地球と惑星の構造

最終更新日:2007/04/21

1 太陽系の元素組成

先週は、渡邊さんの講義で太陽系の出来方の話を聞いたと思う。 そこの話は、ガスが集まってそのあとに固体部分が集まってという 主として力学的な話であったと思う。今日の話は、ではそうやって作られた 地球や惑星がいかなるものであるかを見てゆくことにする。そのためには、 先週の講義で、おそらく「固体成分」とか「ちり」とか呼ばれていたものが 一体何なのかということをまず見ておく必要がある。 まずそれを元素という目で見てみよう。

世の中にはいろいろな元素がある。それらは、ビッグバンの時点、 恒星(光る星)の中、超新星爆発の時にできる。それらが混ざったものが 太陽系の元となる。結果的に、太陽系を作る元素の組成は 配布表「太陽系の基礎データ」のようになった。 これを solar abundance (cosmic abundance) という。 これらは太陽大気の観測と隕石とに基づくものである。 これは cosmic abundance という名前が付いているけれども 宇宙全体を代表するものではない。恒星の内部や超新星爆発で 重い元素が作られているために、宇宙全体の元素組成は 時間とともに重いものが増えてゆく。

元素というものは、周囲の状況とか相対存在度に応じていろいろな形態を取る。 惑星科学的には、これらの元素は、主として3つの形態を取ると考えて、 3種類に分けるのが便利である。

(1) ガス成分元素 H, He, Ne
H は H2 gas, He, Ne は希ガス
(2) 氷成分元素 C, N, O
水素がたくさんあると、CH4, NH3, H2O に なり、状況によって気体だったり液体だったり固体だったり (広い意味での「氷」)する。有機物を作る主要元素でもある。 酸素が多い状況では、CO2, NOx, O2 が できて、やはり気体だったり液体だったり固体だったりする。
(3) 岩石成分元素 Mg, Si, Fe
酸素がたくさんあると、MgO, SiO2, FeO やその組み合わせの 酸化物になり、それはいわゆる石である。酸素が少ないと、Fe は金属鉄になる こともある。
これらの元素の割合は (1):(2):(3) = 104 : 10 : 1 であることに 注意する。質量比であれば (1):(2):(3) = 103 : 10 : 1 である。 (これらはオーダーの話だけ i.e. 大きさの桁がどのくらいかつかんでもらうだけ)

2 太陽系の構成と大きさ、惑星の内部構造

以上の元素の知識と太陽系形成の知識を元に、 太陽系の構成員がどういうものからできているかを考えてゆこう。

[板書] 太陽系の図を描く。
[配布表] 太陽系の基礎データ

太陽
太陽系星雲からできるものといえば、まずは太陽である。 太陽系の質量の 99.9% を占めている。なので、元素組成としては、 ほぼ太陽系の原料そのものである。 ただし、中心で核融合反応が起きているので、その分だけずれる。 あとは、残りの 1% の「ゴミ」から何ができたかを考えてゆく。
地球型惑星
太陽系のうちで、太陽に近い方では、暖かいので「氷成分元素」は 蒸発する。そこで、「固体物質」は、基本的には「岩石成分元素」からできている。 すなわち「岩石」と「鉄」から出来ている。
木星型惑星(木星、土星)
太陽から離れると温度が下がるので「氷成分元素」が固体になる。 そこで、「固体物質」は「氷成分元素」と「岩石成分元素」からできている。 それに加えて、「氷成分元素」が加わったために、固体惑星の重力が 強くなって、出来るときに「ガス成分元素」もまわりに引き付ける。 そのようにして「ガス」と「氷」と「岩石」と「鉄」から成る惑星が できあがる。
天王星型惑星(天王星、海王星)
木星型惑星と同様なのだが、なぜか「ガス成分元素」が木星型惑星よりも だいぶん少ないことが分かっている。この理由は、惑星ができるのが 遅いので、その間に原始惑星系円盤からガスがなくなってしまったせいだと 考えられている。その結果として、「氷成分元素」が多く、「岩石成分元素」 と「ガス成分元素」もそこそこある、という惑星ができる。

