「炭素物語」Q&A集

last update: 2004/09/20
ほぼすべての質問に答えたつもりです。質問の意図がよくわからなかったために 答えていないものはあります。まだ答えていない質問があるときは、 御連絡下さい。
なお、私は以下の問題の全てに関して専門家というわけではないので、 答えに誤りが含まれている可能性があります。9割方正しいとは思いますが、 間違いがあったときはお知らせ下さい。

目次

1 炭素の存在形態
2 炭素循環
3 温室効果
4 地球の二酸化炭素と気候の歴史
5 地球温暖化問題
6 石油資源
7 その他
謝辞:6 の「石油資源」の一部については、名大地震火山防災研究センターの 渡辺俊樹さんからお知恵を拝借しました。

1 炭素の存在形態


Q1.1 星を構成する元素は何ですか?

A 星(ふつうの恒星)を構成する主要元素は H と He です(ビッグバンの時に できた元素)。それらがやがて中心付近の高温部で核融合反応を起こして 別の元素を作って行きます。まず初めに H から He が出来ます。これが 多くの恒星の主たる熱源です。そのうち星が進化してくると、He が核融合反応を 起こして他の元素ができてきます。Q1.2 も参照してください。


Q1.2 太陽系の元素存在度の順番が原子番号の順番ではなく、 O, C が多いのはなぜですか?

A 私は専門家ではないので、正確には答えられません。これは、基本的には 恒星の中の核融合反応の起りやすさによって決定づけられています。 ただし、C と O の量比は微妙で星によっても違いますから、 太陽系における量比は、太陽系ができる元の元素を作った超新星の中の元素の量比と、 それらの超新星から来た元素の混ざり具合いで決まったのでしょう。

星の中の条件で、どのような核融合反応が起りやすいかは、 過去に研究されています。その結果として分かっていることは、 星の進化では、まず、H が燃焼して He ができます。He は H の 燃焼温度では反応ができませんから、基本的には H が燃え尽きた 中心部が収縮して温度が上がってから反応が始まります。 He の燃焼反応としては、He が3つくっついて C ができる反応と、 C に He がくっついて O ができる反応が起ります。それで、C や O が 多くなります。当然起こる疑問は、He が2つくっついた Be が なぜ少ないかということですが、エネルギー的にあまり安定ではなくて いったん出来ても He が2つに分解するようです。なぜ安定でないかは、 私は知りません。それを知りたければ、自分で原子核物理学を勉強してください。

詳しくは、恒星の進化の教科書を見てください。


Q1.3 太陽系には H, He, O, C が多いのに、地球には He が少ないのはなぜですか?

A 4つの要因があります。

(1) 地球はそもそも隕石や小惑星のようなものが集まってできました。 その隕石や小惑星は、太陽系星雲の固体成分が集まって出来たものです。 ところが、He は化合物を作らずいつでも気体ですから、ほとんど そういった地球の原料物質には入りませんでした。

(2) それでも少しは地球の内部に入ったかもしれませんが、地球の初期は 集積エネルギーでかなり熱かったので、外へ出てしまったでしょう。

(3) 地球の外に出ても大気として存在している可能性もあり得ます。 地球のごく初期に水素とヘリウムの大気があったという可能性も 否定できないのですが、地質的な証拠や現在の大気の成分から見て、 結果的にはそれが長い間持続していたということはありません。

(4) ヘリウムは軽いので、大気中に少量含まれていても、そのうち じわじわと宇宙空間に逃げていってしまいます。


Q1.4 酸化型の炭素が安定なのはなぜですか?

A 基本的には分子の生成エネルギーを調べれば良いのです。 酸化型の炭素の代表を二酸化炭素 (CO2)、還元型の炭素の 代表をメタン (CH4) としましょう。

酸素が多いという条件では

CH4 + 2 O2 → CO2 + 2 H2O
という反応が起ります。これは発熱反応であるということが分かります。 つまり、メタンと酸素が共存するよりも、二酸化炭素と水が共存する方が 安定だということです。右辺の水が液体だとして生成熱を計算すると、 この反応が 1 mol 分進むときに 890.3 kJ であることがわかります。 そこで、酸素が多いときには酸化型炭素が安定になります。

一方、水素が多いという条件では

CO2 + 2 H2 → CH4 + 2 H2O
という反応が起ります。これも発熱反応であるということが分かります。 つまり、二酸化炭素と水素が共存するよりも、メタンと水が共存する方が 安定だということです。右辺の水が液体だとして生成熱を計算すると、 この反応が 1 mol 分進むときに 253.0 kJ であることがわかります。 そこで、水素が多いときには還元型炭素が安定になります。

まとめると、酸素が多いという条件下では、酸素を酸化剤とした酸化反応が 起こりやすいのです。それは、上の反応式で見ると分かる通り、 酸素や水素の単体よりも水の方がかなり安定であるということに依っています。 現在の地表付近の条件は酸素が余っていますから、酸化型が安定になります。 だからこそ、還元型炭素は燃えるのです。「燃える」というのは 自発的に安定な方向へ行こうとする反応が、激しく起こっているものです。


2 炭素循環


Q2.1 脱ガスとは何ですか?

A 火山噴火の時に火山ガスとして二酸化炭素が放出されるということです。 火山ガスと言うと、硫黄系の化合物を思い浮かべる人が多いでしょうが、 実は量が多いものは、水蒸気と二酸化炭素です。これらは、マグマの中に 元々入っています。で、その二酸化炭素がどこからマグマに入って来たかは そんなに良く分かっているわけではありませんが、 プレートの沈み込みで地中に持ち込まれたものも もともと地球ができたときから地球内部にあったものもあるでしょう。


Q2.2 「木を切るのは悪いことではない」と言ってしまって良いのでしょうか?

