今回は私も好きなシャーロック・ホームズの特集。探偵小説の魅力は、人間性の探究であるということを再認識した。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 名探偵の誕生
ホームズ・シリーズの魅力は、ワトソンを相棒とした「対話」という形式にある。
『緋色の研究』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- ワトソンは軍医だった。第2次アフガン戦争で負傷し、送還された。
- 下宿探しをしていると、シャーロック・ホームズを紹介された。
- ワトソンは、ホームズとの共同生活を始めた。
- ホームズの知識はひどく偏っていた。
- ホームズは「推理分析学」の考えを展開する。
- 警察から殺人事件の捜査を依頼される。
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- ホームズは、ワトソンを見るなりアフガニスタン帰りだと言い当てる。
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- 被害者は、ドレッバーという名のアメリカ人だった。スタンガソンという秘書とともにロンドンで下宿していた。
- ホームズは、死体と足跡を調べる。死体をどかした跡には結婚指輪が落ちており、壁には RACHE と緋色で記されていた。
警察は、RACHE は RACHEL のことだと推測する。
- 翌朝、スタンガソンも刺殺されていた。2つ錠剤があった。一つは無毒で、一方は毒薬だった。
- ホームズは真相を見破った。
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- ホームズは、加害者は辻馬車でやってきて、大柄の男性だと推理した。被害者は毒物を飲まされたと推理した。
RACHE はドイツ語で「復讐」だ。動機は女性関係だろう。
- タイトルの Study in Scarlet に関連したホームズの台詞がある。ホームズは、犯罪の側面から
「人間とは何か」を研究している。
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- ジェファーソン・ホープが逮捕される。
- 物語の舞台が 30 年前のアメリカ西部になる。
- ホープにはルーシーという恋人がいた。ルーシーは幼い頃、育ての父ジョン・フェリアとともに命を救われる。
命を救ったのは宗教団体だった。ただし、改宗が条件が救うためのだった。
- ジョン・フェリアは、あるとき、宗教指導者から、ルーシーを長老の息子と結婚させるように脅される。
その息子がドレッバーとスタンガソンだった。
- ルーシー、ジョン・フェリア、ホープは逃亡する。しかし、追っ手によってジョン・スタンガソンは殺され、
ルーシーは連れ戻される。
- ルーシーは一月も経たずに死んだ。
- ホープは復讐を果たした。
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- ドイルは因果応報の要素を強めるため、ホープは被害者ドレッバーにに無毒と毒の錠剤を選ばせる。
- 事件後、ホープは動脈瘤破裂で死ぬ。ドイルは、復讐を果たした人を罰したくなかったのだろう。
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シャーロック・ホームズの誕生
- 1859 年、アーサー・コナン・ドイルはエディンバラに生まれる。
- 幼い頃から成績優秀だった。
- ドイルは医師になったが、短編小説も手掛けた。
- ドイルは長編小説にも挑戦しようと思ったところ、大学でのジョウゼフ・ベル博士を思い出した。
ベル博士は観察眼が鋭かった。ベル博士がホームズのモデルだ。容姿もベル博士をモデルにしている。
- 『緋色の研究』は、当初注目されなかった。
- 「ストランド」誌に1回完結のホームズ物を連載することを思いついた。これが爆発的に売れた。
『グロリア・スコット号』
ホームズが手掛けた最初の事件。若きホームズがトレヴァ老人の過去を言い当てたので、
トレヴァ老人は驚愕する。それで、トレヴァ老人は、ホームズに探偵を仕事にするとよいと薦める。
第2回 事件の表層と真相
『赤毛組合』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- 質屋の店主ウィルソンは、毎日数時間百科事典を写すだけで法外な報酬が支払われるというアルバイトをした。
「赤毛組合」の求人広告に応募して得た仕事だった。
- 2か月後、突如アルバイトをしていた事務所が無くなった。
- 従業員は、地下トンネルを掘って銀行強盗をしようとしていた。
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- ウィルソンは質屋で出不精。熱心な従業員が求人広告を見つけてきた。
- 求人広告に応募してきた群衆の描写がリアル。
- 日常に潜む異常性を描いているという意味で、現代的。
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当時のロンドン
- 当時、ロンドンは世界最大の都市。
- イースト・エンドは、労働者や移民が数多く暮らしており、スラム街でもあった。貧富の格差が大きかった。
- 1888 年、イースト・エンドで切り裂きジャック事件発生。娼婦の連続殺人事件だった。事件は未解決に終わった。
- 当時は警察の能力もまだ低かった。目撃証言や密告を基にした捜査で、未解決事件も多かった。
- 時代はホームズを求めていた。
『唇のねじれた男』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- セントクレア夫人がホームズに行方不明の夫探しを依頼する。
- 数日前、セントクレア夫人は夫が阿片窟の3階にいるのを偶然目撃した。
夫人が警察とともに3階に行ったときには、物乞いのヒュー・ブーンしかいなかった。それ以来、夫は行方不明。
- ブーンは、セントクレアが変装した姿だった。彼は、家族に黙って物乞いをしていた。
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- みかけは大事件なのに、犯罪ではなかった。
- 妻が裏通りで夫の姿を見かけた時の様子の夫と妻の認識のずれが面白い。
夫婦間の信頼の危機が描かれているところが秀逸。
- ホームズは、セントクレアにより良い生き方を促している。
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『背中の曲がった男』
妻の元カレの悲話。夫はかつて彼が騙した「元カレ」の姿を見てショックを受け、倒れて死ぬ。
