科学英語教室

original: 2006/12/06
last update: 2013/09/26
学生に科学英語の読み方や書き方を教えていると、わりと一般的に学生が 間違いやすい点がいくつかあることに気付く。 2006 年 12 月、それをメモしておく気になって記録開始。

文法編

ことがらが主語になる文
ことがらが主語になる文を日本語に直訳すると、いわゆるバタ臭い日本語に なることがある。そういうときは、「(主語)によって、〜になる」という感じで 訳すとうまくいく。逆に日本語を英語に直すときも「A によって、」 を by A とか by using A と訳すのではなく、 A を主語にすることを考えると良い。
[例]
These observations prompted questions concerning the relative importance of discrete versus diffuse venting and mechanisms of focusing upflow into discrete vents. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.334]
これらの観測によって次のような2つの疑問が出てきた。 ひとつは、discrete venting と diffuse venting のどっちが重要か ということで、もうひとつは、上昇流が集中して discrete vents を形成するメカニズムが何かということである。
主語が原因を表すこともあるわけで、そういうときは、「〜なので、」とする。 逆に日本語を英語に直すときも、何でも because, since を使えば良いという ものでもない。 [例]
This "fit" has led many authors to speculate on how these two continents might have benn attached. [Turcotte and Schubert Geodynamics 2nd ed. p.3]
(アフリカと南米の海岸性の形が)こんなにもよく合っているので、 昔はこの二つの大陸がくっついていたんじゃないかという想像を いろんな人たちがするようになった。

名詞編

composition
「(化学)組成」という頻出語なのだが、どういうわけかふつうの英和辞典に 「組成」という訳語が載っていないことが多いので、 「構成」なんて訳してくれる学生が多い。chemical composition といえば 「化学組成」であることがはっきりするが、わざわざ chemical を付けない ことの方が多い。
[例]
The great isotopic geochemist Willi Dansgaard analyzed the yearly average isotopic composition of precipitation at a great number of sites around the world with known temperatures. [Alley The Two-Mile Time Machine p.63]
偉大な同位体地球化学者の Willi Dansgaard は、気温が分かっている 世界のたくさんの点で降雨の年平均同位体組成を分析した。
fraction
「割合」という頻出語なのだが、ふつうの英和辞書だとこの訳語が載っていないことも多くて、 「破片」などと訳してくれる学生が多い。
section
もともとラテン語の sectionem (切られること) から来ているので、 「切られたもの」という意味。そこで、
  1. 切られた部分、たとえば「断片」「(書物の)節」など
  2. 切られた切口、すなわち「断面」
の2つの意味が出てくる。このうち2つ目の「断面」の意味が、英和辞書では 後ろの方で出てくることが多いために、しばしばそれだと気付かない学生がいる。 cross section と書いてあれば、はっきり断面なのだが、単に section である ことも多い。地球科学では thin section「薄片」も重要語である。
[例]
This work was part of the NOAA Trans-Atlantic Geotraverse project to establish a standard crustal section across the central North Atlantic. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.330]
この研究は、北大西洋中央の標準的地殻断面を確立しようという NOAA 大西洋横断ジオトラバースプロジェクトの一環であった。
Implicit in this relation is the assumption that plane sections of the plate remain plane. [Turcotte and Schubert Geodynamics 2nd ed. p.115]
この関係式で暗に仮定されていることは、板の平面断面は平面のままだ ということである。

動詞編

allow
辞書に最初に出てくるのは「許す」だが、 科学英語で重要なのはその意味ではない。重要なのは、 A allows B (名詞) とか A allows us to B (動詞) で 「A を使うと B できるようになる」という意味になる用法である。 ことがらが主語になるので、直訳すると うまくいかない。「A によって B できるようになる」という具合に訳すのがコツ。 逆に日本語を英語に訳すときも、We can B (動詞) by using A. みたいに 書くのではなく、allow をうまく使えるようになると、英語らしくなる。
[例]
Helium anomalies found in waters sampled on the Alvin cruise above the vent fields were correlated with temperature, thus allowing the first estimate of convective heat loss apart from that provided by conductive heat flow anomalies. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.331]
Alvin 号の航海のときにその vent fields の上で採取された水で 見つかったヘリウムの異常は、温度と相関があった。 そのことを用いることによって、伝導による熱の異常から 推定されるものとは別の方法で、対流による熱輸送の見積もりが 初めてできるようになった
follow
前後関係を表す単語として重要である。
  1. 論理的な前後関係を表す場合。たとえば It follows that... 「そのことから ... がわかる」「したがって ...」は 良く使われる表現である。
  2. 時間的な前後関係を表す場合。A follows B は、B が先で A が後である。B が省略され(その前の文を受けているような場合)、 自動詞として使われることもある。
の2通りが良く使われる。
[例]
Heat flow and near-bottom water temperature measurements followed in the summer of 1972. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.330]
それに引き続いて、1972 年の夏に熱流量と海底付近の水温測定が 行われた。
refer to A as B
refer to は、辞書にはまず「言及する」と書いてあるので、訳すのに苦労する学生も いるのだが、上の形では単純に「A を B と呼ぶ」でよい。call A B よりも 堅い言葉遣いである。
[例]
The remaining 10 percent, which geologists refer to as the nondipole field, has a more complex structure. [Grotzinger, Jordan, Press, Siever Understanding Earth 5th ed. p.339]
地球科学者が非双極子磁場と呼ぶ残りの10%の部分の構造はもっと複雑である。
require
ことがらが主語になることが多い動詞で、その場合、A requires B は、 「A とすれば B でなければならない」「A なので B でなければならない」という感じの 条件とその必然的帰結を表す文として訳すのが良い。
[例]
Natural convection requires that the inner core is unstably stratified. [Deguen (2012) EPSL vol.333-334, 211-225, p.217]
自然対流が起こっているとすれば、内核の密度成層は不安定でなければならない

