フロイト 夢判断

著者立木 康介(ついき こうすけ)
シリーズNHK 100分de名著 2024 年 4 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2024/04/01(発売:2024/03/25)
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読了2024/04/27

精神分析学の金字塔ということを知ってはいたが、読んだことはなかった。この放送で、 フロイトが夢を突破口にして無意識の世界に初めて足を踏み入れた人だったということがよくわかった。 が、すっきりしない部分も多く残る。

そもそも、無意識の世界は広い。夢でわかることは、おそらくそのごく一部である。 最近では、fMRI などの脳活動イメージングも大きな研究手段になっている。 将来、いろいろな知見が総合されて無意識の世界の全体像が描けるようになるまでは、 すっきりした理解は得られないのだろうと思う。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 「無意識」の発見と夢分析

講師は、ラカンの研究をしていて、その元にあるフロイトを読んだ。

夢判断は、夢占いとは異なり、夢をみた本人に判断・解釈をさせる。

フロイトの生い立ちから『夢判断』の刊行まで

『夢判断 (Die Traumdeutung)』概要

『夢判断』に出てくる夢の数は 160 で、そのうち 1/3 がフロイト自身の夢である。 当時、フロイト自身、神経症的な心身の不調に見舞われていた。フロイトは、自分自身を患者として精神分析を行った。 1896 年に父親が亡くなっており、それを乗り越えるという意味もあった。

フロイトによる4つの発見:

  1. 夢を見るのは「身体」ではなく「心」
  2. 一切の夢は「願望充足」
  3. 夢は「眠りの守護者」
  4. 夢は心的装置の根源的傾向性である「快原理」の最も身近な現れ

「イルマの注射の夢」

1895 年夏、フロイトは若い女性患者イルマを精神分析する。彼女はフロイトの治療を受け入れず、 治療は中途半端で中断する。そんなある日、年下の同僚オットーがイルマ一家を訪問する。 オットーはイルマの様子を説明するが、その言い方をフロイトは不愉快に感じる。フロイトは、 信頼するドクターMに見せるため、イルマの病歴を書き記す。

その夜、フロイトは夢を見た。

夢の内容解釈
イルマが痛みを訴えるのに対して、フロイトは「君自身が悪いのだよ」と言う。 フロイトの本心が現れている。
ドクターMはいつもと様子が違う。 ドクターMは、共同研究者のヨーゼフ・ブロイアー。夢の中で、ブロイアーと自分の兄が混ざっている。 当時、フロイトはブロイアーと兄からある提案を断られていた。
オットーとレーオポルドを比べて、レーオポルドに軍配を上げている。 フロイトは、日頃から何となくオットーを気に食わないと思っていた。

フロイトは、夢の潜在思考の中に願望の充足を見出す。この夢の場合は、責任回避と復讐(自分の嫌いな相手を貶める)。

第2回 夢形成のメカニズム

今回は、無意識が夢を紡ぎ出す仕組みを考える。

夢は、抑圧された願望の偽装された満足である。

「肉屋の美人細君の夢」

[細君の夢の内容] 人を夕ご飯に招こうと思った。しかし、スモークサーモンが少々あるほかには、何の蓄えもなかった。 買い物に出かけようと思ったが、日曜午後なので、店はどこも閉まっている。それで、 人を招待したいという願いは諦めてしまわないといけなかった。

この夢では、一見、願望が充足していないように見える。

しかし、前の夜、太っていることを気にし出した肉屋の夫が、今後は夕食に招待されても応じないことにする、 と言っていた。さらに、細君は夫をからかうのに、「私に一切キャヴィアをくださらないでね」と頼んだこともある。 その細君は、キャヴィアは好きだけど、贅沢だと思ってキャヴィアを食べるのを控えている。

さらにその細君は、前の日、ある女友達の家を訪問していた。彼女は、夫がその女友達を褒めるので、 女友達にに少し嫉妬していた。その女友達は痩せていたが、もっと太りたいともらした。 一方、夫は豊満な女性が好きだった。そして、その女友達は、スモークサーモンが好きだった。

フロイトの解釈:

夢が歪曲される理由。表に出すと都合が悪いから無意識になっているものが、迂闊にも夢で少し出てくる。 それでもやっぱり表に出したくないので、夢が歪んでしまう。

神経症の本質は、アクセルとブレーキが同時に踏まれること。その葛藤が夢に反映される。 だからこそフロイトは夢に注目する。

局所論

フロイトは、心の中に3つの異なる場を区別する:

  1. 意識:心の表面
  2. 前意識:無意識から意識に侵入する思考を検閲して、抑圧し続けようとするはたらき
  3. 無意識:意識の外に追いやられた「抑圧されたもの」の場

表現可能性への顧慮

無意識は、ものごとを論理化できない代わりにビジュアル化する。このことを「表現可能性への顧慮」という。 「ドラマ化、演劇化」ということもある。

思想の代わりに形象化が行われる。

夢はダジャレのようなものまで動員することがある。たとえば、「恋」の話が、「鯉」を釣る話にすり替わるなど。

夢作業

フロイトは、夢作業(潜在思考を夢の内容に置き換えること)として4つ挙げている:

  1. 圧縮:2つ以上のイメージが1つのものに重ねる
  2. 移動:核心をずらす
  3. 表現可能性への顧慮:ビジュアル化
  4. 二次加工:夢の全体としての見え方を整えるはたらき。夢の材料の隙間を埋めるはたらき。「夢のファサード」

二次加工には、空想が用いられることがある。空想には、固有のリアリティがある。 それをフロイトは「心的現実」と呼ぶ。

夢の臍

フロイトは、夢分析には行き止まりになる地点があると考えていて、それを「夢の臍」と呼んだ。 この問題には、今でも決着がついていない。

第3回 エディプス・コンプレックスの発見―無意識の愛と性

エディプス・コンプレックス

男児が無意識のうちに母親に愛着を持ち、自分と同性である父親に敵意を抱くという情動の複合体

『性理論三篇』(1905)

エディプス・コンプレックス理論への批判

性的多様性

エディプス・コンプレックスの現代的意味

第4回 無意識の彼岸へ

『夢判断』の3層構造

メタ心理学

子供が火に焼かれる夢

息子を亡くしたばかりの父親が、遺体が安置された部屋の隣で眠っている。遺体の番は老人がしている。 父親は、子供がやってきて自分が火に焼かれているのがわからないのかと言う夢を見た。 父親が目を覚ましてみると、老人は居眠りをしていて、蝋燭が遺体の上に落ち、経帷子と片方の腕が焼けていた。

フロイトの推論:

ジャック・ラカンの問題提起:夢遊病になることもできたのに、なぜ目覚めたのか? 現実界 (le réel) とは人間にとって一番リアルなもの。リアルだが、乗り越えることもつかむこともできないもの。 この夢の場合は、父親と息子の間にある溝のこと。現実界はおそろしく不安にさせるものなので、 それから逃れるための手段として目覚めた。

フロイトが論じなかった夢

フロイトが扱わなかった夢のタイプが少なくとも2つある:

  1. 潜在思考のない夢:不安や恐怖などのプリミティブな情動を発散するためだけに形成される夢。たとえば、乗っている飛行機が墜落する夢。
  2. フラッシュバック的な夢:PTSDで多い。巨大なエネルギーが心の外壁を突破してしまった後で、それを受け止め直そうといういう試み。

フロイトの晩年

精神分析とは

講師によれば、精神分析とは、今日までと違う明日を手に入れに行く試み。