「第1回」Q&A集

last update: 2006/12/18
ほぼすべての質問に答えたつもりです。
ただし、私は以下の問題の全てに関して専門家というわけではないので、 答えに誤りが含まれている可能性があります。9割方正しいとは思いますが、 間違いがあったときはお知らせ下さい。

目次

1 プレート運動
2 炭素循環
3 地球の二酸化炭素と気候の歴史
4 石油と石炭
5 その他

1 プレート運動


Q1.1 プレートの動き(スピードと方向)を決めているのは何でしょうか?

A マントル対流全体、と言ってしまえばそれまでなのですが、 もう少し詳しい議論がなされています。それは、プレートに働く力を ridge push, slab pull, basal drag などに分けて、そのバランスを 考察するというものです。ridge push は ridge 付近が暖かくて離れるにしたがって 冷たくなることから来る力(ridge 付近は高いので、両側に落ちて行く)、 slab pull は冷たいプレートが引きずり込む力、 basal drag はプレートの底が受ける摩擦力で、プレートを引っ張る力、あるいは その反対に摩擦で引き戻す力です。

結論を言えば、たぶんプレートの駆動力としては slab pull が大きいと 考えられています。それは、プレートの運動速度と海溝の長さに相関が あることなどから支持されています。ridge push は、海嶺が沈み込んだりすることも あることから、大きくないと考えられています。ridge は、 両側に引っ張られるから「仕方なく」開いているのだというイメージです。 basal drag は、実はよくわかっていません(符号さえわからない)。 slab pull と basal drag が全体としてはだいたい釣り合って 速度が決まっていると考えている人が多いのではないかと思います。

ただし、沈み込みがないプレートもあります(大西洋)。こういう場合は slab pull がないので拡大速度が遅くなります。それでも動いているということは、 駆動力は ridge push と basal drag なのでしょう。

詳しくは、

瀬野徹三「続プレートテクトニクスの基礎」(朝倉書店)
を見てください。

2 炭素循環


Q2.1 寒くなると風化が減るのはなぜですか?暖かくなると風化が増えるのはなぜですか?

A 風化は基本的に化学変化であって、化学変化の速さは温度に強く依存するからです。 化学変化の速さが温度に依存する理由は、以下の通りです。化学変化が自発的に 起こるのは、エネルギーの高い状態から低い状態に移るときですが、 その途中では、エネルギーの高い状態からもっと高い状態にいったん 移ってからエネルギーの低い状態に移るのがふつうです。 温度が高いと、エネルギーのもっと高い状態に移る確率が高くなります。 したがって、反応速度が速くなります。

式で書けば、ふつう反応速度は

exp [ - (ΔE) / (kT) ]
のような量に比例します。ここで、ΔE は活性化エネルギーで、 「エネルギーのもっと高い状態」と「エネルギーの高い状態」のエネルギー差です。 k はボルツマン定数、T は絶対温度です。
Q2.2 風化が増えるとなぜ CO2 が減るのでしょうか?

A レジュメを参照してもらうと分かる通り、単純化すると、 風化と炭酸塩沈殿のプロセスを合わせて

CaSiO3 + CO2 → CaCO3 + SiO2
のような反応が起こります。この過程で CO2 が消費されます。
Q2.3 風化による CO2 減少は、陸地が全球の 30 % しかないことを考えると、 効果がないのではないでしょうか?もしこれが大きかったら、現在の地球温暖化も 食い止められるのではないでしょうか?

A 効果が小さいことは確かです。質問の通り、効果が大きければ、 そもそも現在の地球温暖化は阻止されます。実際は今の温暖化を 食い止めるほど大きな効果ではありません。小さい効果でも、 長い時間蓄積すると効果がでるという例です。

このような小さな効果を直接確かめるのは困難です。できることは、 もっともらしそうなパラメタの値の範囲で数値モデルを走らせて、 現実的な答えを出すことができたら、その考えはもっともらしそうだ、 ということ以上にはないように思います。


3 地球の二酸化炭素と気候の歴史


Q3.1 地表気温をコントロールしているのは、太陽放射強度以外では 第一義的に二酸化炭素なのでしょうか?

A そうだと思います。ふつうの気象学の常識だと、地表気温は第一義的に 放射のバランスで決まります。放射に効いてくる量で大事なのは、 アルベドと温室効果です。アルベドで大事なのは、氷の面積です。 それを決めるのが第一義的に気温だとすると、結局温室効果が放射バランスを 決めるということになります。温室効果ガスでまず重要なのは水蒸気ですが、 水蒸気も結局気温で決まるとすると、二番目くらいに大事な二酸化炭素が 放射バランスをコントロールするということになります。

でももちろん、意外とたくさんメタンが出てくる時代があったりなんかすると 話が変わるかもしれません。


Q3.2 6億年スパンの図を見ると、寒暖が急に入れ替わったように見えます。 実際はどのくらいの時間スケールで変わったのですか?

