平易な日本の宗教史。古代から現代まで万遍なくカバーしている。といっても、著者の専門である鎌倉時代~室町時代 ~戦国時代の記述が厚く、そこが本書の読みどころである。その時代は、日本仏教が成立した時期で、なぜ日本的な 仏教が庶民に広まっていったのかが分かる。要するに、シンプルな教義で万人に救済が約束されることが重要だったということだ。
宗教が歴史を大きく変えたと言える事例も書かれている。一年くらい前の NHK スペシャル「家康の世界地図 〜知られざるニッポン“開国”の夢〜」でも取り上げられていたが、徳川家康は自由な 国際貿易を行うことを目指していた(第9章)。さすが家康は視野が広く、外交に優れていた。ところが、 1614 年のキリシタン追放令(禁教令)を境に雲行きが変わる。NHK によれば、家康は貿易と宗教は別と考えていたようだが、 スペインはそうではなかった。家康は 1616 年に死に、秀忠以降の将軍には家康ほどの外交構想力は無く、 キリスト教排斥を優先したので、貿易と宗教は別と割り切っていたオランダだけがヨーロッパの貿易相手国として残った。 これも「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」がなせる業だろうか。
一般に宗教の話が面白いのは、人間性の聖なる部分と俗なる部分、高尚な哲学と卑俗な欺瞞といったものがないまぜになって、 人間が持っている多様な側面を見せてくれるところにあると思う。本書は、著者が歴史学者だけあって、俗な部分のエピソードを けっこう交えて書いている点が特徴である。たとえば、平安時代に、神罰仏罰を脅し文句にして、税の取り立てが行われたという 話が書いてある。それで思い出したのは、私が学生の時に統一教会に誘われて断ったら、地獄に落ちると言われたことである。 神罰仏罰は、いつの時代も脅し文句に使われるものである。
本の文章は読みやすいが、サマリーを書こうとすると書きづらいところがある点や、 章タイトルの付け方から見て、著者の口述をゴーストライターがまとめた本だろうと推察する。