認知症の親族の介護とか、嫁と姑の確執だとか、女性が直面しがちの問題を描きつつ、その裏にミステリ仕立てで 過去に起こった悲劇の謎を書くという小説。ミステリ仕立てといっても、探偵が謎解きをするわけではなく、 認知症になった主役の過去の日記を読んで謎が解けるという仕組みなので、その意味ではそれほどミステリぽくはない。 しかし、伏線を張っておいて後で回収するという仕掛けが随所にみられるところがミステリ仕立てで、 ミステリ風に楽しめる。
最初のうち主人公は語り手の浜辺(旧姓)美佐であるかのように見えるが、美佐は語り手役で、 実は本当の主人公はその叔母の森野弥生さんである。美佐が、認知症になった弥生さんの介護に行く というところから話が始まる。それは、姑にいびられて息苦しい家からの逃避でもあった。 しかし、美佐の夫や姑のことは断片的にしか書かれていない。そして、弥生さんの日記帳から 弥生さんの過去のことが分かっていき、ある大事件の真相が分かったところで物語が終わる。 最後は、確執を克服した明るい未来が暗示されて終わる。
本小説の主題は、嫁と姑、夫と妻の間の日常的なちょっとした行き違いが、二人の死を招いてしまう というドラマチックな展開で、それがミステリ仕立てで展開するところがエンタテインメントである。 美佐はその真相を知って一回り成長する。美佐は、介護施設に出入りするようになって、自分も介護の仕事を したいと思うようになる。私も両親を介護施設に入れて、介護施設の有難みを実感している。
以下のようにあらすじのメモを取りながら読んだのだが、メモを取っていなかったらおそらく途中で 伏線を忘れていただろう。ミステリは新聞連載には向いていないかもしれない。前にでてきた伏線を 読み直さないといけないからである。
メモを取っていなかったらおそらく人間関係も分からなくなっていただろう。その理由の一つは、 美佐と弥生さんがダブル主人公のような感じもあって、途中で印象が重なってきてしまうことである。 美佐には菜穂さん、弥生さんには菊枝さんという友達がいて、それも二人の印象が混ざってしまう原因である。 メモを取ってみると、それぞれの人間模様(姑や夫などとの関係)が、姑の嫁いびりという枠組みは共通でも それぞれ少しずつ書き分けられていることが分かる。 理由のもう一つは、ミステリ仕立てというだけあって人間関係を複雑にしてある点である。弥生さんと菊枝さんが 友達で、弥生さんの姪の美佐と菊枝さんの息子の邦彦が元恋人で、邦彦は弥生さんに思いを寄せていた という構図は、メモを取っていないと途中でわからなくなってしまいそうである。
著者は、月毎にきっちり章分けをするという技巧を見せている。新聞には休刊日があったりして、月ごとの回数が 一定しないにもかかわらず、だいたい一月で一つずつ小ストーリーが完結するように仕立ててある。それもまた ミステリ的仕掛けと言えようか。