最近、学生の研究を通して地形に関心があるのと、地形学者でもない著者がどういう風な書き方をするのかなあ
というところに興味を持って読んでみた。読んでみると、川が作る地形に関する雑学のような軽い読み物だったし、
著者の専門であるテクトニクスと川の流路の関係に重点があった。するっと楽しめた。
サマリー
第1部 川をめぐる13の謎
- 黄河と揚子江は、源流が近いにもかかわらず、黄河は北に大きく回り、揚子江は南に大きく回るのはなぜか?
―黄河は中朝地塊の北側の縁に沿ってぐるっと回っていて、揚子江は揚子地塊の北側の縁に沿って流れているから。
- ヒマラヤ山脈を横切るように流れている川がいくつかある。これらは山脈が隆起する前からあった川で、
山脈が隆起するとともに河床を下刻しながら生き残ってきたものである。
- 雲南省のシャングリラ地域には、揚子江、メコン川、タンルウィン川という大河川が狭い範囲で並行して
流れている。これは、インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突して北東-南西方向に圧縮が起きたためにそうなった。
- 断層が川の流路を変えることはよくある。(例1) 丹那断層を横切って流れる柿沢川は、断層の横ずれで屈曲している。
(例2) 紀ノ川や吉野川は、中央構造線の断層破砕帯に沿って流れている。(例3) ヨルダン川は、南北に走る地溝帯に沿って流れている。
- 河川の争奪現象の説明。(例1) 琵琶湖の北西岸に百瀬川と石田川が流入している。この百瀬川の上流部は、
かつて石田川だったものを百瀬川が奪ったものである。(例2) ベトナムのホン川の上流部は、揚子江とメコン川に奪われた。
- 天井川は、人工の堤防のために河床が周囲より高くなってしまう現象である。花崗岩は風化して真砂になりやすいため、
花崗岩地帯を流れる川に天井川がしばしば見られる。
- 河岸段丘は海水準変動と地殻変動の兼ね合いでできる。相対的に海面が低くなると、川の下刻が進み、
相対的に海面が高くなると堆積物が平坦面を作る。
- 雪融け水などで、砂漠で洪水が起こることがある。砂漠は、比較的平坦なので、
ロプノール「さまよえる湖」の話のように川が流路を変えることもよく起きる。
- 静岡県駿東郡清水町にある柿田川は、平野部の湧水からいきなり始まっている。
これは富士山の伏流水が湧いてくるものである。富士山の表面は穴だらけなので、表面には川が無く、伏流水になる。
- 黒い川と白い川:(1) 島根県を流れる斐伊川の上流部は河床が黒い。これは、花崗岩が風化してできた磁鉄鉱が比較的重いので、
上流部に堆積するためである。だからこそ出雲は古くから製鉄が盛んなのである。日本では、磁鉄鉱系花崗岩は、
北上山地と中国山地にしか産出しない。(2) 京都の白川は河床が白い。これは、花崗岩が風化してできた砂のうち、
比較的軽い石英や長石が下流まで流れてきたものである。(3) アマゾン川の支流の一つであるネグロ川は、水が黒い。
それは植物から腐植酸ができるためである。pH も非常に小さい。
- 普通の水ではないものが流れる川のいろいろ:(1) キラウエア火山の溶岩は粘性が低いので、川のように流れる。
(2) 流砂。(3) 土砂や岩石が水と一緒に流れる土石流。(4) 温泉地域では、お湯の川がある。(5) 沖縄には、
塩水が流れる塩川がある。地下水に海水が入り込んでできたのではないかと思われる。(6) 氷河。
- 陸上の川の続きには海底谷があり、海溝まで続いており、土砂を運んでいる。海底谷の成因として考えられるのは、
(1) 断層 (2) 土石流による海底の削剥 (3) かつて陸地だったときの川、がある。海底谷が運ぶ堆積物が大量だった場合、
有機物が埋没して石油になることがある。
- 地球外の川:(1) 火星のマリネリス峡谷にはかつて水が流れていた。(2) タイタンにはメタンやエタンが流れる川がある。
(3) 南極の氷の下には川が流れているかもしれない。
第2部 川を下ってみよう
多摩川の上流から下流に向けての地形の変化を見ていく。
- 水系とは、本流とそのすべての支流を含めた河川群である。流域とは、その川の水系がある地域のすべてである。
- 多摩川の源流は、秩父市と甲州市の境にある笠取山である。秩父市、山梨市、甲州市の境界が分水嶺である。
秩父市側が荒川、山梨市側は笛吹川、甲州市側が多摩川の流域となる。笠取山の南側斜面に「水干(みずひ)」
と呼ばれる場所があり、岩の割れ目から水が浸み出している。これが多摩川の最初の水になる。
- 川は名前を、水干沢→一之瀬川→丹波川(たばがわ)と変えていく。そして人口湖である奥多摩湖に入る。
- 奥多摩湖から小河内ダムを出て、川の名前が多摩川になる。
- 小河内ダムから少し下流に発電用の白丸ダムがある。ここには日本最大級の魚道が設けられている。
- 川の上流に特徴的な景観に滝がある。
- 多摩川は、青梅から関東平野に入り、中流となる。ここから扇状地である武蔵野台地が広がる。
- 日本の川は急流だとよく言われるが、世界の大河も上流まで遡るとかなりの急流になっていることがある。
- 多摩川は、昔のプレート境界に沿って流れている。
- 羽村取水堰から玉川上水の水が取られる。
- 川の中流域で特徴的な地形に河岸段丘がある。段丘の縁は崖線と呼ばれる。
- 多摩川は、田園調布のあたりからが下流ということになっているが、むしろ中流と下流の境目は特にないというべきである。
- 川の下流域で特徴的な地形に三角州がある。
- 川の下流域では、川が蛇行する。川が蛇行していた平野が隆起すると、山間部での蛇行になる。
これを穿入蛇行という。
- 多摩川河口には、河口原点の金属標がある。
- 多摩川の河口の先には東京海底谷がある。そこには淡水は流れないが、乱泥流が流れる。
最終的には、海溝三重点付近の海底扇状地である坂東深海盆に至る。
第3部 川についての私の仮説
川に関する著者の仮説3つ。
- 著者は、日本海が開く前、ウスリー川と信濃川と天竜川はつながった巨大河川だったと考えている。
日本海が拡大し、フォッサマグナが形成されて、ウスリー川、信濃川、天竜川が分断された。
第四紀に入って中央アルプスと南アルプスが隆起して、善知鳥(うとう)峠が信濃川と天竜川の分水嶺になった。
- 著者は、超大陸パンゲアが分裂する前、南米のアマゾン川とアフリカのニジェール川はつながっていたと
考えている。とすると、アマゾン川もニジェール川も今とは逆向きに流れていたことになる。
- 北米大陸、南米大陸、アフリカ大陸には3つの大河川がある。一般にその程度の大きさの大陸には
3つの大河川ができるのではないか。それは、大陸が分裂するときには3つの裂け目ができる(オラーコジン)
という考えと関係しているのではないか。