著者は、アメリカの反知性主義を、アメリカの平等志向や反権威主義の表れだととらえている。 その背景にはキリスト教プロテスタンティズムの「神の前での平等」を社会的な平等に拡大する 考え方がある。それを見ていくために、本書は主にアメリカのキリスト教で特徴的な信仰復興(リバイバル)運動 の歴史をたどっている。著者は、無学な説教師が参加者を回心に導くリバイバル伝道こそが、 反知性主義の最もはっきりした現れと見ているようである。
今、アメリカでは、ドナルド・トランプという知性のかけらもないような人が大統領になってしまった。 トランプ大統領を支持しているような人々は、民主党の偉そうなインテリが気に入らないのだ という風に見れば、 アメリカの反知性主義の伝統に従っているととらえることもできる。
もっともトランプ大統領自身は、「反知性主義」でさえない出鱈目である。 トランプは、反知性主義を取り込んで大統領になったのは良いが、支離滅裂なので、 世界を無茶苦茶にしている、という以前にアメリカの権威を失墜させている。 本書の第1章で語られるハーバード大学を攻撃しているのはまさに象徴的で、 アメリカ自身の基盤を掘り崩しているのだということがわかる。本書の 第7章のタイトルが「「ハーバード主義」をぶっとばせ」となっていることでわかる通り、 反ハーバード主義は、反権力を象徴するものではあるものの、ハーバード大学を潰すということは アメリカの世界的地位を下げるということでもある。
子供時代が米ソ冷戦期であった私からすると、その米ソ超大国両方の崩壊を見てしまったのは恐ろしいことである。 ソ連は、不自由な政治の下で経済が停滞した末に 1991 年に崩壊してしまった。そして、アメリカは、世界の富を吸い取った挙句、 国内での格差が耐えきれないほど大きくなって、今まさに崩壊しつつある。
ところで、些細な間違いを一つ見つけた。第 5 章第 2 節の「強者をやっつける反知性主義」の中で、 フルトヴェングラーを「ベルリン交響楽団」の指揮者だと書いてあるが、正しくは「ベルリン・ フィルハーモニー管弦楽団」の常任指揮者・終身指揮者である。