キューブラー・ロスも本も全く知らなかったが、死との向き合い方を考えさせてくれる素晴らしい本だとわかった。
キューブラー・ロスは、終末期患者の気持ちを聞き取った。
それで死に向き合う人々の心の動き方に、個人差は大きいもののあるパターンがあることを見出した。
それをまとめたのが『死ぬ瞬間』である。『死ぬ瞬間』と言っても、原題は On death and dying だから、
死に向かう過程に重点がある。どうすれば安らかに死を迎えられるのか、考えさせられる。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 終末期患者への向き合い方
キューブラー・ロス (1926-2004)
- 1926 年、チューリッヒの裕福な家庭で3つ子として誕生する。
- 家が手狭だと感じた両親は、村に移り住む。
- 10 代でボランティア活動を開始。
- 1957 年、30 歳を過ぎてから医師になる。
- アメリカ人のクラスメートと結婚して、渡米。
- 1965 年、キューブラー・ロスはシカゴ大学の医学部に迎えられる。
『死ぬ瞬間』の時代背景~死を忌避する人々
- 1960年代末期、感染症がほぼ克服された。その一方で、死の過程が辛いものなった。
感染症に代わって癌が重要な死に至る病になった。
- 患者は、救急搬送されると、自分の意思とは無関係に治療が施される。
患者は人間として見られていない。
- エビデンスに基づいた治療では、エビデンスにのみ注意が行ってしまう。
それは死の否認である。死に目隠しをしている。
- 私たちは死に対して「婉曲法」を用いる。死は隠される。
人類は昔から死を見つめない。
- キューブラー・ロスが子どもの頃、ある農夫の死に立ち会った。彼は自宅で亡くなった。
慣れ親しんだ家で亡くなるのはそこまで辛そうではなかった。一方で、
科学が発達した時代には、人は病院で孤独な死を迎える。
キューブラー・ロスは、病院の反対を押し切って父親を家で看取った。
- 宗教が信じられなくなった現代では、死が怖いだけのものになった。
病床の人が死に向き合おうとしても、死の不安を支えてくれるものが無くなった。
死にゆく人々と向き合う
- キューブラー・ロスは、シカゴ大学で、重い病を抱えた患者を講師にして「死とその過程」を
テーマにした授業を行った。キューブラー・ロスは、終末期患者から学ぼうとした。
このセミナーは他の医師から批判されたが、自分も語りたいと望む患者も数多かった。
- 『死ぬ瞬間』は、キューブラー・ロスと終末期患者が共に死に向き合った記録である。
- 患者が孤独であることを、それまでの医療界は気付いていなかった。
キューブラー・ロスが患者から学ぶという姿勢であったことが重要。
第2回 死にゆく人の「否認」と「怒り」
死の受容過程の5段階
- 否認
- 怒り
- 取引
- 抑鬱
- 受容
人によって必ずしも同じ過程を辿るわけではないが、典型的な型として参考になる。
否認
- K 夫人は、現実を受け容れられず、理不尽な行動をするので、孤立した。
キューブラー・ロスは彼女の話を忍耐強く聞いた。そうしていると、ある時、K 夫人は否認を止めた。
- 否認は、自分を守るための心の動き。
- K 夫人の場合は、孤独・孤立と深くかかわっている。K 夫人は、孤独から助けられることで、死を受け容れる方に向かった。
怒り
- G 博士は、自分より年上の平凡な老人を見て、「どうしてその老人ではなく私なのか」と言った。
- O 氏は、ビジネスで成功を収めた金持ちだった。ホジキン病で入院して、周囲の人に怒りを向けた。
- とくに成功した人や支配欲のある人は、死を受容できず、拒絶と怒りを爆発させる。
- 患者は、自分が忘れられていないことを確かめるために声を上げて叫ぶ。不平を言い、注目を引こうとする。
- X 氏は寝たきり。手すりを上げるかどうかでナースとの間で口論になる。キューブラー・ロスによれば、
このナースは死に対する気持ちを汲み取っていない。ナースの側も自分の中の不安や弱さを自覚しておく必要がある。
- シスターの I は怒りっぽかった。他の患者の要求を聞いて回り、看護師たちにいつも注文を付けていた。
看護師たちは I から離れていった。キューブラー・ロスは、I の問題行動の原因は孤独感だとわかった。
I は、これまで自分が助けてもらったことがないと感じていた。それをキューブラー・ロスにわかってもらえて、
I は問題行動を止めた。
- WHO によれば、緩和ケアの中にはスピリチュアルな問題への対処も入っている。どうやってスピリチュアルペインを
和らげるか。
第3回 死を受け入れる?
取引
- 取引とは、何とか命を長らえようとすることである。
- 患者は、特定の行動と引き換えに望む結果を得ようとする。
- 患者は、死が近いという現実を認めきれず、心が揺れている。
抑鬱
- 抑鬱には2種類ある。
- 1つ目の抑鬱は、状況の変化に伴う反応的なもの。この世で解決できない問題がのしかかってきて、抑鬱状態になる。
- C 夫人には子供と両親がいて、彼らには手助けが必要だった。ソーシャルワーカーに協力を頼むことで、ある程度抑鬱が解消された。
- H 氏は信仰に支えられて、死ぬことには不安は無いと言っていた。しかし、妻との関係が良くないことで抑鬱状態になっていた。
妻は H 氏の生き甲斐を理解しておらず、評価していなかった。キューブラー・ロスが H 氏の気持ちを妻に説明することで、
状態が好転した。
- 2つ目の抑鬱は、準備的な抑鬱。つまり、もうすぐこの世から離れ、すべてを失うことと向き合うことによる心の痛み。
- この種の抑鬱は他者が止めようとしてはいけない。悲しむことを許してやらなければならない。黙って一緒にいるだけで充分である。
第4回 希望と「死の向こう側」
受容
- やがて「患者は最期の時が近づくのを静観するようになる。」
- W 夫人は、58 歳の女性。夫は、妻の意向に反して延命の再手術を決めてしまった。すると、W 夫人は、手術室で再手術を拒否した。
- 周囲の人は、患者のそばにいるだけで良い。患者の感情が日によって変わることを理解する。
- 受容とは、感情がほとんど欠落した状態である。
希望
- 患者は常に、治るかもしれないなどといった「希望」を持っている。
- キューブラー・ロスは、20代の頃、ナチスのマイダネック強制収容所とテレジン強制収容所の跡地を訪ねた。
そこで彼女は子供たちの詩や絵を目にした。その詩のうちの一つには、「絶対に死んだりしない!」と書かれていた。
キューブラー・ロスは、これに終末期患者の希望を重ね合わせた。
- 医療者は、患者の希望を遮ってはいけない。偽りの希望を与えてもいけないが、患者が見放されたと思うことが
ないようにする。
彼岸
- キューブラー・ロスが見たマイダネック強制収容所の壁の絵やテレジン強制収容所で見た絵には、蝶が多く描かれていた。
キューブラー・ロスは、死後に蝶のように自由に羽ばたくようなイメージを持った。
- キューブラー・ロスは、人ができるだけ苦しまずに死ねるような社会を作ろうとした。