昔、戦前の歴史を学んだときは、昔の人は情報が少なかったからおバカな外国人差別だとか中国侵略とかを したのかなと思っていたが、現代のネット上での排外主義の跳梁跋扈を見ると、情報量の問題ではなく、 そもそも日本人のかなり多くがおバカだと認識せざるを得ない状況になっている。 こんなに円安になっても高市人気が高いという気違いじみた状況には唖然とするばかりだ。 本書は、そうした日本の状況の分析である。
第2章の陰謀論・排外主義が「推し活」のノリで広がっているという分析に関連して、 Saven Satow という批評家が、最近の日本政治が「ファンダム政治 (Fandom Politics)」に堕しているという 言い方をしている。つまりは、政策とは無関係に安倍・高市への「推し活」というレベルで 高い支持率が維持されているのだと分析している。つまりは、ポピュリズムでさえない敵・味方分類 に過ぎない言説が SNS に溢れるという状況である。
第8章の著者の菅野完氏によれば、若者が自民党に投票する理由は、若者がおバカなためではない。 日本の若者は社会を変えてはいけないと教育されているから、現状に異を唱えることに恐怖する。 そこで、若者は消極的に自民党を支持するのだとということである。 つまりは、自民党と若者の共依存状態が作られており、それはやがて破滅を招く可能性がある。
そんな感じで、日本では今、推し活的幻想が生む一体感と、その仮想的共同体から外れる人たちを排除する動きと、 変化に対するそこはかとない不安感が政治を動かしているというわけで、 近代がどこかに置き去りにされているという悲惨な状況にある。
以下、サマリー:
- 第1章 陰謀論と排外主義の現在地 [黒猫 ドラネコ]
- 参政党に代表される出鱈目な言説が広がっていった様子の記述。
- 第2章 「熱狂」を生み出す仕掛け [山崎 リュウキチ]
- 陰謀論・排外主義的な運動は、「フェス」のノリで行われ、継続的でないものが多い。
- その中で、参政党と神真都(やまと)Qは組織的な運動を行っている。彼らは、必ずしもナラティブを 共有しておらず、むしろ「推し活」のように個人の物語を通じて一体化している。参政党なら神谷宗幣の、 神真都Qなら岡本一兵衛の物語が一体感を生んでいる。
- 陰謀論・排外主義的な運動においては、対象の誤った認知と「集団的心理的所有感」(collective psychological ownership, cPO) が 相乗効果を見せている。つまり、対象の誤った認知が敵と味方を分ける指標になってしまっている。
- 第3章 近代に取り残された人々 [古谷 経衡]
- ネット右翼の人々は、外国人のスパイが反日工作をしているという陰謀論に基づいて外国人排斥運動をしている。
- 外国人が優遇されているという陰謀論も排外主義の苗床となっている。
- 第4章 カルトと陰謀論・排外主義の結節点 [藤倉 善郎]
- 統一教会の分派の一つであるサンクチュアリ教会は、第1期トランプ大統領の時からトランプ大統領を応援してきた。
- 幸福の科学は教団として関わっているわけではないが、信者の及川幸久や与国秀行(よくに ひでゆき)らはトランプ大統領を応援してきた。
- 与国が代表を務める「武士道」という団体は、新型コロナウイルスワクチンに対する反対運動を行っている。
- 2020 年に結成された参政党は、多くのトンデモな人々と関わっている。2025 年の参院選では「日本人ファースト」という 排外主義を前面に出した。
- 反ワクチン団体「神真都(やまと)Q」も排外主義的ナショナリズムを持っている。
- 地方議員にも排外主義者が何人もいる。
- 第5章 選挙の現場を侵食する陰謀論と排外主義 [選挙ウォッチャー ちだい]
- 日本ではこれまで排外主義を掲げる人物が議員になることはほとんどなかったが、2025 年になって変わった。
- 2025 年 1 月、ありもしないクルド人問題を煽った河合悠祐が戸田市議選で当選した。それ以降、関東や関西で 何人ものレイシスト議員が生まれた。
- 参政党が「日本人ファースト」という排外主義やオーガニック等のデマで党勢を伸ばしている。
- N国党も排外主義や陰謀論を撒き散らす源の一つである。へずまりゅうをプロデュースしたのもN国党党員だった。 立花孝志もへずまりゅうのデマを拡散した。佐藤沙織里は元N国党で、都議会議員になった。
- 第6章 電車男の代替現実~「名無しのQ」とは誰だったのか~ [清 義明]
- 2ちゃんねるから派生した「ふたば☆ちゃんねる」を模したサイト4chanが 2003 年、アメリカに誕生した。 2015 年に西村博之がこれを買収してから、規制がルーズになっていって、右翼がはびこるようになった。
- 2017 年から Q と名乗る人物が陰謀論的な謎めいた投稿を始め、それが流行した。これが QAnon である。 それが 2020 年連邦議事堂襲撃事件へとつながっていく。
- それ以降、Q の投稿は事実上無くなったが、QAnon 信者は生き続けている。その背景には、グローバリズムや リベラリズムに対する不信がある。
- 第7章 癒やしの日の丸 [菅野 完]
- 多くの日本人は終戦は受け入れたものの、敗戦、特に中国に対する敗戦を受け入れられていない。 右翼はアメリカの犬となった。そんな中、宗教と自己啓発が人々の心を支えることになった。
- 戦後、宗教と自己啓発と愛国をセットで備えたのが「生長の家」であった。自己啓発なので、 社会の問題も自己の修養に返ってきて、敗戦も存在しないことになってしまった。何事も「心の持ちよう」次第に なってしまうで、敗戦も無かったことにできた。
- 最近、陰謀論にハマる人たちがよく日の丸を振るのも、この「心の持ちよう」を確認するためだと解される。