A 時間が余りなかったので、舌足らずになってしまいました。 私が言いたかったのは、木を切るということを短絡的に悪いと言って しまっては良くないということです。もちろん、木を切ってそのままに しておくとか焼き畑にするとかいうことは、環境に対する負荷が高いことです。 実は、考えないといけない要素はいくつかありますから、それらを整理して いきましょう。

まず、二酸化炭素と資源の問題だけに限りましょう。 木を切って燃やして二酸化炭素を放出しても、その分だけ植林をして 生物量を変えないようにすれば、大気中に放出される二酸化炭素量は 差引ゼロになります。そして、木を燃やしたときに出る熱をエネルギー として利用すれば、化石燃料をその分使わなくて済みますから、 (a) その分の二酸化炭素放出量が減り (b) 化石燃料の節約になります。 これが、バイオマスエネルギーの考え方の基本です。バイオマスエネルギーは、 木を切って燃やすという昔ながらのエネルギー獲得方法の現代版です。 昔と違うところは、現代の技術と科学的知識とを使って、 大規模で計画的に伐採と植林とを繰り返しましょうということだけです。

私が言いたかったことは、木を切るという理由だけからバイオマス エネルギーを否定してはいけないし、逆にバイオマスという名前に 惑わされて、木を切るという事実をちゃんと見ないというのもいけない、 ということでした。

さらに補足すると、質問の中に、「植林をしても、植える木よりも 切る木の方が大きいから、生物量が減るのではないか?」というものが ありました。これは、次の2点を見落としています。(1) まず、 植えた瞬間だけを見るのではなく、長い時間の平均で見てください。 木が成長するときには生物量が増えていますから、長い目で見れば、 生物量は平均的には減らないということです。完全に成熟した自然の 森でも、生と死の輪廻は常に行われていることに注意してください。 自然の森では、死んだ木は微生物が分解して二酸化炭素に戻します。 この微生物の役割を人間が奪ってエネルギーをいただいてしまおう というのが、バイオマスエネルギーの考え方です。だから、その意味では、 人間が打撃を与えることになるのは、樹木ではなくて、微生物相の方です。 (2) 上で書いたように、木を燃やすことによりエネルギーを得れば、 その分の化石燃料の節約になるので、二酸化炭素問題にとっても 資源問題にとってもプラスです。

ただし、そうはいっても、木を切って植林することは 生物量だけの問題ではなく生態系全体を変えますから、 手を加えて良いかどうかは、生態系の観点からも考えなくてはいけません。 私の考えでは、単純に言えば、原生林はできるだけ保存しておくべきですが、 すでに人の手が入っている森林は、計画的に伐採と植林を 繰り返してもかまわないと思っています。とくに、日本中にある 杉林のようなものは、放っておいて手を加えないと森が荒れてしまいます (本来天然の状態で杉が生えて良い場所は日本では非常に限られていて、 ほとんどの杉林はいま「不自然」な状態にあるので、放っておくと崩壊します)。 そしてまた、日本に限って言えば、本当の原生林は非常に少ないことも 認識しておくべきです。

しかし、もっと丁寧に言えば、人間の手が入った森の中にも、 杉林や桧林のような木材を目的として植えられたものや、いわゆる 里山の雑木林のようなものや、いったん手が入ったがもうすでに 天然の極相林に近づいているものなど、さまざまの種類のものがあります。 それらの種類に応じたさまざまの利用法を今後考えてゆくべきです。 さらに世界的に見れば熱帯雨林の問題などもっと大きな問題があります。


Q2.3 炭素循環の短期的サイクルと長期的サイクルのどちらが大気中の 二酸化炭素濃度の変動により多くの影響を与えるのですか?

A 簡単に言えば、文字の通りで、短い時間スケール(たとえば 100 年とか)では 短期的サイクル、長い時間スケール(たとえば 1 億年とか)では長期的サイクルが 重要です。なのですが、もうちょっと丁寧に言う必要があります。 そもそも、サイクルは順調に回ってさえいれば、二酸化炭素濃度を一定に保つ はたらきがあります。二酸化炭素濃度が変動するとすれば、何かサイクルを 撹乱する作用がはたらいたとき、(a) 一定に保つ作用がそれに追い付かないとき、 あるいは (b) その一定値が別の値に変わるときに起こります。だから、 サイクルが大気中の二酸化炭素濃度の変動を起こすというよりも、 それを撹乱する作用がはたらいたときに変動が起きるのです。

例を挙げて説明しましょう。(1) 現在の地球温暖化問題は、短期的サイクルに 外から化石燃料の燃焼という撹乱が加わったことで、大気中の二酸化炭素濃度と 植物体の炭素量の両方が増えました。 (2) 過去 3 億年程度の時間スケールで 大気中の二酸化炭素濃度が増減しているのは、長期サイクルの一つの要素である 脱ガスの増減によって起こっています。風化による安定化がそれに十分に 追い付かないために、大気中の二酸化炭素濃度が増減します。


Q2.4 炭酸カルシウムが沈殿するのはなぜですか?

A 溶解度を超えているから、と言えれば簡単なのですが、実は現実世界は 複雑です。海洋の浅い部分には、溶解度を超える炭酸カルシウムが溶けています。 それでなぜ素直に沈殿しないのかは今でもよくわかっていません。

現在の海洋において、炭酸カルシウムを固体に変えているのは生物です。 たとえば、珊瑚の骨格とかプランクトンの殻がそうです。生物が死んだ後、 そのような殻がたまって炭酸塩の石になります。

もうちょっとだけ詳しく知りたければ、たとえば

T. アンドリューズ・P. プリングルコム・T. ジッケルズ・P. リス 「地球環境化学入門」(シュプリンガー・フェアラーク東京) の 4.4.4 節
を見てください。
Q2.5 海まで行かないうちに河川などで炭酸カルシウムは沈殿しないのですか?