A よくわかっているのは、中生代から現在に至る寒冷化の過程です。 それによると寒冷化は急に起こったわけではなく、紆余曲折はありながらも、 現在までだいたい一定の速さで冷えてきているように見えます。

白亜紀には極域の温度が 20 ℃を超えていたと考えられています。 赤道の温度は現在とあまり変わらず、25-27 ℃くらいでした。 地球全体の平均気温は、現在よりも 6 ℃くらい高かったとされています。

図は Global Warming Art などを参照してください。


4 石油と石炭


Q4.1 有機炭素が分解されないで堆積する条件とはどのようなものですか? 石油や石炭が主としてできた時期はいつごろですか?

A (1) 石油の場合:石油は海底で埋没した有機物からできたと考えられています。 海底で酸素が欠乏すると、分解されなくなります。 それが石油の原料の有機炭素が堆積した条件でしょう。 石油ができたのは、白亜紀のころに集中しています。 白亜紀の大陸配置と現在の油田地帯を比べると、現在の油田地帯が ある場所は、テチス海から赤道大西洋のあたりで、内海に近い状態に なっています。内海であるということと、Q3.2 で述べたように 海洋の南北の温度差が小さかったということから、そのあたりの 海洋の循環は現在よりも著しく不活発だったと考えられます。 そのために、酸素が十分に供給されず酸欠になったのでしょう。 石油で、あまり時代が古いのがないのは、時間が経つと 地下で「熟成され過ぎて」メタンガスにまで分解されてしまうからです。

(2) 石炭の場合:石炭は陸上植物起源です。石炭が作られる環境は それほど珍しくはなくて、現在でも作られています。寒冷地の湿地で作られる 泥炭が石炭の赤ちゃんであると考えられています。珍しくないからこそ、 世界中にあまり偏りなく石炭があります。石炭紀にはとくにたくさんの 石炭ができました。その一つの考え方は、陸上植物がリグニンといった腐りにくい 物質を作るようになったために、植物が陸上に進出した直後には あまり分解されなかった、というものです。


Q4.2 石油は現在は自然に作られないのですか?

A 「作られる」の意味には「有機物が埋没する」ということと、 「埋没した有機物が変質する」ということがあります。 後者の「変質」は、適当な深度に埋没すれば良く、現在でも 起こっている過程です(実際、石油の熟成度は様々で、 熟成過程の途中のような石油もあります)。

前者の「埋没」に関しては、石油になるような有機物が埋没するためには、 海底に溜った有機物が分解されない必要があります。そのためには、 (1) 生物生産が非常に高く分解が追い付かない and/or (2) 海底が酸欠で分解が起りにくい、という条件が 必要です。現在は海洋の循環が活発なので、酸欠状態の場所は少なく、 大規模な埋没は起こっていないでしょう。現在、深部が酸欠になっている 海として有名な場所には黒海があります。こういうところでは有機物の 堆積が起こっています。ただ、大きな油田ができそうなほどは溜っていないようです。 最近の時代の堆積物でで石油の起源になりそうなものの候補としては、 東地中海の sapropel(腐泥)と呼ばれるものがあります。 現在は堆積していませんが、気候変動に応じて時々堆積しており、 最も最近では 8000 年前から 3000 年前くらいに堆積しました。

地中海の sapropels に関するホームページとして以下のようなものがあります。

ところで、「黒海」の語源の俗説に、有機物のために堆積物が黒くなっているから、 というものがあるようです。しかし、それはたぶん正しくなくて、暴風や霧が 多かったためにトルコ人が黒海と名付けたようです(平凡社世界大百科事典、 ブリタニカ国際大百科事典による)。


Q4.3 炭素循環、大気中の CO2 を測定することで、いつ石油が多くできたかを 知ることはできますか?

A 鋭い質問です。とはいえ、原理的にはできるかもしれませんが、 他の要因との区別が難しいのではないかと思います。

しかし、それに関連して、石炭紀のあたりでの二酸化炭素の減少には 石炭の生成が関与しているという考え方があります。この前は、火山ガスによる 生成が唯一の要因のように言いましたが、本当はそれだけではありません。 陸上に植物が進出してくると、次の2つの要因で大気中の二酸化炭素が 減少する可能性があります。(1) 根を張るので風化が加速される。 (2) リグニンという腐りにくい物質を作ってそれが埋没する。 そんなわけで、ものごとは実際には複雑です。

詳しく知りたければ、Yale 大学の Berner 先生の一連の仕事を参照してください。 日本では、東大の田近先生が詳しいです。


5 その他


Q5.1 「地球内部変動」と「太陽エネルギーの出入口のスイッチを制御」の関係が よくわかりませんでした。

A 私の意図は、以下の通りです。地球内部のマントル対流が変動すると、 火山活動の活溌さが変わります。それによって、火山ガスを通じて、 大気中への二酸化炭素放出率が変わります。二酸化炭素は、太陽エネルギーと 地表気温との関係を調節します。いい加減な言い方をすれば、二酸化炭素が 増えると、地球からの赤外放射の出口を絞ることになるので、 地表気温が上がります。この意味で「太陽エネルギーの出入口の スイッチを制御している」と言いました。


Q5.2 現在の地球温暖化に対して、地球内部が応答することはありませんか?

A ひとつの例としては、第2回の話のように、地球回転を通じてコアに影響する ということがあるかもしれません。