岩波講座地球惑星科学1 地球惑星科学入門
岩波講座地球惑星科学12 比較惑星学
(これらの本を題材にレポートを書く場合は、どれか1章を読めばよい)
MgO : SiO2 : FeO 〜 1 : 1 : 1 (個数比)そこで、地球はそういう割合の石でできているかというと、そうでもない。
現実の地球は、コアとマントルの2層構造になっている [地球の断面図]。 全体の半径は 6400 km、コアの半径は 3500 km である。 ちなみに地球の1周が 40000 km であるというのが、もともとのメートル法の 定義である。
マントルは石でできている。
コアは、金属鉄でできている。つまり、地球ができるとき、鉄はそれほど 酸化されていなかった。鉄はそれほど酸化されやすくない。たとえば、 惑星ができつつあるときの大気に原始太陽系成分のガス成分がかなり多ければ、 まわりは水素だらけという状況になる。そういう状況ならば、鉄は酸化されていなくて良い。
そうすると地球のでき方として予想されるシナリオは以下の通り。 原始地球にどんどん石が降ってくる。そのうち、降ってきたときの衝突のエネルギーで 地表が暖まって地表が融けるようになる。これをマグマオーシャンという。 マグマオーシャンでは、鉄成分と石成分(マグマ)が水と油のように混ざらない。 そうすると、重い鉄は下に落ちてゆく。マグマオーシャンの深さをどう考えるかで その後のシナリオはいろいろ考えられるが、ともかく重い鉄は中心に沈んでコアを作った。 ともかくそういうふうにして地球の大構造ができた。
マントルを構成する元素で主要なものは、そうすると
MgO : SiO2 = 1 : 1である。実際、マントルの主要構成鉱物は MgSiO3 の組成を持つ。
ところで、ことばの説明をしておこう。(岩石、鉱物:違いを知っているか尋ねる)
「岩石」とは、要するに石のこと。岩石は良く見ると(目で見えることもあるし、見えないこともある)、 いろいろな粒からできている。粒のひとつひとつは、化学組成がだいたい一定で結晶になっている。
結晶というのは、原子が整然と並んだ固体だ。そういう粒を「鉱物」という。
MgSiO3 という鉱物はの名前はひとことでは言えない。というのは、圧力によって、原子の並び方 (結晶構造)が変わるからだ。地表付近では輝石(pyroxene)という。もう少し圧力が高くなると 柘榴石(garnet)になる。もっと圧力が高くなると silicate perovskite(珪酸塩ペロブスカイト) になる。詳細は省略する。マントルの主要な鉱物はこれである(本当はこれは言いすぎだが、 地球科学に進まない人には、石の名前は嫌われるし不必要なので、これ以上言わない)。
コアは、よりちゃんと見ると、液体の外核と固体の内核からできている。 地球の中心は温度が高いが、圧力も高いので、内側が固体、外側が液体になっている。 固体のコアは、地球が冷えてくるにしたがって液体から結晶化してきたものだろう (地球の冷却については、これ以上言わないが、私の専門分野の一つ)。
これが地球内部の大構造だが、地表付近は構造が複雑になっていて、地殻という薄皮ができている。 厚さは場所によって異なり、6-60 km くらい。どうしてこんなものができるかは、 プレートテクトニクスを抜きにしては語れないので、そのときに議論しよう。
まず、地球大気の組成から見てゆこう(重量比)。
地球大気の組成 [地球環境化学入門 表 2.1 その元は Brinblecombe, 1986] 体積比(ということは分子数の比) N2 78.084 % O2 20.946 % Ar 0.934 % CO2 360 ppm Ne 18 ppm He 5.24 ppm (水蒸気を除く:水蒸気は 4-0.1 % 以下)これは非常に変な大気である。そのあたりを考えてゆこう。
(1) 奇妙さその1:原始太陽系星雲のガスとはだいぶん違う
木星や土星には、原始太陽系星雲にあったガス成分(H2, He)が大量にある。 地球型惑星にもちょっとは残っていて良さそうなものだが、実はなくなっている (なぜかはよくわかっていない)。 H2, He は軽いので逃げたということもできるが、Ne, Ar が少ないのが特徴。