事件の背後には長い物語があったという話。
第3回 ホームズと女性
『ボヘミアの醜聞』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- 事件の依頼人は、ボヘミア国王。結婚を控えて、昔アイリーン・アドラーと撮った写真を取り返してほしいという依頼だった。
- ホームズは牧師に変装してアイリーンの部屋に潜入。写真の隠し場所を突き止めた。
- 翌日、またアイリーンの部屋に行ってみると、アイリーンは手紙と自分の写真を残していなくなっていた。
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- ホームズは、女性は火急の時には大事にしているもののところに行く、としている。
- ホームズは、アイリーンの能力の高さを認めて敬意を払う。
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『サセックスの吸血鬼』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- 依頼人のロバート・ファーガソンには二人子供がいた。一人は先妻との間に生まれたジャック。
もう一人は再婚相手のペルー人の妻との間に生まれた赤ん坊。
- 乳母が吸血鬼のようなファーガソン夫人を目撃。赤ん坊の首筋に噛みついていたという。夫人はジャックを叩いていたこともあったという。
- ホームズが真相を解明。ジャックが毒矢を赤ん坊に刺したので、夫人は血を吸い出していたのだった。
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- ジャック少年は、母親を亡くしており、障碍を持っていたので、赤ん坊に嫉妬していた。
- 夫人は、夫が傷つくのをおそれて黙っていた。
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ドイルが描いた女性像
- ドイルの時代は、「新しい女性」が生まれ始めていた。19 世紀の女性は、良き妻、良き母となることが求められていた。
- 中流階級の女性が自活できる唯一の道は、女家庭教師 (governess) だった。
- シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』では、自立を求める「新しい女性」の姿が描かれている。
- ドイルは、母親を慕っていた。
『第二のしみ』
親書盗難事件である。行動的な女性ヒルダが描かれている。
第4回 人間性の闇と光
探偵小説
- 探偵小説とは、人間の悪の秘密を白日のもとにさらして、人間の弱点・暗部を探究する作品である。
- イギリスの探偵小説は2層構造になっていて、事件の謎解き・筋書き・トリックという「高音部」の下に
人間性についての探究という「通奏低音」が流れている。
『ボール箱』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- スーザン・クッシングのもとに不審な小包が届く。切断された人間の耳が2つ入っていた。
1つは女性、もう1つは男性のものだった。
- 小包の紐と結び目から、ホームズは船に関わる人間の殺人事件だと推理する。
- スーザンには、セアラとメアリという妹がいた。メアリの夫は船乗りのジムで、ホームズはジムが犯人だと推理する。
- ジムの供述によれば、セアラがジムを誘惑したことが発端だった。ジムがそれをはねつけたので、
メアリに別の船乗りとの浮気を唆した。ジムは、メアリがその船乗りとデートしているところを見かけて激昂し、
二人を殺して、耳をセアラに送りつけたのだった。
- ホームズの言葉「こんな苦悩と暴力と恐怖の連鎖が、いったい何になるっていうんだろうね?(中略)
これは永遠に続く大問題で、人間の理性ではいまだに答えが出ないんだよ。
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- 嫉妬や怨念が殺人に発展する。
- 耳を切り落とす話として有名なものに、ゴッホが自分の耳を切り落とした事件とか「耳なし芳一」の話などがある。
- セアラの嫉妬心がジムに連鎖している。
- ドイルは人間の情念の恐ろしさで物語を結んでいる。
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『ボスコム谷の謎』物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- ボスコムという地で農場を営むマッカーシーが殺される。容疑者として、息子のジェイムズが捕まる。
直前に親子が言い争う姿が目撃されていた。
- ジェイムズの幼馴染のアリス・ターナーが、彼の無実を主張してきた。
- ホームズは、ジェイムズの証言が本当だと信じた。ホームズは、アリスの父親で大地主のジョン・ターナーが犯人だろうと
目を付けた。マッカーシーは、ジョン・ターナーの過去のオーストラリアでの悪事をネタに彼をゆすっていた。
ジョン・ターナーは、マッカーシーの暴言に怒って彼を殺してしまった。
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- ホームズは、ジェイムズの証言に関して心理分析をする。ホームズは、人間の心の中の光の部分も見ている。
- ジョン・ターナーの余名がいくばくも無いと知って、ホームズは彼を警察に突き出さない。
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ドイルのエピソード
- 1907 年、新聞にエダルジという青年の冤罪を晴らそうとするドイルの記事が掲載された。
その4年前に、夜中に牧場で家畜が腹を切り裂かれる事件が起きた。警察は、インド系のエダルジを逮捕。
ドイルは、エダルジが強い近視であることに気付き、無実を証明した。
- ドイルは、ホームズとは正反対の人物で、むしろワトソンと重なるところが多い。それが読者に好感を持たせている。
- ドイルは、一度ホームズを葬り去ったことがあった。ホームズは、犯罪王モリアーティ教授とともに
ライヘンバッハの滝に落ちた。しかし、読者からの抗議の手紙が寄せられて、ドイルは8年後にホームズを復活させる。
- 最後には、ドイルはホームズをサセックスに引退させる。1930 年、ドイルもサセックスで生涯を閉じる。
私たちが探偵小説を求めるわけ
どんなに時代が発達しても暴力性や犯罪は止まない。そうした中、虚構世界の中であっても、具体的な事件を解決して、
一次的に不安を解消してくれる探偵の存在を私たちは切望する。でも、探偵小説を楽しめるのは、
自分たちの周囲で平和が保たれているときであるという逆説的状況ではある。