特殊関数は、部分的には教育・研究で日常的に使っていることもあり、関心がある。 19 世紀にできてしまったような数学であるとはいえ、現代物理学との関係を 何となく知っておこうかということで買って読んでみた。 とくに、ベッセル関数や直交多項式のあたりは部分的にはきちんとフォローしてみて、 新しく知ったこともあった(単に忘れていただけかもしれないが)。たとえば、 Bessel 関数と運動群(非斉次特殊回転群)の表現との関係は初めて知った。 しかし、著者は素粒子論の専門家がほとんどで、素粒子論に関係したことも書いているのだが、 そういう部分は分からなかった。あと、最後のゼータ関数の記事も全く馴染みが無くてわからなかった。
以下、各記事のサマリー:
- 伊藤 克司「巻頭言」
- 本特集の全体像の簡単な説明。著者は素粒子論が専門。
- 松尾 泰「物理でいかに特殊関数が使われるか」
- 素粒子論の立場から各種の特殊関数をざっと眺める。
- 今村 洋介「ガンマ関数はいかに使われるか」
- ガンマ関数の初歩から弦理論・場の理論への応用までをざっと眺める。
- 佐藤 勇二「ベッセル関数と物理現象」
- ベッセル関数の物理学への応用で、歴史的に有名なもののいくつか(ケプラー運動、 鎖振り子、光の回折、円柱座標系や球座標系の波動方程式)を紹介したもの。 群の表現論や特異点との関係も少し解説されている。著者は素粒子論が専門。
- 武部 尚志「楕円関数」
- 楕円関数を楕円積分の逆関数として導入し、物理学への応用を3つ(振り子の運動、 戸田格子、統計力学の可積分系)概観する。著者は可積分系が専門。
- 酒井 忠勝「エルミート関数と調和振動子」
- 量子力学における調和振動子を表す波動関数としてエルミート関数を導入し、 その性質を紹介する。著者は素粒子論が専門。
- 佐々木 隆「直交多項式と特殊関数」
- 直交多項式の性質とその例。古典直交多項式だけではなく差分方程式を満たすタイプのものが 紹介されているのが特徴である。著者は素粒子論・数理物理学が専門。
- 山口 哲「水素原子の量子力学と球面調和関数」
- 回転群の既約表現の基底としての球面調和関数の紹介。著者は素粒子論が専門。
- 初田 泰之「Mathieu 方程式とその応用」
- 固体のバンド理論のプロトタイプとしての Mathieu 方程式とその摂動論的取り扱い。 場の量子論との関連。著者は場の量子論・数理物理学が専門。
- 西垣 真祐「ゼータ関数」
- ゼータ関数の一般的な性質と量子論との関係。著者は素粒子論・数理物理学が専門。