戦後間もない頃の保育園作りの話を軸として、女性差別をはじめとする様々な社会問題を 乗り越えてゆく女性たちの姿を描く物語である。新聞小説として非常に読みやすく、楽しめた。 というのも、主人公一人と副主人公二人のキャラを立ててあって、三人がコンビで数々の 困難に立ち向かって成長していくという少年漫画的なストーリーになっているからである。 新聞連載は、前に書いてあったことに立ち戻ることが難しいので、これくらいわかりやすくないと、 置いてけぼりになってしまう。主人公と副主人公は、キャラが立っているので、 お互い足りないところを補って高めあっていくという少年漫画的ストーリーを毎日楽しむことができた。
主人公の村瀬立子は、1930 年頃の生まれという設定だから、ちょうど私の母親ぐらいの年齢である。 若くしてシングルマザーになったという設定なので、息子の光太は私より一回り以上年齢が上という設定だが、 うっすらと時代の雰囲気が想像できる。作者の柚木氏は私より一回り以上若いので、 ご自分のお祖母さんくらいの時代のつもりで書いているのだろう。
この小説の大きなテーマは、女性の地位向上である。今では戦後すぐのこうした時代に比べれば、 女性の地位はだいぶん高くなったとはいえ、最近、皇室典範が男尊女卑の方向で改正されたのには 唖然とした。自民党・公明党・国民民主党の女性議員も男尊女卑を内面化していると見えて、 こぞってこの改正に賛成していたのには驚いた。女性議員が揃いも揃って女性の地位を下げるのに 賛成するようでは、女性の地位向上もまだまだである。議員というのは、ほとんど党幹部の操り人形で あることがよくわかった。
あらすじ
主人公はシングルマザーの村瀬立子(りつこ)で、縫製工場で働いている。 物語は、主人公の立子と副主人公の赤川秀子、江口サワの3人が幾多の困難を乗り越えて、保育園を立派にしていく過程を追う。 始まりは 1952 (昭和27) 年、光太 0 歳で乳飲み子の時で、1959 (昭和34) 年に光太が卒園するまでで だいたい終わる。最後は、その年の夏、物語の最初では頼りなかった立子が、日本母親大会の デモ行進に力強く参加している場面で終わる。
立子は両親を戦争で亡くしており、子供を預けられる場所を探していたところ、 副主人公の一人の赤川秀子に会う。赤川秀子はインテリで、保育のことも頭ではよく知っていて、 保育園を作ることに関心がある。フレーベル教育を信奉していて、青空保育園が良いのだと立子に教える。 ところが、秀子は実際の子育てに関しては、全く不器用で無能だった。そこで、 もう一人の副主人公の江口サワが登場する。サワは、東北出身でまともに教育を受けていないが、 色黒で逞しく、隣町の保育園で立派に保母を務めている。 世の中に保育園の数も少なく、なかなか息子を入れられないので、立子は、サワをスカウトして、 秀子とともに自ら青空保育園を作ることにする。秀子が園長になった。
青空保育園では雨の時に困る。そこでお寺に場所を借りたいということで、近所の常照寺の 尼僧の蓮華が出てくる。蓮華は住職の娘だったが、人づきあいが苦手で、両親と兄の死後も代務住職にはなれていない。 立子と秀子が保育園として使わせてほしいとお願いに来たときも、蓮華はすぐに断ってしまった。 しかし、やがて近くの大聖寺の次男坊の肌の合わない「若様」に結婚を迫られて、それを断るためにも保育園の話を受けることにする。 保育園は「あおぞら保育園」と名付けられることになる。
その後、いくつか事件が起こる。女たちはこれらの事件を乗り越えて成長する。
- 第五福竜丸事件が起こり、魚が売れなくなって、魚屋「魚辰」が窮地に陥る。 「魚辰」の弥生は、水爆実験反対運動に身を投じることになる。秀子を始め、周囲の人々も協力した。
- 立子が吾郎と光太とデパートに行ったら、秀子がそれに嫉妬するという話があって、立子は秀子の話を聞く。 すると、あおぞら保育園にちゃんと保育料を払ってくれない親がいたりして、保育園が赤字経営になっていて、 秀子が身銭を切っていることがわかる。立子は寄附を募ることにする。寄附が集まって、保育園の経営は楽になった。
- ある日、光太が突然いなくなる。皆で探し回った結果、光太の実の父親である清川悟の 一家が誘拐したのだと分かる。立子、秀子、サワ、弥生、蓮華が清川邸に乗り込むと、 清川澄子(悟の母親)が光太は清川家で面倒を見たいと言う。立子らは断固としてそれを断り、 光太を取り返す。
- その後、清川悟と清川澄子があおぞら保育園の建物を改築することを申し出る。立子は迷うが、 その申し出を最終的には受け入れることにする。