A もちろん条件が整えば沈殿します。私は専門家でないのではっきりとは 知りませんが、以下のように考えると沈殿の条件がだいたいわかると思います。 まず、そもそも風化で水に炭酸カルシウムが溶け出すということから、 風化に関与した水の炭酸カルシウム濃度は、最大でも溶解度以上にはなりません。 すると、沈殿が起こるとすれば、川や湖で (1) 濃度が増えるか (2) 溶解度が減るかです。
(1) 濃度が増えるには、水分が蒸発すれば良いことになります。 実際、乾燥地帯の河川や湖沼では、水が蒸発して炭酸カルシウムが 沈殿します。
(2) 溶解度が減るには、アルカリ性になるというのがひとつの可能性です。 しかし、川の pH は中性か少し酸性であることが多いのです。というのは、 川には大気中の CO2 や SO2 が溶けて、 アルカリを中和してしまうからです。一方、海は弱アルカリ性 (pH=8 くらい) ですから、pH の面から言えば、海の方が川より沈殿が起こりやすい条件に あります。
以上のことから、河川でも沈殿は起こるが、それほど量が多くはないだろうと いうことがわかると思います(定量的にどの程度かは知りません)。

Q2.4 も参照してください。


Q2.6 寒くなると風化が減るのはなぜですか?暖かくなると風化が増えるのはなぜですか?

A 風化は基本的に化学変化であって、化学変化の速さは温度に強く依存するからです。 化学変化の速さが温度に依存する理由は、以下の通りです。化学変化が自発的に 起こるのは、エネルギーの高い状態から低い状態に移るときですが、 その途中では、エネルギーの高い状態からもっと高い状態にいったん 移ってからエネルギーの低い状態に移るのがふつうです。 温度が高いと、エネルギーのもっと高い状態に移る確率が高くなります。 したがって、反応速度が速くなります。


Q2.7 寒くなると二酸化炭素が増えるようにはたらくのはなぜですか? (Walker feedback のメカニズムは何ですか?)

A まず、脱ガス率は一定としましょう。脱ガス率は地球内部の都合で決まっているので、 風化によるフィードバックの話をするのには一定と考えた方が考えやすいからです。

そうして、いま寒くなったとしましょう。そうすると、風化速度が落ちます (Q2.6)。脱ガス率が一定だとすると、大気中の二酸化炭素が増えます。 そうすると温室効果が強まり、温度を上げる働きをします。 逆に、温度が上がると、風化が促進され、大気中の二酸化炭素が減って、 温室効果を弱めます。そのようにして、風化には温度を一定に保つ働きがあるのです。 これを Walker feedback と言います。


Q2.8 風化のモデルとして挙げた式で、最後に SiO2 が残っていましたが、 これは岩石中に残るのですか?

A そうです。ただし、講義で出した化学式は模式的なもので、実際の反応は だいぶん複雑です。そして、粘土鉱物といわれているような鉱物が風化の 生成物として残ります。要するに粘土になるわけです。

そうやっていくと岩がだんだんもろくなってきて、大雨の時に崩れたりして 下流に土砂となって溜まるといったようなことになるわけです。


Q2.9 サーモスタットって何ですか?(Walker feedback に関連して)

A サーモスタットとは、電気製品などで温度をできるだけ一定に保つ ための装置です。たとえば、電気こたつには、温度が上がりすぎるとヒーターの 出力を下げて、温度が下がりすぎるとヒーターの出力を上げるような装置が 付いています。Walker feedback では、風化がこのような役割を果たしています (Q2.7)。


3 温室効果


Q3.1 地球には太陽エネルギーが常に降り注いでいますが、そうすると、 地球全体のエネルギーは増えないのでしょうか?

A 増えません。それは、地球が赤外光として、エネルギーを宇宙空間に 捨てているからです。その赤外光が出て行くときに、直接出て行けずに 大気が障害物になるというのが温室効果のもともとの源です。

大気が障害物になるからと言ってエネルギーが地表にたまるわけではありません。 赤外放射の勢い(ここは物理的な表現ではありませんが、正確に言うのが 面倒なので、とりあえずこう言っておきます)を高めることでその障害物を 突破して、太陽光として入ったのと同じだけのエネルギーが赤外光で出て 行くことになります。その赤外放射の勢いを高めるために地表の温度が 上昇するのが温室効果です。


Q3.2 なぜ、メタンの方が二酸化炭素より単位量あたりの温室効果が高いのですか?

A 私は専門家ではないので、正確な答えをすぐにはできません。 しかし、一般的には次のようには言えます。温室効果は、最近は Global Warming Potential (GWP) という量で測るのが普通です (定義は IPCC report 2001 の中の説明 に書いてあります)。 これは、あるとき 1kg の温室効果ガスを放出したとき、ある時間 (20, 100, 500 年など)後までに空気を暖める能力の積算値です。 この「ある時間」を 100 年としたときに、メタンの GWP は二酸化炭素の 23 倍と計算されています。正確な答えをするには、その計算の根拠を 全部調べていかないといけないのですが、それには時間と手間がかかります。 自分で調べてください。


4 地球の二酸化炭素と気候の歴史


Q4.1 昔の大気の二酸化炭素濃度はどのようにして測定するのですか?

A 比較的新しい時代(40 万年前まで)ならば、そのときにできた氷が 今南極に残っています。その氷の中に含まれている気泡の中の二酸化炭素濃度を 測ることで当時の二酸化炭素濃度がわかります。

講義で話したような古い時代のものは、もっと間接的な方法で推定します。 いくつかの方法がありますが、例を一つだけ挙げます。 炭素には質量数 12 と 13 の安定同位体があります。 生物が炭素を光合成で取り込むときの 13C と 12C の比は 周囲の環境の CO2 濃度に影響されます。そこで、昔出来た 有機物が残っていると、その 13C と 12C の比から 間接的に周囲の環境の CO2 濃度が推定できます。 これについてより詳しく知りたい場合は次の論文を読んでください。

D.L. Royer, R.A. Berner and D.J. Beering (2001) Phanerozoic atmospheric CO2 change: evaluating geochemical and paleobiological approaches, Earth Science Reviews, 54, 349-392.