Cf. solar abundance C 1.01 x 10^7 (このまえ 1.21 と書き間違えた) N 3.13 x 10^6 O 2.38 x 10^7 Ne 3.44 x 10^6 Ar 1.01 x 10^5したがって、大気は原始太陽系星雲のガスが元になったのではなくて、 少なくとも C, N, O などの元素は固体成分中に取り込まれていたものが 脱ガス(ガス成分が出てくること)してできたと考えられている。 なぜかというと、希ガスは反応性が少ないので、固体成分中にはもともと 入りにくいからだ。
(2) 奇妙さその2:C, N, O から自然にできる大気ではない
仮に solar abundance の C, N, O から大気を作るとすると、量が O > C > N なので、
CO2 NO2 or N2の大気ができて良さそうである。実際、金星や火星はそういう大気である。
比較:金星と火星の大気 [比較惑星学 第 4 章 表 4.5 その元は Fegley, 1995]
金星 火星 CO2 96.5 % 95.3 % N2 3.5 % 2.7 % Ar 70 ppm 1.6 %地球大気が今あるようになっているのは、海の存在と生命の存在が関係している。 簡単に言えば、CO2 は海に溶けて、炭酸塩になる。O2 は生物が作る。 N2 にも生物が関与している(生物がいないと硝酸になる:これは Lovelock の 「ガイア」にそう書いてあったのだが、私はその元を確認していない)。
というわけで、地球大気がどうして今あるような状態なのかを説明するのは そう簡単ではない。時間があれば後で詳しく議論する。このことは、 「ガイア」「地球と生命の共進化」「地球環境問題」などと深く関連する。 たとえば CO2 がなぜ地球大気に少ないのか、が良くわかっていないと、 CO2 問題はよくわからない。海の役割の評価は今でも難しく、だから CO2 問題はいまだに解決できない。
まず、圧力について。大気は、基本的には自分より上にある空気の圧力を支えている。 力のつりあい:
(圧力)x(面積)=(自分より上にある空気の重さ)だから、下ほど圧力が高い。そのために下ほど空気が潰れていて密度が高い。 圧力は高さとともに指数関数的に減少する。それは下ほど空気が潰れている分重いから (もちろんこれは数式で言えるが、省略:図から 20 km あたり、圧力が 数十倍になっていることを確認する)。
次に、温度について。これは結構変てこりんな分布だ。温度が高い場所が3箇所ある。 これがどうして出来ているかをおさえるのがポイント。温度が高いということは 何かで加熱されていることを意味する。そうでなければ、周りに赤外線を放射して 冷えてしまう(以下の参考の部分を見よ)。他の部分は、そこから熱が伝わっている (それについて詳しいことは省略する)。この温度分布によって、大気が、 対流圏、成層圏、中間圏、熱圏と分類されている。
下から考える。一番下(地表)がけっこう温度が高い。なぜだろう?[聞いてみる] 基本的には地表は太陽の光が暖めている。太陽に近い上のほうが暖かくてよいような 気がするが、大気は太陽の光をあまり吸収できない (これは、大気を構成する化学種、大気の厚さ、大気の温度などに依存するが、 詳細は省略する)。これに対し、地面は太陽の光を吸収できる。 そもそも、大気を通して太陽が見えるということは、大気が太陽の光を吸収して いないことを意味する。そこで、太陽の光は直接に地面に降り注ぐというわけだ。
次に、成層圏界面も温度が高い。ここはオゾンが紫外線を吸収するために加熱される。 さきに大気が太陽の光を吸収しないと言ったが、それは可視光の話で、紫外線は ここで吸収される。そのために、地表には生命にとって有害な紫外線が来ない。 地球環境問題のオゾンホール問題もここから発生している。
さらに、超高層の熱圏も温度が高い。ここは、窒素や酸素が光電離によって紫外線を 吸収することによって加熱されている。温度は 〜1000 K になる (ただし、太陽活動によって温度は大きく変わる)。なぜ温度がこんなに高くなるかというと、 大気が非常に薄いので、熱容量が小さく、ちょっとの加熱で大きく温度が上がるからである。
高度 120 km より上の温度は?宇宙空間の温度は?