大きさ感覚も重要なので、長さを入れてゆく。
太陽系の大きさは、100 AU 程度。
各惑星の半径比が 太陽:木星:地球=100 : 10 : 1 くらい。
各惑星の質量比が 太陽:木星:地球=3 x 105 : 300 : 1 くらい
(太陽と木星の密度は 1.3-4 g/cm3, 地球の密度は 5.5 g/cm3: 太陽と木星はほとんど「ガス成分元素」、地球は「岩石成分元素」)。

惑星内部構造

惑星の内部構造の概要 [配布図:Newton 別冊より 太陽系にある惑星とその組成]

その結果として、どのような内部構造の惑星ができあがったのかを見て行こう。 その際の原理は以下のようなことである。 惑星はけっこう大きいので、できるときには強い重力によって激しい衝突が 繰り返される。その結果惑星の初期は、石もけっこう融けるくらいにまで温度が 上がっていたと考えられている。その結果として、あたかも水と油が分離するように、 重いものが下へ軽いものが上へ、という層構造ができる。そこで以下のような 内部構造の惑星ができる。

地球型惑星
岩石成分のみで作られる。岩石成分は「岩石」と「鉄」である。 初期の高温状態でそれらは分離し、「岩石」は軽く「鉄」は重いので、 鉄の上に岩石が乗るという2層構造ができあがる。 岩石部分をマントル、鉄部分をコア(核)と呼ぶ。 マントル部分はやがて冷えて固体になる。コアが液体か固体かは 地球の場合にしかはっきりとはわかっていない。地球では、半分凍っていて 内側に固体の内核、外側に液体の外核ができている。
木星型惑星
岩石成分+氷成分からまず大きな固体コアができる。 固体コアが大きいので、原始太陽系星雲のガスを大量にまとってガス惑星になる。 その結果、内部構造は、大ざっぱに言って2層構造になる: コア(岩石成分、鉄も溶けているかもしれない) +分厚い外層(H2+He+氷成分(溶けている))
天王星型惑星
岩石成分+氷成分からまず大きな固体コアができる。 コアができた頃には原始太陽系星雲のガスがなくなっていたので、外層が薄い。 その結果、内部構造は、大ざっぱに言って3層構造になる: コア(岩石成分、鉄も溶けているかもしれない) +液体(?)氷の分厚い外層 +あまり厚くないガスの外層(H2+He)

参考:内部構造を決定する上で重要な量

上のような内部構造を決定するための材料としては、 質量(平均密度)や慣性モーメントの観測が用いられる。
平均密度=(質量)/(体積) ; [質量をどうやって知るかを学生に聞いてみる]
質量は、衛星の公転周期からわかる
遠心力=万有引力
m r ω2 = G M m / r2
ω = 2 π / T
密度は(岩石成分)>(氷成分)>(ガス成分)なので、 これだけから惑星が主としてどういう成分からできているか想像がつく。
慣性モーメント = ∫ρr2 dV
人工衛星の軌道の変化から決める。慣性モーメントは、 質量が中心に集まっているほど大きさが小さくなる。
惑星が(岩石成分)+(氷成分)+(ガス成分)の3層構造だとすると、 この2つの量がわかると、それら3成分の量比がわかる(量比は未知数2つ)。

3 固体地球の形成、組成、構造

地球は岩石成分元素だけで作られた(氷成分やガス成分も少しはあるけれど、 主体は岩石成分である)。
MgO : SiO2 : FeO 〜 1 : 1 : 1 (個数比)
そこで、地球はそういう割合の石でできているかというと、そうでもない。