Q4.2 大気中の CO2 量の増加減少はどれほど気温に影響するのですか? とくに、白亜紀の気温はどのくらいだったのですか?

A はっきり言うのは難しい意味があります。だからこそ将来の地球温暖化の予測に 幅があるのです。将来の地球温暖化の予測に関しては、二酸化炭素が倍増したとして、 地球全体の平均気温が 2,3 ℃程度変化するとされています。ただし、これには 二酸化炭素以外の温室効果ガスの効果が含まれています。

一方、白亜紀の温暖期の大気中 CO2 量は現在の 5 倍程度と 考えられています。そのときの気候はだいたい以下のようなものだったと 推定されています。赤道の海水温は現在と余り変わらず 25-27 ℃くらいですが、 現在と大きく異なるのは、極地域でも海水温が 20 ℃を超えていたことです。 極地方でも森林がありました。地球全体の平均気温は、現在よりも 6 ℃くらい 高かったとされています。


Q4.3 配布された図4のグラフのうち説明がなかったものは何だったのですか?

A 配布したグラフは

T.J. Crowley and R.A. Berner (2001) CO2 and climage change Science, 292, 870-871
から取ったもので、4つの図が並んでいました。上からそれぞれ
  1. 大気中二酸化炭素濃度の数理モデルと地質的な証拠による推定値
  2. 太陽放射の変化と温室効果を合わせたもの(二酸化炭素濃度から 理論的に推定される平均気温だと思って良い)
  3. 熱帯のとある化石から推定した温度(これが地球全体の温度を 代表するかどうかはわからない)
  4. 大陸氷河の北半球の南端(もしくは南半球の北端)の緯度
です。
Q4.4 過去6億年間の大気中の二酸化炭素量の増減の原因は何ですか? また、このままだとむしろ大気中の二酸化炭素量はどんどん減ってゆくの ではないですか?逆に、将来、火山活動がさかんになって白亜紀のような 温暖期にならないのですか?

A 億年単位の時間スケールで見ると、講義の時に話したように、 世界的な火山活動の活発度が大気中の二酸化炭素量の増減を支配しているようです。 火山活動が活発だと二酸化炭素の放出が増え、大気中の二酸化炭素量が増大し、 不活発だと減少します。現在は、火山活動が不活発な時期なので、長い 時間スケールでは氷河時代です。

人為的な影響がないとき、今後どうなるかですが、たしかに二酸化炭素量が どんどん減る傾向にあるのかもしれません。実際、温暖化が騒がれる ちょっと前の 1970 年代には、将来の氷河期の到来を心配する声も ずいぶんあったのです(理由は 3 億年スケールの話ではなくて、 10 万年スケールの氷期・間氷期サイクルに基づくものですが)。 とはいえ、現在の人為的な二酸化炭素量の増大が余りにも急激なため (Q5.4)、 現在では寒冷化を心配する声はかき消されてしまいました 。

逆に、自然に火山活動によって温暖になるかどうかですが、 当分はそういうことはないでしょう。白亜紀のような温暖化は、 超大陸の分裂と集合のサイクルと同期していると考えられています。 次の集合が起こるのは、まだだいぶん先(2 億年くらい先)で、 それが分裂を始めるときに火山活動が活発化するという話ですから、 当分は心配しなくて良いでしょう。もちろん、数億年経てば、また 白亜紀並の現在の地球温暖化とは比較にならないくらいの超温暖化が 起きて不思議はありません。


Q4.5 過去の超温暖期(たとえば白亜紀)には、温暖であったことは生物にとって 害ではなかったのですか?

A ある生物には害だったでしょうが、別の生物には益だったでしょう。 実際、恐竜は我が世の春を謳歌していたわけで、しかるべく適応していたはずです。

現在の温暖化の問題は、温暖になるということ自体ではなく、人間が状況の変化に 適応できるよりも速いスピードで変化が起こっているということにあります。 非常にゆっくり温暖化が起これば、それなりの適応ができると思います。


Q4.6 超大陸の時代の気候や生物相はどういうものだったのですか?

A たぶんあんまりよくわかっていません。という意味は、事実として、 超大陸ができた時代の気候や生物相はある程度わかっていますが、 それが超大陸ができたことの影響なのかそうではないのかが きちんと分離できていないと思います。

まず、気候の方を説明します。配布した図にありますが、超大陸の時期、 あるいはその直前は氷河時代です。しかし、気候と超大陸の時期は少し ずれています。これはおそらく次の理由です。超大陸が分裂するときには 激しい火山活動が起こると予想されるので、大気中の二酸化炭素が増えて 温暖になっていきます。火山活動が治まるにつれ気候は寒冷になります。 一方で、分裂した超大陸もそのうちに再び集まってきます。そこで、 次の超大陸ができるあたりにはだいぶん寒冷になっています。

上の説明では、超大陸の存在と気候は直接的には関連しません。しかし、 超大陸が存在するということ自体が気候に影響を与えるという要素も あるはずです。これについては、たぶんあまり研究がなされていないのでは ないでしょうか。超大陸が地表のどの位置にあるかにも関係しているでしょう。 非常に面白い今後の研究課題の一つだと思います。

次に、生物相については、2回前の超大陸は先カンブリア時代で大型生物が いなかったので、よくわかりません。わかるのは1回前の超大陸の時代だけです。 このときには古生代/中生代境界の大量絶滅という大イベントが起こりました。 しかし、例が一つだけなので、その大量絶滅が超大陸であることと関係して いるのかどうかはわかりません。一つの仮説は、超大陸があるためにその分裂の 初期に激しい火山活動が起こって、成層圏に塵がたまり気候が悪くなって 大量絶滅が起こった、ということですが、あまり根拠はありません。


Q4.7 超大陸の分裂と火山活動の活発化はどう関係があるのですか?