熱圏 (thermosphere) 80 - 500 km 外圏 (exosphere) 500 - 10,000 km 分子どうしの衝突がない 500 km よりも外は温度を定義できない。 500 km では、温度 〜 1000 K「地球が赤外線を放出して冷える」のは「まわりが透明(真空)だから」である。 ふつう、「冷えるのはまわりの温度が低いから」ということが多いのだが、 それは「温度」がきちんと定義できるときに限る。
光に対して「温度」が定義できるのは、十分に不透明な場合(詳細を略する)。 赤外線に対しては、対流圏はけっこう不透明なのだが、それより外は透明(自由に光が出てゆく)。 対流圏くらいだと、光によって温度が低い方にエネルギーが運ばれると言って良いが、 そこから外は、光はだいたい自由に出て行っている。それで、冷える。
(2) 質問「講義では真空の宇宙空間では温度が定義できないといったが、 3K背景輻射というものがあると聞いた。これは矛盾では?」に対する答え :宇宙の温度について
この講義では言わなかったが、ビッグバンの証拠として3K背景輻射というのがある。 宇宙空間で温度が定義できないと言ったこととこれは矛盾しない。 3Kは狭い意味では温度ではない。もはや宇宙は透明で 光と物質は相互作用しないので、熱平衡の意味での温度は定義不能。
とりあえずは次のように理解してください。3Kは忘れて、宇宙のどの方向からも 同じような光(マイクロ波)がやってくる。ところが、宇宙は広くて光が行き来するのに 100 億年とかかかる。情報の伝達がそんな遠くでできるはずがないので、同じような光が来るのは 不思議。かつては近かった名残が見えていると考えるのが良いので、 それがビッグバン(正しくはインフレーションモデル)の 証拠とされる。たとえて言えば、双子は同じ親から生まれたはずだ、ということ。 他人の空似は考えにくい。
では次にどういう意味で温度か?次の太陽の光のアナロジーで考えてください。
太陽から来る光は 6000 K であるということができる。太陽の表面(不透明と透明の境界) では光の温度がきちんと定義できて 6000 K で、あとほとんど透明な部分を通過してくる という意味で 6000 K である。しかし、熱くはない。それは、広がって薄められているから である。でも、虫眼鏡で集めると、最高で 6000 K までは上げることができる(証明は難しいので省略)。 光を1点に集中させると 6000 K よりも高くできそうだが、実は太陽からの光は 厳密には平行光線ではないので、光を1点には集中させられない。それで、6000 K 以上まで上げることはできない(杉本大一郎「いまさらエントロピー」)。
宇宙の 3 K もだいたいそんなような意味で温度。まとめると、物質の温度は、 原子や分子の相互作用が十分に行われているときにのみ定義ができる。 光の温度は光と物質の相互作用が十分に行われているときにのみ定義ができる。 それ以外でも温度が定義できる場合があるが、どういう意味で温度なのかは 常に注意しておく必要がある。温度なんてみんなわかっているつもりでいるかもしれないけど、 普通でない状態でどう定義するかは常に注意しておく必要がある。
松井孝典「惑星科学入門」(講談社学術文庫)[余談:松井理論とは?]
