ブラム・ストーカー ドラキュラ

著者小川 公代
シリーズNHK 100分de名著 2025 年 10 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2025/10/01(発売:2025/09/25)
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読了2025/11/01

吸血鬼として有名なドラキュラだが、原作を読んだことはない。解説者は、 この小説を、単なる怪奇小説というだけではなく、女性のヴィクトリア朝的抑圧からの脱皮も描かれた 多層的な小説だという読み方をしている。

NHK は、また番組ホームページをダメにしている。楽しみにしていたディレクターの一言が無くなった。 会長ら上層部がアホなのか、民放の嫉妬によるのか、意味が分からない。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 『ドラキュラ』の誕生

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ブラム・ストーカー (1847-1912)

『ドラキュラ』基本情報

アイルランドの歴史

物語の進行と解説

物語の進行解説
  • イギリスの新米弁護士ジョナサン・ハーカーがトランシルバニアに出張することになった。 目的は、ドラキュラ伯爵がイギリスに購入した不動産の契約手続きを行うため。
  • 駅の近くの宿で、女性に心配されて、十字架を渡された。
  • ドラキュラ伯爵の城へ向かう途中、気味の悪いことが起こった。城も気味悪かった。
  • ストーカーは、東欧の吸血鬼伝説を参考にした。
  • 1872 年に、アングロ・アイリッシュの作家レ・ファニュが『カーミラ』という女吸血鬼を描いた小説を書いていた。
  • ジョナサンはイギリス、ドラキュラはアイルランドを反映しているのではないか。ドラキュラには 英語コンプレックスがあった。
  • ジョナサンは、書斎を見つけた。そこにドラキュラ伯爵が入ってきた。ドラキュラ伯爵は、イギリスにあこがれていた。
  • ドラキュラ伯爵は、ジョナサンに英語を教えてくれるように頼んだ。彼は完璧な英語を話したいと思っていた。
  • 英語帝国主義が垣間見られる。ドラキュラ伯爵は英語コンプレックスを持っていた。
  • ジョナサンは、ドラキュラ伯爵が鏡に映らないことに気付いた。驚いて剃刀で肌を少し切ってしまうと、 伯爵は目を輝かせて喉元に触れようとした。ところが、ジョナサンの十字架に触れると、伯爵は冷静さを取り戻した。
  • 4日後の深夜、伯爵が壁を伝って窓からトカゲのように降りてゆくのを見た。
  • ジョナサンは、ドラキュラ城で他にもいろいろ怖い体験をする。
  • 読んでいると映像が頭にはっきり浮かぶ。

第2回 排除される女性たち

物語の進行と解説

物語の進行解説
  • 5章以降、しばらくミーナとルーシーの往復書簡になる。やがて、二人は港町ウィトビーで会う。
  • 7章で、港町ウィトビーが記録的な大嵐に襲われたという新聞記事が挿入される。
  • 嵐で漂着したデメテル号の船員の航海日誌が出てくる。日誌の中で、船員が次々に遺体で発見されてくる。
  • イギリスにドラキュラが到着していることが示唆される。
  • ルーシーは夢遊病に悩まされている。
  • ある夜中、ミーナが目を覚ますと、ルーシーがいない。ベンチにもたれかかるルーシーに黒い人影が覆いかぶさっていた。 やがて人影は去った。この日以来、ルーシーは衰弱する。
  • 「新しい女 New Woman」という言葉が出てくる。欲望もあり、自立した女性のことである。 ヴィクトリア朝の道徳では、女性は欲望を持ってはいけないことになっていた。 当時、「新しい女」は、「退化 degeneration」だと考えられていた。
  • ジョナサンは、ブダペストで脳炎のため入院していることが分かった。 ミーナはブダペストに行ってジョナサンと結婚し、二人はイギリスに帰る。
  • 当時、「エロトマニア」という女性の精神病があるとされていた。聖職者への愛を表明しているとか 目が赤く輝いているといった症状がある。女性吸血鬼は、それを意識して、官能的に描かれている。
  • ルーシーはロンドンの別宅に移る。スワード医師とヴァン・ヘルシング医師が彼女を診た。
  • ある夜、ルーシーと母親が死ぬ。しかし、ヴァン・ヘルシング医師は、「これは始まりなのだ」と言う。
  • ミーナは、ジョナサンの日記から、ドラキュラ伯爵のことを知る。
  • ミーナは、女性タイピスト。女性タイピストは「新しい女」の代表だが、ミーナ自身は謙虚で、両義的。
  • ロンドンで子供が行方不明になるという事件が起きる。ヴァン・ヘルシングはルーシーの仕業ではないかと疑う。
  • スワードとヴァン・ヘルシングは、ルーシーの墓を暴く。そのとき棺は空だったが、翌日棺にはルーシーが戻っていた。 ヴァン・ヘルシングは、ルーシーは催眠状態でアンデッドになったのだと言う。
  • ヴァン・ヘルシングは、ルーシーを殺さなければならないという。「頭を切り離し、口にはニンニクをつめ、 体に杭を打ちこむのだ。」それを受けて、男たちがルーシーを殺した。ルーシーの婚約者のアーサーがルーシーに杭を打ち込んだ。
  • ルーシーは怪物であると同時に被害者でもある。
  • 多くの映画で杭打ちシーンがクライマックスの一つになっている。杭打ちは penetrate することなので、性的な含意もある。
  • 実在の神経病学者のシャルコーが出てきて、その催眠術を後にヴァン・ヘルシングがミーナに対して使う。