- 保母たちのデモが行われたとき、立子の写真が新聞に載ったことをきっかけに、立子は かつての恩人のツヤに会うことになる。そこで、ツヤが堕胎を幇助せざるを得なくなった事情が 立子と秀子に語られる。産婆の千佳の手伝いで堕胎を助けていたが、それが嫌になり、 甚三と結婚して村を離れる。甚三の死後、また頼まれて堕胎を始める。それが明るみに出て、逮捕された。
- 悟が清川家を出ると言いに立子のところにやってくる。立子は無性に腹が立って、 悟を突き飛ばすと、悟は階段から落ちて出血する。これ以降、立子は悟とほとんど会わなくなり、 気持ちが落ち着く。
重要人物リストは以下の通り:
| 名前 | 役回り |
|---|---|
| 村瀬立子 | 主人公。息子の光太を一人で育てるシングルマザーである。縫製工場で 働く中、保育園不足で子供を保育園に預けられず、さまざまな 困難を乗り越えて自ら「あおぞら保育園」を立ち上げる。さらに光太の実の父の 清川悟との確執も乗り越えるる。小池千枝の立体裁断の公開講座を受講して 洋装の仕立てを学び、百貨店の高級服部門の主任に昇格する。 のちに魚屋「魚辰」の店舗を譲ってもらって、ツヤとともに「ムラセ洋装店」を開くことになる。 |
| 村瀬光太 | 立子の息子。0 歳から 6 歳まで健康に育つ。 |
| 赤川秀子 | 副主人公。赤川教授の娘で、保育については頭ではわかっているが、 実践は下手だった。「あおぞら保育園」の園長になり、行政との折衝などで 活躍する。泣き虫。実際に子供と接する中で、保育の実践も少しずつできるようになる。 インテリで、最初は無学な人を軽蔑するようなところもあったが、やがて謙虚になる。 最初は家事もできなかったが、立子に教えてもらって、上手になる。 保育園事業への予算削減反対デモを率いるようになり、一定の成果を得た。 |
| 江口サワ | 副主人公。東北出身で逞しく、保母をしている。「あおぞら保育園」にスカウトされる。 無学だったが、秀子に勉強を教えてもらって、やがて正式に保母の資格を得る。 サワは、東京保母の会に入って、保母の待遇が悪いことをだんだん認識するようになる。 東京保母の会は、やがて東社協(東京社会福祉協議会)保母の会になる。 |
| 島本弥生 | 魚屋「魚辰」を夫の辰吉とともにやっている。何かと立子・光太の母子を気にかけてくれる。 戦争で息子の遼太郎を失っている。やがて夫婦は立子に店を譲って、大衆食堂「遼太郎」を営むことになる。 |
| 堀田 | 立子の同僚。世の中に保育園があることを立子に教える。健ちゃんと佳子ちゃんという子供がいる。 立子に促されて、労働組合を立ち上げる。 |
| 雛田ツヤ | 1884 年生まれ。産婆。立子と同郷で、立子の恩人。堕胎を行ったことで逮捕されている。 やがて立子の住む街に移り住み、立子とともに「ムラセ洋装店」を営むことになる。 |
| 千佳 | 産婆。ツヤに産婆の手ほどきをした。 |
| 大友蓮華 | 真宗大谷派の常照寺の尼僧。「あおぞら保育園」を受け入れて、常照寺も 次第に上手くいくようになって住職代務者になる。やがて、蓮華は、東本願寺に出掛けて、 女性が住職になれるようにしてほしい訴える。蓮華が住職になれたのは、 それから 35 年後の 69 歳のときだった。 |
| 若様 | 隣町の大聖寺の次男。蓮華と結婚するつもりが、拒否されてやさぐれた生活をしている。 蓮華への腹いせに「あおぞら保育園」の看板に落書きをした。 |
| 遠藤夫妻 | 夫婦で銀行勤め。娘のまり子ちゃんは、光太と仲良し。 夫人は日本母親大会の活動を熱心に行っている。 |
| 中内悦子 | サワの保母仲間。「えっちゃん」と呼ばれている。「あおぞら保育園」の保母になる。 住居は赤川邸の女中部屋を借りることになる。製材所の大工の吉村と結婚し、赤川家を出る。 |
| 清川悟 | 光太の実の父親。清川家の次男。妻の裕子がいるのに立子と付き合って孕ませてしまう。 光太誘拐事件の後、裕子に出て行かれ、清川家を出て独り立ちする。 |
| 清川夫妻 | 清川悟の両親(妻の名は澄子)。清川総合病院を経営する金持ち。長男の賢一は戦死。 |
| 森岡裕子 | 医者の娘だったので、東京女子医学専門学校に入学するが、 自分には向いていないということを悟り、中退して栄養士になる。 清川悟の妻だったが、光太誘拐事件をきっかけに離婚する。 アレルギーが専門。遠藤まり子がブタクサアレルギーだと言い当てたことを機に 常照寺とあおぞら保育園の調理師・栄養士になる。 そして、堀安吾郎と結婚し、二児の母となる。 |
| 堀安吾郎 | 製材所で働いている大工の棟梁。光太の面倒を見るようになって、保父になることを決意。 ただし、日本で男性保育者が制度化されたのは、1977 年になってからだった (吾郎46歳)。 吾郎はやがて森岡裕子と結婚する。 |