[黒板に図を描く:地球の断面図]
現実の地球は、コアとマントルの2層構造になっている。 全体の半径は 6400 km、コアの半径は 3500 km である。これは 地震波の伝わり方を調べることによって明らかにされたものである。 ちなみに地球の1周が 40000 km であるというのが、もともとのメートル法の 定義である。

マントルは石でできている。

コアは、金属鉄でできている。つまり、地球ができるとき、鉄はそれほど 酸化されていなかった。鉄はそれほど酸化されやすくない。たとえば、 惑星ができつつあるときの大気に原始太陽系成分のガス成分がかなり多ければ、 まわりは水素だらけという状況になる。そういう状況ならば、鉄は酸化されていなくて良い。

[黒板にイメージ図を描きながら]
そうすると地球のでき方として予想されるシナリオは以下の通り。 原始地球にどんどん石が降ってくる。そのうち、降ってきたときの衝突のエネルギーで 地表が暖まって地表が融けるようになる。これをマグマオーシャンという。 マグマオーシャンでは、鉄成分と石成分(マグマ)が水と油のように混ざらない。 そうすると、重い鉄は下に落ちてゆく。マグマオーシャンの深さをどう考えるかで その後のシナリオはいろいろ考えられるが、ともかく重い鉄は中心に沈んでコアを作った。 ともかくそういうふうにして地球の大構造ができた。

マントルを構成する元素で主要なものは、そうすると

MgO : SiO2 = 1 : 1
である。実際、マントルの主要構成鉱物は MgSiO3 の組成を持つ。

ところで、ことばの説明をしておこう。[岩石、鉱物:違いを知っているか学生に尋ねる]

「岩石」とは、要するに石のこと。岩石は良く見ると(目で見えることもあるし、見えないこともある)、 いろいろな粒からできている。粒のひとつひとつは、化学組成がだいたい一定で結晶になっている。
結晶というのは、原子が整然と並んだ固体だ。そういう粒を「鉱物」という。

MgSiO3という鉱物はの名前はひとことでは言えない。というのは、圧力によって、原子の並び方 (結晶構造)が変わるからだ。地表付近では輝石(pyroxene)という。もう少し圧力が高くなると 柘榴石(garnet)になる。もっと圧力が高くなると silicate perovskite(珪酸塩ペロブスカイト) になる。詳細は省略する。マントルの主要な鉱物はこれである(本当はこれは言いすぎだが、 地球科学が専門ではない人には、石の名前は嫌われるし不必要なので、これ以上説明しない)。

コアは、よりちゃんと見ると、液体の外核と固体の内核からできている。 地球の中心は温度が高いが、圧力も高いので、内側が固体、外側が液体になっている。 固体のコアは、地球が冷えてくるにしたがって液体から結晶化してきたものだろう (地球の冷却については、これ以上言わないが、私の専門分野の一つ)。

これが地球内部の大構造だが、地表付近は構造が複雑になっていて、地殻という薄皮ができている。 厚さは場所によって異なり、6-60 km くらい。どうしてこんなものができるかは、 プレートテクトニクスを抜きにしては語れない。そのときに議論されるであろう。

4 固体地球内部の対流

このようにしてできた地球の内部は現在でもけっこう暖かい(熱い)。 ひとつの理由は初期にできたときの余熱だが、もうひとつの理由は 放射性元素というものがあって熱を出しているからである。

その内部の熱の結果として、地球の内部は対流している。

マントルは固体だが、流動する。それは氷河が流動するのと同様である (氷が融けているわけではない!!)。その地表における現れが プレート運動である。このことについては、来週以降詳しい話が あるであろうから、省略する。

一方、外核は鉄の液体なので、けっこう簡単に流動する(溶鉱炉の鉄を見ると わかるように、鉄は融けるとけっこうサラサラ流れる)。その結果、 磁場が発生し、地球は全体として磁石になっている。このことは 私の専門なのであるが、時間がないのであまり詳しくは話さない。