第 2 章 宇宙と太陽系の起源

この全体に関係ある参考書
井田茂「惑星学が解いた宇宙の謎」(新書 y、洋泉社)

2-1 ビッグバン宇宙論

宇宙はビッグバンという大爆発でできた、ということは良く知られている。 最近は 137±2 億年ということまでわかっている。 そういう最近のことは私も良く知らないので、ビッグバンという考え方が でてきた歴史を見てゆこう。

1929 年、Edwin Hubble は、アメリカのウィルソン天文台で、銀河がわれわれから 遠ざかっており、遠ざかる速さは距離に比例していることを発見した。 これは、宇宙全体が一様に膨張していると考えるのが自然だ。 これは、宇宙に関するわれわれの認識に対する革命的な出来事だった。

Hubble はまず、1924 年に、アンドロメダ星雲がわれわれの銀河系の外にあることを 証明した。距離は、セファイド型変光星の明るさによって測定した (セファイド型変光星では、周期と光度の間に関係があることがわかっている)。 当時は、アンドロメダ星雲との距離が 90 万光年であると推定した(現在の推定は 230 万光年)。これに対して、私たちの銀河の直径は約 10 万光年だから、 アンドロメダ星雲は私たちの銀河の外にあるというわけだ。 (余談:Hubble は、大学卒業後、一時父親の希望もあって法律を勉強していた。 でも、やっぱり天文学をやりたくなって、25 歳のときに天文学の大学院に戻る。)

その後、いろいろな銀河の光のドップラーシフトを調べて、銀河までの距離と 銀河が遠ざかる速度が比例していることを発見した。これは、宇宙が膨張している ということだ。

そうすると、昔にさかのぼってみると、最初宇宙はものすごく小さくて高密度だったと 考えるのが自然だ。そういうわけで、1946 年、George Gamov は当時最先端の 原子核物理学を駆使して、火の玉宇宙論を作った。これがビッグバン理論の始まりである。 なお、ビッグバンという名前は、定常宇宙論の親玉の Hoyle がビッグバン理論を揶揄するために 作った言葉である。皮肉なことにこれが定着した。 (余談:Hoyle は「暗黒星雲」という SF を書いたり、始祖鳥は嘘だ、と言ったり、変わった人である)

その後の理論の発展により、ビッグバンで、水素とヘリウムができたことがわかってきた。 実は、宇宙の物質の大部分は水素とヘリウムでその存在比はだいたいどこでも 10:1 である。 これはビッグバンの名残である。地球惑星科学のコンテクストでは、とりあえず、 水素とヘリウムが宇宙の始まりにできた、ということが大切である。 ほかの元素については、すぐこの後で話すように恒星の中でできた。

その後の宇宙の進化は、万有引力の性質を反映している。 万有引力の式

F = G M1 M2 / r^2
万有引力は、引力しかない。それで質量が大きいほど大きく、距離が近づくほど大きい。 すると、たとえば、密度のムラがいったんできると、そこはまわりからものを引き付けるようになるので ますますものが集まってくる。このようにして、銀河や星などの構造が宇宙にいろいろできた。

2-2 星(恒星)の輪廻と元素の起源

私は宇宙の専門家ではないので、これ以上喋ると馬脚を露す。そこで、その次には、 その星に着目してみる。星というのは、一生があることがわかっている。 万有引力の話だけだと、要するに塊ができると集まって星になるだけ、なのだが、 いったん集まると、ほかの力も出てくるので、それでは済まなくなる。

恒星というのは、宇宙にあるガス、つまり、ほとんど水素とヘリウムが万有引力で集まって、 その中で核融合が起こって光っているものである。その恒星の性質は質量で決まってくる。 つまり、たまたまどれだけガスが集まったか、で決まる。

その集まった質量が 0.08 Msun 以下だと、核融合が起こらなくて恒星にならない。 核融合というのは、そもそもプラスの電気を持った原子核同士が衝突しないといけないので、 かなりの高温高圧にならないと発生しない。質量が小さいと内部が十分に高温高圧にならず、 褐色矮星(木星のような惑星と同じようなもの)になる。