A 超大陸が分裂するとき、その裂目で激しい火山活動が起こることが わかっています。どっちが原因でどっちが結果かはむずかしいのですが、 一応、以下のような考え方があります。超大陸ができると、地球の内部 にとっては上に毛布をかぶったようなものですから、下に熱がたまります。 その結果として、マントル中に上昇流ができて、それが超大陸を割る 火山活動を引き起こす、と考えられます。


Q4.8 海底にメタンが大量にあって、地球温暖化などによって大気中に流出し、 さらに温暖化を進めると聞いたことがあるのですが、本当ですか?

A よく御存知ですね。過去にそういうことがあったのではないかということが、 最近話題になっています。

海底下にはメタンが「メタンハイドレート」という形でたくさん存在しています。 メタンハイドレートとは、水分子が作る籠状の構造の中にメタン分子が入り込んで いるようなものです。多少不正確に言えば、メタンと水から作られる氷の一種です。 これは、将来の資源として期待されていますが、まだ有効な採掘方法が 見つかっていません。

メタンハイドレートは氷のようなものですから、温度が上がると融けます。 融けると温室効果ガスであるメタンが排出されます。そうすると、ますます 温度が上がるという正のフィードバックがかかることになります。 そういうことが過去にもあったのではないかとごく最近言われてきています。 詳しくは

J.P. Kennett, K.G. Cannariato, I.L. Hendy, and R.J. Behl (2000) Carbon isotopic evidence for methane hydrate instability during Quaternary interstadials, Science, 288, 128-133.
を見てください。

5 地球温暖化問題


Q5.1 気温がどのくらい上昇すると、極地の氷が消失するのですか?

A この予測はむずかしいのですが、ひとつは過去の気候変動から推測できます。 現在の南極の氷が出来はじめたのは 3600 万年前ころ(始新世から漸新世への 移行期)とされています。このころの気候は、白亜紀と現在のちょうど 中間あたりです。白亜紀の平均気温が現在より 6 ℃くらい高いとすれば (Q4.2 参照)そのころの平均気温は 3 ℃くらい高いということになるでしょう。 ですから、3 ℃くらいがひとつの目安だと思います。ただし、平均気温というのは、 赤道域の温度上昇はあまりなく、極域の温度上昇は 3 ℃よりはるかに大きい (南極でも 0 ℃を超えるということにならないといけない)という 状態の平均値だということは認識しておいてください。平均気温というのは、 そういう意味で解釈の難しい量です。

過去の気候についてもう少し詳しいことは、

岩波講座地球惑星科学11「気候変動論」(1996)(岩波書店)の中の
増田富士雄「第5章 地質時代の気候変動」
を参照してください。
Q5.2 人為的に大気二酸化炭素を減らせないのですか?たとえば、風化を促進するとか、 地中や海中に固定するとかが考えられると思います。また、海中に封じ込めたとして、 また出てくることはないのでしょうか?

A 今のところ技術的に難しいのだと思いますが、技術開発はなされています。 私が知っているのは地中や海中に注入して封じ込める研究です。たとえば、 日本でも、船舶技術研究所(現:海上技術安全研究所)では、二酸化炭素を 深海底に投入して、深海底に二酸化炭素の池を作るという形で封じ込めることを 研究してるそうです(COSMOS 計画)。

詳しくは

別冊日経サイエンス 135「新時代に挑むエコサイエンス」の中の
H. ハーゾック、B. エリアソン、O. カルスタド「温暖化ガスを封じ込める」
を見てください。

海中に封じ込めたものが、また出てこないかという心配ですが、それは確かに 心配ですね。たぶん技術評価の中に入っているのだと思いますが、良く知りません。 平常時は、二酸化炭素の液体は水より重いので沈んでいるはずですが、 世の中思いがけないことが起こったりするものですからね。

この問題が重要だと思ったら、自ら技術開発に取り組んでみてください。 風化の促進も不可能ではないかもしれません。


Q5.3 現在人為的に起っている大気二酸化炭素の増加は、Walker feedback では 減らないのですか?

A Walker feedback は、風化が非常にゆっくりしかおこらないために効き始める 時間スケールが非常に長い(速効性がない)ことと、温度制御が精密でない (フィードバックの精度がない)点が問題です。 もし速効性があり、フィードバックの精度が良いものならば、 そもそも白亜紀の温暖化なども起らなかったはずです。 Walker feedback は、数十億年にわたる太陽光度の変化のような ゆっくりした現象で、おおざっぱな温度制御にのみ有効です。

今の二酸化炭素増加問題でも、放出された二酸化炭素のすべてが大気に たまっているわけではありません。海への吸収とか、生物による吸収 (バイオマスの増加や有機炭素の埋没)も重要です。


Q5.4 現在の二酸化炭素濃度の増加は、人為的ではなく自然現象ということは ないのでしょうか?

A ないでしょう。講義の時に適当な図を見せなかったので誤解を招いたと思いますが、 現在の二酸化炭素の増加率は、自然なものと考えるにしてはあまりにも急激です。

ただし、この二酸化炭素の増加と地球温暖化をどう結び付けるかについては まだ議論があります。一般的には、現在の地球温暖化は二酸化炭素の増加が 引き起こしていると思われていますが、反対意見もあります。たとえば、 有名な気象学者の Lindzen 先生は、以下のような記事を 2001 年に The Wall Street Journal に書いています。

"The Press Gets It Wrong -- Our report doesn't support the Kyoto treaty" by Richard S. Lindzen, The Wall Street Journal, June 11, 2001
要するに、われわれの気候に対する理解は不十分だから、そう簡単に 二酸化炭素と気候とを結び付けてはいかんよ、というわけです。
Q5.5 温暖化によって氷が融けると海の中の二酸化炭素量が増えるのですか?