第3回 境界線上の人々

今日のテーマは「ケア」

物語の進行と解説

物語の進行解説
  • スワード医師の病院にレンフィールドという男が入院している。
  • レンフィールドは、飼っていた雀を食べる。スワードは、この症状を「肉食狂 zoophagous maniac」と名付ける。
  • ある夜、レンフィールドは病院を脱走し、隣の敷地に入る。そして、「主よ、ご命令ください」などと言う。 レンフィールドの行動には、興奮期と休止期があるようだった。
  • レンフィールドは、ふたたび脱走すると、コウモリを見つめていた。
  • レンフィールドは、ドラキュラと繋がっていることが示唆される。 レンフィールドは、ドラキュラに操られている可哀想な人なのかもしれない。
  • ヴァン・ヘルシングは、科学と迷信の間にいる人。テレパシーも信じている。
  • ヴァン・ヘルシングは、吸血鬼の特徴や弱味を説明する。 続いて、ドラキュラの来歴も語る。
  • ヴァン・ヘルシングは、博学者 polymath。polymath は、南方熊楠のような人。 ブラム・ストーカーは、世の中を知るには科学だけでは足りないと思っていたのだろう。
  • ジョナサンとミーナは、スワードの病院に滞在する。ミーナは、ジョナサンとスワードとミーナの日記を 日付順に整理して複写する。
  • ヴァン・ヘルシングは、ミーナの仕事を称賛する。しかし、ある時点で、ドラキュラとの戦いとは外れてもらうと言う。
  • ミーナの描かれ方は、キャロル・ギリガンの「ケアの倫理」に近い。声を上げられない女性の葛藤に注目するのが「ケアの倫理」。
  • ミーナは、ドラキュラとの戦いから外されたことに不満であった。
  • 男たちは、騎士道的な処置をしたつもりであった。ミーナは、心の中ではそれを受け入れていない。
  • ミーナに霧となったドラキュラが襲い掛かる。レンフィールドが何か声を上げていた。
  • ミーナは、レンフィールドの声を聞いている。脆弱性を抱えた者同士で通じ合うところがあったのではないか。

第4回 近代VS前近代の戦い

物語の進行と解説

物語の進行解説
  • ドラキュラは、50個の木箱をロンドン中の隠れ家に配置。 不動産契約をいろいろ工夫しているので、男たちはなかなか探し出せない。
  • ドラキュラは、陽の光を浴びると死んでしまうので、自分が隠れる木箱をロンドン中に配置。
  • レンフィールドが重傷を負う。ヴァン・ヘルシングが応急処置をしたので、レンフィールドは ドラキュラのことを話し出す。それで、男たちは、ミーナがドラキュラに襲われたことを知る。
  • ミーナは、男たちにドラキュラに襲われた時のことを話す。 ミーナは、ドラキュラの血を飲まされた。
  • ミーナは、ヴァン・ヘルシングに催眠術をかけてもらうことで、ドラキュラの行方を語る。
  • ミーナが告白するとき、ジェンダーの問題が見える。伝統的な女性的振る舞いと「新しい女」への脱皮とが見られる。
  • ジュディス・バトラーの「パフォーマティヴィティ」という概念がある。 それは、日常の実践 (performance) がジェンダーを形成するという考え方だ。
  • ジョナサン、ミーナ、ヴァン・ヘルシング、アーサー、スワード、クインシーの6人は、 ドラキュラを追ってトランシルバニアに列車で向かう。 一行は、ヴァルナでドラキュラの船を待ったが、ドラキュラは入港地をガラツに変更していた。
  • 6人は3組に分かれてドラキュラを追い詰め、ドラキュラに止めを刺す。伯爵の体は消え失せた。
  • 追跡の描写は結構長い。6人がそれぞれの長所を生かして、チームワークでドラキュラに勝った。しかし、クインシーは命を落とす。
  • 人間がチームワークを生かして、強大な敵に勝つ物語だった。
  • ドラキュラとの戦いでミーナが大きな役割を果たす。ジョナサンの「追記」には、ヴァン・ヘルシングが ハーカー夫妻の息子に語った言葉が書かれている:「この子は、いつの日かママがどれほど勇ましかったか 知ることになるだろう。(中略)もう少し大きくなれば、私たち仲間が彼女を愛し、彼女のために戦い抜いた 事実も、知ることになるだろうよ」
  • ストーカーは、アングロ・アイリッシュで同性愛者というマイノリティだったので、女性に対する共感があったのではないか。
  • ドラキュラも人間社会から追われた怪物であった。
  • ストーカーは、弱者の心情を描き分けた。