それより大きい星、たとえば太陽くらいの星になると、まず水素の原子核同士がくっついて ヘリウムになる。とりあえず、水素が原子の中で一番電荷が小さくて反発力が弱く、 原子核同士が近づきやすいからだ。

ヘリウムを作る反応:pp chain, CNO cycle
そのうち、ヘリウムの原子核同士がくっついて酸素とか炭素ができるようになる。 太陽のような星は、やがて燃え尽きると白色矮星になる。 質量が 0.45 Msun 以下だと He が燃えずに He 白色矮星になる。 それ以上だと、C, O 白色矮星になる。

もっと大きな星(質量が 8 Msun より大きい)では、その炭素が燃え出して、いろいろな 核反応が起こり、最後は超新星爆発を起こし、後には中性子星やブラックホールが残る。 超新星爆発の時には、すでに星の中心で作られたいろいろな元素が撒き散らされると同時に、 激しい核反応で新しい元素もできる。とくに重い元素(鉄より重い元素)は、 超新星爆発のときにできる。

太陽系を形作る元素は、ビッグバンのときにできた水素、ヘリウムとそういった 超新星爆発の残骸である。

星の最期をまとめると、

              M < 0.08 Msun       褐色矮星
    0.08 Msun < M < 0.45 Msun       He 白色矮星(He は燃えていないので、C, O が出来ていない)
    0.45 Msun < M < 8 Msun         C, O 白色矮星(C, O が出来ている)
       8 Msun < M              超新星、残りは中性子星、ブラックホール
    (なお、境目の質量はそれほど厳密ではない)
      また He 白色矮星になる星の寿命は 1000 億年以上(宇宙の年齢以上)なので、
      そのような白色矮星はまだ存在しない
のようになる。

これでも本当は簡単すぎ。もっと詳しく知りたい人は、たとえば

高原まり子「壮絶なる星の死―超新星爆発」(培風館)
を見よ(ちょっと難しい。ただし、数式が多いわけではない。)

ついでに上記の本の超新星関連で:
    小柴昌俊講演会:本日 16:30 豊田講堂

  小柴先生のノーベル賞の業績について:
    もともと、小柴先生は陽子崩壊の実験というのをしていた。
    素粒子物理のある理論によると、陽子(陽子の説明も一応する)が安定ではなく、
    ある長い時間(10^32 yrs)ののちに崩壊する(陽子→陽電子+π0、
    陽子→反電子ニュートリノ+π+)。これを確かめようとして、神岡鉱山に巨大な水のタンクを作った
    (10^32 個の陽子があれば 1 年に 1 回)。だが、陽子の崩壊は見つからなかった。
    しかし、このときちょうど超新星が光った。そこでノーベル賞の研究になった。

以下、参考:講義後、星の寿命について質問があった。星の寿命は重いほど短い。 星は重いほど燃料がたくさんあるので長く燃える気がするかもしれないが、 実は重いと燃えるのが速くて、速く燃え尽きる。もう少し詳しく説明しよう。

(星の寿命)×(エネルギー放出率)=(核融合で生成しうるエネルギー)

太陽の寿命を考えてみよう

     右辺の(核融合で生成しうるエネルギー)
         この場合、水素の核融合が重要: 6 × 10^14 J/kg
         太陽全体(2 x 10^30 kg)の水素 ( X = 0.7 ゆえ 1 x 10^30 kg) の 1/4 が He に
         なるとすると(1/4 は詳しく計算しないとわからない)
         核融合で生成しうるエネルギー= 2 x 10^44 J
     左辺の(エネルギー放出率)
         星は主に光によってエネルギーを放出しているから、星の明るさが分かればよい。
         それから 4 x 10^26 W
   (寿命)= 5 x 10^17 s = 10^10 yr = 100 億年
   質量による寿命の違い
      右辺∝M
      左辺のエネルギー放出率∝M^3 くらい
          理由(本講義のレベルを超えている);
             L 〜 σT^4 R^2 / (κρ R) 〜 σT^4 R / (κρ) 〜 σT^4 R^4 / (κM)
             主系列星では、熱エネルギーと重力エネルギーが釣り合っているが、
             温度 T は水素の燃焼温度で決まっているので、熱エネルギーが決まっていて、
             重力エネルギーは質量に依らないことになる。そこで M ∝ R
             したがって、もし κ が一定ならば、L ∝ M^3
      そこで、(寿命)∝M^(-2) くらい
            (大きい星ほど明るく輝く(たくさんエネルギーを出す)ので、寿命が短い)