A 氷が融けて海の量が増える分は直接的にはたいしたことはないです。 というのは、氷の全量は海の全量よりもだいぶん少ないからです。 しかし、大気に放出された二酸化炭素のうちのかなりの部分は海に吸収されて います。そして、どのくらいが海に入ってくれるかは重要な問題です。 単純に考えると、
(1) ヘンリーの法則により、大気中の二酸化炭素濃度が増えれば、 それに比例して海の中の二酸化炭素濃度が増えるはずです。
(2) しかし、温度が上がると、一般に気体は水に溶けにくくなります。
という効果の組合わせで、基本的には、大気中に放出された二酸化炭素は、 全部大気にたまるのではなく、ある程度は海洋に吸収されます。 ただし、二酸化炭素は海の中では、主に炭酸水素イオン (HCO3-)になっているということと、 炭酸イオンは生物が炭酸カルシウムとして固定する(Q2.4)ということとで、 ものごとは少し複雑です。

少なくとも現在のところで言えば、人為的な二酸化炭素排出のうち、 約半分は海洋と陸上植物が吸収していると考えられています (IPCC report 2001 による)。


Q5.6 地球温暖化問題の政治的背景を教えてください。

A これは、私が話すより次の本を読んでもらった方が良いです。

米本昌平 (1994) 「地球環境問題とは何か」(岩波新書 新赤 331)
ぜひ読んでみてください。

6 石油資源


Q6.1 有機炭素が埋没し石油に変化するまでにどのような反応やプロセスがあるのですか?

A まず、認識しておいてほしいことは、石油というものが、さまざまの 炭化水素を主とする化合物の混合物だということです。だから、単一の 反応経路は書けません。

反応の詳細はわかっていません。しかし、大筋は以下のようなものだと 考えられています。まず、死んだ生物の遺骸が腐り切らずに地下に埋没して、 やがてケロジェンと呼ばれる複雑な高分子有機物の混合物になります。 それがやがて地下の熱で少しずつ分解して簡単な化合物になっていきます。 この反応が完全に進むとメタンになってしまいます。その反応の途中で できるものが、石油と天然ガスの混合物です。

以下の Q6.3 も参照してください。


Q6.2 化石燃料は、人類が使用しなければ埋没したままだったのですか?

A そうとは限りません。とくに石油や天然ガスは流動性がありますから、 放っておくと自然にじわじわ地表に出ていってしまいます。 むしろ、化石燃料の形になる方がたいへんで、それらが外へ出ないような 緻密な岩石で蓋をされている必要があります。


Q6.3 なぜ石油が産出する地域が限られているのですか?

A 石油ができるには大きく以下の3つの条件が必要です。それが満される 場所と時期が少ないので産出場所が限られます。

(1) 生物が死んだ後に腐りきらない条件が必要です。生物は、 食べられるとか腐るとかして、普通は最終的には二酸化炭素に戻ります。 これが起らないためには、その場所が酸欠とか栄養不足とかで 十分な微生物がいないことが必要になります。まずこの条件がきつい。 (Q6.4 参照)

(2) 有機炭素が埋没した後、適当な反応が起って石油にまでなる必要があります。 このためには適当な温度圧力などの条件と時間が必要です。温度は 80 度から 150 度の間くらいが適当とされています。これより温度が低ければ、反応が 起らないし、高ければメタンガスにまで分解して天然ガスになります。 時間の効果も同様で、短すぎると複雑な高分子の固体状態で石油になって いませんし、長すぎるとやがてメタンガスにまで分解しきってしまいます。 (Q6.1 参照)

(3) 石油ができたとして、それが溜っている場所が必要です。石油は地下を 流動します。それを地下に溜めておくような地下構造がないと油田にはなりません。 地下にちょっとずつ分散しているだけでは油田とは言えませんし、簡単に 地表に出てしまうと、やがて地表で微生物などが少しずつ酸化して最終的に 二酸化炭素にしてしまうでしょう。(Q6.2 参照)


Q6.4 石油は現在は自然に作られないのですか?

A 上の Q6.3 で述べたような条件が満される場所があれば作られるでしょう。 また「作られる」の意味も Q6.3 の (1) のように「有機物が埋没する」の意味か、 (2) のように「埋没した有機物が変質する」の意味か、によって現在起こっている かどうかの意味も異なります。(2) は、適当な深度に埋没すれば良く、現在でも 起こっている過程です(実際、石油の熟成度は様々で、熟成過程の途中のような 石油もあります)。(1) の方が条件的にはきついはずです。

(1) に関しては、石油になるような有機物が埋没するためには、海底に溜った 有機物が分解されない必要があります。そのためには、(1) 生物生産が非常に高く 分解が追い付かない and/or (2) 海底が酸欠で分解が起りにくい、という条件が 必要です。現在は海洋の循環が活発なので、酸欠状態の場所は少なく、 大規模な埋没は起こっていないでしょう。現在、深部が酸欠になっている 海として有名な場所には黒海があります。こういうところでは有機物の 堆積が起こっています。ただ、大きな油田ができそうなほどは溜っていないようです。 最近の時代の堆積物でで石油の起源になりそうなものの候補としては、 東地中海の sapropel(腐泥)と呼ばれるものがあります。 現在は堆積していませんが、気候変動に応じて時々堆積しており、 最も最近では 8000 年前から 3000 年前くらいに堆積しました。

地中海の sapropels に関するホームページとして以下のようなものがあります。

ところで、「黒海」の語源の俗説に、有機物のために堆積物が黒くなっているから、 というものがあるようです。しかし、それはたぶん正しくなくて、暴風や霧が 多かったためにトルコ人が黒海と名付けたようです(平凡社世界大百科事典、 ブリタニカ国際大百科事典による)。


Q6.5 高緯度地方では石油は作られないのですか?

