと『ニコマコス倫理学』
- アリストテレスは、プラトンの下で 20 年ほど学んでから、自らの学校リュケイオンを作った。
- アリストテレスがリュケイオンでの講義録を本としてまとめたものが、著作群となっている。
- 『ニコマコス倫理学』は、倫理学の原典とされる。講義草稿を息子のニコマコスが編集したもの。
- アリストテレスの著作は、9 世紀になってイスラム世界で研究が行われ、12 世紀にそれが西欧に伝わる。
「倫理学」とは何か
- 倫理学には、義務論的倫理学と幸福論的倫理学がある。
- 義務論的倫理学を代表するのはカントで、
「~すべきだ」という義務やら「~してはならない」という禁止やらに基づいた倫理学を作った。
- アリストテレスの倫理学は幸福論的倫理学で、どうすれば人間は幸福になることができるのか
という観点から人間のことを体系的に考えていく。
『ニコマコス倫理学』冒頭
- 善とはあらゆるものが目指すもの。最終的な目標は幸福。
- 目的は連鎖する。その連鎖をたどっていくと、最終的な目標は、幸福ということになる。
アリストテレスの学問分類
- 理論的学:目的は知識。自然学、形而上学、数学。
- 実践的学:目的は行為。倫理学、政治学。
- 制作的学:目的は制作物。詩学、弁論術。
実践的学は、得た知識に基づいて、実際に善く行為し、善く生き、幸福になることを目的とする。
倫理学の特性
- 倫理学にはゆらぎがある。富のゆえに破滅することもあれば、勇気のゆえに破滅することもある。
倫理学は、おおまかに真実の輪郭を示すことができればよい。
- 若者は政治学・倫理学の聴講者にはふさわしくない。人生経験が足りないからである。
倫理学は絶対的に正しい答えを示すわけではないので、常に人生経験に基づいた判断が必要である。
- 若者は感情に動かされやすい。
- とはいえ、大人になってしまうと人柄が変わりにくくなるので、講師の考えでは、若いうちに
アリストテレスを読んでおくと良い。
- 「倫理学(人柄に関わることども) ta eethika」の語源は、「習慣 ethos」→「人柄 eethos」→「人柄に関わる eethikos」。
倫理学は、どのような人柄になれば幸福な人生を送ることができるのかを考察する。
第2回 幸福とは何か
幸福と善、生活
- あらゆる行為は、すべてみな何らかの善を目指している。
- 善には、道徳的善、有用的善、快楽的善がある。日本語の「よい」にも同様のいろいろな意味がある。
- カントは、アリストテレスの「善」の定義は広すぎるとして、義務論的倫理学を展開した。
- 幸福は最高善。3つの種類の善をバランスよく組み合わせて幸福が得られる。
- 人間には、人間ならではの機能がある。それは理性である。理性は「分別、判断力」である。
人間は、理性を使って「よく生きる」ことで幸福になる。
- 人間は「今ここ」だけではなく視野を広げて生きていくことができる。それも理性の一面。
- 人間は、持って生まれた能力や可能性をできる限り現実化して充実した活動をする中に幸福が実現する。
- 人間は、理性を十全に発揮することになかに幸福を見出す。理性をうまく活用すると、本能も花開く。
- 快楽的生活、社会的生活、観想的生活のうち、アリストテレスは、社会的生活、観想的生活を重視する。
社会的生活とは、ポリス社会の中でしかるべき役割を果たすことで自己実現をすること。
観想的生活とは、この世界の真理を認識することが幸福と感じること。
徳
- 徳(アレテー、卓越性とか力量と訳すこともある)とは、何かの機能を十全に発揮させるもの。
ナイフのアレテーは、ナイフが良く切れる状態になっていること。
- 思考の徳(知的徳)は、教示で身に付くもので、経験と時間を要する。たとえば、数学的能力は、公式を教わったりすることで身に付く。
- 性格の徳(倫理的徳)は、習慣(エトス)から形成される。たとえば、勇気は、勇敢な行為を繰り返すことで身に付く。
- アリストテレスが重要と考える徳(枢要徳)は、賢慮(判断力)、勇気(困難に立ち向かう力)、
節制(欲望をコントロールする力)、正義(他者や共同体を重んじる力)の4つ。
- 徳は、幸福な人生を送るための必要条件。
第3回 「徳」と「悪徳」
「徳」を身に付ける
- 「徳」は、人間が持っている可能性や能力を現実化し、充実したありかたができるようになることであった。
- 「性格の徳」は生まれつき持っているのではなく、人間が持っている資質を行為の積み重ねを通じて現実化していくもの。
- 正しいことを行うことによって、正しい人になる。節制あることを行うことによって、節制ある人になる。
勇気あることを行うことによって、勇気ある人になる。
- 「徳」が身に付くと、素早くできるようになるし、喜びも得られるようになる。
- 「徳」がある人をモデルにすると、徳が身につく。
- 「悪徳」は悪い習慣によって身に付いてしまう。
節制
- 節制ある人の4つのパターン:1 決してぶれずに節制する人(節制ある人)、2 葛藤の末に節制する人(抑制ある人)、
3 葛藤の末に欲望に負ける人(抑制のない人)、4 欲望のままに振舞う人(放埓な人)
- 「徳」を身に付けるには時間がかかる。揺り戻しもある。
中庸
- 運動し過ぎても運動不足でも体に良くない。「徳」についても同様。「勇気」は、臆病と向こう見ずの間にある。
「気前の良さ」は、ケチと浪費の間にある。「節制」は、放埓と無感覚の間にある。
- 程良い加減は難しい。
第4回 友愛とは何か
友愛
- 友愛(ピリアー、フィリア)=人と人とを結びつける愛
- 人間は社会的な存在であって、他者と共に生きる自然本性を持っている。一人で生きるのは野獣か神である。
- 互いに親しければ、正義はことさら必要ない。
- 最も正しいことというのは、友愛に満ちたものと考えられる。
- 愛の対象になる者は、善いもの、快いもの、有用なもの。これは、道徳的善、快楽的善、有用的善(第2回)に対応する。
- 友愛の条件:(1) 相手に好意を持ち、善を願う (2) 相手もこちらに好意を抱いている (3) 互いに相手の思いに気付いている。
- 嫉妬=他者の善を悲しむ
- 3種類の友愛:(1) 人柄の善さに基づいた友愛 (2) 有用性に基づいた友愛 (3) 快楽に基づいた友愛
- 人柄に基づいた友愛は、完全な友愛であり、持続的である。人柄に基づいた友愛は、有用性も快楽も含んでいる。
- 親密になるには時間が必要。友愛は数ではない。
- アリストテレスは、有用性や快楽に基づいた友愛も否定しない。