2-3 太陽系の元素組成

その結果として、太陽系を作る元素の組成は以下のようになった。 これを solar abundance (cosmic abundance) という。 これらは太陽大気の観測と隕石とに基づくものである。

Solar Abundance (Anders and Grevesse, 1989) (Si =def= 10^6) (原子数の比)

H   2.79 x 10^10
He  2.72 x 10^9
C   1.01 x 10^7
N   3.13 x 10^6
O   2.38 x 10^7
Ne  3.44 x 10^6
Mg  1.074x 10^6
Si  1.00 x 10^6
Fe  9.00 x 10^5

これらが Si と同程度かそれよりも多い元素のすべてである。 まず、H : He = 10 : 1 であることを確認する。これはビッグバンの名残である。 残りの元素は、近所の超新星爆発の名残である。C, O が多いのは、星の中で He が核融合して出来る主要な元素が C, O だからである。

これを solar abundance (cosmic abundance) という。 これらは太陽大気の観測と隕石とに基づくものである。

惑星科学的には、これらをとりあえず3種類に分けるのが良い。

(1)  ガス成分元素  H, He, Ne
         (H は H2 gas, He, Ne は希ガス)
(2)  氷成分元素  C, N, O
         (水素がたくさんあると、CH4, NH3, H2O になり、状況によって
           気体だったり液体だったり固体だったり(広い意味での「氷」)する。
           有機物を作る主要元素でもある)
(3)  岩石成分元素 Mg, Si, Fe
         (酸素がたくさんあると、MgO, SiO2, FeO やその組み合わせの酸化物になり、
           それはいわゆる石である。酸素が少ないと、Fe は金属鉄のこともある。)
これらの元素の割合は (1):(2):(3) = 10^4 : 10 : 1 であることに注意する。 質量比であれば (1):(2):(3) = 10^3 : 10 : 1 である。(これらはオーダーの話だけ)

2-4 太陽系の構成と大きさ

以上の元素の知識の元に、太陽系の構成員がどういうものからできているかを考え、 それをもとに太陽系の起源を考えてゆこう。

[板書] 太陽系の図を描く。

太陽:太陽系の質量の 99.9% を占めている。元素組成としては、ほぼ太陽系の原料そのもの
      である。ただし、中心で核融合反応が起きているので、その分だけずれる。

地球型惑星:ほとんど「岩石成分元素」からできている。

木星、土星:「ガス成分元素」が多いが、太陽系の原料よりは「氷成分元素」と
            「岩石成分元素」が多くなっている。

天王星、海王星:「氷成分元素」が多い。「岩石成分元素」と「ガス成分元素」も
                そこそこある。

小天体たち
小惑星:「岩石成分元素」
Kuiper-Belt Objects:「岩石成分元素」+「氷成分元素」(冥王星も仲間)
         http://www.ifa.hawaii.edu/~jewitt/kb.html
大きさ感覚も重要なので、長さを入れてゆく。 太陽系の大きさは、100 AU 程度。 各惑星の半径比が 太陽:木星:地球=100 : 10 : 1 くらい。 各惑星の質量比が 太陽:木星:地球=3 x 10^5 : 300 : 1 くらい (太陽と木星の密度は 1.3-4 g/cm^3, 地球の密度は 5.5 g/cm^3: 太陽と木星はほとんど「ガス成分元素」、地球は「岩石成分元素」)。