別冊日経サイエンス「驚異の太陽系ワールド 火星とその仲間たち」(日経サイエンス社)
地球型惑星: 内部構造は、地球と大体同じ(マントル+コアの2層構造) 大気は、水星はほとんど無し、 金星・火星は二酸化炭素+窒素(ただし、金星は 92 気圧、火星は 0.006 気圧)
木星、土星: 内部構造は、コア(岩石成分)+分厚い外層(H2 + He + 氷成分(溶けている))
天王星、海王星: 内部構造は、岩石成分コア+分厚い氷層+あまり厚くない外層(H2 + He)内部構造を決定する上で重要な量
(1) 平均密度=(質量)/(体積) [質量をどうやって知るかを聞いてみる] 質量は、衛星の公転周期からわかる 遠心力=万有引力 m r ω^2 = G M m / r^2 ω = 2 π / T 密度は(岩石成分)>(氷成分)>(ガス成分)なので、 これだけから惑星が主としてどういう成分からできているか想像がつく (2) 慣性モーメント = ∫ρr^2 dV 人工衛星の軌道の変化から決める 質量が中心に集まっているほど大きさが小さくなる惑星が(岩石成分)+(氷成分)+(ガス成分)の3層構造だとすると、 この2つの量がわかると、それら3成分の量比がわかる(量比は未知数2つ)
上の構造がどうしてできたのかを太陽系形成論の立場から復習してみよう
火星は半径が 3400 km、ということは地球の半分くらい(地球のコアくらい)。 体積は地球の 1/7 くらいで、質量は地球の 1/10 程度である。 そこで、先週のビデオの言い方では、ミニ惑星1個分くらいということになる。
NASA ホームページに行くとたくさん写真や解説が見られるので、楽しんでください。
http://www.nasa.gov/探査結果も次々に出て来ているので、まだまとめられない段階。
探査の歴史 http://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/chronology_mars.html [以下、細かすぎるので、適当に端折る]
1965 Mariner 4 1969 Mariner 6, 7 1971 Mariner 9 1976 Viking 1, 2 洪水地形 (Outflow Channel) 河川地形 (Valley Network) が南半球(高地)に広くあることがわかった 1997 Mars Pathfinder -- Lander and Rover (Sojourner:逗留者) 1998 Mars Global Surveyor -- Mars Orbiter 河川地形は比較的新しいように見えた 2001 Mars Odyssey 中性子の観測から、今でも地下に大量に氷が存在するらしい 2003 Mars Express (ESA) 着陸機は失敗 可視光・赤外分光計により、水の氷が存在することを確認これらの探査から水についてわかっていたこと
河川地形、洪水地形がたくさんある 極冠は主に水の氷でできている(ドライアイスでは形状を支えられない) 地下に大量の水がある(Mars Odyssey による中性子の観測)最近の探査車 http://marsrovers.jpl.nasa.gov/home/index.html
Spirit 2004/01/04 Gusev Crater 着陸 Opportunity 2004/01/25 Meridiani Planum(メリディアニ平原)着陸 Gusev Crater 南部の高地からマーディム峡谷が延びており、そこから水が流れて 湖になっていたと考えられている。 Meridiani Planum Mars Global Surveyor で hematite が発見され、水が関連していると考えられた。 Opportunity によって 硫酸塩鉱物が発見された。 Cl, Br も発見され、塩水の海があったと考えられた。 岩石の窪み、小さな球状物体(blueberries)が発見され、溶解や結晶化に関係すると考えられた。 斜交葉理も発見され、水流があったと推測された。 以上のことが水が存在する証拠とされた [こういう地学の論理に注意してもらおう]
写真集
ここで見てほしいこと 地学的研究の進め方 (細かい事実は将来どんどん書き換えられるので、あまり重要ではない) ポイント:実験ができない科学を実証的にどう進めてゆくか (1) 探査の作戦 目標設定(水の証拠の検出)→水があったら何がどこに観察されるかを考える →そのための装置と探査計画の設定 (2) 地学の論理(観察後の論理) 石の組成→化学的にどういう条件だと生成されやすいかを知っている→可能性1、2、... 石の構造→物理的にどういう条件だと生成されやすいかを知っている→可能性1、2、... その可能性の共通性の高い条件で生成されたのだろうと考える→その条件が昔あったと推測する(1つの証拠だけでは決定的に言えないことが多いので、証拠を積み重ねる) (3) 批判的な鑑賞 先に目標があるし、金がかかっているから、目標に合うような結論に向かうような偏りが推論にはある (ただし、もちろんそうではないように見える論理を使っている) 本当かどうかの評価は非常に難しい(いろいろな専門知識を総動員する必要がある) 疑い方の例1:硫酸塩は、火山性の亜硫酸ガスと地下の氷が反応したのでは? 疑い方の例2:斜交葉理は、風でできたのでは? 疑い方の例3:水があることは前からわかっていたのだから、この発見の本当の価値は何か? でも、以上は出まかせで、私は悪く言うつもりはない