戦後80年で、参政党みたいな極右(というより出鱈目)政党が議席を得てしまうという日本の凋落を前にして、 戦前の勉強もしておこうということで読んでみた。本書では、日本神話が明治から戦前の政府に 如何に利用され、やがてそれが自らの首を絞めることにつながったかが、書かれている。
本書は6章構成だが、大きく分けると前半の2章、後半の3章とまとめの1章に分けられる。
前半の2章では、記紀神話が明治政府によってどのようにチェリーピッキングされて 利用されたのかを解説している。明治政府が、本当は西洋かぶれの革命政権であったにもかかわらず、 それを似非復古主義で糊塗することで国粋主義を捏造し、忠孝の名の下に国民に服従を強制したのだと いうことがよく分かる。
後半の3章では、日本神話が世界征服の誇大妄想につながり、それが日本を破滅に導いた 一因となったことが解説される。日本を神の国ということにして、世界征服を目指すなどというのは、 今から見ると頭がおかしいのではないかと思うわけだが、現代日本でも「神の国」発言をする 森喜朗とかいう元首相もいたし、「日本は、天皇のしらす君民一体の国家である」と憲法案に書く 参政党とかいう出鱈目政党が議席を得たりするのだから、日本は昔から今までその程度のレベルの 国だと考えなければいけない。
戦前の精神の基盤に記紀神話程度のものしかなかったのが不幸であった。 記紀神話が貧弱であったがゆえに誇大妄想を膨らませることができたということのようである。 もちろん国の指導者たちは最初はその欺瞞をよく知っていたのだろうが、やがてその指導者さえも欺瞞に押し流される。 戦争末期になると、昭和天皇でさえ、国民のことよりも三種の神器のことを心配していたという(第5章)。 変な神話を植えつけられると、天皇でさえ判断力がおかしくなるというのは恐ろしいことである。 記紀神話ではそこまで重視されていなかった三種の神器は、南北朝時代に重視されるようになったとのことで、 そんなものに天皇でさえ縛られるようになってしまう。