A 講義では、巨大油田の形成メカニズムという意味で、低緯度地帯を重視したのですが、 高緯度地方でもある程度は作られています。ただし、低緯度の方が 生物生産量が多いとか、石油をためる石灰岩ができやすいとかで、 量が多くなります。

別の面では、できる緯度によって、成分の違いもあります。 高緯度地帯の石油は、成分が石炭的で陸上植物起源のものが 多いようです(専門用語では typeIII の kerogen 起源)。一方で、 低緯度地帯のは、海のプランクトン起源のものが多いのです(typeII の kerogen)。 石油としては、海のプランクトン起源のものが質が高くなります(炭化水素成分が 多い)。一方で、陸上植物起源のものは、天然ガス成分が多くなります。


Q6.6 石油は人為的には作り出せないのですか?

A 原理的には作れます。ただし、石油は有機物の複雑な混合物なので、 この質問の意味は、たとえば石油に含まれる有機物質のうちの代表的な 何か一つのものを作れるかという意味に取っておきます。 しかし、それを作るのにかかるエネルギーは、それを燃やして得られる エネルギーよりも大きいでしょう(熱力学第2法則)。また、 炭素を石油から取り出しても意味がありません。

だから、エネルギー問題という意味で言えば、植物の光合成と同様に、 水と大気中の二酸化炭素から太陽エネルギーを使って有機物を作ることが できるか?というのが問題になります。そのためには、植物を植えて育てる (バイオマスエネルギー)以上の効率的な技術は今のところないと思います (あったらもう使ってるはず)。


Q6.7 ずっと以前から「石油があと 40 年しか持たない」と言われ続けていますが、 なぜ、寿命が延び続けたのですか?

A 実はこの 40 年という数字にはそれほど意味がありません。それには、 そもそもこの年数の意味をよく考える必要があります。これは、可採年数 と呼ばれる数字で、(埋蔵量)/(現在の生産量)で定義されます。 つまり、「現在の生産量で石油を採り続けていったら、あと何年採れるか」 という量です。

ところが、この「埋蔵量」と「現在の生産量」の両方が曲者です。 両方とも経済情勢によって変動する量だからです。そして、埋蔵量は 新しい油田が発見されれば増えます。寿命(可採年数)が延び続けるのは、 基本的には、新しい油田が発見され続けているからです。

そこで、この埋蔵量というのが何かをきちんと考えてみましょう。 実は、まず石油の埋蔵量には定義がいろいろあります。 それによって推定値がかなり変わります。それには2つの要因があります。

  1. 確からしさ:実際に生産が行われている場所なら比較的確実な 推定ができますが(確認埋蔵量)、石油があることは分かっていても まだ開発がなされていないもの、地表からの地質調査や物理探査などに よって存在が推定されるものなどいろいろあります。
  2. 技術的・経済的な回収可能性:石油は、もともと岩石を構成する粒子の間に (地下水のように)浸透しているものなので、そのあたりにあるものの 全部が回収できるわけではありません。コストをかければ回収率が上がります。 コストをかけても技術的に回収不能な部分もあります。そして、コストも 技術も時間と共に変化します。

可採年数の計算で一般的使われる「埋蔵量」はこのうちの一番狭い定義、 すなわち確実に存在が確認されており、現状のコストで回収可能なもの、 が使われます。これを丁寧に言うと、「確認可採埋蔵量」と言います。 だから、この埋蔵量は本当に世界中に存在することが期待される石油の量では ないのです。埋蔵量が時代とともに増えてしまうのは、ひとつにはこの定義の せいです。たとえば、あと 40 年くらい採れるとなると新たな油田開発をしよう という動機が失われるが、あと 30 年くらいしか採れないとなると油田開発や 技術開発が進む、というようなからくりがはたらくと、いつまでたっても 可採年数が 30-40 年になります。

このような埋蔵量や可採年数の詳しい定義については

原子力百科事典 ATOMICA 石油資源量 by 科学技術振興機構 (JST)
World Petroleum Congress, WPC/SPE/AAPG Petroleum Reserves and Resources Definitions
などを参照してください。

次の Q6.8 も関係がありますから参考にしてください。


Q6.8 今後、石油は新たに発見されないのでしょうか?石油はあとどのくらい 持つのですか?

A 石油の発見は今後も少しずつはなされるでしょう。でもいずれ限界が来るでしょう。 限界がどのくらいなのか予測は困難です。専門家でも楽観論と悲観論があり、 よくわかりません。未確認分も含む埋蔵量予測とかどのくらいで枯渇するかの 予想についての世の中の専門家のいろいろな見解を見るには

OECD/IEA 編集「世界のエネルギー展望 2002」
という本を見るとか、web page なら Q6.7 とも重複しますが
原子力百科事典 ATOMICA 石油資源量 by 科学技術振興機構 (JST)
前田高行「世界の石油・天然ガスの可採年数と枯渇年数」
などを参照してください。

楽観論としては

藤和彦「石油神話」(文春新書 152)
を読んでみてください。ただ、楽観論の根拠は、これまで寿命が延び続けた からくりの分析に依っているだけで、地学的考察ではないので、 私は必ずしも説得力があるようには思いません。

ただ、石油価格が上昇するにつれ、今までよりもコストはかかるが回収率の高い 採油法を使うとか、採取精製にコストのかかるタールサンドの採掘が行われるように なるとかいったようなことが起こるようになります。つまり、価格が上がれば コストがかかるために今まで採りづらかった種類の石油も採るようになるでしょう。 その意味では、価格が上がれば資源の量が増えることになります。 資源の量はコストとの兼ね合いで考えていく必要があります。 石油の生産とは、そのようなダイナミックな経済過程なのです。

