著者の Daniel Yergin は、ピューリッツァー賞を受賞したこともあるエネルギーの専門家である。 本書を読むと石油・天然ガスを中心とした世界地図が今どうなっているか良く分かる。 現代のエネルギー情勢について、よく目配りが効いた網羅的な解説になっている。 文体は、学問文体ではなくて、ジャーナリスト文体である。
私が高校生の時に地理で習っていたときとは、エネルギー地図が一変しているのに驚く。とくに米国とロシアが 石油と天然ガスの大産出国になっている(第1部、第2部)。最近の世界情勢は、この事実を抜きにしては語れない。
中国は、米国と肩を並べる経済大国になった(第3部)。そのため中国の需要が世界のエネルギー情勢を左右するようになった。
中東は大混乱を続けている(第4部)。米露が石油・天然ガスの輸出国となったため、米露は最近中東から手を引き気味で、 イラン(シーア派)とサウジアラビア(スンニ派)がお互いに対抗して周辺諸国に介入を続けることで泥沼になっている。
この本が書かれた後の今年 (2022 年) 2 月、ロシアがウクライナに攻め込んだことで、ロシアを中心とした エネルギー地図がまた変わった。西欧がロシアに対して経済制裁をしたため、ロシアの石油は、中国、インド、トルコに 流れるようになった。一方、ロシアは西欧に対して天然ガスの供給を一時止めたりして揺さぶりをかけてきている。 原油価格は上昇し、一時は 1 バレル 120 ドルを超えた。 [参考:NHK スペシャル「混迷の世紀 第1回 ロシア発 エネルギーショック」2022/08/09]
これに先立つ 2021 年からロシアはウクライナのパイプライン経由のヨーロッパ向けの天然ガス供給を絞ってきていたため、 ヨーロッパの天然ガスの価格は上昇していた。 [参考: 白川裕「JOGMEC 天然ガス・LNG 最新動向 2021/12/24」]
こうした政治情勢とは別に、自動車の動向(第5部)と地球温暖化問題(第6章)は、化石燃料の将来に大きな影響を 与える問題として取り上げられている。
巻末に「用語一覧」があるのだが、電子書籍版では、単語が羅列してあるだけで本文へのリンクもなく何の意味もない。 なぜこんな手抜きをしたのだろうか。