反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体

著者森本 あんり
シリーズ新潮選書
発行所新潮社
電子書籍
刊行2015/02、刷:2015/06(第7刷)
電子書籍刊行2013/05/31、刷:2014/12/08(初版第6刷)
電子書籍底本刊行2015/08/14
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読了2025/07/19
参考 web pages 著者による自著紹介ページ
著者による反知性主義の解説 on YouTube

著者は、アメリカの反知性主義を、アメリカの平等志向や反権威主義の表れだととらえている。 その背景にはキリスト教プロテスタンティズムの「神の前での平等」を社会的な平等に拡大する 考え方がある。それを見ていくために、本書は主にアメリカのキリスト教で特徴的な信仰復興(リバイバル)運動 の歴史をたどっている。著者は、無学な説教師が参加者を回心に導くリバイバル伝道こそが、 反知性主義の最もはっきりした現れと見ているようである。

今、アメリカでは、ドナルド・トランプという知性のかけらもないような人が大統領になってしまった。 トランプ大統領を支持しているような人々は、民主党の偉そうなインテリが気に入らないのだ という風に見れば、 アメリカの反知性主義の伝統に従っているととらえることもできる

もっともトランプ大統領自身は、「反知性主義」でさえない出鱈目である。 トランプは、反知性主義を取り込んで大統領になったのは良いが、支離滅裂なので、 世界を無茶苦茶にしている、という以前にアメリカの権威を失墜させている。 本書の第1章で語られるハーバード大学を攻撃しているのはまさに象徴的で、 アメリカ自身の基盤を掘り崩しているのだということがわかる。本書の 第7章のタイトルが「「ハーバード主義」をぶっとばせ」となっていることでわかる通り、 反ハーバード主義は、反権力を象徴するものではあるものの、ハーバード大学を潰すということは アメリカの世界的地位を下げるということでもある。

子供時代が米ソ冷戦期であった私からすると、その米ソ超大国両方の崩壊を見てしまったのは恐ろしいことである。 ソ連は、不自由な政治の下で経済が停滞した末に 1991 年に崩壊してしまった。そして、アメリカは、世界の富を吸い取った挙句、 国内での格差が耐えきれないほど大きくなって、今まさに崩壊しつつある。

ところで、些細な間違いを一つ見つけた。第 5 章第 2 節の「強者をやっつける反知性主義」の中で、 フルトヴェングラーを「ベルリン交響楽団」の指揮者だと書いてあるが、正しくは「ベルリン・ フィルハーモニー管弦楽団」の常任指揮者・終身指揮者である。

サマリー

プロローグ

第1章 ハーバード大学 反知性主義の前提

第2章 信仰復興運動 反知性主義の原点

第3章 反知性主義を育む平等の理念

第4章 アメリカ的な自然と知性の融合

第5章 反知性主義と大衆リバイバリズム

第6章 反知性主義のもう一つのエンジン

第7章 「ハーバード主義」をぶっとばせ

エピローグ