もうひとつ考えないといけないことは、あと○○年持つという表現は あまり正確ではないということです。配布したグラフで分かる通り、 石油の生産能力というものは、一定値が続いてばったり終わるということはなく、 あるときピークを迎えてだんだんと減っていくものです。理由は2つあります。 (理由1) 可採年数が場所によって違うことを考えないといけません。 単純に枯渇までの年数を計算したとき 100 年以下になったとしても、 それはあくまでも世界平均です。中東は比較的長続きするはずで、 中東の石油が今世紀中になくなると思っている人はあまりいません。 もちろん、世界の他の地域での減産を補うように中東が急激に生産を増やせば 話は別ですが。(理由2) 一つの油田で見ても、石油は最初のうちは勢い 良く出てきても、だんだんと勢いがなくなり、そのうち無理やり絞り出さないと 出てこなくなる、ということが起こるためです。

いずれにしても、石油の生産能力は近いうちに伸び悩むか減少するでしょうし、 需要は伸び続けるでしょうから、本当の(投機的ではない需要過剰に基づく) 価格の高騰が近いうちに起こると予想されます。今はまだ生産能力に余力が あることは、ニュースを注意してみていると、生産調整の余地があるという ことからわかるでしょう。しかし、同時に生産調整の余力があるのが サウジアラビアくらいしかないことにも気付くでしょう。サウジアラビアに 生産調整の余力がなくなった時点で、本当の石油の高騰が起こるでしょう。 イラク戦争の成り行きによっては、イラクにも生産調整の余力が出るかも しれませんし、逆に、テロ等によりサウジアラビアに供給能力に余剰が なくなる事態も考えられますが。

Q6.7 とも関連しますのでそちらも見てください。


Q6.9 石油の埋蔵量はどうやって測っているのですか?

A いろいろな知識を総動員して推定するので、一概には言えませんが、だいたい 次のようなことです。

基本は、(石油を含む地層の広がり)×(石油の含有率)×(回収率)と いうことです。石油を含む地層の広がりは、人工地震を使った探査などで 測ることができます。石油の含有率や回収率は、井戸を掘ってみてサンプルを 取って調べることができます。

まだ採掘が行われていない油田はだんだんと推定が難しくなってきます。 すでに行われた地質的あるいは物理的な調査から間接的に推定してゆきます。 講義で配布した図だと、そういう確実性の低いものまで入れて 何とか推定したものまで含んでいます。

どんな技術が使われるかの雰囲気は、たとえば

石油開発と技術―開発技術一覧 by 石油技術協会
を見てみてください。

7 その他


Q7.1 映画 The Day After Tomorrow では、二酸化炭素による温暖化の後、 とつぜん氷河期になりますが、そんなことはあるのですか?

A 温暖化の後でいきなり氷河期になるという話は一見荒唐無稽に見えますが、 実は必ずしもそうとは言い切れません。

この映画による寒冷化のシナリオは、海洋の深層循環が弱まるせいで、 南北の熱輸送が弱くなり、氷河期が来るというものです。これは ひょっとするとありうるかもしれません。この映画の作者は、 古気候の専門家のアドバイスを受けたか、あるいは、

Richard B. Alley "The Two-Mile Time Machine" Princeton University Press (2000)
を読んだのではないかと思います。この本では、温暖化が深層循環を弱めて 突然(といっても映画のように1日ではありませんが)の 寒冷化をもたらす可能性にも Thomas Stocker の気候モデルの論文
T.F. Stocker and A. Schmittner (1997) "Influence of CO2 Emission Rates on the Stability of the Thermohaline Circulation" Nature 388, 862-865
を引用して言及しています。詳しく知りたければ上の Alley の本を 読んでみてください。この本は良い本で、過去 10 万年の気候が どのようなものであったかに関する最近の知見について、 一般人にもわかりやすく解説されています。ただ、残念なことは、 日本語版
リチャード B. アレイ著 山崎淳訳「氷に刻まれた地球11万年の記憶」 ソニーマガジンズ (2004)
が出ているには出ているものの、この翻訳の質が悪いことです。 読んでみると、日本語が欧文直訳調で読みにくいし、誤訳もけっこうあります。 読んでもあんまりわかった気がしないのではないでしょうか。 ですから、英語をある程度すらすら読める人は原書で読んでください。

映画では、主人公は氷コアを扱う古気候の専門家ですが、上の本の著者の Alley もそうです。そのことからして、映画の作者もこの本を読んだのでは ないかという気がします。古気候が重要なのは、気候システムの確かな予測が 現在まだできないため、いろいろな気候変動の問題に対する答えの重要な鍵が 昔の気候で似たものを探すことにあるからです。

上の本を読むと分かるように、過去 10 万年の間には、地球の気候が 急激な寒冷化や温暖化を起こしたことが何度かあります。たとえば、 12800 年前から 11500 年前くらいの新ドライアス期(Younger Dryas)は、 最終氷期から現在の間氷期に向かって温暖化する途中で一時的に 寒冷化した時期です。映画のように1日にして寒冷化したりはしませんが、 しかしその開始と終了は比較的急激だったようです(ひょっとすると 数年のうちに起こったかもしれません)。このような変化には、 海洋の深層循環が関係していると言われています。

とはいえ、Younger Dryas の気候変動をそう簡単に現在にあてはめてはいけません。 Younger Dryas のときの大気の二酸化炭素濃度が増加傾向に あったことはその通りなのですが、量は現在よりも少ないものでしたし、 別の温室効果ガスであるメタンはその時に減少しています。 つまり、温室効果ガスの量自体は現在よりもかなり少ないので、 現在の温暖化の状況とはかなり違います。

講義で題材にした、白亜紀の気候も参考になります。大気の二酸化炭素濃度は 現在の5倍程度はありそうです。しかも、海洋に酸欠状態が広く 見られるほど、海洋の深層循環が弱かったのです。でも、 氷河のない超温暖期でした。その理由は何でしょう? 私は専門家ではないので、白亜紀についての詳細は知りませんが、 南北の熱輸送には、海洋深層循環だけではなく、 海洋表層の風成循環(黒潮やメキシコ湾流など)、大気も重要です。 そういったものを総合して考えなければなりません。 海洋の深層循環が弱いことは、かならずしも寒冷期の到来を意味しません。