中国が大国になってきたし、日本語とも欧米語ともスタイルが違う言語を勉強してみたいと思って 中国語に手を付けることにした。以前にも少し勉強しようとしたこともあったが、結局、四声が覚えられないし、 文法も全体構造がよくわからずに挫折した。
そんな中、本書は、中国語文法が全体像から細かいところへという風にまとめてあってわかりやすい。 重要事項の説明も丁寧である。たとえば、初学者にはわかりづらい「了」というアスペクト助詞も、 動詞を2段階動詞(状態を表す動詞で、その状態かそうでない状態かの2通りが区別される)と 3段階動詞(動作を表す動詞て、動作がなされる前、動作がなされている時、動作がなされた後の3通りが区別される)に分類して、 それぞれに「了」が付いた場合のはたらきについて順々に説明してあって理解がしやすい。
「象は鼻が長い」式の主題と主語がある文が中国語でも普通だということがわりと最初の方で書かれているのも良い。 このような文を「主述述語文」などと書いているテキストもあるが、それでは中国語の構造がかえって分からなくなると思う。 中国語では、日本語と同様、主題を頭に持って来ることが良くあるのだ、と思えば、動詞の目的語に当たる語が前に出てくる現象 (これは「意味上の受け身文」と言ったりすることもある)と統一的に理解できる。日本語文法でも、学校文法では、 主語と述語は出てくるが「主題」という概念を入れていないのは常々おかしいと思っている。
本書を読んでみてよくわかったことは、中国語が動詞中心の言語だということだ。日本語は助詞・助動詞・接続詞が中心である。 欧米語も動詞中心だが、中国語が動詞中心というのとはだいぶん違う。欧米語は、動詞の人称変化、法、時制、不定詞、 分詞などが文法の中心になっているが、中国語は活用が無いので、動詞句をどこに置くかで意味が決まる。 助動詞、前置詞、アスペクト助詞、補語なども単独で動詞として使えるものも多いので、それらも広い意味では動詞と見れば、 動詞をどう並べるかが文の意味を決めているようなものである。
中国語には日本語に近い部分もあり、欧米語に近い部分もあり、それらとは全然違う部分もあることがわかる。 以下、中国語が日本語に近くて面白いなと思う部分と英語に近くて面白いなと思う部分、中国語独特の部分を挙げていく。 こうしたことを考えると、なぜ英語を直訳すると漢文訓読体のようになってしまうのか、 なぜ漢文を日本語で読もうとすると返り点と送り仮名があのような形で必要なのかがわかる。
中国語と日本語が似ている部分
- 主題と主語がある文
- 大象鼻子很长。Dàxiàng bízi hěn cháng. 象は鼻が長い。
- 人一般に当てはまる文では主語を置かない
- 从东京到北京要多少时间? Cóng Dōngjīng dào Běijīng yào duōshǎo shíjiān? 東京から北京までどのくらいの時間を要しますか。
- 動詞が無くて形容詞を述語とする文
- 我最近很忙。Wǒ zuìjìn hěn máng. 私は最近忙しい。
- 方向補語;日本語の「動詞の連用形+て+動詞」「動詞の連用形+て+動詞」にだいたい対応
- 走来 zǒulái 歩いてくる(漢文訓読風だと「走(あゆみ)来(く)」)
- 走去 zǒuqù 歩いていく(あゆみゆく)
- 走回来 zǒu huílái 歩いて戻ってくる(あゆみもどりく)
- 走回去 zǒu huíqù 歩いて戻っていく(あゆみもどりゆく)
- 欧米語の特徴である時制や法や格の概念がない。
中国語と英語が似ている部分
- 目的語は動詞の後に置く;漢文訓読では返り点を使って読む
- 我吃了一碗面条。 Wǒ chīle yìwǎn miàntiáo. I have had a bowl of noodles.
- 間接目的語と直接目的語を取る動詞;漢文訓読では適当な助詞を振る
- 他教我汉语。Tā jiāo wǒ Hànyǔ. He teaches me Chinese.
- 使役動詞(叫,让,请,使);漢文訓読では「~ヲシテ~セシム」のような感じで読んでいく
- 让我看看。Ràng wǒ kànkan. Let me have a look.
- 格変化が無く(英語は少しはある)、日本語ほど助詞のようなものがないため(英語では不定詞に to を付けるが、 中国語にはそれさえもない)、語順が極めて重要。
中国語が日本語とも英語とも似ていない部分
- アスペクト助詞(在,了,过,着)
- 助動詞、前置詞、アスペクト助詞、補語といったものが動詞を起源とするものが多く、単独で動詞として使えるものも多い。 そのため、極端な言い方をすれば、中国語は動詞と名詞だけからできているという言い方さえできそうだ。
- 呼応する接続詞が多い。たとえば、「因为A,所以B」は「AだからB」。ただし、「因为」と「所以」の一方が省略されることも多い。 ところで、この「因为」は、日本語の字体で書けば「因為」で、 古くは単に「為」(ため)だったのだそうだ。だから、「因为」を「ため」と読むことにして、 返り点を打って「因为A」を「Aのため」などと読み、「所以」を「ゆえん」ではなく「それゆえ」とでも読むことにすれば、 ちょっとくどいが、「因为A,所以B」は「Aのため、それゆえB」と漢文訓読風に読むことが出来る。