前置詞編

in
「〜の中に(で)」という意味は基本としても、注意を要するのは、 「〜の(変化、変動)」、たとえば changes in sth といった感じで 使われる場合だ。英語を書く場合も、こういうときは in を使うことが 多いことに注意する。
[例]
Diffuse flow is measured as relatively small anomalies in near-bottom water temperature. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.334 を改変]
diffuse flow は、海底付近の水温比較的小さなアノマリ として観測される。
似たようなことだが、「〜の違い difference in sth」 「〜の類似性 similarity in sth」も in を使うことに注意しよう。
[例]
The similarity in shape between the west coast of Africa and the east coast of South America was noted as early as 1620 by Francis bacon. [Turcotte and Schubert Geodynamics 2nd ed. p.3]
アフリカの西海岸と南米の東海岸の形が似ているということには、 早くも 1620 年に Francis Bacon が気づいていた。
The reason for this difference in elevation is the difference in the thickness of the crust. [Turcotte and Schubert Geodynamics 2nd ed. p.2]
このように高度が異なるのは、地殻の厚さの違いに起因する。
into
「〜に(変わる)」という変化の方向を表す。こういう前置詞がうまく 使えるようになるとコンパクトな英語が書けるようになる(なかなか 私自身できないが)。
[例]
These observations prompted questions concerning the relative importance of discrete versus diffuse venting and mechanisms of focusing upflow into discrete vents. [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.334]
これらの観測によって次のような2つの疑問が出てきた。ひとつは、 discrete venting と diffuse venting のどっちが重要かということで、 もうひとつは、上昇流が集中して discrete vents を形成する メカニズムが何かということである。

接続詞的熟語編

日本語だったら接続詞を使うけれども、英語では接続詞や接続を表す副詞ではないもので表現することが結構多い。そのうち、熟語的に使われるものをいくつか挙げておく。

日本語英語備考
ただし、Note that ...もちろん、Note that ... は、文字通り「〜であることに注意せよ」と訳す方が良い場合もある
したがって、It follows that ...動詞編 follow の項も参照

接続詞編

because
訳すときには何も問題がないのだが、作文をさせると I am fat. Because I eat a lot. みたいな感じで Because を文頭に持ってきて because 節だけで終わってしまう文を 書いてしまう人がけっこういる。because は従位接続詞なので、原則として主節が必要で、 I am fat, because I eat a lot. でなければならない。この間違いが多い理由は、 おそらく (1) 「なぜなら」= because だと思ってしまうことと (2) because を 最初に習うのが、Why are you fat? の答えとして Because I eat a lot. と言うという 文脈であるせいだろう。(2) は、会話で主節が自明なので省略されているだけである。

熟語編

at depth, at ○○ depths
at depth は、漠然と「深部の」という意味で用いる。 熟語なので depth に冠詞は付かない。一方、at greater depths のように 形容詞が付くと、具体的な深さがイメージされるので、可算名詞になる。
[例]
The reasons for this range are not entirely clear, nor is the relationship between vent temperature and temperatures of the rock and fluid at depth [Lowell et al. (1995) JGR vol.100, 327-352, p.334]
(噴出温度が)その範囲になる理由は必ずしも良くわかっていない。 また、噴出温度と深部での岩石や水の温度との関係も 良く分かっていない。
We have more limited information about the temperatures at greater depths. [Grotzinger, Jordan, Press, Siever Understanding Earth 5th ed. p.339]
より深部の温度に関する情報はずっと限られている。