2-5 太陽系の形成

参考書
井田茂・小久保英一郎「一億個の地球」(岩波 科学ライブラリー 71)

太陽は、要するに銀河の中でガスの濃い部分が万有引力によって集まってできた。 そのほんの 1 % に満たないゴミのような部分から惑星などができた。 ゴミとはいえ、その上に私たちがいる惑星がどうやってできたかは非常に興味がある。

まず、星がどうやってできるのかを2−2よりももう少し詳細に考える必要がある。 銀河の中でガスが少し濃い部分を星間雲という。いわゆる暗黒星雲である。 その中でもよりガスが濃い部分を星間雲コアという。 これが万有引力で互いに引き合って星ができてゆく。 ここで大事なのは角運動量保存則だ。 角運動量保存則は知っているかな?知らない人は手を挙げる。 角運動量保存則が言っていることは、縮むと早く回りだすということだ。 よく言われる例は、フィギュアスケーターの回転だ[図を描く]。

[図を描きながら]
最初ガスがあって、ほんの少しでも回転する成分があったとする。 縮むとその回転が強まって、遠心力が強くなる。 そこで、ガスは円盤状になってゆく。 この円盤のガスの大部分は中心に落ちて中心星になる。 ほんの少し落ち残ったものの中の岩石成分や氷成分が重力で集まって (要するに雪が降るようなもの)、惑星ができる。

最近の発展1:若い星の周りの円盤の確認

Hubble space telescope によって、若い星の周りに円盤が見えてきた。
      Hubble の写真については http://hubblesite.org/ を見よう。

   ABAurigae-disk.jpg : 馭者座 AB 星の周りの円盤。かなり大きい。
            塊が見える。惑星が形成しつつあるのかもしれない。
     http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/1999/21/
  HD141569circumstellar.jpg : 天秤座 HD141569A の周りの円盤。
                        連星系の伴星の影響で模様ができている。
     http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/2003/02/

惑星の作られ方をもう少し詳しく説明しよう

   solar_system_formation_IDA.jpg:太陽系形成の標準モデル
     http://www.geo.titech.ac.jp/1/index.html
(1) 原始太陽系円盤ができた。

(2) ダスト(岩石成分の微粒子;太陽から遠いところでは氷成分や有機物も含む)が
    円盤の中心に集まってくる。

(3) 微惑星の形成:ダストが集まってキロメートルサイズの微惑星になる。
    実は、ダストから微惑星への移行プロセスには現在でもいろいろ問題があって
    よくわかっていない。

(4) 微惑星がぶつかって成長し固体惑星ができる。
    (このあたりの研究は先週紹介した本の井田さんや小久保さんが世界のトップを
      走っている:本を参照のこと)
    とくに地球型惑星はこのようにしてできた。
  木星より遠くの惑星には岩石成分だけでなく氷成分も集まる
        (太陽から遠いので温度が低い)。
    天王星や海王星もこのようにしてできた。

(5) 木星や土星は、その固体惑星が大きいので(太陽から遠いので、氷成分がある)、
    重力が強くて、まわりにあったガス成分を大量にまとうようになる。
    その際、いったんガスが流れ込むとガス自身の質量で重力が強くなる
    →ますますガスが流れ込む、という具合に暴走的にガスが増える。

(6) 天王星や海王星は十分に大きくなる前に原始太陽系星雲のガスがなくなった。
    (どのようにしてなくなったかはよくわかっていない)
    そのため、木星や土星と違ってガス成分が少ない。

現在でも研究進行中:たとえば私のいる研究室でも

○ビデオ鑑賞「NHK 地球大進化」

  「地球と月がどうやってできたか?」

最近の発展2:系外惑星系の発見

最近、けっこう太陽以外の恒星のまわりに惑星が発見された(100個以上)。

http://www.exoplanets.org/
見つけ方:恒星の光のドップラー効果(惑星によって恒星も少し振り回される)
木星のように大きくて、かつ中心星にすごく近いものが多い(0.1 AU くらい)